第4節 二次エネルギーの動向

1.電力

(1)消費の動向

電力消費は、第一次オイルショック以降も着実に増加し、1973年度から2007年度までの間に約2.6倍に増加しました。しかし、2008年度には、世界金融危機の影響で電力消費が減少に転じ、その後も節電意識の高まり等により、減少傾向が続きました。2022年度の電力消費は、前年度比2.3%減の9,028億kWhとなりました。

部門別の動向を見ると、産業部門が電力を最も多く消費していますが、素材産業における生産の伸び悩みと省エネの進展等により、1990年代からは減少傾向にあります。そうした中、電力消費の増加を長期的にけん引してきたのは、業務他部門や家庭部門です。業務他部門では、事務所ビルの増加やOA機器の普及等により電力消費が増加しました。家庭部門では、エアコン等の家電の普及等により電力消費が増加しました(第214-1-1)。

【第214-1-1】電力最終消費の推移(部門別)

214-1-1

(注)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値の算出方法が変更されている。

【第214-1-1】電力最終消費の推移(部門別)(xls/xlsx形式:30KB)

資料:
資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成

電気の使用状況には、季節や昼夜間で大きな差があります。特に近年では、冷暖房需要の有無等により、夏季・冬季と春季・秋季の使用状況の差が大きくなっています(第214-1-2、第214-1-3)。

【第214-1-2】最大電力発生日における1日の電気使用量の推移(10電力計)

214-1-2

(注1)「10電力」とは、北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力のこと。
(注2)1975年度のデータには沖縄電力が含まれていない。

【第214-1-2】最大電力発生日における1日の電気使用量の推移(10電力計)(xls/xlsx形式:26KB)

資料:
電力広域的運営推進機関「系統情報サービス」を基に作成

【第214-1-3】1年間の電気使用量の推移

214-1-3

(注1)2015年度以前のデータは10電力計。ただし、1985年度以前のデータには沖縄電力が含まれていない。
(注2)2021年度以降のデータは10エリア計。

【第214-1-3】1年間の電気使用量の推移(xls/xlsx形式:24KB)

資料:
2015年度以前のデータは電気事業連合会「電力需要実績」、2021年度以降のデータは電力広域的運営推進機関「需給関連情報」を基に作成

電力は、需要と供給が常に一致している必要があります(同時同量)。需要と供給が一致していないと、周波数が乱れ、電気の供給を正常に行えなくなり、場合によっては停電にもつながります。そのため、電力供給システムの安定化、信頼性向上のためには、季節や時間帯を通じた電力負荷の平準化対策が重要となります。日本の年負荷率(年間の最大電力に対する年間の平均電力の割合)の推移を見ると、1980年代以降は50%台の水準まで低下していましたが、負荷平準化対策を進めたことにより、2000年代半ば以降は改善され、60%台に持ち直しました。なお、各年の負荷率は、夏季の気温の影響も大きく受けており、例えば冷夏であった2009年度は、年間の最大電力が抑えられたことで負荷率は66.7%と高い値になりましたが、猛暑となった2010年度には、年間の最大電力が増加したことで負荷率は62.5%まで下がりました。近年は、年間の最大電力にあまり変化がない中、節電意識の高まり等によって年間の電力消費が減少傾向にあることから、年負荷率は低下傾向にあります(第214-1-4)。

【第214-1-4】年負荷率の推移

214-1-4

【第214-1-4】年負荷率の推移(xls/xlsx形式:19KB)

資料:
年間平均電力/最大電力3日平均(2015年度まで)は電気事業連合会「電気事業便覧」、年間平均電力/最大電力(2015年度から)は電力広域的運営推進機関「電力需給及び電力系統に関する概況」を基に作成

なお、2020年の日本の年負荷率を他の主要国と比較すると、カナダ、英国、フランスには劣るものの、米国とはほぼ同水準でした(第214-1-5)。

【第214-1-5】主要国の年負荷率(2020年)

214-1-5

(注)「海外電気事業統計」は、2022年版を最後に刊行が廃止されたため、2020年時点のデータが最新。

【第214-1-5】主要国の年負荷率(2020年)(xls/xlsx形式:10KB)

