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エネルギー政策でもっとも大事な点は、「安全性(Safety)」を前提とした上で、「エネルギーの安定供給(Energy Security)」を第一に考え、「経済効率性(Economic Efficiency)」の向上、つまり低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に「環境への適合(Environment)」を図ることにあります。この「3E+S」の追求は、各国のエネルギー政策に共通しています。さまざまなグラフを通して、世界各国の「3E」の状況を見てみましょう。今回は、2つ目の「E」である「経済効率性(Economic Efficiency)」について、日本と主要先進国の現状を紹介します。
エネルギーは、すべての人にとって必要なものであり、日々の暮らしや仕事を支えるものであることから、「経済効率性」、つまりエネルギーが誰でも安価で利用できるということは、とても重要な要素です。こうした経済効率性を測る指標のひとつとして、電気料金があげられます。日本では、2016年4月1日以降、電力小売業への参入が全面自由化され、家庭や商店もふくむすべての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになりました。このため、日本では現在、電力会社による電気料金のおトクなプランやサービスの開発と提供がすすんでいます(「電力小売自由化から1年半、電気料金プランはこんなにユニークに」参照)。一方で、平均単価で見ると、2011年の東日本大震災以降、電気料金は値上がりが続きました。これは、原子力発電が停止したことによる影響をおぎなうために火力発電を焚き増したことに加え、2014年までは燃料価格も上昇したためです(「2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」参照)。では、ほかの主要先進国ではどうなっているのでしょうか。電気料金を通じて、各国の経済効率性を見ていきましょう。
下のグラフは、主要先進国の電気料金(全体平均)の推移を比較したものです。グラフを見ると、ドイツの電気料金は、主要先進国の中でもっとも高い水準で推移しているのがわかります。ドイツでは1990年代からすでに価格水準が高かったのですが、近年では突出して高くなっています。英国は、2000年代中頃までは日本やフランスにくらべて安い価格でしたが、近年ではほぼ同じ水準となっています。日本は、1990年頃は3番目の高さだったのが、2000年半ばからはフランスを若干上回り、2番目の高さになる年が出てきています。また米国は、1990年代からずっと、主要先進国の中でもっとも低い価格を維持しています。
家庭用・産業用の電気料金加重平均の推移
(出典)IEA「Energy Prices and taxes」を基に資源エネルギー庁作成
次に、主要先進国の電気料金を、家庭用と産業用に分けて、それぞれ比較してみましょう。まず、家庭用電気料金のグラフを見ると、ドイツが最も高く、近年で日本より6割も高い価格となっています。また、直近では日本、英国、フランスがほぼ同じ水準の価格であり、米国は日本の約半分程度で最も安くなっています。一方、産業用電気料金は、日本とドイツが同じ水準で最も高くなっています。続いて英国、フランスの順に安く、最も安いのは家庭用電気料金と同じく米国で、日本とドイツの約半分の価格です。とはいえ、家庭用電気料金ほどの差があるわけではありません。
家庭用電気料金と産業用電気料金の各国比較
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各国の家庭用電気料金と産業用電気料金をくらべると、どの国も家庭用電気料金の方が高くなっています。では、家庭用電気料金は、産業用電気料金にくらべてどのくらい高いのでしょうか?下のグラフは、家庭用電気料金が、産業用電気料金にくらべてどのくらい高い水準なのかを数値で示し、国別に経年で示したものです。表を見ると、ドイツはずっと高いまま推移しており、2017年は2.3倍を示しています。続くのが、米国の1.9倍です。もっとも低いのは、1.5倍の日本となっています。
電気料金の比較(家庭用/産業用)
さらに下の表を見ると、日本の経済効率性を上げていくために何が必要なのかが読み取れます。日本では、電力を多く消費する製造業(金属・機械・輸送機器)が輸出額に占める割合が72%と、主要先進5か国中もっとも高くなっています。ですから、産業用電気料金を安価に抑えることが、国際競争力の観点からも重要だといえます。一方で、家庭の電化率、つまり家庭で使うエネルギー消費のうち電力消費が占める割合は52%と、5か国中でもっとも高くなっています。この点を考えると、家庭用電気料金を抑えることも重要であるといえます。こうした状況から、日本にとっては、産業用・家庭用のどちらか一方だけではなく、電気料金全体を下げていくことが大切であることわかるのです。
主要国の電気料金の違いと消費比率の違い(2016年)
(出典)IEA「Energy Prices and taxes」、OECD.Statを基に資源エネルギー庁作成
エネルギー政策では、こうした国ごとの特性を見ながら、安価なエネルギー源をうまく取り入れて経済効率性を確保できるよう、エネルギーバランスを考えていくことが求められます。次回は、3つ目の「E」である「環境への適合(Environment)」についてご紹介します。
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