日本の新たな国際資源戦略 ③レアメタルを戦略的に確保するために

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レアアース精錬所(提供)Lynas社

2020年3月に策定された、日本の新しい「国際資源戦略」についてお伝えしているシリーズ。エネルギー政策の原則である、「安全性」をベースとした上で「安定供給」「経済効率性」「環境への適合」のバランスをとる「3E+S」の方針のもと、日本はどのような対策を取ろうとしているのでしょうか。LNGに関する戦略をご紹介した「日本の新たな国際資源戦略 ②LNGセキュリティの強化に向けて」に続き、第3回では貴重な鉱物資源「レアメタル」への対応に関する戦略をご紹介しましょう。

重要性を増すレアメタル

産出量が少なかったり、抽出がむずかしい希少な金属「レアメタル」をはじめとする鉱物資源は、電気を動力源とする電動車(xEV)をはじめ、AI搭載機器やIoT機器などの先端産業において必要なリチウムイオン電池やモーター、半導体等の部品などの生産に必要不可欠なものです。(「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう」参照)。今後、日本でもますますその需要が増えていくと見込まれます。

日本ではほぼすべてを輸入しているレアメタルですが、供給上では不安定な要素も抱えています。レアメタルには34種類の鉱種がありますが、それぞれの鉱物を産出する国にはかたよりがあり、政情不安のある国から産出されるものも多くあります。

レアメタルの偏在性
各レアメタルの上位産出国を3位までと、そのシェア率を表にまとめています。

(出典)MINERAL COMMODITY SUMMARIES 2020

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また、鉄やアルミなど産出しやすい「ベースメタル」に比べて市場が小さいため、価格変動が大きいのが特徴です。さらに、レアメタルはほかの鉱物の副産物として生産されるので、主な生産物の供給具合によって、その供給が左右されやすい傾向にあります。こうした特徴に加え、一部のレアメタルでは将来的に需要が供給を上回る「需給ギャップ」が生じ、欧米や中国、そのほか新興国との間で資源獲得競争が激化することも予想されています。

レアメタルの需給ギャップ(コバルト需給の将来見通し)
レアメタルに対する世界と日本の需給ギャップをそれぞれ表にしています。2030年までの予測も含まれていますが、2030年には世界も日本も需要が大きく上回る見込みとなっています。

(出典)Wood Mackenzie、IEA資料より資源エネルギー庁作成

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そこで「新戦略」では、鉱物資源を将来にわたって安定的に確保すべく、以下のような取り組みをおこなっていくことが掲げられました。

鉱種ごとの戦略的な資源確保策を策定する

すでに述べたとおり、レアメタルは産出国に偏りがあるため、鉱種によって市場の規模や価格、主要生産国がさまざまです。たとえば、リチウムイオン電池に使われる「コバルト鉱石」生産の約64%はコンゴ民主共和国に偏在しています(「xEVに必須のレアメタル『コバルト』の安定供給にオールジャパンで挑戦」参照)。また、特殊鋼などの生産に必要な「タングステン」は9割以上、リチウムイオン電池や半導体の加工などに利用される「蛍石」は6割以上が中国で生産されており、特定の国による寡占状態となっています。

タングステンと蛍石の生産国の割合をそれぞれ円グラフにしています。どちらも中国が半数以上を占めており、タングステンは95%、蛍石は63%が中国の生産割合となっています。

(出典)USGS, World Metal Yearbook 2018、財務省「貿易統計」、JOGMEC鉱物資源マテリアルフロー2018より資源エネルギー庁作成

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さらにxEVの普及でますます需要増が見込まれる「レアアース」(レアメタルの一種で17種類の元素)においては、日本はおよそ6割を中国から輸入しています。もし、こうした国で感染症などが発生した場合、供給に支障が出ることも懸念されます(「EV普及のカギをにぎるレアメタル」参照)。

日本のレアアース輸入における中国依存度(2018年)
日本のレアアース輸入先を国ごとの割合であらわしており、中国は58%を占めています。それ以外はベトナム、フランス、マレーシア、その他でそれぞれ10%前後となっています。

(出典)財務省貿易統計より資源エネルギー庁作成

そこで「新戦略」では、資源の偏在性、国ごとのリスク、需要の見通しなどから、鉱種ごとのリスクを把握するとともに、重点を置くべき政策を整理し、戦略的な資源確保戦略を策定することが掲げられました。

供給源の多角化を促進する

今後も鉱物資源の安定供給を確保するためには、鉱山開発の上流工程において、採掘などの権益を獲得していくことも大切です。これまでの鉱山開発では、金属鉱物の採掘地と製錬所は近くにあるのが一般的でした。現在では、採掘地から離れたところにある製錬所に鉱石を運んで製錬するといった、製錬所単独のビジネスモデルも増えつつあります。こうした製錬工程の権益は、中国など特定の国が占めていることも多いため、もし、その国に万が一のことが起これば、供給がとだえる懸念もあります。

中国による製錬工程の寡占化(コバルトの例)
コバルトの採掘から一次消費までの鉱物資源の工程ごとに各国が占めるシェア率をグラフにしています。中国は製錬工程で約60%のシェアを獲得しています。

(出典)平成29年度 資源エネルギー庁委託事業(鉱物資源開発の推進のための探査等事業)報告書

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そこで、これまでも開発案件の支援をおこなってきた独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、今後はリスクマネジメントの観点をふまえ、製錬所単独のビジネスモデルや、探鉱(地中の鉱物資源を探す工程)から開発に移行した案件についても日本企業が参画できるよう、支援をしていきます。

また、こうした制度の運用を柔軟にするために、プロジェクト審査や管理の厳格さは保ちつつも、JOGMECが債務保証をおこなう案件の採択に関する審査については合理化をはかっていきます。

備蓄制度を見直し、セキュリティを強化する

石油と同様、レアメタルについても緊急時にそなえた備蓄をおこなっています。現在は、レアメタル34鉱種において、産出国の政情や依存度、需要などを考慮して鉱種を選定し、官民が協力して国内基準消費量の60日分(一部鉱種は30日)を目標に備蓄をしています。しかし、この備蓄目標日数は、1986年(昭和61年)の「鉱業審議会」で設定されたものです。そこで、産業構造の変化、レアメタルの重要性の高まり、中国の寡占化などの情勢をふまえ、現在のリスク状況に見合った備蓄量に増やすよう、見直しをおこなうこととなりました。

これまでは、民間備蓄と国家備蓄を合わせて備蓄目標を設定していましたが、今後は、国家備蓄単独での備蓄目標を設定します。また、産出国の政情不安などリスクの高い鉱種・品目では、備蓄目標日数を多めに設定し、供給が安定した鉱種・品目では少なく設定するなど、柔軟に対応していきます。

サプライチェーン強化に向けた国際協力を推進し、産業基盤を強化する

鉱物資源のサプライチェーンはグローバルに拡大しているため、レアメタルの安定供給についてのリスクはこれまで以上に大きくなっています。そこで、鉱山開発や製錬、製品製造などサプライチェーンの各段階に関係する各国と、JOGMECを通じて国際協力を強化していきます。

また、レアメタルはベースメタルの副産物として生産されるものも多いため、安定供給のためにはベースメタルの生産を支える産業・技術基盤の強化をはかることも重要です。加えて、技術開発や人材の確保など、さまざまな課題に対応すべく、産学官が連携して取り組むこととしています。

次回は、資源開発においても重視すべき「気候変動問題への対応」についての新戦略をご紹介します。

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本文内の「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」は2022年11月14日に、「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」に名称を変更いたしました。(2024/9/3 16:00)

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