「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分③~ ALPS処理水の処分にともなう当面の対策の取りまとめ
2021年4月13日、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)で発生している「ALPS処理水」の処分方法を「海洋放出」とする基本方針が公表されました。しかし海洋放出の実施にあたっては、その前提条件として、風評影響への対応に全力で取り組んでいく必要があります。今回は、2021年8月24日にまとめられた、ALPS処理水の処分にともなう当面の対策のポイントをご紹介します。
「海洋放出」にともなって取り組むべき風評影響への対応
2011年3月11日に起こった東日本大震災と、大震災にともなって発生した福島第一原発の事故。あれから10年がたち、東日本の復興と福島第一原発の廃炉への歩みは、少しずつですが着実に進められています。
復興に向けた課題のひとつだった「ALPS処理水」の処分についても、さまざまな議論を経た結果、「2年程度の準備期間を経て、安全性を確保し政府をあげて風評対策を徹底することを前提として、海洋放出をおこなう」という方針が公表されました。
ALPS処理水の海洋放出は、きびしい規制基準にもとづいて安全性を確保しながら進めることとされています。しかし、被災地や漁業関係のみなさんからは、「ほんとうに安全な処分がおこなわれるのか」「風評被害が生じるのではないか」といった懸念の声もあがっています。
そこで、方針決定後に、地元自治体や農林水産業者、消費者団体などへの説明会がおこなわれました(経済産業省による説明会は2021年9月末時点で約330回)。また、風評の影響を受ける可能性のある人々の状況や課題を把握しようと、福島県・宮城県・茨城県などにおいて、ワーキンググループを開催しました(2021年9月時点で計6回)。
このようなさまざまな機会を通じて、いただいた意見を踏まえ、2021年8月24日、「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」において、ALPS処理水の処分にともなう当面の対策を取りまとめました。
この当面の対策は、一過性のものではなく、効果が継続的に発揮されるものとすることを目指し、「1.風評を生じさせないためのしくみづくり」と「2.風評に打ち勝ち、安心して事業を継続・拡大できるしくみづくり」を構築することとしています。それぞれのポイントをご紹介します。
1.風評を生じさせないためのしくみづくり
風評対策としてまず重要なことは、風評を生じさせないために全力をつくすことです。具体的には、「(1)徹底した安全対策による安心の醸成」と、「(2)安心感を広く行き渡らせるための対応」に取り組んでいきます。
(1)徹底した安全対策による安心の醸成
安全な処分の徹底
まずは風評を起こさないよう、基本方針を確実に守ることを大前提に、人および周辺環境への影響の確認、法律に基づく厳正な審査といった安全性を確保するための取り組みを徹底します。さらには、わかりやすい情報発信の方法として、たとえば処理水を使って魚を飼育することも考えています。
“外部の目”による透明性の確保
原発事故以降、国や東京電力に対する信頼のゆらぎを指摘する声があることもふまえて、透明性を高めるひとつの手法として、“外部の目”による安全確認をおこなうことが予定されています。2021年8月には、梶山経済産業大臣(当時)が、国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長と会談をおこない、以下のことを合意しました。
この合意に基づき、2021年9月にはIAEA幹部が来日し、今後のスケジュールや評価団によるレビュー項目について、さっそく議論をおこないました(ニュースリリース参照)。
さらに、地元の自治体や農林漁業者、消費者のみなさんなどにも、“外部の目”としてモニタリングにおける試料採取や検査の立会いなどに参画いただく予定です。
(2)安心感を広く行き渡らせるための対応
さまざまな情報発信の取り組み
「(1)徹底した安全対策による安心の醸成」の後は、その安心を広く行き渡らせるための対応が必要です。
まずは、農業や林業、漁業にたずさわる人々など生産者に向けた説明をおこなうとともに、適正な取引がおこなわれる環境をつくるために、製品の流通過程である加工・流通・小売の各段階に向けた説明を繰り返しおこないます。
