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地域のちからプロジェクト「西能登おもてなし丼」の開発(石川県志賀町)(提供:志賀町)
原子力発電(原発)は、石油などの化石燃料に乏しい日本において、エネルギー政策上の重要な役割を担ってきました。そんな原発の設置に協力している自治体は、日本のエネルギー政策を支える存在だといえます。今回は、そのような原発立地地域で近年進められている、補助金だけに頼らない持続的な地域振興の取り組みについて見てみましょう。
原発は、安定的に電力を供給する「ベースロード電源」の役割を果たすことができ、少量の資源から多くの電力を発電して電力コストを抑えることが可能で(「原発のコストを考える」参照)、また地球温暖化の原因となるCO2を運転時に排出しないというメリットを持っています。このメリットは、日本のエネルギー安全保障に大いに役立ちます。先日発表された、将来に向けたエネルギーの方向性を示す「第5次エネルギー基本計画」では、これまでに引き続き、原発依存度を可能な限り低減させていくということがうたわれています。2030年のエネルギーの姿を示したエネルギーミックスでは、電源構成比のうち原発は20~22%を占めるとされています。そして、2050年にむけては、人材・技術・産業基盤の強化にただちに着手し、安全性・経済性・機動性にすぐれた原子炉の追求などを進めていくという方向性が示されています。
前述したように、現在の日本にとって、原発はまだ欠かすことのできない電源(電気をつくる方法)のひとつです。いま存在する原発は、過去、全国の市町村が、誇りを持って日本のエネルギー問題に役立とうと、原発の設置に協力を申し出ていただいたおかげで設置・建設されたものです。現在、北は北海道から南は鹿児島県までに点在する16の原発立地地点で、合計22の市町村に、原発が設置・建設されています。
では、「原発立地地域」はどのような地域で、現在どのような状況にあるのでしょうか。その姿を見てみましょう。
原発立地地域は、海に面した市町村です。多くの電力が必要な電力消費地に、高圧送電線を使って電力を供給しています。2015年までの統計を見ると、立地地域では、人口減少が全国平均を上回るペースで進行しています。高齢化率も、若干ですが全国平均を上回っています。
原発立地地域の人口推移
(出典)国勢調査(総務省)を元に、未回答などをのぞく全国原子力発電所在地市町村協議会の正会員市町村のデータを集計
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また、立地地域における産業別・従業員数の割合を見ると、全国平均に比べて、第一次および第二次産業の雇用者が比較的多いことが分かります。
原発立地地域における産業別・従業員数の割合
(出典)経済センサス2014を元に、未回答などをのぞく全国原子力発電所在地市町村協議会の正会員市町村のデータを集計
原発立地地域は、日本のエネルギー政策に協力し、それを支える役割を果たしています。その尽力に応えようと、国はさまざまな支援をおこなっています。そのひとつは「電源立地地域対策交付金」の交付です。また、原発からの固定資産税収も、自治体の財政にプラスの影響をもたらします。これらの立地自治体の財政へのプラスの影響がピークを迎えるのは原発が運転を開始した時で、その後は設備の減価償却にともなって収入は減るものの、運転開始前より高めに推移します。立地自治体は、この原発からの収入見通しを元に、中長期的な事業計画を立てています。ただ、このことにより、立地自治体では、地方税収のうち固定資産税収が占める割合が、全国平均の41%より高い60%となっています。これは、立地自治体の財政が、原発の動向に大きな影響を受けてしまうということを意味します。
(出典)財政状況資料集(総務省)を元に、全国原子力発電所在地市町村協議会の正会員市町村等のデータを集計
2011年に起こった原発事故以来、原発政策は安全を最優先に見直しがおこなわれました。現在、事故を教訓にしてつくられた、世界でもっとも厳しい水準の規制基準の下で、これまでよりさらに高い安全性を求める再審査がおこなわれています。
このような新規制基準に基づく審査は、原発の安全を追求するために重要な取り組みです。しかし立地地域では、原発の長期停止や建設中断が、財政に大きな影響を与えています。また、地域経済にも影響が出ています。たとえば、2013年度に資源エネルギー庁がおこなった調査では、福井県敦賀市・美浜町の全産業売上高は、原発停止後、6%減少していることが分かりました。特に運輸業、卸売業、宿泊業の落ち込みが大きく、だんだんと緩和傾向は見られるものの、直近でも影響は継続しています。原発のある地域は潤っているというイメージのある人もいるかもしれませんが、もともと抱えていた人口減などの課題に加え、運転開始時期の不透明さにより自治体が長期的な事業計画を策定しにくい状況にあるなど、立地地域はさまざまな課題を抱えているのです。
そうした中で、原発立地地域への支援はどのようにあるべきかという基本があらためて問われています。原発設置によって得られる補助金や交付金は、あくまで地域発展のきっかけとすべきものであり、立地地域はその国の支援をきっかけとして、地域に「持続可能な産業」をつくりあげていくことが重要です。そこで国に求められる支援とは、短期的には①立地自治体の実情に合わせた柔軟な財政支援、中期的には②自治体と民間企業の連携の推進、そして長期的には③自立的に新しい産業・事業を生み出していくための支援です。長期的に、地域で自立的に新しい産業・事業を生み出していくことができる力をつけるためには、その基盤となる人材の育成やブランド作りはもちろん、関係者が試行錯誤した体験や成功した実感を共有し、継続的な挑戦を続けていくための原動力にしていくことが必要となります。そこで、各地域に精通した全国の地方経済産業局が持つ知見も活用しながら、原発立地地域それぞれの事情に即した、持続的な地域振興を目指す取り組みが進められています。こうした地域振興の取り組みの中で、成功事例も現れはじめています。
立地地域のひとつである石川県羽咋郡志賀町(はくいぐん しかまち)は、新鮮な魚介類をはじめ、畜産物などの豊富な食材に恵まれています。このような地元の食材を、地元を代表するご当地グルメとして発信するために、経済産業省は、人と人とをつなぐ「人的支援」を実施。行政と民間事業者からなる実施体制づくり、計画づくりの支援から、有名シェフにアドバイスを仰ぐなど、商品開発から関連ツアー商品の事業化にいたるまで、専門家による伴走を支援しました。当初8店舗だった「西能登おもてなし丼」の提供店舗は2018年現在で20店舗に、メニュー数は10品から42品へと拡大しています。2018年現在で販売食数が5万食を突破し、町内経済効果は約1.4億円となりました。
「西能登おもてなし丼」プロジェクトの概要
下北半島に位置する、青森県むつ市・六ヶ所村・大間町・東通村の立地4市町村では、東北経済産業局が、2017年度に「下北地域活性化プロジェクトチーム」を設置。東北経済産業局と4市町村の若手職員が中心となり、定期的に地域活性化策の検討をおこなっています。地域企業を訪問して魅力的な企業を発掘するなどの取り組みも進めており、人的ネットワークの形成につながっています。
地域資源を活用した地域づくりや活性化策などについての勉強会開催や、魅力企業の発掘のため企業訪問を実施
今後も、さまざまな人をつなぎ、ノウハウを共有することで、持続的な地域振興を目指す原発立地地域を支えていきます。
電力・ガス事業部 原子力立地政策室
長官官房 総務課 調査広報室
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