福島第一原発廃炉に向けたロードマップ:燃料デブリ取り出しの今
2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故。廃炉に向けた取り組みは、数々の困難にぶつかりながらも、原子炉内の状況が徐々に判明するなど、着実に歩みを進めています。今回の特集では、2017年9月のロードマップ改定のポイントと、燃料デブリ取り出しの今についてくわしくご紹介します。
1.廃炉に向けたロードマップ
中長期ロードマップとは?
政府と東京電力は、福島第一原発の廃炉に向けて、2011年12月に「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(中長期ロードマップ)を策定しました。
福島第一原発は、事故により、原子炉圧力容器内の核燃料が溶け落ち、それにともなって水素が発生。その水素により水素爆発が発生しました。現在、1号機~3号機の原子炉格納容器内には、融解して周りの構造物とともに固化した燃料(「燃料デブリ」と呼びます)が残されています。また、汚染水や廃棄物の処理などについても進める必要があります。
中長期ロードマップとは、こうした廃炉作業が終了するまでのマイルストーンを明示し、目標となる工程を立てたものです。ロードマップは3つの期に分かれており、現在は第2期にあたります。
- 詳しく知りたい
- 中長期ロードマップ
- 「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(PDF形式:1.28MB)
- 「廃止措置に向けた取組」
廃炉作業はなぜ難しいのか
福島第一原発の原子炉建屋の中は、高い放射性物質濃度によって、人が立ち入って作業することが困難な状態にあり、内部の状況を正確かつ詳細に把握することが難しくなっています。このような環境で廃炉を行わなければならない福島第一原発の廃炉作業は、これまで世界で経験のない困難な取り組みであり、すべての状況が把握できる通常の工事などに比べて、不確実性を内在したプロジェクトであるといえます。
しかし、たとえそうした不確実性があったとしても、安全に、確実に、万が一の出来事にも対処できるように、また現場で働く人々に負荷がかからないように、慎重に作業を進める必要があります。
そこで、この中長期ロードマップは、策定時点で新しく判明した現場の状況や最新の知見、研究開発成果などを反映するなど、その時その時の状況に最適化されたものにすべく、適宜見直しがおこなわれています。
2017年9月26日には、4回目となるロードマップ改定が決定されました。
2.調査で分かってきた炉内の状況
炉内の状況をさまざまな方法で調査
2017年9月の改定は、2015年以来約2年ぶりのことです。改定の背景には、これまで確認できなかった1~3号機の細かな内部の状況が、さまざまな分析・調査を通じて、明らかになってきたということがあります。
人が直接入ることのできない環境での調査は、既存の技術に加えて、国内外の叡智を結集して行う必要があります。そこで、コンピュータによる解析に加えて、さまざまな先端技術を活用しています。また、これまでの調査によって得られた結果を次の調査・取り組みに活かしていくというサイクルを回しており、ステップ・バイ・ステップの取り組みを行っています。
炉内状況に応じたロボットの開発
炉内は放射線量が高く、明かりがほとんどない過酷な状況です。また、進入経路がせまい、障害物が多い、想定外の干渉物が存在することがあるなどの困難を伴います。
そこで、調査にはロボットも活用しています。ロボットにより、人が直接見ることのできない建屋内部の放射線量や破損状況など、さまざまなデータを取得し、内部状況の把握に挑戦しています。これまで、経路に応じて形状が変化するロボットや、水中を泳ぐことのできるロボットなど、状況に応じた最適なロボットを開発し、遠隔操作で調査を行ってきました。調査の結果、炉内の状況が画像で確認でき、燃料デブリ取り出しに向けた作業空間が存在するのか確認することができました。
水中で泳ぐロボット
宇宙線「ミュオン」を使った調査
原子炉格納容器内部の調査では、宇宙から降り注いでいる宇宙線のひとつである「ミュオン」も使用して原子炉内部の状態を透視し、調査しています。
ミュオンはほとんどの物質を通り抜けますが、溶けて固まった燃料のような密度の高い物質は通り抜けられません。この性質を使って、粒子が飛来した軌跡上にある物質の物質量を分析。レントゲンのように炉内を透視することで、燃料が炉心部にあるかなどを調べています。
その結果、1号機には圧力容器炉心部には燃料がほとんどないこと、2・3号機には、原子炉圧力容器底部に一部の燃料デブリが残っている可能性があることが分かりました。
3.燃料デブリ取り出しの今
燃料デブリ取り出しについて決まったこと
燃料デブリは、現在は冷却され一定の安定状態を維持しています。しかし、中長期的なリスク管理の観点から見ると、不確かさや不安定さの存在はぬぐえず、できるだけ早く取り出し、より安全な場所に移動して安定的に保管する必要があります。
2章でご紹介したような、さまざまな方法を用いたこれまでの調査によって、炉内の情報として重要となる「燃料デブリの分布状況」、「燃料デブリへのアクセスルートを確認するための情報」、「工事の安全性の判断に資するための情報」などについて、多くの情報が得られてきました。
これらの情報を踏まえて、今回のロードマップの改訂では、以下のような燃料デブリ取り出し方針を定めました。この取り出しを無事に終えることは、廃炉に向けた工程における大きな目標のひとつです。
以上の方針を踏まえ、現在、燃料デブリ取り出しに向けた検討を実施し、2021年からの燃料デブリ取り出しに向けて、さらなる内部調査や、デブリ取り出しに向けた技術開発を進めています。
加えて、廃炉の実施主体である東京電力には、工事の実現性の見極めをつけるため、エンジニアリング面の検討(予備エンジニアリング)を進めてもらい、実際の取り出し作業にスムーズに移行できるよう取り組んでいます。
4.各リスクを低減しながら進める廃炉
廃炉作業にあるさまざまなリスク
福島第一原子力発電所では、施設全体のリスクの低減を図ることが重要であり、そのための措置を取ることが求められます。低減すべきリスクとしては、下記のようなさまざまなものがあります。
これらのリスク、特に、地域の皆様・周辺環境に対するリスクについては、その低減のため、さまざまな措置をできるだけ早く実施することが期待されています。
しかし、リスクを低減する作業は、一時的なリスクの増加を伴うケースがあり、実施方法によっては、リスクが過度に増加してしまうこともありえます。このため、リスクの種類に応じて、現状のまま維持した場合のリスクと作業を行った場合のリスクの双方を考慮して、最適なタイミングと方法を選択して措置を進めることが不可欠です。
リスク低減の上で速やかな廃炉を実現する
また、福島第一原子力発電所の作業環境は、前例のない取り組みであることに加えて、現場も線量が高い場所が多いことから、依然として厳しい状況にあります。今後も、新たに分かった事象に応じて、安全対策の追加や作業内容の変更など、柔軟な見直しを行うことが必要となります。
これらに加えて、社会的なリスクを低減するためには、こうした廃炉作業全体や個別作業の進めかたについて、地元の皆様や国内外の関係者に十分に説明し、広くコミュニケーションをとることも必要です。
速やかな廃炉作業を実施することは重要ですが、それは地域の皆様や周辺環境、作業員などに対する、上記のようなリスクが低減されて初めて価値があるものです。そのためにも、各リスクの確実な低下を図る取り組みを行った上で、安全に作業を進め、結果として早期の作業完了につなげていくことで、「できる限り速やかな廃炉」を実現していくことが求められています。
今後も安全を最優先に、最新の情報を取り入れながら、海外も含めたさまざまな方のご協力をいただき、的確に作業を進めてまいります。
お問合せ先
記事内容について
電力・ガス事業部 原子力発電所事故収束対応室
スペシャルコンテンツについて
長官官房 総務課 調査広報室
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