資料:
海外電力調査会「海外電気事業統計(2022年版)」を基に作成

(2)供給の動向

日本では、1970年代の二度のオイルショックを契機に、電源の多様化が図られてきました。2022年度の電源構成は、シェアの大きい順に、LNGが33.8%(3,413億kWh)、石炭が30.8%(3,110億kWh)、新エネ等が14.1%(1,421億kWh)、石油等が8.2%(833億kWh)、水力(揚水含む)が7.6%(768億kWh)、原子力が5.5%(561億kWh)となりました(第214-1-6)。

【第214-1-6】発電電力量の推移

214-1-6

(注1)2009年度以前のデータは旧一般電気事業者10社による発電が対象。ただし、1971年度以前のデータには沖縄電力が含まれていない。
(注2)2010年度以降のデータは自家発電を含む全ての発電が対象。

【第214-1-6】発電電力量の推移(xls/xlsx形式:31KB)

資料:
2009年度以前のデータは資源エネルギー庁「電源開発の概要」、「電力供給計画の概要」、2010年度以降のデータは資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成

原子力については、1966年に初の商業用原子力発電所である日本原子力発電東海発電所(16.6万kW)が営業運転を開始し、2010年度の原子力の発電量は2,882億kWhとなりました。しかし、2011年の東日本大震災以降、原子力発電所は稼働を停止し、2014年度には原子力による発電量がゼロになりました。その後、2015年8月に九州電力川内原子力発電所1号機が再稼働して以降は、原子力発電所の再稼働が順次行われており、2023年12月現在では、計12基が再稼働に至っています。

石炭については、確認埋蔵量が豊富で、政情が比較的安定している国々にも多く賦存しているため、供給安定性に優れており、石油・LNGより相対的に安価なエネルギー源です。日本では、二度のオイルショックを機に、石油中心のエネルギー供給構造からの転換の一環として、石炭火力発電の導入が進められてきました。

LNGについては、1969年に米国・アラスカから日本に初めて導入されて以来、安定的かつクリーンなエネルギーといった特性を活かし、導入が進んできました。特に2011年度以降は、原子力発電の代替としての利用が進みました。

石油による発電は、1980年代以降、石油代替エネルギーの開発・導入等により減少基調で推移しました。2011年度以降、原子力発電所の稼働率の低下等を補うため、発電量が一時増加しましたが、その後は、原子力発電所の再稼働や再エネの普及等により再び減少傾向に転じています。

水力については、戦前から開発が行われました。1960年代には、大規模水力発電所に適した地点での開発はほぼ完了し、その後の発電電力量は横ばいが続いています。

新エネ等については、FIT制度が導入された2012年から発電電力量の増加が加速しています。2012年度の発電電力量は309億kWhでしたが、2022年度には1,421億kWhとなりました。

電気の品質を図る指標である停電回数及び停電時間については、日本が世界トップレベルの水準を維持しています。これは、電気事業者が発電所の安定した運転や送配電線の整備・拡充に努めていることに加え、最新の無停電工法の導入や迅速な災害復旧作業等の取組によるものと考えられます。しかし、北海道胆振東部地震等が発生した2018年度や、台風15号等の被害が大きかった2019年度等、大規模な自然災害が発生した際には、年間停電回数及び停電時間は過去5年平均を上回りました(第214-1-7)。

【第214-1-7】低圧電灯需要家1軒当たりの年間停電回数と停電時間の推移

214-1-7

(注1)2015年度以前のデータは10電力計。ただし、1988年度以前のデータには沖縄電力が含まれていない。
(注2)2016年度以降のデータは一般送配電事業者計。

【第214-1-7】低圧電灯需要家1軒当たりの年間停電回数と停電時間の推移(xls/xlsx形式:23KB)

資料:
2015年度以前のデータは電気事業連合会「電気事業のデータベース」、2016年度以降のデータは電力広域的運営推進機関「電気の質に関する報告書」を基に作成

政府は、こうした災害が電力供給に大きな支障をもたらしたことを踏まえ、電力インフラにおけるレジリエンスの重要性とともに、レジリエンスの高い電力システム・インフラのあり方について検討を進めています。

