2019—日本が抱えているエネルギー問題(後編)

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前編記事もあります。こちらをご覧ください。
2019—日本が抱えているエネルギー問題(前編)

世界で進む脱炭素化の動き

日本は、エネルギー自給率の低さや化石燃料への依存など、エネルギーに関する多くの問題を抱えています。課題の解決に向けて、どのようなことをすればよいのでしょうか?「パリ協定」の中期目標でもある2030年に向けた、各エネルギー分野の取り組みをご紹介します。

今、世界のエネルギー情勢は大きな転換期にあります。それを象徴するのが「脱炭素化」の流れです。脱炭素化とは「温室効果ガス(GHG)の人為的な排出量と森林などの吸収源による除去量のバランスを取るために、温室効果ガス排出量を低減していく」ことです。つまり、人が経済活動などを通じて出す温室効果ガスの量と、光合成のためCO2を吸収する植物などの働きで除去される温室効果ガスの量が同じくらいになるようにしていくということです。そこに大きく影響するのが、石油や石炭など「化石燃料」の使用量です。

これまで日本は、いくつかの大きなエネルギーの転換期を迎えてきました。石炭から石油への「脱石炭」。2度のオイルショックを経ての「脱石油」。さらに世界各国が経済成長したことで温室効果ガスの排出量が増え、地球温暖化の原因となった結果、これを減らそうとする「脱炭素化」の動きが加速していくことになりました。地球温暖化に対する国際的な枠組み「パリ協定」の目標を達成し、将来の電源(電気をつくる方法)構成のあるべき姿を示した2030年の「エネルギーミックス」を実現するためには、今後さらに化石燃料の使用を減らしていく必要があります。

しかし、化石燃料に大きく依存する日本のエネルギー供給構造を変え、温室効果ガスの排出を今まで以上に削減することは簡単でないと考えられています。2018年に発表された「第5次エネルギー基本計画」では、2030年はもちろん、その先の2050年を見据えたエネルギーのあり方が示されており、「2050年までに温室効果ガスを80%削減する」という高い目標が掲げられています(「新しくなった『エネルギー基本計画』、2050年に向けたエネルギー政策とは?」参照)。

その実現のためには、あらゆる分野でイノベーションが必要とされます。またエネルギー源としても、再生可能エネルギー(再エネ)、原子力、水素、蓄電池など、あらゆる選択肢を検討していくことが重要となります。

脱炭素化に向けたイノベーション
運輸、産業、民生、電力の分野それぞれの、脱炭素化に向けたイノベーションの選択肢を表にしています。

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(出典)資源エネルギー庁作成
※()内は2015年の排出量
※CCUS:二酸化炭素回収・有効利用・貯留

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日本のエネルギー2018「Q 脱炭素化とはなんですか?」

省エネの取り組み

エネルギー消費効率の改善(省エネ)の取り組みは、温室効果ガスの排出を抑制することにも役立ちます。また、資源の少ない日本においては、限りある資源を有効活用するため、特に重要な取り組みとなります。

日本は積極的に省エネを進めてきた結果、世界的に見ても高い水準のエネルギー消費効率を実現してきました。しかし、1990年から2010年にかけては消費効率の改善が停滞していました。今後はさらに省エネの取り組みを徹底していくことが求められています。

エネルギー消費効率の改善
1970年~2030年のエネルギー消費効率の改善度を20年ごとに一区切りとし、それぞれ折れ線グラフで示しています。

※1970年、1990年、2012年のエネルギー消費効率を100とする
※エネルギー消費効率=最終エネルギー消費/実質GDP

エネルギーミックスにおける最終エネルギー需要
エネルギーミックスにおける最終エネルギー需要を、2013年度(実績)と、2030年度(省エネ対策後)それぞれのの積み上げグラフで比べています。2030年度では、省エネ対策をおこなわない場合の想定に比べ5,030万kl程度削減予定としています。

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日本のエネルギー2018「Q 日本の省エネの取組はどこまで進んでいますか?」

さらなる省エネを進めるためには、産業、業務、家庭、運輸の各部門での努力が必要となります。また、企業単位での取り組みをこえて、複数の企業や異なる部門が相互に連携して省エネを進めることによって、消費効率の向上を目指すことが大切です(「企業が連携して取り組む、これからの省エネ」参照)。

