ALPS処理水の海洋放出から1年。安全性の確認とモニタリングの状況は?
SAF製造に向けて国内外の企業がいよいよ本格始動
飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料「SAF」とは?
目前に迫る水素社会の実現に向けて~「水素社会推進法」が成立 (後編)クリーンな水素の利活用へ
2022年度秋に開催されたエネルギーに関する国際会議「東京GXウィーク」から、米国の経済アナリストでエネルギー問題の世界的権威であるダニエル・ヤーギン氏の、世界のエネルギーに関する提言をご紹介しているシリーズ。前編に続き後編では、今後の新たなる論点として検討すべき資源の問題、新興国におけるエネルギー転換、その中で日本が果たすべき役割に関するヤーギン氏の提言を見ていきましょう。
ダニエル・ヤーギン氏は、2022年9月29日に開催された「第11回LNG産消会議」にオンラインで参加し、「分断か協調か」というテーマのもと、保坂伸 資源エネルギー庁長官と対談をおこないました。前編では、現在世界的に生じているエネルギー危機に関する見立てと、「エネルギー安全保障」が問題の中心となっていることを指摘しました。また、2050年カーボンニュートラルに向けエネルギー転換が進められる中でも、安全保障の観点が非常に重要であり、バランスのとれた議論が必要だと警鐘を鳴らしました。なお、実際の対談のフルバージョン動画が、下記で公開されています。さらに対話の詳細を知りたい方は、ぜひ動画をご覧ください。LNG Producer Consumer Conference 2022_Session2 Japanese Audio
ヤーギン氏は、新興国には新興国のエネルギー安全保障の観点があり、エネルギー転換においてその観点が失われていると指摘しました(前編参照)。日本が位置するアジアでも、資源を持たない新興国が、いかに安心してエネルギー転換をおこなえるようにするかは重要な課題です。それが実現できなければ世界経済や社会の混乱を招くのではないかと保坂長官が懸念を示したところ、ヤーギン氏はそれに賛同し、以下のように述べました。
ヤーギン氏:アジアの国々は、今、石炭の使用を削減するため液化天然ガス(LNG)にシフトしようとしています。しかしながら、LNGは非常に高い。その結果、停電が起こり、経済に問題が起こり、結果的に社会の混乱を引き起こすことになります。南アジアや東南アジアで、エネルギー開発はなくてはならないものです。(略)今、石炭を燃やしている人たちは、LNGなど他の資源が手に入らなければ、もっと石炭を燃やすことになってしまいます。CO2排出問題に取り組む上では、アジア各国の(エネルギーの)ニーズを満たすと同時に、安全保障や、「(各国が)手に入れることができるエネルギー」といった観点を考えなければなりません。(動画16:34頃~)
ヤーギン氏:世界の人口のおよそ80%は新興国に住んでいます。(略)そして、新興国のエネルギーニーズは、より逼迫しています。経済の発展段階も異なります。これらは、さまざまな議論の中で忘れられがちなことだと思います。(略)現在、世界の人口は70億。間もなく、80億人になります。そして、数十億人が、エネルギーという基本的な必需品を手にしていない。このことを見失わず、しっかり議論していく必要があります。(略)(新興国において)経済発展は重要な課題であり、それが実現できなくては社会不安が生ずることになる。ですから、我々はより広い視野を持つ必要があると思います。保坂:東南アジアの雨季のような、雨季の一カ月間は太陽光も風力も期待できないという事態に直面をしている国においては、やはり、電源の多様化が必要ではないかと考えているのですが、それについてはどう思われますか。ヤーギン氏:欧州においても、昨年、洋上風力発電の容量の11%しか稼働できない時があったといいます。やはり、バランスを取る必要があると思います。(略)まずは多様性から始めなくてはなりません。1~2種類の電源に依存する電力システムは、望ましくないと考えています。(動画59:25頃~)
また、ヤーギン氏は、再生可能エネルギー(再エネ)や新エネルギーへの転換において検討すべき新たなポイントとして、資源の問題を指摘しました。