(3)価格の動向

電気料金は、1970年代の二度のオイルショックの際、石油火力による発電が中心だったこともあり急上昇しましたが、その後は低下傾向となりました。2011年度以降は、原子力発電所の稼働停止や燃料価格の高騰等に伴って、火力発電の費用が増加したこと等により、再び電気料金が上昇しました。その後は、燃料価格の変動等により、電気料金も変動を繰り返しています。2022年度は、燃料価格の高騰に伴って電気料金が大きく上昇し、電灯・電力の平均で、前年度から約4割増となりました(第214-1-8)。

【第214-1-8】電気料金の推移

214-1-8

(注1)2015年度以前のデータは旧一般電気事業者10社が対象。2017年度以降のデータは全電気事業者が対象。2016年度については両方を対象としたデータをそれぞれグラフ内に記載している。
(注2)「電灯料金」は、主に家庭部門における電気料金の平均単価。「電力料金」は、各時点における自由化対象需要分を含み、主に工場・オフィス等における電気料金の平均単価。平均単価とは、電灯料収入・電力料収入(円)を電灯・電力の販売電力量(kWh)でそれぞれ除したもの。
(注3)再エネ賦課金は含まない。

【第214-1-8】電気料金の推移(xls/xlsx形式:28KB)

資料:
電力・ガス取引監視等委員会「電力取引の状況(電力取引報結果)」、電気事業連合会「電力需要実績」、「電気事業便覧」を基に作成

(4)電力小売全面自由化の動向

電力小売事業は、2016年度から全面自由化されています。電力の小売自由化は、2000年より始まっており、その後、自由化の対象が、大規模工場やデパート等から中小規模工場や中小ビル等へと拡大しました。そして、2016年度からは、家庭や商店等も電力会社を自由に選べるようになりました。

2016年4月末時点での登録小売電気事業者数は291者でしたが、2023年12月末時点では729者にまで増加しました。また、旧一般電気事業者を除く登録小売電気事業者及び特定送配電事業者(以下「新電力」という。)による販売電力量のシェアは、2021年8月時点で22.6%となっていましたが、その後、2022年に発生した電力価格の高騰を契機に低下し、2023年12月時点では16.7%となっています(第214-1-9)。

【第214-1-9】新電力の販売電力量と販売電力量に占める割合の推移

214-1-9

【第214-1-9】新電力の販売電力量と販売電力量に占める割合の推移(xls/xlsx形式:31KB)

資料:
資源エネルギー庁「電力調査統計」を基に作成

また、電力契約の供給者変更(スイッチング)の申込件数は、2016年4月末時点では約82万件でしたが、2024年3月末時点には約2,985万件まで増加しました(第214-1-10)。

【第214-1-10】電力契約のスイッチング申込件数の推移

214-1-10

(注)各月末時点の累計件数。

【第214-1-10】電力契約のスイッチング申込件数の推移(xls/xlsx形式:22KB)

資料:
電力広域的運営推進機関「スイッチング支援システムの利用状況について」を基に作成

(5)電力市場の動向

電力小売全面自由化により、小売事業者間の競争は活性化しましたが、小売市場への新規参入を促進するためには、必要な供給力を電力市場から確保できる環境の整備が必要となります。電力市場の厚みが増すことにより、新規参入者にとっては、供給元が多様化するとともに、取引価格の安定化等が期待されます。加えて、電力市場の厚みの向上は、透明性や客観性の高い電力価格指標の形成にも資するため、電力取引の活性化や、発電における投資回収の見通し向上といった効果も期待できます。

現在、日本では、電力の価値別に様々な電力市場が整備されています。実際に発電された電気(kWh価値)は、卸電力市場で取引されます。2005年度に開始した日本初の電力市場である「前日スポット市場」では、翌日に受渡する電気の取引を行います。2005年度の取引開始以降、取引量の少ない時代が続きましたが、2017年4月に開始された旧一般電気事業者の発電部門がグループ内取引をしている電力の一定量を卸電力市場に放出する仕組み(グロス・ビディング)等の取組もあり、取引量が大幅に拡大しました42。また、卸電力価格は、燃料価格の動向等に伴って変動しています(第214-1-11)。

