産業界が力をあわせて、原子力の安全性を高める

ATENAフォーラム2019の写真

ATENAフォーラム2019 (出典)ATENA

2011年に起こった東京電力・福島第一原子力発電所の事故以来、原子力発電にとって、安全性を高め、信頼を得ていくことは、非常に重要なテーマです。原子力規制委員会は、事故の教訓をふまえて新しい規制基準を設けましたが、原子力産業界としては、規制基準への適合にとどまらず、安全性向上に向けた努力を積み重ねていくことが必要です。そのためには、各事業者の安全対策はもちろん、原子力産業界全体で知見を共有し、各事業者をサポートしていくためのしくみが大切になります。今回は、原子力産業界での安全性向上の取り組みについて、ご紹介します。

各事業者が自主的に取り組む、原子力発電の安全性向上

原子力発電の安全性向上のために大切な、原子力産業界の自主的な取り組みは、どのようなことが考えられるでしょうか。

たとえば、ほかの事業者の良好な取り組みなどを積極的に学ぶことが考えられます。これにより、新たな視点で対策をうつことが可能になります。そのため、ほかの事業者の原子力発電所におもむいて、気づいた事項を指摘しあうことを通じて、各事業者が自らの発電所にフィードバックして安全性を向上させていく、という取り組みがおこなわれています。

また、万が一のアクシデントが起こった場合には、ほかの事業者の協力も得ることで、アクシデントの影響を最小限におさえることが可能になります。そのため、各事業者が連携した訓練や、資機材・対応要員の事業者間の融通などの取り組みがおこなわれています。

事業者を支える、3つの組織

こうした各事業者の取り組みを支えるためには、①第三者の視点からの評価・アドバイスや、②研究開発のサポート、③原子力産業界全体の課題の整理・解決、などの取り組みが大切です。そのため日本では、3つの組織が設立され、活動をおこなっています。

日本における原子力産業界の組織図
原子力産業界の組織図です

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一般社団法人 原子力安全推進協会(JANSI)(2012年設立)

JANSIは、国がさだめた規制基準を守ることだけでなく、第三者の視点からの評価・アドバイスなどを通じて、世界最高水準の安全性を達成しようとする事業者の取り組みを支援する組織です。

JANSIの特徴的なプログラムとしては、自主規制機関としての「原子力施設評価(ピアレビュー)」が挙げられます。専門家によって構成されたチームが、設備の状態といったハード面だけでなく、安全文化などのソフト面も対象として、ピアレビューをおこないます。ピアレビューの結果は、事業者のトップに報告され、課題がある場合には、経営上の重要テーマとして取り組むこととなっています。また、JANSIは、事業者から提出される改善計画の内容や進捗確認をおこなうとともに、改善に向けた事業者へのアドバイスなどの支援をおこないます。さらに、事業者の優れた成果については水平展開し、事業者全体の安全性の底上げをおこなうことを目指しています。

原子力リスク研究センター(NRRC)(2014年設立)

NRRCは、福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえ、巨大地震や津波といった災害への取り組みを強化することなどを目指し、原子力発電のリスク全般に関する研究開発をおこなうための組織です。

NRRCの取り組みのひとつとしては、確率論的リスク評価(PRA)と呼ばれる、先進的なリスク評価手法の研究開発が挙げられます。PRAは、あらゆる事故を想定し、その事故が起きる確率や影響度合いについて、統計などを使って計算する手法です。PRAを利用することで、さまざまな事故について設備の「弱み」「強み」がわかるようになるため、弱い部分に対策をおこなうことで、効果的に安全性を高めることが可能となります。NRRCでは、地震や津波などが、原子力発電所の建物に与える影響などのシミュレーション手法の開発などをおこなっています。

原子力エネルギー協議会(ATENA)(2018年設立)

