イノベーションを通じた企業の課題解決力を計る、「削減貢献量」とは?

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「2050年カーボンニュートラル」を達成するためには、企業が脱炭素ソリューションを通じて自社の排出を削減することはもちろん、他社の排出削減にも貢献するイノベーションを促すことが重要です。企業の排出削減を考えるにあたり話題となっている最新のテーマが、「削減貢献量」という考え方です。企業が社会の排出削減に役立つモノをつくった場合、その“貢献”は評価されるべきではないか―。2023年のG7サミット(主要国首脳会議)でも取り上げられた、「削減貢献量」についてご紹介しましょう。

社会のGHG排出削減に役立っている企業を評価しよう

企業が排出するCO2などのGHG排出量は、地球にとっての“リスク”であり、脱炭素が求められる時代においては、企業にとっての“リスク”でもあります。企業の排出量や排出削減の取り組みは、投資家が企業の業績を分析し投資判断をするための重要な基準になっています。排出削減にじゅうぶんに取り組んでいないと見なされれば、投資や融資を受けられなくなる恐れがあります。

サプライチェーン全体を通したGHG算定の考え方「スコープ1・2・3」(「知っておきたいサステナビリティの基礎用語~ サプライチェーン全体の排出量を考える『スコープ1・2・3』」)や、気候関連の財務情報開示ルール「TCFD」(「企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み『TCFD』とは?」参照)などは、企業の排出削減をいかに促進するかという考えの基に整備が進められています。

こうした中、新たな価値軸として、企業による社会全体のGHG削減への貢献を、企業の“課題解決力”として評価する「削減貢献量(Avoided Emissions)」の議論が始まっています。

企業による社会全体のGHG削減への貢献とは、どんなものが想定されるのでしょう?たとえば、電機メーカーが省エネルギーで利用時のGHG排出量を抑えたエアコンを販売したとしましょう。こうしたGHG排出削減効果の高い製品が広く普及すれば、社会全体のGHGを削減することにつながります。

「削減貢献量」とは、このようなグリーン製品・サービスの普及を通じ、企業が社会全体の排出削減にどれだけ貢献したかという“貢献量”を算定し、企業評価に新たに織り込もうという考え方です。つまり、GHG削減という社会課題に対し、解決法を提供する「ソリューション・プロバイダー」としての企業の力、「課題解決力」を評価する新たな指標です。

「削減貢献量」のイメージ
「削減貢献量」のイメージを図式化したものです。これまでの排出がこの先も続くと考えた場合の排出量を「ベースライン」とし、新しいソリューションの登場により減った排出量との差分を「貢献量」と捉えます。

この「削減貢献量」は、スコープ1・2・3の排出量を単純に「置き換える」(排出量から貢献量を引き算する)ものではありません。例で見てみましょう。

ブラウン企業(B社)のエアコンは、稼働時のCO2排出量が1台あたり10kg-CO2だとします。2021年には4台販売され、エアコンからの合計排出量は40kg-CO2でした。ところが2022年、グリーン企業(G社)がCO2排出量2kg-CO2のエアコンを発売。B社のエアコン3台がG社のエアコンにリプレイスされ、その結果2022年のエアコンからの合計排出量は16kg-CO2となりました。B社のエアコンがそのまま稼働していた場合の排出量をベースラインとすると、そこから減った排出量は24kg-co2となります。これが、G社の「削減貢献量」です。

「削減貢献量」算出のイメージ
削減貢献量の算出イメージを、B社とG社のエアコン台数とともに図解したものです。

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G社は、2021年時点ではまだエアコンを販売していなかったため、G社のスコープ3(サプライチェーン上の他社排出、この場合は販売した製品の利用)は、2021年のゼロから2022年の6kg-CO2へと増えていることになってしまいます。しかし社会全体で見れば、G社のエアコンのおかげで排出量の削減につながっています。「削減貢献量」を考慮することにより、このようなケースにおける企業の取り組みをきちんと評価することができるようになります。