【第214-1-11】スポット市場の推移

214-1-11

【第214-1-11】スポット市場の推移(xls/xlsx形式:22KB)

資料:
日本卸電力取引所「市場情報」を基に作成

また、その他の卸電力市場として、「時間前市場」では、前日スポット市場での電気の取引後、発電機のトラブルや需要の急増といった需給の誤差に対応するための取引を行います。また、2019年度に開始した「先物市場」では、価格変動リスクをヘッジするため、電力先物取引を行います。同じく2019年度に開始した「ベースロード市場」は、新電力がベースロード電源(石炭、原子力、一般水力(流れ込み式)等)にアクセスできるようにする目的で開設されました。

2020年度からは、発電することができる能力(kW価値)を取引する場として、「容量市場」の入札が開始されました。容量市場は、再エネの主力電源化を実現するために必要な調整力や、中長期的に不足していくことが懸念される供給力の確保等を目的に創設された市場であり、4年後の電力の供給力を取引するものを「メインオークション」、1年後の電力の供給力を取引するものを「追加オークション」と呼びます。2020年度に行われた初めてのメインオークションでは、上限価格に近い高値を記録しましたが、その後のオークションでは低下しました。一方、調達量に関しては、毎回のオークションにおいて、目標調達量の90%以上を確保しています。なお、この確保量以外に、FIT電源の容量等の供給力が約定処理において別途加算されるものとして扱われています(第214-1-12)。

【第214-1-12】容量市場の入札結果の推移

214-1-12

【第214-1-12】容量市場の入札結果の推移(xls/xlsx形式:21KB)

資料:
電力広域的運営推進機関「容量市場メインオークション約定結果」を基に作成

また、脱炭素電源への新規投資を促すため、2024年1月には、「長期脱炭素電源オークション」の初回入札が行われました。この制度は、容量収入を得られる期間を原則20年とすることで、巨額の初期投資に対し、長期的な収入の予見可能性を付与するものであり、容量市場の一部として位置づけられます。

2021年度からは、短時間で需給調整できる能力(ΔkW価値)を取引する市場として、「需給調整市場」が開始されました。電力は貯めておくことが難しく、常に需要と供給を一致させる必要があります。そうした中、需要の変化にあわせて、発電所等で需要と供給を一致させるために必要な電力を調整力といいます。調整力は、2016年度以降、各一般送配電事業者が公募により調達してきましたが、2021年度からは、全国一体の需給調整市場で取引されています。需給調整市場における商品は、大きく5種類あり、2021年度からは、応動時間の最も遅い3次調整力②の取引が開始されました。2022年度からは、3次調整力①の取引が開始され、2024年度からは、2次調整力①及び2次調整力②、応動時間の最も早い1次調整力の取引が開始されました。これにより、全商品の取引が開始されたこととなります。

その他にも、非化石電源で発電された環境価値を取引する市場として、「非化石価値取引市場」があります。従来の卸電力市場では、非化石電源と化石電源を区別せずに取引を行っていました。しかし、高度化法において、小売事業者には、非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められています。また、「RE100」のようなイニシアティブに参加する需要家からも、非化石電源の購入ニーズが高まっています。こうした背景の下、2018年度から、非化石価値取引市場が開始されました。開始当初は、FIT電源の非化石証書のみを取引していましたが、2020年度からは、非FIT電源の非化石証書の取引が開始されました。さらに、2021年度からは、FIT証書を取引する「再エネ価値取引市場」と、非FIT(再エネ指定)証書と非FIT(再エネ指定なし)証書を取引する「高度化義務達成市場」に分割されました。2018年度の開始当初の取引量は限定的でしたが、2020年度より高度化法の中間目標が設定され、2021年度より再エネ価値取引市場に需要家や仲介業者が参加可能になったこと等により、取引量は急増しました(第214-1-13)。

【第214-1-13】非化石価値取引市場(FIT証書)の推移

214-1-13

(注)2021年11月以降は、再エネ価値取引市場に名称変更。

【第214-1-13】非化石価値取引市場(FIT証書)の推移(xls/xlsx形式:22KB)

