産出国と消費国がともに議論する、LNGの今とこれから~「LNG産消会議2018」

「LNG産消会議2018」の集合写真です。

火力発電に使用されるエネルギー資源のひとつであり、日本が世界最大の消費国となっている「LNG(液化天然ガス)」。今後アジアを中心に世界中で市場が拡大すると予測されるLNGの安定供給を図るため、産出国と消費国が望ましい市場の姿を議論しようと発足したのが「LNG産消会議」です。2018年10月に日本で開催された同会議から、議論された内容をご紹介しましょう。

世界各国が連携してLNG市場の透明化を目指す「LNG産消会議」

「LNGを安定的に供給するための取り組み」でもご紹介した通り、LNGを取り巻く産出国および消費国の様相は近年大きく変化しています。

世界のLNG需要は、2017年の1年間だけで前年から15%増加しています。中でも経済成長いちじるしい中国は世界第2位の輸入国となり、2017年のLNG需要は前年の50%増となりました。このような中国を中心とした輸入の急増を受けて、アジアにおけるLNGのスポット価格(期間契約ではなく、LNG船1隻単位の契約にもとづく取引の価格)は、一時、約2倍まで跳ね上がりました。2020年代中盤に起こると予想されていたLNG需給バランスのひっ迫は、2020年代前半に前倒しになるという見方が出ています。

世界のLNG需要の変化
2016年から2017年にかけての世界のLNG需要の変化を示した棒グラフです

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中国のLNG需要の変化
2016年から2017年にかけての中国のLNG需要の変化を示した棒グラフです

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一方、世界各国ではLNGの開発プロジェクトが進んでいます。米国の「コープポイントLNGプロジェクト」(「2018年5月、『シェール革命』が産んだ天然ガスが日本にも到来」参照)や、ロシアの「ヤマルLNGプロジェクト」(「石油から再エネまで、あまり知らないロシアと日本のエネルギー協力」参照)、オーストラリアの「イクシスLNGプロジェクト」など、日本企業が深く関わるLNGプロジェクトが進められています。コーブポイントLNGを始め、米国のシェールガス由来のLNGは、2019年以降アジアへの輸出を本格化する予定です。米国産LNGは、「仕向地」と呼ばれる送り先に制限を設けておらず、原油価格ではなくガス価格に連動した価格設定であり、これによりアジアのLNG市場の効率化・柔軟化が進んでいく見込みです。

LNG産消会議は、そんな刻々と状況が変わるLNGについて、産出国と消費国が、長期的な需給見通しの共有と取引市場の透明化に向けて連携を図るプラットフォームとしての意味を持っています。経済産業省およびアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)の主催のもと、2012年から毎年開催されており、世界中から関係者が集い、持続可能なLNG市場をつくるために取るべき行動について議論しています。

7回目となる「LNG産消会議2018」は、2018年10月22日に愛知県名古屋市で開催されました。今回より運営にも民間企業が参加し、世界28カ国・地域から、日本の世耕経済産業大臣やカタールのエネルギー工業大臣を始めとする閣僚級や、国際エネルギー機関(IEA)事務局長、またガス会社や電力会社など関係企業のトップをふくむ約1,000人が参加、世界のLNG産出国の約7割・輸入国の約9割を占める国々の代表者が登壇しました。

2018年の会議のテーマと日本の貢献内容は?

「LNG産消会議2018」では、現在のLNG市場の変化を「1st LNG Revolution」(第一次LNG革命)と捉え、以下のポイントについて議論が交わされました。

リストアイコン 柔軟で透明なLNG市場の確立と、それを通じたガスセキュリティの確保について
リストアイコン エネルギーシステムにおけるLNGの重要性および新たな需要について
リストアイコン LNG引取契約形態の変化が起き始めている状況下でLNG供給を確保することについて

