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地球温暖化の一因として、いまやすっかりやっかいものの代名詞のようになっているCO2。削減しようという取り組みはよく聞きますが、むしろCO2を積極的に有効活用する方法はないの?そうすれば、「脱炭素化社会」の実現もより加速するはず!そこで、CO2を使うことで役立つモノを生み出そうという研究が進められています。生み出そうとしているのは、ずばり、プラスチックの原料。そんな夢物語にも聞こえる研究が、ここ日本で、実用化に向け一歩ずつ動き出しているのです。
やっかいもののCO2を、逆に資源として活用する―。この考え方は「カーボンリサイクル」と呼ばれ、さまざまな分野で研究が進められています。CO2を使ってモノをつくるしくみには、お手本があります。それは、植物がおこなう「光合成」です。植物はCO2と水を吸収して、でんぷんと酸素を生み出しています。それと同じように、人の手によって、CO2から有益なモノを生み出すことはできないものでしょうか?こうした考えから研究されているのが、「人工光合成」と呼ばれる技術です。「人工光合成」とは、植物がおこなっている光合成のように、人工的に化学品を合成する技術。植物の光合成に太陽光が不可欠なように、人工光合成でも太陽エネルギーを活用します。さまざまな化学品をつくることが期待されていますが、その中のひとつが、プラスチックなどの原料となる「オレフィン」です。
人工光合成の技術でプラスチックの原料をつくるプロセスについて、もう少し詳しく説明しましょう。人工光合成では、まず「光触媒」と呼ばれる、太陽光に反応する物質を使って、水(H2O)を水素(H2)と酸素(O2)に分解します。ただし、ここではまだ、水素と酸素は混合している状態です。次に、水素のみが通過できる「分離膜」を使って、水素と酸素を分離し、水素を取り出します。最後に、この水素と、工場などから排出されたCO2とを合わせ、化学合成をうながす「合成触媒」を使って、「オレフィン」を作ります。
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このように人工光合成では、「光触媒」「分離膜」「合成触媒」の3つの技術が重要な役割をはたします。特に触媒は、いかに効率的に水素を取り出せるか、いかに効率的に化学合成物を生み出せるかの決め手になる技術。日本はこの触媒技術で国際的に強みをもっていることから、人工光合成の実現に期待がかかっています。たとえばレジ袋やラップはオレフィンの一種である「エチレン」から、ストローや医療機器は同じくオレフィンの一種「プロピレン」から作られています。そのほかにも、食品トレイやペットボトルなどもプラスチックからつくられています。これだけ生活に身近にあるプラスチック製品に、排出されたCO2が使われるようになるとしたら!どれだけのCO2削減につながるのか、考えただけでもワクワクしますね。
さまざまなプラスチック製品
CO2の削減以外にも、人工光合成には次のようなメリットもあります。プラスチックは、オレフィンを含む「基礎化学品」と呼ばれる素材からつくられています。この「基礎化学品」は、化石資源である石油から得られる「ナフサ」という石油製品の一種を熱分解して製造されているため、人工光合成が実現すれば、化石資源の使用量が減り、結果として全体のCO2排出量削減につながる可能性もあるのです。現在、産業別にみると、プラスチックなどを製造する化学産業は、鉄鋼業に次いで多くのCO2を排出しています。また化学産業のCO2排出の内訳をみると、オレフィンを含む「基礎化学品」を製造する「ナフサ分解炉」では、年間1064万トンのCO2が排出されています(2020年のデータ)。
(出典)環境省 国立環境研究所「2020年度の我が国の温室効果ガス排出量(確報値)」および省エネポータルサイト「特定事業者等のエネルギー種類別のエネルギー使用量」などを基に作成
このように多くのCO2を排出しているプラスチック製造において、人工光合成を実現することができれば、「すでに排出されたCO2を資源として活用する」かつ「太陽光という再生可能エネルギーを使い、非化石資源を原料とすることで、これまでのプラスチック製造方法と比べてCO2排出量を大幅に減らせる」という一石二鳥の効果が生まれます。人工光合成技術の実現に向けては、現在、「光触媒」「分離膜」「合成触媒」に関する研究開発が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のもと進められています。日本を代表する企業、大学、公立研究機関なども、産学官連携に参画しています。
最後に、人工光合成がいかにサステナブルな技術であるか、ポイントをまとめておきましょう。
このように、人工光合成が実現すれば、環境負荷が少なくサステナブルなプラスチックが誕生することになります。プラスチック原料の石油を輸入に頼っている日本としては、原料供給に不安がなくなるのもうれしいポイントです。さまざまな面からみて、人工光合成は実現が待ちどおしい技術なのです。
製造産業局 素材産業課
長官官房 総務課 調査広報室
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