資料:
日本卸電力取引所「市場情報」を基に作成

2.ガス

(1)全体

日本におけるガス事業の形態として、2016年度までは「ガス事業法(昭和29年法律第51号)」で規制されていた①一般ガス事業、②ガス導管事業、③大口ガス事業(この3事業のことを以下「都市ガス事業」という。)、④簡易ガス事業が存在していました。その後、都市ガス小売全面自由化を踏まえたガス事業法の改正により、都市ガス事業は、2017年度から事業類型が変更されています。また、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(昭和42年法律第149号)」で規制されている⑤液化石油ガス販売事業(以下「LPガス販売事業」という。)もあります(第214-2-1)。

【第214-2-1】ガス事業の主な形態

214-2-1

【第214-2-1】ガス事業の主な形態(xls/xlsx形式:13KB)

資料:
経済産業省作成

(2)都市ガス事業

①消費の動向

都市ガスの販売量は、2000年代後半にかけて、右肩上がりに増加しました。中でも、工業用の販売量が急速に増加しました。2000年代後半以降は、家庭用や商業用の販売量が横ばいとなる中、工業用の販売量の伸びが鈍化したため、販売量全体の伸びも緩やかになりました。近年は、横ばいが続いています(第214-2-2)。

【第214-2-2】都市ガス販売量の推移(用途別)

214-2-2

(注1)全都市ガス事業者が対象。
(注2)1996年度〜2005年度の用途別販売量は日本エネルギー経済研究所推計。

【第214-2-2】都市ガス販売量の推移(用途別)(xls/xlsx形式:31KB)

資料:
資源エネルギー庁「ガス事業生産動態統計調査」等を基に作成

都市ガスの需要家数の9割強を占める家庭用では、高効率給湯器等の省エネ機器の普及に伴い、需要家当たりの消費量が減少傾向にありますが、需要家数の増加や都市ガス利用機器の普及拡大等により、販売量の減少をカバーしてきました。工業用では、大手都市ガス事業者による産業用の大規模・高負荷需要(季節間の使用量の変動が少ない等)を顕在化させる料金制度の導入等により、1980年代以降、大規模需要家への都市ガス導入が急速に進みました。さらに、ガス設備に係る技術開発や気候変動問題への意識の高まり等により、需要家当たりの消費量も伸びたことから、大幅に販売量を増やしてきました。

②供給の動向

都市ガスの原料は、その主体を石炭系ガスから石油系ガスへ、そして石油系ガスから天然ガスへと変遷を遂げてきました。天然ガスは、一部の国産天然ガスを除き、その大部分を海外からのLNGとして調達してきました。原料に占める天然ガスの割合は年々高まり、1980年代には5割を超え、現在では9割以上を占めています(第214-2-3)。

【第214-2-3】都市ガス生産・購入量の推移(原料別)

214-2-3

(注)2005年度以前のデータは一般ガス事業者のみが対象。2006年度以降のデータは全都市ガス事業者が対象。

【第214-2-3】都市ガス生産・購入量の推移(原料別)(xls/xlsx形式:31KB)

資料:
日本ガス協会「ガス事業便覧」、資源エネルギー庁「ガス事業生産動態統計調査」を基に作成

都市ガスの原料の調達方法として、大手事業者等では、前述のように海外からLNGを調達していますが、石油系ガスを主な原料としている事業者では、石油元売事業者からLPガスを調達しています。また、他の都市ガス事業者や国産天然ガス事業者等から卸供給を受ける場合もあります。

一方、都市ガスの供給インフラであるパイプライン網(導管網)は、日本の場合、消費地の近傍に建設したLNG基地等のガス製造施設を起点に広がっています。一部地域において、国産天然ガス事業者による長距離輸送導管や、大規模消費地における大手ガス事業者の輸送導管が敷設されていますが、基本的には、消費地ごとに独立したパイプライン網が形成されています。

③価格の動向

都市ガスの小売価格は、基本的に、LNG輸入CIF価格と連動しています。1970年代のオイルショックを受けて上昇した都市ガス価格は、2000年代半ばにかけて低下し、その後は、LNG輸入価格の動向と連動する形で、変動しています。2022年度は、LNG輸入価格が史上最高値を更新したため、都市ガス価格も急上昇しました(第214-2-4)。

