実験の目的は、省エネ製品への買い替えにつなげるための、効果的な情報発信方法を探ることです。発信の手法にはナッジを採用。さらに発信内容については、省エネ性能だけでなく、消費者に対して訴求力のある別の価値(省エネ性能以外の付加価値 NEV : Non Energy Value)にも着目し、発信手法と組み合わせることで、消費者の行動変容をうながすことができるか検証しました。
① 省エネ以外のLEDの価値を抽出し、LED照明器具の製品・価格を設定 LEDシーリングライトの製品カタログなどから、「快適性」や「利便性」、「長寿命性」、「防犯性」といった、消費者にとって魅力的だと思われる「省エネ性能以外の付加価値(NEV)」を抽出しました。また既存の売上POSデータ(商品の販売時に記録されるデータ)などから、省エネ性能と各NEVについての“支払意思額”、つまり消費者が払ってもよいと考える額を算出。これらを組み合わせて、機能・価格の異なる4タイプのLED照明器具を設定しました。
② 買い替えの阻害要因を分析し、「大きな時間割引率」の回避を検討 LEDシーリングライトへの買い替えが進まない大きな要因のひとつは、LEDは、照明器具ごと買い替えが必要なことが多いという点です。蛍光灯の場合はランプだけ取り換えればいいため、「買い替えはもったいない」という心理が働くのです。目先の利益に比べて将来の利益を過小に評価してしまうことで、将来に手に入るより大きな利益に目が向かなくなってしまう現象を、行動経済学では「時間割引率が大きい」と表現します。そこで、この「大きな時間割引率」の作用を抑えるための情報発信手法を検討することにしました。
③ ナッジを応用したメッセージを作成 この実験では、「大きな時間割引率」の作用を抑えるために有効と考えられる、「デフォルトの変更」と「社会規範」のナッジ手法を用いて、効果を検討することにしました。「デフォルトの変更」とは、選択肢を根底から変えること。つまりここでは、“蛍光灯のままか、LEDに替えるか”という問いの立て方ではなく、あえて“Aという機能のLEDか、Bという機能のLEDか”という選択肢を提示します。一方、「社会規範」とは、人が他者の行動から受ける影響を利用する手法です。ここでは、“一般的な家庭の2軒に1軒がLED照明を使用している”というメッセージを提示することにしました。