原子力教育・科学研究・産業・医療…さまざまな分野で役立つ「研究用原子炉」

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)が所有する研究炉「JRR-3」の「中性子ビーム実験装置」の写真です。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)が所有する研究炉「JRR-3」の「中性子ビーム実験装置」

「原子力分野の人材育成を進めるために」でも少しご紹介した「研究炉」。「研究炉」とは、「研究用原子炉」のことで、大学や研究機関などで、原子炉の開発研究や、放射線を使ったさまざまな実験をおこなうために設けられたものです。今回は、研究炉がどのように役立てられているのかをご紹介しましょう。

研究炉ってどこにあるの?何に使うの?

現在、日本における研究炉の現状はこのようになっています。

2011年の東日本大震災にともなって起こった東京電力福島第一原子力発電(福島第一原発)の事故を機に、原発に関するさらに厳しい規制「新規制基準」が設けられましたが(「原発の安全を高めるための取組 ~新規制基準のポイント」参照)、研究炉もその対象となっています。そのため、新規制基準に対応していない研究炉は、稼動を停止しています。2018年9月末現在、規制基準に適合していることが認められて運転を再開した研究炉は4基、規制基準に適合していることが認められて運転再開の許可を取得済みの研究炉は1基、規制基準に適合しているか審査中の研究炉は3基などとなっています。

これらの研究炉には、さまざまな利用目的があります。

まず、軽水炉や新型炉など原子炉そのものの研究です。また、放射線を利用した研究や、原子炉から発生する中性子を使った研究にも利用されます。中性子をビームのように放射する「中性子ビーム」は、元素や原子の動きを観測したり、駆動しているエンジン内部の潤滑油の挙動を観察して低燃費化をはかるといった実験にも利用されています。

一方、研究炉は、企業が医療や工業分野の製品を作ることにも利用されています。たとえば、がん治療用の器具です。口の中のがんを切らずに治すために、きわめて小さく放射線量の低い「診療用放射線照射器具」が使われることがあります。この治療法は治療後の患者の生活の質(QOL)を向上させるものとして注目されていますが、国内の研究炉が停止している現在、器具は海外からの輸入に依存しています。研究炉を使えば、国内での計画的な製造・出荷が可能になります。さらに、医療検査「ラジオアイソトープ検査(核医学検査)」などに使用される「放射性同位元素(RI)」の製造もおこなわれています。

もちろん、すべての研究炉が、原子力分野の人材を育成することに役立てられています。

日本国内にある、さまざまな研究炉

では、日本国内にある、代表的な研究炉を見てみましょう。

①大学の研究炉

かつて原子力の研究が日本でも盛んになった際、東京大学や東京都市大学(旧武蔵工業大学)など、さまざまな大学に研究炉が作られました。しかし、年数が経つにつれ老朽化が進み、廃炉となっていきました。現在研究炉を持つ大学は、近畿大学と京都大学のみとなっています。

近畿大学の研究炉「UTR-KINKI」は、1961年に、日本の民間・大学原子炉第1号として導入されました。米国製の教育研究用原子炉で、日本でもっとも出力の低い原子炉となっています(1W)。そのため放出する放射線量が少ないなど安全性が高く、運転・管理しやすいのが特徴です。物理や生物の研究に使われているほか、学部生の原子炉運転・実験実習や、小中高校などの教員研修に利用されています。

京都大学の研究炉「KUR」は、1964年に初めて臨界(核分裂が連鎖的に進むこと)した、「熱中性子炉」と呼ばれる原子炉です。最大熱出力は5MWで、物理学、化学、生物学、工学、農学、医学などの実験研究に使用されています。このほか、京都大学には「臨界集合体実験装置(KUCA)」もあり、2009年に世界で初めて、安全性や発電効率が高い「加速器駆動未臨界システム(ADS)」と呼ばれる原子炉システムの実験を始めました。

②研究機関の研究炉

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)は、国内に5つの研究炉を持っています。そのうち2018年6月に運転を再開した原子炉安全性研究炉「NSRR」は、原子炉で使用する燃料の安全性の研究や、安全性をそなえた燃料の開発に役立てられています。

原子炉安全性研究炉「NSRR」の写真です。

原子炉安全性研究炉「NSRR」

特徴は、約100分の1秒というきわめて短時間だけ高い出力を出し、どんな条件で原子炉内の燃料が壊れるのか、その壊れかたや影響はどのようなものか、を明らかにすることができる点です(最大出力は23,000MW)。そうした特徴を生かして、たとえば、事故が起こった時に燃料がどのようになるかなど、国の規制基準の技術的根拠となるデータを集める場ともなっています。なお、規制上は「低出力炉」となっており、発電する原子炉にくらべると、燃料内の核分裂生成物(核分裂によって生じる原子核)の量は30万分の1以下と、ごく少なくなっています。

また、新規制基準に対応していることが2018年1月に認められた「定常臨界実験装置(STACY)」では、福島第一原発で課題となっている「燃料デブリ」(原子炉の燃料が溶け、ふたたび固まったもの)の取り出しにも役立つような「臨界安全データベース」の確立などに向けた臨界データの取得をおこなうための施設整備を進めています。

「定常臨界実験装置(STACY)」の写真です。

「定常臨界実験装置(STACY)」

ほか、中性子を使った実験や、診療用放射線照射器具や放射性同位元素(RI)の製造などに使われる研究炉「JRR-3」、安全性に優れ高温の熱も供給できる「高温ガス炉」の研究に役立てられている高温工学試験研究炉「HTTR」、燃料を効率的に利用し放射性廃棄物の量を減らすことが可能な「高速炉」の研究に役立てられている高速実験炉「常陽」が、新規制基準への適合性について審査中となっています。

高温工学試験研究炉「HTTR」の写真です。

高温工学試験研究炉「HTTR」

高速実験炉「常陽」の写真です。

高速実験炉「常陽」

研究炉は、大学や研究機関にとってはもちろん、優れた製品の研究開発をおこなう企業にとっても、あるいはそこで作られた製品や治療機器を利用する私たちにとっても、欠かせない施設だと言えるでしょう。日本の未来を支える技術を創出していくためにも、新規制基準の下で高い安全性を確保しながら、さまざまな研究開発や教育に活用されることが期待されます。

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