資源エネルギー庁がお答えします!~原発についてよくある3つの質問
原子力発電(原発)について、世の中にはさまざまな議論があります。なくても大丈夫なの?それともやっぱり必要なの?電気は不足しているの?足りているの?…あちこちで議論されていて、結局のところよくわからないという方も多いかもしれません。そこで今回は、原発に関する「よくある質問」にお答えします。「日本のエネルギーのあるべき姿」と「原発」について、皆さんも一緒に考えてみましょう。
Q1.原発が稼働していない時でも、電気は足りていたように感じます。原発の再稼働は本当に必要なのでしょうか。
原発の停止後、電気代が上がっています
確かに、東日本大震災が起きた2011年には、電力不足を防ぐため「計画停電」などの対策がとられたものの、それ以降は、電気はこれまでと同じ状態に戻っているような感じがしますよね。
2011年当時に比べると、太陽光発電を中心として再生可能エネルギー(再エネ)の発電量が増えていることは間違いありません。しかし、これだけでは必要な電気の量には足りません。実は、震災後、全国の電力会社の火力発電所では「炊き増し」、つまり、これまでより多くの燃料を使って多くの電気をつくり、原発の不在分をまかなっているのです。
これらは、私たちが支払う電気料金に影響を与えています。火力発電に必要な燃料の価格は震災前よりも低下しているものの、火力発電自体が増加したこと、また再エネの買い取りによる負担(再エネ賦課金)などによって、電気料金は上昇しているのです。全国の原発がストップする前の2010年度と比べると、一般家庭では年間約1万円、中小企業では年間約600万円ほど電気代が上昇しています。原発への依存度がもっとも高い水準にあった関西電力などでは、震災後、2度も値上げをすることにつながってしまいました。
そんな中、関西電力が2017年に電気料金を値下げしました。一般家庭では年間約4,000円安くなる計算になります。徹底的な経営効率化をはかったことも理由のひとつでしたが、2基の原発を再稼動できたことが、今回の値下げにつながりました(「なぜ関西電力は電気料金を値下げできたのか?」参照)。
さらに、電気料金のほかにも、日本のエネルギー供給は、「エネルギー自給率」や「地球温暖化対策」といった面で、大きなリスクにさらされています(「日本が抱えているエネルギー問題」参照)。
資源の少ない日本では、電力供給の8割以上が石炭や石油などの「化石燃料」に依存する構造となっていて、エネルギー自給率は2016年度で8.4%(速報値)と、OECD諸国の中でも35か国中34位と、非常に低い水準なのです。加えて、電力由来のCO2排出量は、震災前と比べて年間7,900万トン増えています。
大雪の時なども安心して乗りこえるために
では、再エネをもっと増やせばいいのではないかと思いますが、再エネには再エネで、コストをまだまだ下げていく必要があり、さらに考えるべきリスクもあります。
たとえば、2018年1月下旬、大雪や厳しい寒さにより暖房の使用が増えたために、東京電力管内では多くの電力が必要となりました。ところが、雪が降った翌日、天候は晴れているにもかかわらず、太陽光発電のパネル上に積もった雪が溶けずに発電できない状況や、火力発電所でトラブルが発生し発電できない状況などが生じていました。
これによって生じた電力不足のリスクには、他のエリアからの送電や、契約に基づいて工場などの需要を抑える「ディマンドレスポンス」の発動など、さまざまな努力で対応しました。こうして、大規模停電につながりかねない電力不足のリスクはなんとか回避されましたが、これから再エネの導入量を増やし、再エネが果たす役割が拡大するにつれて、逆に、「必要なときに再エネが発電しない場合のリスク」も大きくなっていくことを念頭に置いておくべきといえるでしょう。
また、電力が必要となる時間帯は、太陽光パネルが発電する昼間とはかぎりません。冬場であれば、皆さんが帰宅して暖房をつける「日没後の夕方」が、電力を使うピークになることがしばしばです。また、夏でも、気温は高いがくもりの日など、昼間のピーク時に太陽光発電が活用できないケースもあります。
たしかに「震災後、夏場の最大需要を記録した時でも、大停電は起きなかった」という事実はありますが、それはその日にうまく太陽光で発電することができていたということであり、たとえ太陽光発電が活用できない場合であっても停電が起きないよう、普段から準備をしておく必要があります。電力の需要にそなえるための発電所を、太陽光発電とは別に確保しておかなければならないのです。
Q2.原発の再稼働に向けた動きが進んでいるように思います。政府は本気で原発依存度を減らそうと取り組んでいるのですか?