ATENAは、原子力産業界全体が抱える課題について、国内外の最新の知見などを集めて解決策を検討するとともに、規制当局などとの対話を通じて、現場に取りこんでいくことを目指した組織です。ATENAには、原子力事業者だけでなく、メーカーなど幅広い関係者が参加しており、原子力産業界全体で議論する体制がとられています。

ATENAでは、原子力産業界全体が抱える課題について、それぞれ「テーマ」として整理し、担当者が集まって技術的な検討がおこなわれています。現在、14のテーマについて検討が進められており、そのひとつとしては、原子力発電所のサイバーセキュリティ対策が挙げられます。今後、原子力規制委員会との対話を通じて、具体化に向けた検討を重ねていく予定です。さらに、検討の成果は、積極的に情報発信し、幅広い関係者とのコミュニケーションもおこなっていく予定です。

原子力発電の安全性向上に成功した米国の取り組み

これまでご紹介してきたように、日本では、原子力発電の安全性向上に向けて、さまざまな取り組みが進められていますが、米国の先進的な取り組みから学ぶことも、とても大切です。

米国では、1979年に起こったスリーマイル島原子力発電所事故などをきっかけに、さまざまな組織の立ち上げなど、事業者による自主的な安全性向上の取り組みが加速しました。

リストアイコン 米国原子力規制委員会(NRC)…1974年設立。日本の原子力規制委員会にあたり、原子力事業者の法的規制をおこなう。
リストアイコン 米国電力研究所(EPRI)…1973年設立。電気事業の運営に必要な技術の開発や研究をおこなう。
リストアイコン 米国原子力発電運転協会(INPO)…1979年設立。原子力事業者による自主規制機関として、ピアレビューなどを実施する。
リストアイコン 原子力エネルギー協会(NEI)…1994年設立。原子力産業界全体の組織として、自主ガイドライン作成、規制機関との対話、社会に対する情報発信などの役割をになう。

米国では、これらの組織が適切に役割分担し、技術開発やピアレビュー、規制当局や社会とのコミュニケーションなどを通じて、原子力発電の安全性向上や、原子力発電に対する信頼の回復に取り組んできました。こうした活動の効果もあり、発電所における重大事故の発生件数は、1980年代から2000年代にかけて、10分の1に減少しました。また、発電所の稼働率も、現在では90%近い安定した稼動率を達成しています。

米国における重要事象の発生件数の推移
1988年からの重要事象発生件数の推移をあらわしたグラフです

(出典)第15回「自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ」ピエトランジェロ氏 講演資料

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米国の原子力発電所の稼働率
1973年からの稼働率の推移をあらわしたグラフです

(出典)旧独立行政法人原子力安全基盤機構「原子力施設運転管理年報」(平成25年版)米国原子力エネルギー協会HPより 資源エネルギー庁作成

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こうした米国の先進的な取り組みを学ぶため、日本の原子力産業界では、経験豊富な米国の専門家に協力をあおいでいます。

たとえば、先ほどご紹介したJANSIの会長には、ウィリアム・ウェブスター氏が就任しています。ウェブスター氏はINPOの副社長として、米国の自主規制活動をけん引してきた人物です。豊富な経験を活かし、JANSIでも強いリーダーシップを発揮して、原子力産業界の安全性向上に向けて取り組んでいます。

また、NRRCの所長に着任したジョージ・アポストラキス氏は、NRCの委員を長年務めた人物であり、顧問として着任したリチャード・メザーブ氏もNRCの委員長を務めた人物です。米国の規制当局としての豊富な経験を活かし、原子力発電のリスク評価やその活用方法などについて、優れた知見を日本でも活かしています。

原子力発電に対する国民の信頼を得ていくためには、日本は道半ばの状況です。規制基準への適合のみならず、安全性をさらに高めていくため、今回ご紹介した取り組みについて、国としても、しっかりとバックアップをおこなっていきます。

次回は、原子力に関連する国の組織と、それぞれの役割をご紹介しましょう。

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