省エネ取り組み進捗
それぞれの分野での、2016年度の省エネ取り組み進捗と2030年度の目標値を図にまとめています。全体ではLED、産業ではトップランナーモータ、業務ではビル、家庭では高効率給湯器、運輸では次世代自動車となっています。

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複数企業が連携する新たな省エネ取り組みのケース
ケース1:同一業界の企業間の設備集約、ケース2:サプライチェーン連携による最適化、複数企業が連携する省エネへの取り組みをそれぞれ図解しています。

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日本のエネルギー2018「Q 日本の省エネの取組はどこまで進んでいますか?」

再エネの導入拡大

再エネは発電時に温室効果ガスを排出せず、エネルギーの自給率にも貢献するエネルギー源です。世界的にも、「脱炭素化」の流れを受けて、再エネを積極的に導入しようという動きが活発化しています。

日本では、2012年に、再エネでつくった電気をあらかじめ決めた固定価格で一定期間買い取る「固定価格買取制度(FIT制度)」が導入されてから、再エネの導入量が制度開始前と比べて約3.2倍となり、急速に拡大してきました(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)。しかし、日本の発電電力量に占める再エネ比率は、2017年時点で16%(水力を除くと8.1%)となっており、主要国と比べると低いのが現状です。

再生可能エネルギーなどによる設備容量の推移
2010年度から2017年度までの再生可能エネルギー5種の設備容量の推移を積み上げグラフで示しています。2012年度までの年平均伸び率は9%、2012年度の固定価格買取制度導入以降の年平均伸び率は22%となっています。

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(出典)JPEA出荷統計、NEDOの風力発電設備実績統計、包蔵水力調査、地熱発電の現状と動向、RPS制度・固定価格買取制度認定実績などにより資源エネルギー庁作成。

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⽇本のエネルギー2018「Q 電気料金はどのように変化していますか︖」

発電電力量に占める再生可能エネルギー比率の比較
各国の発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率をグラフで比較しています。1位はカナダの65.7%、2位はイタリアの35.6%と続き、日本は16.0%となっています。

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(出典)資源エネルギー庁調べ

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⽇本のエネルギー2018「Q 再生可能エネルギーの導入は進んでいますか︖」

再エネを長期安定的な主力の電源にしていくためには、主に4つの問題を解決していく必要があります(「再エネの主力電源化を実現するために」参照)。それぞれの問題について、簡単に見てみましょう。

①再エネコストの高さの問題
FIT制度により再エネ電気を買い取るために必要となった費用の一部は、電気料金を通じて国民が広く負担しています。国民負担を抑えつつ、再エネを最大限に導入していくには、ほかの電源と比較して競争力のある水準まで発電コストを下げる必要があります。

そこで、一部に入札制度を取り入れて発電事業者に競争をうながしたり、コスト効率のよい発電事業者を基準に買取価格を設定する「トップランナー方式」を導入したりするなどの取り組みを進めています。

②安全性などの問題
再エネを主力電源化していくには、長期的に安定した電源にすることも必要です。再エネの導入が進む一方で、地域とのトラブルも増加し、また事業終了後の準備が不十分であるなどの問題が指摘されています。

そのため、安全の確保や地域との共生をはかったり、太陽光発電設備を適切に廃棄するための対策などに取り組んだりしています(「再エネの長期安定電源化に欠かせないのは『地域との共生』」参照)。

③再エネを電力系統へつなぐ際の問題
日本の電力系統(電線など、発電・送電のための一連のシステム)は、再エネ発電に適していると考えられる場所(たとえば安定的に強い風が吹く場所など)に必ずしも整備されているとは限りません。そのため、再エネの導入量が増加するにともなって、再エネの発電所を電線につなぐことができない「系統制約」の問題が生じています(「なぜ、『再エネが送電線につなげない』事態が起きるのか?再エネの主力電源化に向けて」参照)。

この問題に対応するため、まずは、すでに存在している系統設備を最大限に活用するとともに、系統の空き容量を柔軟に運用するルール(「日本版コネクト&マネージ」)の検討・導入などを進めています。

