鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(後編)~排出量の測定手法の共通化を目指して

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2023年5月の「G7広島サミット」に先がけて、4月に札幌でおこなわれた「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」では、気候変動対策として、「産業の脱炭素化」、つまり生産などのプロセスにおいて二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを排出する産業を脱炭素化することの重要性が強調されました。とりわけ、CO2を多く排出する鉄鋼分野については、取り組みが注視されています(「鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)~『グリーンスチール』とは何か?」 参照)。鉄鋼業の脱炭素化がどのように進められているのか、後編では、CO2の排出量の世界的な測定基準を共通化する取り組みを中心にご紹介しましょう。

脱炭素化の道筋は国によって異なる

今、世界では気候変動対策として、産業の脱炭素化が重要な課題となっています。しかし、脱炭素化をどのようなプロセスでおこなっていくかについては、どの国も同じようなやり方で、というわけにはいきません。なぜなら、産業のあり方、資源や技術の状況などは、国によって大きく異なるためです。

2023年におこなわれた「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」でも、脱炭素化に向けては、各国の状況に応じた道筋があり、その環境にあったプロセスが追求されるべきである、というメッセージが発出されました。

G7気候・エネルギー・環境大臣会合の様子の写真です。

G7気候・エネルギー・環境大臣会合の様子

鉄鋼業も例外ではありません。たとえば、鉄は鉄鉱石からつくられるものと、そのスクラップを再利用するものがあります。スクラップが大量にある国であれば、それを活用し、再生可能エネルギーによる電炉(電気炉)を使ってリサイクルすることによって、排出量を抑えることができます。しかし、世界の鉄鋼需要が高まる中で、この方法だけで需要をまかなうことはできませんし、そもそも途上国では、国内にスクラップのストックがないため、鉄鉱石などから鉄を新たにつくることが必要となります。

新しく鉄をつくる場合、従来の高炉による製鉄では排出量が多くなるため、排出されたCO2を集めて貯留し利用する「CCUS」(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)などを活用することも考えられます。あるいは、コークス(炭素)の代わりに水素を利用した「直接還元法(DRI)」と電炉を組み合わせれば、排出量を抑えることが可能ですが、その場合は、そのような新しい技術が産業レベルで確立されていることが前提ですし、また世界的にも資源量がひじょうに限られている高品位の鉄鉱石が必要であるなどの制約もあります(「水素を活用した製鉄技術、今どこまで進んでる?」参照)。

このように、国情や使える技術などにはさまざまな違いがあるため、その状況に応じて脱炭素化の道筋を探ることが重要になります。

鉄鋼業の排出量はどこまで、どうやって測定する?

こうした問題意識もふまえた上で、鉄鋼業での脱炭素化にあたっては、CO2排出量を測定し、実情を把握する必要があります。そのために、どの範囲まで測定するのか、またどのように測定するのかを、世界的な基準で定めていくことが課題となります。

どの範囲まで測定するのか――サプライチェーン全体での把握が必要

今、産業界では、企業が自社のCO2などの排出量を把握し、その排出削減に対して企業自身が責任を負うことが一般的になりつつあります。それに加え、近年では自社の排出責任がサプライチェーン全体へと拡大してきています。サプライチェーン全体を見ることで、どの過程でどんな環境負荷が生じているかを知ることができ、そこから、さらなる削減の可能性を探ることが期待できます。

事業者のCO2などの排出量の範囲を定めた基準としては、CO2などの算定・報告基準を開発するための国際的なイニシアティブである「GHGプロトコル」によるScope1~3が用いられています。

GHGプロトコルによる温室効果ガス排出量の算定方法
温室効果ガス排出量の算定方法について、GHGプロトコルによるScope1~3を図で示しています。

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これによると、「事業者自らによる温室効果ガスの直接排出」はScope1、「他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出」はScope2、「Scope1、2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他者の排出)」はScope3と分類されます。

鉄鋼産業でも同様に、CO2排出量を測定するのに、個別企業の直接排出(Scope1)のみの評価では不十分です。製鉄プロセスで使用する電力からの排出(Scope2)も考慮し、さらには鉄鋼の原料加工プロセスでの排出(Scope3)までも含めた「サプライチェーン全体」で排出量を把握することが重要になっています。

鉄鋼産業における排出量測定
鉄鋼産業における温室効果ガス排出量の測定方法について、Scope1~3を図で示しています。

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どのように測定するか――統一的な手法の開発へ

排出量を測定する国際的な手法は、複数あります。日本の鉄鋼業界では、2009年以降、製鉄所からのCO2 排出量・原単位の計算方法を開発し、これが国際規格「ISO14404」として発行されました。以後、高炉用、電炉用など、製造プロセスに応じた国際規格が「ISO14404」シリーズとして発行されており、これによる測定を奨励しています。この方法は、製鉄所から直接排出されるCO2だけでなく、Scope1~3を一体で測定でき、サプライチェーン全体の排出量を見ることができます。

2023年の「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」では、国際エネルギー機関(IEA)がネットゼロ鉄鋼産業に向けた排出測定と、そのためのデータ収集に焦点を当てたレポートを作成しました。それによると、ISO14404なども含む、既存の5つの排出量測定手法を調整することにより、鉄鋼の生産と製品の排出にかかる国際的な排出量測定を相互に運用可能な形にしていくことが合意されました。

この5つの手法は、国際的に使用できるように設計され、サイトや製品レベルのCO2などの排出量を測定できる方法です。

また、排出の基礎データ収集に向けて、鉄鋼生産と製品の排出の「グローバル・データ・コレクション・フレームワーク」の作業を開始することが合意されました。IEAのレポートで概説した「ネットゼロ原則」を指針として、前述した既存の5つの測定手法を相互運用可能とするための改訂作業をおこないます。また、同じくIEAのレポートで概説した「ネットゼロのデータ収集原則」にしたがい、データ収集を実施します。

今後は、IEAのもとに新設された「産業脱炭素化作業部会」などを通じて、作業を進めていく予定です。

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