【第214-2-4】都市ガス価格及びLNG輸入価格の推移

214-2-4

(注)2016年度以前の都市ガス価格は旧一般ガス事業者の平均。2017年度以降の都市ガス価格は全ガス小売事業者の平均。

【第214-2-4】都市ガス価格及びLNG輸入価格の推移(xls/xlsx形式:24KB)

資料:
電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報結果」、日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」を基に作成

なお、日本のガス料金を欧米諸国と比較すると、日本のガス料金は比較的高い水準にあることがわかります(第224-5-1参照)。これは、日本を欧米諸国と比較した際、原料の自給率の違いに加え、天然ガスの輸送形態が複雑なこと(日本では、天然ガスを海外で液化してLNGとして輸入した後、再気化して供給するものが大半)、需要家当たりの使用規模が小さいこと等の理由によると考えられます(第214-2-5)。

【第214-2-5】主要国・地域の需要家1件当たり都市ガス消費量(2021年)

214-2-5

(注)ドイツの数値については、2014年時点のデータを一部使用して算出している。

【第214-2-5】主要国・地域の需要家1件当たり都市ガス消費量(2021年)(xls/xlsx形式:18KB)

資料:
日本ガス協会「ガス事業便覧」を基に作成

④都市ガス小売全面自由化の動向

電力に1年遅れる形で、2017年度から、都市ガスの小売事業が全面自由化されました。都市ガスの小売自由化は、1995年から始まっており、当初は大規模工場等が自由化の対象でした。その後、自由化の対象が中小規模工場や商業施設等へと拡大し、2017年度からは、家庭や商店等においても、都市ガス会社を自由に選べるようになりました。

新規にガス小売事業者として登録したガス小売事業者(旧一般ガスみなしガス小売事業者以外のガス小売事業者のことを指し、以下「新規小売」という。)による都市ガス販売量のシェアは、2023年12月末時点で21.6%となっています(第214-2-6)。

【第214-2-6】新規小売の都市ガス販売量と都市ガス販売量に占める割合の推移

214-2-6

【第214-2-6】新規小売の都市ガス販売量と都市ガス販売量に占める割合の推移(xls/xlsx形式:30KB)

資料:
電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報結果」を基に作成

また、都市ガス契約の供給者変更(スイッチング)の申込件数は、2017年4月末時点で約15万件でしたが、2023年12月末には約582万件まで増加しました(第214-2-7)。

【第214-2-7】都市ガス契約のスイッチング申込件数の推移

214-2-7

(注)数値は各月末時点の累計件数。

【第214-2-7】都市ガス契約のスイッチング申込件数の推移(xls/xlsx形式:21KB)

資料:
資源エネルギー庁「スイッチング申込件数」、電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報結果」を基に作成

⑤ガス小売事業のうち、特定ガス発生設備においてガスを発生させ、導管によりこれを供給する事業(旧簡易ガス事業)

2017年4月に、改正ガス事業法が施行されたことにより、旧簡易ガス事業は、ガス小売事業の一部となりました。1970年の制度創設以来、旧簡易ガス事業における販売量は、家庭用を中心に増加してきましたが、近年は大手事業者への事業売却等により減少傾向にありました。旧簡易ガス事業は、2022年3月末時点で1,244事業者、供給地点群数は7,295(合計で約180万地点)でした。2021年の年間生産量(販売量)は13,934万㎥で、調定数43当たりの全国平均販売量は10.5㎥/月でした。なお、旧簡易ガス事業は、LPガスバルクによる供給設備や、LPガスボンベを集中する等の簡易なガス発生設備によるガス供給であるという特性から、販売量の9割以上を家庭用が占めています44

旧簡易ガス事業における小売価格は、1970年代のオイルショックにより急上昇し、1987年度に低下して以降、2004年度までほぼ横ばいで推移しました。その後、価格は2000年代後半に再度上昇し、以降は、2016年度にかけて横ばいが続きました(2017年度以降のデータなし)(第214-2-8)。