ヤーギン氏:再エネについて言及したいのは、人々は風はや太陽(のエネルギー)は無料だと思っていますが、そこには膨大な量の鉱物や、素材や金属が使われているということです。これからは、「ビッグオイルからビッグショベルへ」、つまり多くの採掘がおこなわれるようになります。最近終えたばかりの調査では、電動化に必要となる「銅」に焦点を当てました。IEAやEU、あるいは米国が掲げる2050年の目標を達成するためには、銅の供給量を、2035年までの間に現在の2倍にする必要があります。しかし、IEAですら、新しい鉱山の開発には16年かかると述べています。そうした議論では、鉱物集約型のエネルギーシステムに移行する際には、鉱物や金属の必要量、コスト、いかなる新たな地政学的問題があり得るかといったような、非常に重要な点が欠けています。たとえば一般的なEVは従来の自動車の2.5倍の銅を使うため、銅の需要が膨大に増えていきます。価格は下がるどころかむしろ上昇すると思われ、この点も検討する必要があります。(動画21:03頃~)
保坂:レアメタルやレアアースなども、これから非常に希少な資源となり、資源制約に直面することになるのではないかと懸念しています。欧州では今、リサイクルシステムに取り組んでいますが、それで済むのかどうか。その点はどうお考えですか。ヤーギン氏:仰る通り、(リサイクルには)疑問符が付きます。なぜなら、規模が認識されていないからです。もちろん、リサイクルもより重要になるでしょう。(略)しかし、最も楽観的なシナリオですら、多くの銅をリサイクルしたとしても、十分ではないとされています。(略)また、世界の石油生産や天然ガス生産に賛否両論があるように、鉱工業にも賛否両論があります。ご存じのように、チリとペルーのたった2カ国だけで世界中の銅の38%を生産しているのですが、この2つの政府は、鉱山業に疑問を呈しています。ですから、道は必ずしも平たんではないわけです。2030年や2050年のシナリオを考える際には、予測を過信し過ぎないことが必要だと思います。(略)ウクライナで6カ月以上も続く戦争が起きると、誰が予測したでしょうか。世界は驚くような方法で変化していくのだということを、覚悟しておかなければなりません。(動画23:03頃~)
ヤーギン氏からは、現実的な視点に立った日本のエネルギー政策は非常に重要な意味を持っているという指摘もなされました。
ヤーギン氏:日本は、非常に現実的でグローバルな視点からエネルギーの問題を捉えていると思います。日本の声は非常に大事だと申し上げたいです。というのも、「エネルギーの議論にリアリズムを持ち込む」という意味で、日本はリーダー的な立場にあると思えるからです。私は、2050年になり、再エネが増え技術革新が進んでも、石油とガスは(CCSなどの)回収技術などを伴いつつ、引き続きエネルギーミックスの重要な部分を占め続けると考えています。その世界では、EVだけではなく、ガソリン車がまだ数多く残っているはずです。さらに、EVの20%は(石油由来の)プラスチックでできています。(略)石油やガスは、非常に重要な存在なのです。(2050年までの残りの)27~28年という期間は、非常に短く、すぐに過ぎ去ります。途中で何らかの危機が起これば、(脱炭素達成の)難易度はさらに上がるでしょう。ですから、(日本が考えているような)上流開発の資金を確保し、責任ある形で開発が行われることを担保すべきという声は、極めて高い重要性を持つと考えています。(動画50:36頃~)
保坂:先般、日本の民間金融機関がリードする「アジアトランジション・ファイナンス」のガイドライン策定に取り組むことを発表しました。その中で、脱炭素に向けたアジアの各国のロードマップの策定支援、トランジション技術に資金支援を促すことを掲げています。今後の日本のエネルギー戦略に期待していることは何でしょうか?ヤーギン氏:日本は2023年のG7議長国ですから、必ず、エネルギー安全保障の問題がアジェンダに入るようにしていただきたい。(略)日本は、世界の経済大国の一つとして、生活水準を維持し、またアジア各国に対するサポートをおこない続けています。省エネ分野でも、最先端を走っています。省エネは、第6番目のエネルギーソースになるものです。多角化戦略、それを支援する技術、他のアジア諸国との協力は、世界のエネルギーニーズを満たしていく上で日本が貢献できる、非常にユニークで重要な点です。エネルギーシステムの複雑さ、その現実性、安定性を確保することの重要性を、ぜひ、日本の声として発出していただきたいと思います。(動画1:17:36頃~)
資源・燃料部 石油天然ガス課
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
従来の太陽電池のデメリットを解決する新たな技術として、「ペロブスカイト太陽電池」が注目されています。これまでの太陽電池との違いやメリットについて、分かりやすくご紹介します。