LNGの未来に向けて、安定供給や環境対応の取り組みを日本が主導

LNGの未来に向けて、安定供給や環境対応の取り組みを日本が主導

火力発電に使用されるエネルギー資源のひとつである「LNG(液化天然ガス)」。LNGの安定供給を図るため、産出国と消費国が望ましい市場の姿を議論しようと2012年から毎年開催されているのが、「LNG産消会議」です。「エネこれ」でも毎回ご紹介していますが、2023年7月18日の「LNG産消会議2023」は、初めて、経済産業省と国際エネルギー機関(IEA)との共催として開催されました。背景には、LNG需要の高まりと共に、安定供給のためのルール整備や環境対応など、LNGに関する課題解決が喫緊のものとなっていることがあります。LNGのいまと課題、その解決のための取り組みを紹介します。

重要性が増す「LNG産消会議2023」、初の日本とIEAの共催で実施

IEAとの共催のきっかけは、2023年2月に開催されたIEA臨時閣僚会合でした。この会合で、日本から、ロシアのウクライナ侵略を契機に起こったガス危機は、欧州地域における短期的な危機にとどまらないものであること、同じような供給危機を起こさないためにも中長期的な議論が必要であることを提唱。IEA加盟国と天然ガス・LNGの生産国および消費国との対話の場を設けることを提案し、実施することとなったのです。また、今回のLNG産消会議は、岸田総理大臣からのビデオメッセージも放映され、この会議の持つ重要性があらためて内外に示されました。

今回の「LNG産消会議2023」には、日本を含む17カ国・地域とIEAから、欧州委員会(EC)のECエネルギー総局長などが、オフライン・オンラインのハイブリッド方式で参加。またカタール・オランダ・ポーランド・韓国・シンガポール・タイ・UAEの閣僚級、マレーシアの国営エネルギー企業であるペトロナス社CEO、IEAのビロル事務局長からビデオメッセージが発表されました。

LNG産消会議2023の集合写真です。

今回の「LNG産消会議2023」には、LNGがいま抱えるさまざまな課題が集約されており、その解決のために取り組むべき方向性が示されています。会議でお披露目されたオープニング動画でも、それが端的に示されています。



「LNG産消会議2023」開催の狙いを振り返りながら、その内容を見ていきましょう。

「LNG産消会議2023」開催の狙い① 天然ガス・LNG分野におけるIEAの機能強化を目指す

今回の会議の狙いのひとつは、IEAの天然ガス・LNG分野の機能強化に向けた議論を開始することです。日本は、2024年2月のIEA閣僚会議会合に向けて、以下のようなIEAの新しい機能に関する議論を始めることを提案しました。

期待されるIEAのガスセキュリティにおける機能強化の例
リストアイコン 各国の実情に合致した天然ガス・LNGの備蓄・貯蔵(リザーブ)方法を提言・アドバイスする機能を持つ
リストアイコン 緊急時の情報交換、データの透明性について、各国との合意を形成する

天然ガス・LNGは原油に比べて、備蓄・貯蔵(リザーブ)が難しく、その確保のためには、大きく分けて主に下記の3つの手段があると考えられます。各国が、地域特性をふまえたリザーブの方法を柔軟に導入することは、エネルギー安全保障を強化することに繋がるため、IEAが、その提言・アドバイス機能を持つことが期待されます。

① ガスの地下貯蔵

ガスの地下貯蔵のイメージ画像です。

天然ガスを、気体の状態で地下に圧入・貯蔵する方法です。たとえば、枯渇したガス田には、ガスを圧入することができるため、貯蔵場所として活用することができます。枯渇ガス田が多く存在する欧州および米国で一般的におこなわれており、大規模で長期間の備蓄ができる一方、貯蔵可能な地域は限られます。

② 余剰LNG容量の確保

LNGタンカーのイメージ画像です。

余剰なLNGの調達・貯蔵容量をあらかじめ確保しておくことで、需要と供給のバランスが崩れた緊急時に、バッファーとして機能させる方法です。LNG輸入国が活用できる方法で、通常時は、余剰分を市場取引すれば、コスト低減ができる可能性もあります。

③ 調達契約の柔軟な活用

柔軟な調達契約スキームを活用して、需要に合わせて調達量を増やす、あるいはLNGタンカーのスワップ(交換)などを可能にするといった方法です。現物を持っておくわけではないので、ガスまたはLNGを物理的に貯蔵する際に生じる技術的な課題を回避することができます。