【第214-2-8】旧簡易ガス事業の全国平均価格の推移

214-2-8

(注)2017年度以降のデータ更新なし。

【第214-2-8】旧簡易ガス事業の全国平均価格の推移(xls/xlsx形式:20KB)

資料:
日本ガス協会「ガス事業便覧」を基に作成

(3)LPガス販売事業

①需給の動向

LPガスは、全国の約半数の世帯で使用されているだけでなく、タクシー等の自動車用や工業用、化学原料用、都市ガス用、電力用等、幅広い用途に使われており、国民生活に密着したエネルギーです。LPガスには、プロパンガスとブタンガスの2種類があり、プロパンガスは主として家庭用や業務用、ブタンガスは主として産業用や自動車用に使用されています。

②価格の動向

家庭用のLPガス料金は、販売事業者がそれぞれの計算方法によって料金を設定しています。家庭用LPガスの小売価格の推移を見ると、LPガスの輸入CIF価格の影響を受けながらも、全体的には上昇傾向が続いていることがわかります。家庭用のLPガス料金の価格構成を見ると、小売段階における配送費、人件費、保安費等が全体の6割超45を占めており、価格低減のためには、とりわけ小売段階での合理化・効率化が必要です(第214-2-9)。

【第214-2-9】LPガスの家庭用小売価格及び輸入CIF価格の推移

214-2-9

(注)「家庭用小売価格」は10㎥当たりの価格。

【第214-2-9】LPガスの家庭用小売価格及び輸入CIF価格の推移(xls/xlsx形式:31KB)

資料:
財務省「日本貿易統計」、総務省「小売物価統計調査」、石油情報センター「価格情報」等を基に推計

3.熱供給

熱供給事業とは、「熱供給事業法(昭和47年法律第88号)」に基づき、1時間当たり21GJ以上の加熱能力を持つ設備を用いて、一般の需要に応じて熱供給を行う事業のことを指します。一般的には「地域冷暖房」と呼ばれており、一定地域の建物群に対し、蒸気・温水・冷水等の熱媒を熱源プラントから導管を通じて供給します(第214-3-1)。

【第214-3-1】熱供給事業の概要

214-3-1

【第214-3-1】熱供給事業の概要(ppt/pptx形式:857KB)

資料:
日本熱供給事業協会

熱供給事業は、それぞれの施設や建物が個別に熱源設備を設置する自己熱源方式とは異なり、供給地域内に設置された熱源プラントで熱供給を集約して効率的に行うため、省エネや環境負荷低減といった効果が得られます。都市におけるエネルギー供給システムとして、複数の施設・建物への効率的なエネルギー供給や、施設・建物間でのエネルギーの融通、未利用エネルギーの活用等、エネルギーの面的利用には、地域における大きなCO2削減効果があると期待されています。また、各建物内に熱源設備を設置したり、屋上に冷却塔を設置したりする必要がなくなるため、災害発生時における二次災害の防止や、屋上へのヘリポート設置等にもつながります。さらに、熱源プラントの蓄熱槽や受水槽の水を火災や震災発生時に利用できる等、災害に強いまちづくりにも貢献できます。

2022年度の熱供給事業における販売熱量は22PJで、2023年3月末時点の供給延床面積は5,540万㎡となりました。販売熱量を熱媒体別に見ると、冷熱が58%、温熱が40%となりました。使用燃料は、都市ガスが65%、電力が17%、排熱他が16%でした(第214-3-2)。

【第214-3-2】熱供給事業の販売熱量と供給延床面積の推移

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【第214-3-2】熱供給事業の販売熱量と供給延床面積の推移(xls/xlsx形式:21KB)

資料:
日本熱供給事業協会「熱供給事業便覧」を基に作成

近年では、海水や河川水、下水、清掃工場からの排熱等の未利用エネルギーを利用する形態や、コージェネレーションシステムを活用した形態等も登場しています。こうした取組により、エネルギーの総合的な有効利用や熱源システムの効率化が一層進んでいます。

4.石油製品

(1)消費の動向

日本の石油製品(ガソリンや灯油等の燃料油)の販売量は、1970年代にかけて増加しましたが、二度のオイルショックを契機に、石油代替と利用効率の向上を進めたことで、減少に転じました。その後、1980年代半ばからは、原油価格の低下等もあり、再び販売量が増加しました。1990年代半ばからは、ほぼ横ばいで推移し、2000年代半ば以降は、現在に至るまで減少傾向が続いています。

