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原子力発電(原発)の廃炉などをおこなうにあたっては、さまざまな“ゴミ”、つまり廃棄物が出ます。これらの廃棄物については、放射能レベルに応じて、適切に処分するよう法律でさだめられています。その中でも人の健康に対する影響を無視できるレベルのもので、国(原子力規制委員会)の確認を受けたものは「クリアランス物」と呼ばれ、一般の産業廃棄物と同じ扱いができる制度が設けられています。今回は、この「クリアランス制度」についてご紹介しましょう。
原発の運転や解体などの過程では、さまざまな廃棄物が生じます。これらの廃棄物は、放射能レベルに応じて、「高レベル放射性廃棄物」「低レベル放射性廃棄物」などに分類されます。発電にともない発生する使用済燃料は、再処理され、その中に含まれるウランやプルトニウムは燃料として再利用されるとともに、後に残る廃液は処理されて、「ガラス固化体」になります(「放射性廃棄物の適切な処分の実現に向けて」参照)。このガラス固化体は「高レベル放射性廃棄物」に分類され、それ以外の放射性廃棄物は「低レベル放射性廃棄物」に分類されます。「低レベル放射性廃棄物」の中でも、たとえば原子力発電所で建物に使われていたコンクリートなどは、きわめて低い放射能レベルの廃棄物に分類されます。一方で、発電する際に使用されていた制御棒や、原子力発電所の炉内にあった構造物などは、放射能レベルの比較的高い廃棄物として扱われます。
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これらの廃棄物の処理・処分の方針については、2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)で示されており、放射能レベルに応じて適切に処分することが法律でさだめられています。
ところで、先ほどの表で、クリアランス制度の確認を受けた廃棄物は産業廃棄物に分類されるとありました。「クリアランス制度」とは、いったいどういう意味なのでしょう?
「クリアランスレベル」とは、放射能レベルがきわめて低く、人の健康に対する影響を無視できるレベル(年間0.01ミリシーベルト)であるものを指します。そのレベルは、自然界の放射線から受ける放射線量(日本平均で年間約2.1ミリシーベルト)の100分の1以下に相当します。クリアランスレベル以下の廃棄物のうち、原子力規制委員会による確認を受けたものについては、”放射性廃棄物として扱う必要のないもの”、つまり産業廃棄物として、再利用または処分できる制度が設けられています。それが、「クリアランス制度」です。この制度は、2005年の「原子炉等規制法改正」によってさだめられました。
(出典)原子力規制委員会Webサイトを基に作成
たとえば、110万kW級の「沸騰水型軽水炉(BWR)」と呼ばれる原子炉を解体したとすると、それにともなって発生する廃棄物のうち、約93%が放射性廃棄物ではない廃棄物(産業廃棄物)であり、「クリアランスレベル」に相当する放射性廃棄物は約5%、「低レベル放射性廃棄物」にあたるものは2%という内訳になります。クリアランス制度によって、クリアランスレベル以下の廃棄物も産業廃棄物として処分や再利用ができるようになれば、資源を有効活用することができます。
(出典)日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
原子力規制員会による確認を受けたクリアランス物は、産業廃棄物として処分したり、再利用したりすることができるものです。ただし、日本では、クリアランス制度が社会に定着するまでの間は、以下の用途で再利用するなど、電気事業者などが自主的に再利用先を限定することで、市場に流通することがないよう運用されています。なお、英国やドイツなどでは、クリアランス制度の下で、クリアランス物が一般市場に流通しています。
クリアランス制度が導入されて以降、日本原子力発電株式会社(日本原電)と中部電力株式会社、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)が申請した廃棄物が、クリアランス物として認可されています。
日本原電の東海発電所の廃止措置にともなって生じたクリアランス物を再利用してつくられたもの。写真左上は、敦賀原子力館で展示されているベンチ、写真右上は東海発電所長室で使用されているテーブル、写真下は、中部電力株式会社浜岡原子力発電所内で使用されているベンチ。
電気事業連合会や電気事業者は、クリアランス物の再利用や展示の状況について、ホームページなどで情報を公開しています。また、電気事業連合会や日本原電は、一般市民や学生に対してクリアランス制度などについて説明もおこなっています。また、国の委託事業として、2015年度から2017年度にかけて、クリアランス物の再利用に関する実証をおこないました。日本原電の東海発電所の廃止措置にともなって生じたクリアランス物を、株式会社日本製鋼所の室蘭製作所に搬入し、低レベル放射性廃棄物を処分するための容器(処分器本体の内側に入れる内容器)に再利用するというものです。実証により、クリアランス物を加工する前後において、製造した試作品や製造に使用した設備、および工場の周辺に、放射能の影響がないことが確認できました。今後原発の廃炉が増える中で、時間の経過とともに放射性廃棄物の発生量は増加していきます。これらの廃棄物の処理・処分をスムーズに、かつ安全に進めるため、また、資源を有効活用するため、人の健康に対する影響を無視できるクリアランスレベル以下の廃棄物を、“放射性廃棄物として取り扱う必要のないもの”として再利用していくことは重要です。前述したとおり、当面は電力業界内での再利用などに限定した上で、引き続き、適切な情報の開示や広報などをおこない、クリアランス制度の更なる活用の促進に取り組んでいきます。
電力・ガス事業部 放射性廃棄物対策課
長官官房 総務課 調査広報室
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