「LNG産消会議2023」の狙い② LNGのメタン対策を進める

天然ガス・LNGの主成分であるメタンは温室効果ガス(GHG)の一種で、LNGの生産過程でも排出されています。たとえば、ガス田から液化する場所まで距離がある場合、パイプラインでの輸送時や液化の過程でどうしてもメタンが排出されてしまいます。このように排出されるメタンに関する対策は、世界で喫緊の課題となっています。

このメタン排出削減に取り組むため、LNG産消会議で発表されたのが、「メタン排出削減イニシアティブであるCoalition for LNG Emission Abatement toward Net-zero(CLEAN)です。日本の株式会社JERAと、韓国ガス公社(KOGAS)が立ち上げ、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がコーディネーターとして支援しています。

「CLEAN」は、LNG関連のメタン排出量に関する可視性を高め、ベストプラクティスを普及させるため、日本と韓国のLNGバイヤーが中心となり、メタン排出削減をLNG生産者に働きかけることで、バリューチェーンのクリーン化を目指しています。将来的には、この枠組みをほかの民間企業へと拡大することも想定されています。

また、日本・米国・韓国・オーストラリア・ECの5カ国政府は、このようなLNGバリューチェーン全体のメタン削減活動やGHG削減活動、特に「CLEAN」の方針に対する支持を表明し、政府間の共同声明に署名しました。

「LNG産消会議2023」の狙い③ LNGの流動性を向上させるための新たな取り組み

LNGは石油ほどには市場が大きくなく、取引に関与する企業や組織も少ないことから、ほぼ相対取引に近い状態となっています。しかし、流動性を高めていかなければ、マーケットが構築されず、価格も高いまま固定化されてしまいます。

その一方で、エネルギー資源の価格変動の幅(ボラティリティ)は拡大しており、エネルギー資源を調達しようとする民間企業にとっては、調達に必要な資金を機動的に確保できることがきわめて重要になっています。

さらに、民間企業が長期の調達契約を締結するにあたって、GHGを排出するLNG・天然ガスを「2050年カーボンニュートラル」目標に向けて、今後どのように利用していくかの整理も重要となってきています。そこで、短期的な取引を可能とする「トレーディング」のしくみがカギとなっています。このトレーディングは短期的な売買を繰り返す必要があるため、大きな資金を必要とします。

より多くの企業の参入をうながし、市場の流動性を高めるためには、こうした機動的な資金確保の必要があります。そこで、2023年3月、貿易保険事業をになう政府系金融機関・日本貿易保険(NEXI)が、制度改正をおこなうこととなりました。短期の銀行貸付枠に対する保険を提供する、あたらしい商品の開発です。この保険の登場により、企業のLNGトレーディングを支援しやすくなりました。

LNGトレーディング支援の第1号案件
LNGトレーディング支援スキームの図解です。

制度改正で支援可能となった「 LNG トレーディング支援スキーム」

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さらに、2023年7月からは、国内企業が海外事業に必要な資金の融資を受ける場合の、融資リスクをNEXIがカバーできるよう、経済産業省の省令を改正。保険の対象となる事業を増やし、そのひとつに「サプライチェーンの強靱化」が加わることとなりました。これが、LNGを購入するため国内で莫大な資金を調達しようとする企業の後押しとなることが期待されます。

国内企業によるLNG 購入資金調達の想定案件
サプライチェーン強靱化スキームの図解です。

省令改正で支援可能となった「サプライチェーン強靱化スキーム」

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こうしたNEXIの取り組みも、LNG産消会議で発表されました。

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会議の成果物としては、議長サマリー「LNG Strategy for the World」が発表されました。各国から協力を得た上で、天然ガス・LNG市場のセキュリティ強化、クリーンなLNGバリューチェーン構築のための各国の政策発表などを、自主的なコミットメントとしてまとめたものです。

サマリーでは、天然ガス・LNGはエネルギーの移行を進めるにあたって重要な役割を果たすことが強調されました。また、IEAの機能強化についても、日本の自主的なコミットメントとして盛り込まれました。

これからも、LNGの安定供給を図るため、さまざまなしくみ作りを進めていきます。

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