「六ヶ所再処理工場」とは何か、そのしくみと安全対策(後編)
原子力発電所(原発)で使い終えた燃料を再度活用する「核燃料サイクル」。「『六ヶ所再処理工場』とは何か、そのしくみと安全対策(前編)」では、使用済燃料の再処理をおこなうフェーズを担い、現在青森県六ヶ所村で建設が進められている「再処理工場」について、どのようなことをおこなうのかご紹介しました。後編では、六ヶ所再処理工場が取り組んでいる安全対策についてお伝えします。
再処理工場の安全性は?
「『六ヶ所再処理工場』とは何か、そのしくみと安全対策(前編)」でお伝えした通り、六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場では、原子力発電所(原発)で使い終えた燃料(使用済燃料)の中からウランとプルトニウムを取り出し(再処理)、ほかの物質と混ぜ合わせ「MOX燃料」に加工します。
六ヶ所再処理工場は、現在、竣工に向けて工事と審査が進められているところですが、各原発からの使用済燃料の受け入れなど、一部運用を開始している施設もあります。それでは、六ヶ所再処理工場を含む六ヶ所村の原子燃料サイクル施設では、どのような安全対策がはかられているのでしょうか?
地震など災害への備えはだいじょうぶなの?
原子力施設に対しては、東日本大震災の反省を受けて2013年に新しい規制基準(「原発の安全を高めるための取組 ~新規制基準のポイント」参照)がもうけられました。この新規制基準は、大規模な自然災害などへの対策を従来の基準から強化したり、新たに「重大事故」への対策などを求めたりしています。重大事故とは、あらかじめ設計した安全対策が機能せず、周辺に放射性物質を大量に放出するおそれがある事故のことです。この新規制基準は六ヶ所再処理工場にも適用されるため、新規制基準に適合させるべく、さまざまな対策が現在進められています。
再処理施設における新規制基準の全体図
まず、従来の基準から強化された、大規模な自然災害などへの対策です。具体的には、地震や津波、火山、竜巻、航空機の落下などが考えられます。このうち、たとえば、
津波については、もともと六ヶ所再処理工場は55メートルの高台に位置しており、海からの距離も5キロメートルと、津波の影響を受ける恐れのない場所に建設されています。
竜巻については、対策として、気体を外に出す「主排気筒」や屋外に設置されたダクトには、「飛来物防護板」を設置します。また、安全上重要な「安全冷却水系」の冷却塔などについては、鋼鉄ネットを用いた「飛来物防護ネット」を設置します。
航空機の落下については、六ヶ所再処理工場は、三沢空港および定期航空路から離れていることから、航空機が墜落するというような事故の可能性はきわめて小さいと考えられます。ですが、敷地から約10km離れたところで、訓練飛行がおこなわれていることを配慮し、自主的に、万が一航空機が衝突しても施設の安全に影響がでないように対策をしています。具体的には、施設内部の設備に影響がでないように、施設の外壁を堅固な鉄筋コンクリート製にしたり、施設の外にある冷却設備が同時に損傷しないように、同じ設備を十分離れた位置に複数配置したりしています。
飛来物防護ネットのイメージ
また、施設の安全を保つためには、常に電気を供給する必要があります。そのため、自然災害などにより外部電源が途絶えることのないように、送電線を2ルート3回線用意するなど多重化するとともに、万が一外部電源が途絶えた場合に備えて、非常用電源を複数台設置しています。加えて、移動ができる電源車も自主的に用意することで、電源の多様化をはかっています。
次に、新たに追加された「重大事故」への対策です。たとえば、再処理工場にある貯槽などでは、溶液に含まれる放射性物質が熱を発しています。そのため、溶液が沸騰・蒸発すると(重大事故の発生)、放射性物質を含む蒸気が発生し、放射性物質が外部に放出されるリスクが考えられます。これに備えて、冷却塔の冷却水によって、貯槽内の冷却系統を循環する水の温度を下げることで、常に溶液を冷却しています。さらに、万が一に備えて、次のような3重の対策をおこないます。
①発生防止 ~あらかじめ設計した安全対策が機能しなかったとしても、重大事故が発生することを防ぐ~
万が一電源が失われて、冷却塔が機能しなくなったとしても、溶液の沸騰・蒸発を防ぐことができるように、電源を必要としない運搬可能なポンプ(可搬式ポンプ)を使って、直接冷却系統へ通水するといった対策をおこないます。
②拡大防止 ~重大事故にいたったとしても、事故の拡大を防ぐ~
万が一、可搬式ポンプから直接冷却系統へ通水することができなくなり、溶液が沸騰・蒸発しはじめたとしても、その進行を緩和し、放射性物質を含む蒸気の発生を抑えることができるように、可搬式ポンプを別の配管につなぎ、貯槽内に直接注水するといった対策をおこないます。
③影響緩和 ~重大事故にいたったとしても、周囲への影響を可能なかぎり緩和する~
放射性物質が外部に放出されることを抑え、周囲への影響を可能な限り緩和することができるように、可搬型のフィルタで放射性物質を除去したり、大型のポンプ車やホースを使って施設へ直接放水したりするといった対策をおこないます。
重大事故対策の例
施設の近くには沼や川がありますが、工場からそれらへのアクセスルートが複数用意されており、水源の確保がはかられています。
万が一ガレキなどが散乱した際にもアクセスルートを確保できるよう、ホイールローダーなども多数用意されています。また、放水砲も準備されているほか、貯水槽も建設中です。
操業による放射性物質の影響は?
