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茨城県にある東海第二発電所の乾式キャスク
原子力発電所で発電のために使われたウラン燃料は、使い終わって「使用済燃料」になると、再処理されるまでの間、全国の原子力発電所の敷地(サイト)内や中間貯蔵施設で一時的に貯蔵されます。現在貯蔵されている使用済燃料の量は、ウランの量で約19,000トン。これらを安全に管理するために、どのような方法がとられているのでしょうか?今回は、貯蔵手法の中でもあまり知られていない「乾式貯蔵」の方法について見てみましょう。
日本では、原子力発電の使用済燃料から再利用可能なプルトニウムやウランを取り出して(再処理)、「MOX燃料(使用済燃料を再処理して回収したプルトニウムやウランなどからできた燃料)」に加工し、もう一度発電に利用する「核燃料サイクル」という取り組みがおこなわれています(「『使用済燃料』のいま~核燃料サイクルの推進に向けて」参照)。日本はこれまで、使用済燃料の再処理をフランスやイギリスなどでおこなってきましたが、今後、日本国内でこの再処理を本格的におこなうことができるよう、「六ヶ所再処理工場」を建設中です。
日本の核燃料サイクルの現状
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再処理をおこなうまでの間、使用済燃料は建屋内にある「燃料プール」で冷却され、その後、原子力発電所の敷地(サイト)内か中間貯蔵施設において、「湿式」と「乾式」のどちらかで一時的に保管されます。「湿式貯蔵」とは、燃料プールで水を循環させながら使用済燃料を冷却して保管する方法で、日本のすべての原子力発電所で採用されています。一方、「乾式貯蔵」とは、「湿式貯蔵」によって十分に冷えた使用済燃料を「乾式キャスク」と呼ばれる金属製の頑丈な容器に収納し、空気の自然対流によって冷却する方法です。乾式貯蔵は、日本では茨城県那珂郡東海村にある日本原子力発電株式会社の東海第二発電所などで、採用・実施されています。また、愛媛県西宇和郡伊方町にある四国電力株式会社伊方発電所、佐賀県東松浦郡玄海町にある九州電力株式会社玄海原子力発電所、静岡県御前崎市にある中部電力株式会社浜岡原子力発電所の各発電所や、青森県むつ市にあるリサイクル燃料貯蔵をおこなうリサイクル燃料貯蔵株式会社のリサイクル燃料備蓄センターでも、乾式貯蔵を申請しています。海外では、米国やスイスなどで実績があります。両者の大きな違いは、湿式では電気を使って水を循環させる必要があるのに対し、乾式では水や電気を使用せずに貯蔵できるという点です。そのため、乾式は比較的維持管理しやすい方法だと言えます。
各原子力発電所の使用済燃料の貯蔵量について
※廃炉を除いた全ての炉が一斉に稼働したと仮定し、16ヶ月毎に燃料を取り替え、敷地外に搬出しなかった場合に、管理容量までの余裕がなくなるまでをそれぞれ一定の前提を置いて試算した年数。貯蔵量は2019年9月30日時点の数値。玄海原子力発電所のリラッキングは2019年11月20日に設置許可を取得
使用済燃料はプールの中の水で冷やすことが必要というイメージがあるため、容器に入れるだけで常温で貯蔵することなんてできるの?と疑問がわく人もいるかもしれません。たしかに、原子炉から取り出したばかりの使用済燃料は、放射線量が高く余熱も残っているため、そのまま乾式キャスクに収納することはできません。まずは使用済燃料プールの水で十分に冷やすことが必要です。東海第二発電所では、7年以上冷却した使用済燃料を乾式キャスクに入れることになっています。乾式キャスクに入れた状態では、容器の外側の温度は40~50℃前後。熱めの温泉くらいの温度ですから、空気の循環で冷やすことが十分可能なのです。
では、放射線量についてはどうでしょうか?使用済燃料を安全に貯蔵するため、乾式キャスクは以下の4つの機能を備えています。
こうしたしくみにより、乾式キャスク外部の放射線量は、人が近づいたりキャスクの外側に触れたりしてもまったく問題のない状態に保たれています。なお、輸送にも使用されるキャスクは国際原子力機関(IAEA)の輸送規則や国内の法令に基づいて、輸送中に想定されるさまざまなトラブルに対しても安全機能が損なわれることがないことを確認しています。
こうした厳しい試験に合格してできあがった空のキャスクは、まず専用台車で原子炉建屋へ運ばれます。これを、使用済燃料プール内にある「キャスクピット」に設置します。この時、できるだけ放射性物質がつかないよう、キャスクの外側を養生シートで保護します。次に、プール内の使用済燃料を、水中でキャスクの中へと移します。その後、キャスクを気中に吊り上げ、蓋のボルトを締めて、キャスク内から水を抜き、真空乾燥しヘリウムを封入して、気密漏えい検査をおこない、「貯蔵エリア」へと移送します。
この貯蔵エリアは、サイト内の専用の貯蔵施設にあります。現在稼働している東海第二発電所の場合、貯蔵施設は、20m下の岩盤まで直径約80㎝の鋼管杭を多数打ち込むなど、耐震性に配慮した構造となっています。キャスクそのものも床にボルトで固定されるため、倒れる心配はまずありません。また、仮に巨大地震が起き、天井クレーンなどがキャスクの上に落ちてくることがあったとしても、安全機能を失わないほど頑丈です。
また、安全監視機能にも配慮がなされています。東海第二発電所の場合、キャスクの内部の圧力と表面の温度を監視するセンサーがつけられ、放射性物質がもれたり、温度が上がったりすることがあれば、警報が鳴るしくみになっています。さらに貯蔵施設の中にもモニタが取りつけられ、中央制御室から監視できるようになっています。こうしたサイト内における貯蔵はあくまで一時的なものであり、使用済燃料が永遠にサイト内に貯蔵されるわけではありません。中間貯蔵は、使用済燃料を再処理するという方針を前提におこなわれています。2021年度上期には六ヶ所再処理工場が竣工される予定です。これによりこれまで貯蔵されてきた使用済燃料が国内で再処理できるようになり、高レベル放射性廃棄物の量を減らす、高レベル放射性廃棄物の有害さ(放射能レベル)の度合いを低くする、資源を有効利用するといったメリットがある核燃料サイクルが進展することになります。
電力・ガス事業部 原子力立地・核燃料サイクル産業課
長官官房 総務課 調査広報室
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