④発電量が不安定であるという問題
太陽光や風力など一部の再エネは、発電量が季節や天候に左右され、コントロールが困難です。条件に恵まれれば、電力需要以上に発電する場合もあり、そのままにしておくと需要と供給のバランスがくずれ、大規模な停電などが発生するおそれがあります。これをカバーするため、需要に対して発電量が不足する場合は火力発電などで不足分を補い、逆に余る場合には再エネの発電量を抑える(出力制御)などの調整をはかっています(「なぜ、太陽光などの『出力制御』が必要になるのか?~再エネを大量に導入するために」参照)。

そのため、電力システム全体の改革をおこなうことで、電気が余った地域から不足している地域へと広域的に調達をはかるなど、より柔軟で効率的な調整力の確保を進めていく方針です。


これらの問題を解決し、再エネの主力電源化をはかるため、経済産業省では審議会を設置して検討を進めています。たとえば、2019年8月5日におこなわれた審議会では、「発電コストが下がり競争力をつけた再エネは、電力市場を活かした新しい制度を整備する」「地域で活用される電源には、需給一体として活用されることを前提に、当面FIT制度の基本的な枠組みを維持する」「太陽光発電設備の廃棄費用を外部で積み立てる制度を導入する」「次世代電力ネットワークへの転換」などの方向性が示されました(「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」参照)。これらの取り組みの詳細や進展については、今後もスペシャルコンテンツの中でご紹介していきます。

原子力発電の必要性

原子力発電は、安定的に電力が供給でき、電力コストが低く、温室効果ガス排出も少ないエネルギー源です。世界的にも、原子力発電は米国、フランスなどで多く使われているほか、近年では中国や韓国、アラブ首長国連邦でも建設が進められています。

また、「国際エネルギー機関(IEA)」の見通しによれば、今後も世界全体での原子力発電量は伸びていくと予想されています。国連の掲げている「持続可能な開発目標(SDGs)」やパリ協定で定められた目標を達成するために必要なエネルギーの取り組みを想定した「持続可能な開発シナリオ」においても、今後も世界の原子力発電量は増えるだろうという見通しが示されています。

世界の原子力発電量の見通し(単位:TWh)
世界の原子力発電量の見通しを、「現行政策シナリオ(現在実行されている政策に基づくシナリオ)」「新政策シナリオ(現在発表されている政府目標・計画に基づくシナリオ)」「持続可能な開発シナリオ(SDGsやパリ協定で定められた目標を達成するためのシナリオ)」に分け、2017年、2030年、2040年で比較しています。

(出典)International Energy Agency「World Energy Outlook 2018」より作成

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日本のエネルギー2018「Q 原子力発電は必要ですか?」

資源にとぼしい日本では、原子力発電は欠かすことのできない電源のひとつです。現在停止中の原子力発電を再稼働するにあたっては、新規制基準に適合させるなど、安全性を最優先に考えて進めていきます。また、将来的には、可能なかぎり原子力発電への依存度を低減する方針です(「原発の安全を高めるための取組 ~新規制基準のポイント」参照)。

なお、2019年8月5日現在の日本の原子力発電所の稼働状況は、次のようになっています。

期待される水素エネルギー

化石燃料に変わる未来のエネルギーとして期待されているのが、水素エネルギーです(「『水素エネルギー』は何がどのようにすごいのか?」参照)。水素は、水をはじめとしたさまざまな資源からつくることができ、利用時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーです。水素の製造に再エネの余剰電力を有効活用すれば、製造から使用までトータルでCO2を排出しない「カーボンフリー」なエネルギーにすることも可能になります。すでにさまざまな実証実験がおこなわれ、将来のエネルギーの中心的役割をになうことが期待されています(「水素社会の実現に向け、さらに具体的な取り組みを~新『水素・燃料電池戦略ロードマップ』」参照)。

クリーンエネルギーを利用した水素社会-Power to Gas
水素製造、輸送、利用までの水素社会のしくみを図であらわしています。

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日本のエネルギー2018「Q 今後、水素エネルギーは普及しますか?」

ますます多様になっていくエネルギー。それにつれてエネルギー問題もさらに複雑になってきています。さまざまなエネルギーの最新の状況を知ることで、日本のエネルギーのこれからを深く考えてみましょう。

2018年の過去記事もあります。こちらをご覧ください。
2018—日本が抱えているエネルギー問題

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長官官房 総務課 調査広報室

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