このように、六ヶ所再処理工場を含む六ヶ所村の原子燃料サイクル施設では、東日本大震災から得た教訓をもとに、安全性を高めるためのさまざまな対策が講じられています。では、そもそも再処理工場が操業する場合には、放射性物質による健康への影響はどのくらいあるのでしょうか?
再処理工場では、運転や点検などにともなって、気体および液体の放射性廃棄物が発生します。規制基準では、これらによる影響を「年間1ミリシーベルト以下」にすることに加え、努力目標として、原発の運転時に目標値とされている「年間0.05ミリシーベルト」をできる限り下回るようにすることを求めています。
六ヶ所再処理工場では、この放射性物質のうち気体に含まれるものについては、「高性能粒子フィルタ」などを通じて、可能なかぎり取り除きます。その後、安全を確認しながら、十分に希釈・拡散されるよう、排気筒から放出します。
また、液体の中に含まれるものは、低レベル放射性廃液を「蒸発缶」で加熱して、水蒸気とそれ以外に分離します。その後、水蒸気は水に戻され、貯蔵タンクへ集めて安全を確認してから、十分に希釈・拡散されるよう、海洋放出されます。一方、残留物は固化され、「低レベル放射性廃棄物」として保管されます。
これらの放出される気体や液体の中には、どうしても取り除くことが難しい物質が一部残っていますが、日本原燃株式会社は、六ヶ所再処理工場からの放出による影響を、最大で「年間約0.022ミリシーベルト」(海洋放出0.0031ミリシーベルト、大気放出0.019ミリシーベルト)と評価しています。これは規制基準である年間1ミリシーベルトや努力目標である年間0.05ミリシーベルトを下回っています。
この「年間約0.022ミリシーベルト」という数値は、自然界に存在する「自然放射線」による線量(年間約2.1ミリシーベルト)の100分の1ほどです。
なお、「年間約0.022ミリシーベルト」という数値は、「工場の周辺でとれた海産物や農畜産物を毎日食べ、もっとも放出の影響を受ける工場周辺の地点に毎日住み続けたうえで、ほぼ毎日漁業をいとなむ」という、実際の居住・生活状況とくらべると保守的なケースを仮定し、その人が受ける影響を評価した数値です。
海洋放出および大気放出に関しては、日本原燃が「放出管理目標値」をさだめ、その値以下におさまるよう管理しています。青森県と日本原燃は、六ヶ所村および青森県内各地域の環境放射能と放射線量を確認・分析し、その結果は専門家や学識経験者により評価・審議され、定期的に広報誌やホームページで公開されます。
六ヶ所再処理工場では、安全性の向上に向けて、こうしたさまざまな取り組みがおこなわれています。一方で、安全性に“絶対”はありません。不確実なリスクにも対応できるよう、安全性の向上を常に目指す姿勢を持っておくこと、また“より安全”であることを目指し、自主的な取り組みを継続しておこなっていくことが重要です。
お問合せ先
記事内容について
電力・ガス事業部 原子力立地・核燃料サイクル産業課
スペシャルコンテンツについて
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
最新記事
-
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
-
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
-
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
-
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
-
中小企業の脱炭素化投資を後押し!カーボンニュートラル投資促進税制がリニューアル
-
ALPS処理水の海洋放出から1年。安全性の確認とモニタリングの状況は?
-
SAF製造に向けて国内外の企業がいよいよ本格始動
-
飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料「SAF」とは?