また、特に大消費地をターゲットとした重点的な広報活動をおこないます。まずは手始めに、東京、大阪、名古屋におけるシンポジウムの開催を計画しています。
さらに、今後ひとりでも多くの人に情報を届けていくため、消費者とじかに接するスーパーや旅館のスタッフといった方々に、海洋放出に関する知識を深められる情報を提供し、みずから確信をもって消費者に情報を共有してもらえるような状況をつくります。
国際社会への戦略的な発信
海外でおこなわれている輸入規制の緩和・撤廃に向けた、相手国政府へのていねいな説明も実施していきます。2021年4月のALPS処理水に関する方針決定後も、シンガポールと米国がすべての輸入規制を撤廃するなど、明るいニュースが続いています。今後もこうした動きが広がるよう、相手国政府への説明に加え、たとえば市場関係者や報道機関への情報提供をおこなうなど、戦略的に発信をおこなっていきます。
知識の普及状況を継続的に観測
ALPS処理水の安全性などについての知識がどのくらい普及しているかについて、インターネット調査なども実施して継続的に把握していきます。また、風評影響発生のメカニズムを分析し、対策に役立てていくことも予定されています。
2.風評に打ち勝ち、安心して事業を継続・拡大できるしくみづくり
このような対策に全力で取り組んでも、将来の風評影響については、現時点では想定することのできない、不測の影響が発生する可能性も考えられます。そのため、万一風評が生じたとしても、これに打ち勝ち、安心して事業を継続・拡大することができるように支えていくことが重要です。具体的には、「(1)風評に打ち勝つ、強い事業者体力の構築」「(2)風評にともなう需要変動に対応するセーフティネット」の2種類の対策に取り組みます。
(1) 風評に打ち勝つ、強い事業者体力の構築
さまざまな事業者の体力づくり
水産業、農林業、商工業、観光業といった各産業において、さまざまな支援策を用意しています。具体的には、安全の証明とその発信、設備導入などによる生産性向上、外食店でのフェアやECサイトなどを通した販売の促進・販路の開拓について支援をおこないます。
同時に、それらの施策を事業者に届けるための取り組みもおこなっています。たとえば、2021年9月には、中小機構やJETRO事務所、よろず支援拠点における特別相談窓口の開設や、中小機構のアドバイザーの派遣を通して、中小企業等からの相談に応じる体制をととのえました。
(2)風評にともなう需要変動に対応するセーフティネット
万一の需要減少対策のため基金などのしくみを構築
ALPS処理水の放出にともなう風評によって、国産の水産物の需要が減ってしまった場合には、冷凍に向いている水産物を漁業者団体などが一時的に買い取って保管したり、冷凍に向いていない水産物については販路拡大の取り組みを実施したりするなどの対応をおこないます。こうした対策を機動的・効率的に実施するため、新たに基金などのしくみを構築します。
被害者に寄り添う賠償
風評対策に万全を期してもなお被害が発生した場合には、東京電力が、被害の実態にみあった必要十分な賠償をおこないます。また、国としても、賠償に関する特別チームを設置し、被害者に寄り添う賠償の枠組みづくりに取り組むとともに、風評を懸念される地域・業種のみなさんに、具体的な賠償基準などについて、ていねいな説明をおこなっていきます。
長期的な課題の解決に向けた対策
こうした取り組みと並行して、長期的な課題の解決に向けて、将来に向けた技術を引き続き追い求めていくことも打ち出されています。
トリチウムの分離技術について、政府は、アンテナを高くはって最新技術の動向を把握するほか、東京電力においては、企業からの提案も受け付け評価をおこなうとともに、課題の明確化や必要な助言をおこなっていきます。また、そもそもの原因である、汚染水の発生量をできるかぎり減少させる取り組みも続けていきます。
今後も、風評の状況や現場の実態を継続的に確認し、必要な追加対策を実施していきます。
風評を生じさせないために全力を尽くします
2021年におこなわれた東京オリンピック・パラリンピックでは、福島の桃を食べた海外の選手団から絶賛の声があいつぐという、喜ばしいニュースがありました。今後とも、政府として、国内外のみなさん一人一人に正確でわかりやすい情報を届けられるよう、全力で取り組んでいきます。
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