長期の目標を下げています
東日本大震災前に稼動していた原発の数は54基。ここから生み出された電気は、日本全体の発電量のうち、約3割を占めていました。
その後、2014年に発表された現行の「エネルギー基本計画」を受けて示された「長期エネルギー需給見通し」では、原発が電源全体で占める割合は、2030年時点で20~22%とされており、比率が低くなっていることがわかります。
この目標に向けて、原発への依存度を可能な限り低くするとの方針のもと、再エネを最大限に導入できるよう取り組んだり(「再生可能エネルギーの歴史と未来」参照)、火力発電についてはCO2の排出量を減らす最新技術を開発したりするなどして、対策に取り組んでいます(「さまざまなエネルギーの低炭素化に向けた取り組み」参照)。
ただ、エネルギーで重要となる「3E+S」、つまり「安全性(Safety)」を大前提に、「エネルギーの安全保障(Energy security)・経済効率性の向上(Efficiency)・環境への適合(Environment)」を考えると、原発をまったくのゼロにするのはどうしても難しいのが現状です。このため、「安全性を最優先すること」とし、「世界最高水準の新規制基準に適合したもの」のみを稼動することとしています(「原発の安全を高めるための取組 ~新規制基準のポイント」 参照)。
その上で、2030年のエネルギーの「ベストミックス」について議論をつくした結果、原発比率を20~22%まで落とすことになりました。その実現のためには、原発ごとに規模(発電量)や実際の稼働率も異なるので確定的なことを示すのはむずかしいのですが、一定の仮定のもとに計算すれば、30基程度の稼働に相当します。
再稼働だけでなく、廃炉もしています
再稼働をする原発がある一方で、廃炉する原発もあります。
2017年も、関西電力が大飯原発1・2号機の廃炉を判断するなど、震災以降、福島第一原発の6基に加え、すでに8基の原発が廃炉となっています。
このように、原発の依存度を低くするという方向に進んでいる中で、廃炉も着実に進んでおり、今後は廃炉作業をスムーズに進めることがよりいっそう重要になります。
Q3.福島第一原発の事故処理や、「核のゴミ」の問題など、原発はコストがかさむと思います。本当に「安い」と言えるのでしょうか。
すべてのコストを盛り込んで計算しても、なお安い原発
原発には、発電所を建てること以外にも、万が一の事故にそなえて費用を用意しておくこと、発電後に残る「核のゴミ」とも呼ばれる高レベル放射性廃棄物の処分にかかる費用、安全対策費用など、さまざまなコストがかかることは事実です。
海外では、当初予定していた建設費用が超過してしまったケースもあります。ただ、海外のこのようなケースでは、建設された実績があまり存在しない新型の原子炉であることや、長期間にわたって建設がされていない国で、ノウハウが失われていることなどが大きな要因で、これが日本にそのまま当てはまるものではありません。
東日本大震災発生後の2015年におこなったコスト計算では、そうしたさまざまなコストをすべて盛り込んだ上で、キロワットアワー当たり10.1円以上という数値を出しています。そうしたさまざまなコストを見込んでも、原発は、他の電源よりもなお安いという結果になっています。この時のコスト計算では、石炭火力発電はキロワットアワー当たり12.3円、太陽光発電(メガ)はキロワットアワー当たり24.2円という計算になりました(「原発のコストを考える」参照)。
事故処理の費用が、さらに増えてしまった場合でも
これに対して、「事故の処理費用が今の予測よりも増えれば、原発のコストも変わるのではないか?」などの指摘もあります。2015年におこなったコスト計算では、そのような場合も想定し、「廃炉」「賠償」「除染」「中間貯蔵」といった事故処理費用などのコストが増えると原発のコストはどのように変わるかという分析もおこなっています。具体的には、仮に福島原発事故の処理費用が10兆円増加した場合でも、発電コストへの影響は、キロアットアワー当たり0.1~0.3円の増加という計算になるのです。
この計算のプロセスは、オープンな場で議論をおこない、データとともに公開しています。数字がずらりと並んでいてちょっとわかりづらい内容かもしれませんが、ぜひこの機会に皆さんも確認してみてください。
それでも原発の再稼働は必要ですか?命よりも大切ですか?
すべての政策は、人の命と暮らしを守るためにおこなわれるべきものであり、何よりも大切にしなくてならないことは「人の命」であることは言うまでもありません。
ただ、ここで、皆さんと一緒に考えていきたいのは、「エネルギーが安定的に供給されない」という状況もまた、人の命や暮らしを守る上で無視できないリスクをはらんでいるということです。
もし、ある日突然、電気が止まってしまったらどうなるでしょう。電気で動く医療機器によって命を支えている人、信号のある交差点で横断歩道を渡ろうとしている子どもたち、雪の降る寒い夜に暖房をつけているおじいさんやおばあさん…。電気が止まってしまうことによって起こりかねない命のリスクは、ちょっと想像してみるだけでも、私たちの日常の中にいくつも存在しています。
そうしたことを考えあわせれば、「滅多に起こらないことだから」と、電気が止まってしまうリスクを許容するのは、なかなか難しいことだと感じられます。
また、電気をまったく使わないということは、日々の普通の暮らしをいとなむ上ではとても難しいことです。電気料金が上昇した時、よほど所得の高い方でない限り生活への影響は無視していられませんし、特に所得の低い方にとっては大きな影響となります。企業の競争力の低下は、企業で働くたくさんの人の暮らしにも影響をおよぼします。
さらに、将来にわたって持続的な社会をいとなむためには、気候変動の問題を無視するわけにはいきません。CO2を多く排出するままでは、将来の世代が気候変動による悪い影響を受けることになります。私たちの子どもや孫、もっと将来の世代まで、安心できる豊かな暮らしを守っていくためには、気候変動対策にもしっかり取り組まなくてはなりません。
命や暮らしを大切に思えばこそ、「安定的に」「安いコストで」「環境に負荷をかけず」「安全に」電力を供給するという、「3E+S」を追求することが重要になります。その一環で、政府としては、原子力規制委員会によって安全性が確認された原発にかぎり、再稼働していくこととしているのです。
私たち資源エネルギー庁は、その4つの要素を同時に実現するため最適なエネルギーのバランスはどういうものか、これからも皆さんと一緒に追求し続けていきたいと考えています。
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