成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
2020年3月に策定された、日本の新しい「国際資源戦略」についてお伝えしているシリーズ。エネルギー政策の原則である、「安全性」をベースとした上で「安定供給」「経済効率性」「環境への適合」のバランスをとる「3E+S」の方針のもと、日本はどのような対策を取ろうとしているのでしょうか。レアメタルに関する戦略をご紹介した「日本の新たな国際資源戦略③レアメタルを戦略的に確保するために」に続き、第4回では気候変動対策に関する戦略をご紹介しましょう。
気候変動に関する国際的な枠組み「パリ協定」が2016年に発効したことを受けて、主要各国では「脱炭素化社会」に向けた構想やビジョンを打ち出しています(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)。「脱炭素化」とは「温室効果ガスの人為的な排出量と森林などの吸収源による除去量のバランスを取るために、温室効果ガス排出量を低減していく」ことです。つまり、人が経済活動などを通じて出す温室効果ガスの量と、光合成のためCO2を吸収する植物などの働きで除去される温室効果ガスの量が同じくらいになるようにしていくということです。日本も、気候変動の原因とされる温室効果ガスの排出を、2013年度比で2030年度には26%削減、2050年度には80%削減することを目標にかかげています。一方で、世界のエネルギー需要は、アジアやアフリカなどの新興国を中心に増加することが見込まれています。こうした国々では、いまだに電気そのものにアクセスできず、薪(たきぎ)で煮炊きしているような地域もあり、供給の安定性や価格の安さなどを考えると、今後も石油や石炭など「化石燃料」の利用が拡大する状況が続いていくと考えられます。こうした状況下で、日本が温暖化対策のコンセプトとして掲げている「環境と成長の好循環」(「エネルギーと環境を考える、G20初の合同会合~日本主導で合意した“協働”の中身とは?」参照)を実現するには、省エネルギーや再生可能エネルギーの普及によるCO2排出削減に加え、CO2を有効利用していく方法を世界全体で進めていくなど、あらゆる可能性のある技術に総力で取り組んでいくことが必要です。とくに、日本はエネルギー技術大国として、その技術を積極的に国際展開することが求められています。そこで、気候変動問題への対応をさらに加速すべく、「新戦略」では以下の取り組みが掲げられました。
「カーボンリサイクル」とは、CO2を“資源”ととらえ、素材や燃料に再利用することで、大気中へのCO2排出を抑制する取り組みです。2019年に公表された「カーボンリサイクル技術ロードマップ」などで課題や目標の整理がおこなわれ、現在、技術開発が進められています(「未来ではCO2が役に立つ?!『カーボンリサイクル』でCO2を資源に」参照)。CO2の利用先としては、化学品、燃料、鉱物などが想定され、その一部は、2030年からの普及実現を目指しています。今後も引き続き、国内の研究開発環境の整備をはかっていきます。
大きい画像で見る
また将来的には、火力発電所などと、排出された成分からCO₂だけを分離・回収し再利用するカーボンリサイクルとの組み合わせが、実質的な「ゼロエミッション」のエネルギー源として競争力を持つ可能性もあります。そこで、米国やサウジアラビア、オーストラリアをはじめ、各国と連携しながら研究開発をおこなうこと、またカーボンリサイクル技術を積極的に海外展開し、世界規模での脱炭素化に向けて一体となって成長していくことが掲げられました。そのために、カーボンリサイクルの国際的な認知度を向上させるとともに、国際ルールの整備を日本主導でおこなっていくことを目指します。
石油や天然ガス、鉱物資源の開発においても、気候変動問題をはじめ、環境問題への対応は必要不可欠となっています。そのため、開発にあたる企業もこうした点に配慮し、さまざまな“脱炭素化対策”を開発とセットで実施するケースが多くなっています。カーボンリサイクルもそのひとつですが、そのほかにも、「CO2 Enhanced Oil Recovery(CO2EOR)」と呼ばれる手法があります。これは火力発電所などから排出されるCO2を回収して油田の地下に注入し、その圧力によって原油の回収率を大幅に改善する方法です。
CO2EORのしくみ
(出典)JOGMEC ホームページ
また、「Carbon dioxide Capture and Storage(CCS)」と呼ばれる、CO2を分離・回収して地中に貯留する手法も試みられています(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)。さらに、開発地の近辺で植林をおこなったり、洋上風力発電をおこなうなどの方法も、脱炭素化対策として進められています。
ただ、開発時にこうした脱炭素化事業を実施することは、ともすれば開発事業の経済性を低下させることもあります。そこで新戦略では、企業の取り組みを進めるため、インセンティブとなるような措置をとることが掲げられました。たとえば、日本企業のエネルギー開発の支援をおこなう独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、こうした脱炭素化事業をセットにする場合の油ガス田の開発については、債務保証料率(金融機関から融資を受ける際、保証人になってもらうための費用の料率)を引き下げ、企業の経済的な負担を軽減することなどに取り組んでいきます。
アンモニアは燃やしてもCO2を発生しないため、化石燃料と置き換えることで、CO2排出を大幅に削減できる燃料として期待されています。アンモニアの原料となるのは水素ですが、その製造に必要な電気をつくる際に再生可能エネルギーを使ったり、化石燃料を使う場合でもCCS技術を併用すれば、製造から使用までCO2を出さない「カーボンフリー」でクリーンなエネルギーとなります。こうした特性に加え、アンモニアには「普及させやすい」という利点もあります。アンモニアは肥料などに多く使われ、すでにグローバルサプライチェーンが確立されているためです。燃料アンモニアについては、2014~2018年に、科学技術イノベーション実現のために創設された内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」プロジェクトとして基礎研究が進められています。アンモニアには窒素が含まれているため、燃焼時に多量の窒素酸化物(NOx)を発生させる可能性がありますが、この研究によって、大気汚染の原因となるNOxの排出を抑制できることが確認されました。今後は、ガス火力発電や石炭火力発電の燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させる技術の実用化に向けて、実証事業を実施するなど、CO2排出削減に向けて技術開発を進め、利用拡大を推進していくことが掲げられています。*****4回にわたって、新たな国際資源戦略についてご紹介してきました。今後はこの戦略にもとづいて、日本のための資源を確保するだけでなく、エネルギーセキュリティの維持・向上をはかるために世界的な視野で考え、気候変動問題にもじゅうぶんに配慮をした対応をおこなっていきます。
資源・燃料部 政策課
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
従来の太陽電池のデメリットを解決する新たな技術として、「ペロブスカイト太陽電池」が注目されています。これまでの太陽電池との違いやメリットについて、分かりやすくご紹介します。