油種別に確認すると、自動車の普及に伴うガソリン・軽油のシェア拡大、石油化学産業の生産の伸びに伴うナフサのシェア拡大等、いわゆる白油化が進んできたことがわかります。2022年度のシェアは、ガソリンが29.7%、ナフサが25.3%、軽油が21.0%でした。一方、B・C重油のシェアは、1971年度まで半分以上を占めていましたが、その後、製造業の省エネ等による需要減少や石油以外の燃料への転換、電力部門における石油火力の縮小等によって減少し、2022年度には6.3%まで低下しました(第214-4-1)。

【第214-4-1】燃料油販売量の推移(油種別)

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(注)2002年1月よりB重油はC重油に含まれている。

【第214-4-1】燃料油販売量の推移(油種別)(xls/xlsx形式:29KB)

資料:
経済産業省「資源・エネルギー統計」を基に作成

(2)価格の動向

ガソリン、軽油、灯油等の石油製品は、原油を蒸留・精製して生産されるため、その価格は原油の輸入CIF価格の動向にほぼ連動しています。2020年の上半期には、新型コロナ禍による世界的な石油需要の減少等の影響で原油価格が下落し、日本の石油製品の価格も低下しました。その後、OPECとロシア等の非OPEC産油国からなる「OPECプラス」が大規模な協調減産を実施したこと等により、原油価格は再び上昇傾向となり、日本の石油製品の価格も上昇しました。そうした中、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵略等の影響で、原油価格はさらに高騰しましたが、同年1月から始まった「燃料油価格激変緩和対策事業」の効果により、日本の石油製品の価格については、全体として、制度設計上想定していた水準前後での価格抑制が実現できており、国民負担の緩和につながりました(第214-4-2)。

【第214-4-2】原油輸入CIF価格と石油製品の小売価格の推移

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【第214-4-2】原油輸入CIF価格と石油製品の小売価格の推移(xls/xlsx形式:44KB)

資料:
資源エネルギー庁「石油製品価格調査」、財務省「日本貿易統計」を基に作成

(3)輸出の動向

国内における石油製品の需要は減少傾向にあり、今後も日本の人口減少が想定される中、長期的には精製設備能力の余剰が増えると見込まれるため、石油精製各社は、生産設備の集約化を進めてきました。その結果、2000年度に約2.3億klであった燃料油の生産量は、2022年度には約1.5億klまで減少しました。

その一方、石油精製各社は、燃料供給の多様性を維持する企業努力として、余剰設備の有効利用を図り、設備稼働率の低下による製造コスト上昇を回避すべく、石油製品の輸出を行ってきました。2022年度の燃料油の輸出量は、前年度から23%増加し、29,347千klとなっています。なお、ジェット燃料油には、海外を往復する航空機への燃料供給が輸出量として計上されており、B・C重油には、外国航路を行き来する船舶への燃料供給が輸出量として計上されています(第214-4-3)。

【第214-4-3】燃料油輸出量の推移(油種別)

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【第214-4-3】燃料油輸出量の推移(油種別)(xls/xlsx形式:35KB)

資料:
経済産業省「資源・エネルギー統計」を基に作成

2022年度の燃料油の輸出先については、海外を往復する航空機や船舶向け(ボンド)の割合が35%を占めていますが、ボンド以外を国別に見ると、韓国、豪州、シンガポール等、アジア・オセアニア向けが上位を占めています(第214-4-4)。

【第214-4-4】燃料油の輸出先(2022年度)

214-4-4

(注)「ボンド」は外航船舶と国際線航空機向け供給分。

【第214-4-4】燃料油の輸出先(2022年度)(xls/xlsx形式:23KB)

資料:
経済産業省「資源・エネルギー統計」を基に作成
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グロス・ビディングは2023年10月より休止中です。
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調定数とは、ガス料金の請求書が発行されているメーター数のこと。
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日本ガス協会「ガス事業便覧」より。
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LPガス振興センター「LPガスガイド」より。