スコープ3と「削減貢献量」の算出例
算出例を示した表です。B社のSCOPE3は2021年から2022年で40→10に減る一方、G社のそれは0→6になり一見増えますが、貢献量で見れば24の貢献量があったと捉えられます。

たとえば、ドイツのシーメンス社は、サステナビリティ・レポート(P72)(PDF形式:4.03MB)において、自社のスコープ1・2・3排出量を示す際に「削減貢献量」も並べて示しており、リスクとなる排出量は減らし、貢献量は増やすという方針を、わかりやすく定量的に示しています。

「削減貢献量」の評価で企業のイノベーションを促進する

この「削減貢献量」に注目が集まる背景には、「パリ協定」で掲げられた「1.5℃目標」という目標があります(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)。

削減目標がもっと野心が低く、より現実的なものであれば、企業活動を抑えて排出量を削減することで達成できるかもしれません。しかし「1.5℃目標」はかなり野心の高い目標であり、既存の取り組みの延長では達成が不可能と言われています。目標達成のためには、既存の技術を超えたイノベーションが求められます。

だからこそ、企業が成長しながらイノベーションを生み出し脱炭素を実現するような、経済成長と両立する排出削減のしくみが必要となります。

「削減貢献量」が認められれば、社会の排出削減に貢献する脱炭素技術開発に取り組むことで自社の評価を高められるため、企業は排出削減を“成長の機会”として捉えることができます。そのためには、「削減貢献量」を評価するような新たな価値軸が国際的に構築され、その価値に対して投資が動き、そのような企業に資金が呼び込まれるような環境をつくることが必要となります。

「削減貢献量」の標準化とウォッシュ防止に向けて

「削減貢献量」の考え方自体は、これまで日本においては議論されてきていましたが、企業のネット・ゼロへのコミットメントが一般的ではなかったことや、企業のリスクを示す「スコープ1・2・3」、特に「スコープ3」が未発達だったこともあり、世界における「削減貢献量」への注目はそれほど大きくはありませんでした。

そのような中、企業のネット・ゼロへのコミットメントが一般的となり、スコープ3への取り組みも求められるようになってきた状況において、2022年から日本政府は、世界的な団体である「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」とともに、「削減貢献量」の具体的なしくみづくりに取りかかりました。2022年には、日本で開催された「国際GX会合」において「削減貢献量」をトピックとして扱ったほか、「COP27」においても、日本政府とWBCSDでイベントを行いました。

COP27の写真です。

COP27で開催された、日本政府とWBCSDのイベント

それらの議論も踏まえ、2023年3月22日には、WBCSDが「削減貢献量」のガイダンスを公表しました。「削減貢献量」を過大に見せたり、自身の排出量を減らすという当然の努力をおこなわず「削減貢献量」だけを示したり、グリーンウォッシュとの批判につながりかねない誤った使い方を制限するために、「技術が最新の気候科学に沿っていること」「技術が削減に直接寄与していること」「スコープ1・2・3に取り組んでいること」など、必要な条件を示しています。

あわせて、「削減貢献量」に取り組むことにより、「社員のマインドセット変更などビジネスモデルの変革やイノベーションにつながる」「削減貢献を最大にする技術の社内における優先度が向上する」「リスクのみならず社会に対する貢献が正しく伝わるようになる」といったメリットも示されています。

さらに、2023年4月には日本が議長国として開催したG7札幌・気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明(コミュニケ)と別添「産業の脱炭素化アジェンダに関する結論」でも、「削減貢献量」に言及がなされ(共同声明の51項)、G7広島サミットにおいても、「削減貢献量」の考え方が明記されました。

それらも踏まえ、現状、金融機関での「削減貢献量」の活用を進めていくための検討や、電気および電子技術分野ではすでに国際標準化の議論が始まるなど、具体的な動きが始まっています。社会課題にあふれるこの世において、企業の「課題解決力」を示す指標でもある「削減貢献量」の今後の動きに注目です。

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