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2018年5月26日におこなわれた日露首脳会談(提供:内閣広報室)
日本は、さまざまな国からエネルギー資源を輸入しており、特に原油輸入の中東依存は約9割にのぼります。その中でロシアとのエネルギー協力は、豊富なエネルギー資源や地理的な近接性などの観点から、日本のエネルギー供給源の多角化および安定供給の確保にとって重要となっています。2018年5月24日~27日には安倍首相がロシアを訪問し、エネルギーを含むさまざまな協力関係を今後も深めていくことを確認しました。今回は、そんな日本とロシアのエネルギー分野における協力関係についてご紹介します。
2018年4月28日開催「第6回エネルギー・イニシアティブ協議会」
日本とロシアでは、安倍総理とプーチン大統領のリーダーシップの下、経済分野では、2016年9月にロシア経済分野協力担当大臣に任命された世耕大臣が中心となって、8項目の「協力プラン」に基づいてさまざまな取り組みが進められています。「協力プラン」とは、2016年5月、ロシア連邦・ソチで安倍首相がプーチン大統領との会談をおこなった際、日本側から提示し、ロシア側から高い評価と賛意を示されたものです。8項目とは以下のもので、エネルギー分野の協力を進めることもここに明記されています。
2016年12月に日本でおこなわれた日露首脳会談では、8つの項目それぞれにおいて、企業などが実施するプロジェクトに関する合計68件の文書に署名がなされました。翌2017年4月の会談では「協力プラン」の作業計画の改訂がおこなわれ、さらに2017年9月の会談では「協力プラン」の具体化をさらに進めることが話し合われました。この時には、官民合わせて56件の文書に署名。加えて、今年2018年5月26日の会談で新たな民間文書が50件以上署名され、これまでに130件超のプロジェクトが生み出されています。
8項目のうちエネルギー分野については、2016年11月、「日露エネルギー・イニシアティブ協議会」が設置されました。これは、世耕経済産業大臣と、ロシアのノヴァク・エネルギー大臣が議長を務めるもので、民間企業の進めるプロジェクトの進展に向けた議論をおこなっており、官民一体となってエネルギー分野の協力を進めています。会合の開催は、2018年4月モスクワで行われた回ですでに6回を数えています。この協議会の傘下には、炭化水素(石油・天然ガス・石炭)、省エネ・再エネ、原子力の3つのワーキンググループ(WG)が設置されています。ロシアで省エネ・再エネ?と不思議に思った方もいるかもしれません。それぞれでどのような協力が進められているのか見てみましょう。
(出典)CraftMAPの地図データより作成
ロシアと日本が昔から協力してきたエネルギー分野が、石油とガスです。日本は、輸入原油のうち約6%を、輸入天然ガスのうち約9%をロシアから輸入しています。
日本の原油輸入国(2017年)
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日本のLNG輸入国(2017年)
それだけではなく、日本はロシアにおける石油・天然ガスの開発プロジェクトにも参画しています。「サハリン1」「サハリン2」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。これは、日本企業も参画する、ロシアのサハリン島における石油・天然ガス開発プロジェクトの名称で、サハリン1では原油が2006年から、サハリン2では原油が2001年から、天然ガス(LNG)が2009年から日本に向けて輸出されています。また、東シベリアでも、探鉱段階から日本がイルクーツク石油と協力して取り組んだザパド鉱区で、2016年から原油の生産が開始されました。さらに、2017年末からは、ヤマルLNGプロジェクトからのLNG出荷がスタートしました。このプロジェクトは、日本企業がプラント建設や計測器、輸送船などの分野にたずさわり、予定通りの供給開始を実現しました。
2018年4月29日にヤマルLNGプラントを視察する世耕大臣
「ヤマル」とは「地の果て」という意味で、ロシア連邦のヤマロ・ネネツ自治管区にある半島です。半島の多くは永久凍土に覆われている極寒の地で、生産したLNGを運ぶタンカーは氷を砕きながら進む「砕氷LNG船」であるという点からも、どれほど厳しい自然環境の中で開発がおこなわれたか分かります。
砕氷LNG船
LNGについては、今後もサハリン2の拡張が計画されているほか、北極LNG(ヤマル2)やバルティックLNGが検討されるなど、さまざまな開発プロジェクトが動き始めています。石油についても、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、イルクーツク石油と、東シベリアにおいて次なる共同探鉱プロジェクトを実施するため、地質調査などに取り組んでいます。
省エネルギー分野では、2018年1月、カムチャツカに日本から専門家を派遣して省エネ診断を実施し、学校の建物の熱供給設備を見直すことで25%の燃料費を削減できるポテンシャルがあることを確認しています。また、2018年度は「ロシアにおける日本年」の認定事業として、ロシアのクラスノダール地方(ソチ)および沿海地方(ウラジオストク)でおこなわれるロシアの学生向けサマーキャンプでの省エネセミナーに専門家を派遣し、日本の省エネ文化や省エネの重要性について講義をおこなう予定です。再エネについては、ロシアにおける風力発電の開発に協力しています。ロシア極東の独立系統地域では、電力をディーゼル発電に依存しているため、発電コストが高いなどの課題があります。しかし、ロシア極東には風力発電に適した風が吹く「好風況地」が存在し、風力発電を導入することによって、発電コストの削減や温室効果ガスの削減ができるというポテンシャルがあります。そこで、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、2014年から2016年にかけてロシア極東のカムチャツカ地方において、風車のブレード(羽の部分)への着氷対策などを採用した、寒冷地対応の風力発電についての実証事業を実施しました。さらに、2018年2月には、NEDOがサハ共和国及びルスギドロ社と協力覚書(MOC)を締結。北極圏に位置し、ロシア極東でも特に寒冷な地域であるサハ共和国チクシで、風力発電機、ディーゼル発電機および蓄電池によるエネルギーマネジメントシステムを組み合わせたシステムによる、安定的なエネルギー供給技術の実証事業を開始しました。すでに工事に着手しており、2019年秋を目途に実証運転を開始する予定です。こうした実証事業から得た技術的知見を、ロシアにおける風力発電の導入促進に活かしていきたい考えです。
ロシアと日本は、2016年12月に署名した「原子力の平和的利用における協力覚書」に基づいて、福島第一原子力発電所の廃炉については、燃料デブリの取り出しに必要な「小型中性子検出器」という機器の開発や、燃料デブリの経年変化分析などのプロジェクトを進めています。また、原子力分野の基礎研究としては、2017年9月に、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)とロシア国営の原子力企業であるロスアトムが、「放射性廃棄物処理及び管理を目的としたマイナーアクチノイドの核変換のための炉物理試験に関する情報交換のための覚書」に署名し、協力に向けた議論をおこなっています。こうしたロシアとの関係は、エネルギーの供給源をどこか一カ所に依存せず多角化を図ることでエネルギー安定供給を実現する「エネルギー安全保障」の観点から、非常に重要なものです。今後も、ロシアと緊密に連携し、エネルギー分野の官民協力を進めていきます。
長官官房 国際課
長官官房 総務課 調査広報室
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