日本は、「1st LNG Revolution」におけるLNG市場の拡大とセキュリティ強化に向けて、さまざまな施策で貢献をおこなうことを表明しました。

講演をおこなう世耕経済産業大臣の写真です。

まず、LNG関連プロジェクトに対するファイナンス支援の抜本的な拡充です。2017年のLNG産消会議で、日本は、アジアのLNG市場拡大に向けた100億ドルのファイナンス供与と、500人の人材育成支援を約束しました。これを受け、官民合わせて約40億ドルの投融資が決定し、15カ国200人に対する研修がすでに実施されています。

2018年はこの取り組みをさらに進めていく予定です。具体的には、民間企業の資源開発に資金を供給する独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、日本企業が「LNG引取り権」(開発したLNGを引き取って販売する権利)を持っていれば、「上流権益」(探鉱・開発・生産段階に投資することによって得られる権利と利益)がともなわない場合でも、その企業による液化プラント開発への参画を支援します。近年、ガス開発と液化(天然ガスを液状してLNGを製造すること)が必ずしもセットとなっていない形態のプロジェクトが、北米、オーストラリア、ロシアなどで実施または計画されています。JOGMECの取り組みは、このような新しい動きに対応するものです。

また、日本企業の輸出入や海外投融資などに貿易保険を提供する日本貿易保険(NEXI)と、それらに融資を行う国際協力銀行(JBIC)は、日本企業が参画するLNGプロジェクトについて、産出国から第三国に向けたプロジェクトや、受け入れ先となる第三国の基地建設プロジェクトである場合でも、融資や保険の優遇対象とします。これらの取り組みにより、5000万トン規模のLNG市場の創出に貢献します。

さらに、LNG需要国での技術面・安全面での制度づくりや計画づくりを、専門家を派遣するなどして支援することも発表しました。

LNGセキュリティに関する日本の提言

今回の議論のテーマだったLNGセキュリティの強化についても、日本は、産出国・消費国双方の連携を呼びかけました。

セキュリティ強化のための官民のグローバル・ネットワークの構築

セキュリティ強化に向けてまず重要なことは、緊急時にそなえ、官民のグローバル・ネットワークの構築を各国が連携して図ることです。ひとたび災害が起これば、エネルギー資源は需要急増や供給不足が発生しますが、その際に柔軟な増産や融通を可能にするためには、BtoBはもちろん、国と国(GtoG)、企業と国(BtoG)の体制を構築しておく必要があります。

また、セキュリティ強化に向けた取り組みのコーディネートも必要です。日本はこの会議で、産消会議の場やIEA、EUなどとの連携を強化していくことを明言しました。またJOGMEC内にLNGセキュリティ強化のための情報収集・分析をおこなう特別チームを設置して、活動を始める予定です。

「仕向地制限」の緩和・撤廃に向けた日本とEUの取り組み

最後に、仕向地制限があると、状況に応じて仕向地を変更することが難しくなり、柔軟なLNGサプライチェーンの構築ができなくなります。こうした仕向地制限の緩和や撤廃といった取り組みも、緊急時および平時において、LNGセキュリティを高めるのに役立ちます。仕向地制限についてはLNG産消会議の第1回から議論がおこなわれてきましたが、近年、契約改訂や新規契約において仕向地柔軟化の動きが広がっています。前述したように、米国のLNGには仕向け地制限が設けられていません。

日本は、この緩和・撤廃の動きを後押しするため、日本とEUの専門家による、「仕向地制限に係るモデル条項」を作成しました。日本とEUは、2017年7月に閣僚間でLNGに関する協力覚書に署名しており、この覚書に基づいて「日EU LNGワークショップ」をこれまで4回開催しています。このワークショップでは、多様なステークホルダーを巻き込んで、LNG市場の機能およびリスク対応能力を向上させるために役立つ知見や成功事例の共有が図られています。LNG産消会議ではこのワークショップの成果も報告されましたが、このモデル条項も、ワークショップの成果のひとつです。

世界最大のLNG消費国である日本は、LNGとともに成長してきた国です。これまでの経験から得てきた知見を活かし、新しい産出国とアジアの需要を結びつけて市場を拡大し、LNGを「頼れるエネルギー」にするためのセキュリティ構築に大きな役割を果たしていきます。

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