第1節 エネルギー需給の概要

○エネルギー需給の概要

世界のエネルギー消費(一次エネルギー)は、経済成長とともに増加してきました。石油換算では、1965年の37億トンから年平均2.4%で増加し、2022年には144億トンに達しました。2022年の世界のエネルギー消費は、前年比で1.1%増加しました。

2000年代以降、中国やインド等を中心に、アジア大洋州における消費の伸びが顕著となっています。一方、先進国(OECD諸国)では伸び率が鈍化しました。経済成長率や人口増加率が途上国と比べて低いことに加え、産業構造の変化や省エネの進展等も影響しています。この結果、世界のエネルギー消費に占めるOECD諸国の割合は、1965年の70.6%から、2022年には38.8%へと低下しました(第221-1-1)。

【第221-1-1】世界のエネルギー消費の推移(地域別、一次エネルギー消費)

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(注1)1984年以前の「ロシア」には、その他旧ソ連邦諸国を含む。
(注2)1985年以降の「欧州」には、バルト3国(リトアニア・ラトビア・エストニア)を含む。

【第221-1-1】世界のエネルギー消費の推移(地域別、一次エネルギー消費)(xls/xlsx形式:41KB)

資料:
Energy Institute「Statistical Review of World Energy 20231」を基に作成

ここで、各国における1人当たりのGDPとエネルギー消費量の関係を確認します。ドイツとカナダを比較すると、1人当たりのGDPに大きな違いはありませんが、1人当たりのエネルギー消費量は大きく異なっていることがわかります。各国の気候や産業構造、エネルギー効率等の違いが、この差を生む要因になっています。

また、一般的に、経済成長に伴いエネルギー消費は増加するため、今後は途上国の経済が成長することで、途上国におけるエネルギー消費の増加が想定されます。現在、エネルギーの主流となっている化石エネルギーは無尽蔵ではなく、大量に消費するとCO2の排出量も増えてしまいます。そのため、今後エネルギー消費の増加が予測されている途上国では、エネルギー効率を高めていくことが重要であり、日本を含む先進国には、それを手助けしていくことが求められています(第221-1-2)。

【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2022年)

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【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2022年)(xls/xlsx形式:25KB)

資料:
Energy Institute「Statistical Review of World Energy 2023」、世界銀行「World Bank Open data」を基に作成

次に、世界のエネルギー消費の推移を、エネルギー源別に確認します。石油は、今日まで世界のエネルギー消費の中心となっています。発電用を中心に、他のエネルギー源への転換も進みましたが、堅調な輸送用燃料消費に支えられ、石油消費は1965年から2022年にかけて年平均1.9%で増加し、2022年もエネルギー消費全体で最大のシェア(31.6%)を占めています。

石炭は、同じ期間に年平均1.8%で消費が増加しました。特に2000年代に、経済成長が著しく、安価な発電用燃料を求めるアジアを中心に消費が拡大しました。しかし近年では、気候変動問題への対応等の影響により、石炭消費は伸び悩んでいます。2022年の石炭のシェアは26.7%でした。

天然ガスは、同じ期間に石油や石炭以上に消費が伸び、年平均3.1%で増加しました。天然ガスは、気候変動問題への対応が強く求められる先進国を中心に、発電用や都市ガス用の消費が増加しました。2022年の天然ガスのシェアは23.5%でした。

2022年時点のシェアは7.5%と、エネルギー消費全体に占める割合はまだ大きくありませんが、気候変動問題への対応や設備価格の低下等を背景に、近年急速に伸びているのが、太陽光や風力等の再エネです。今後も気候変動対策の進展等に伴い、再エネのシェア拡大が予想されています。2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)では、2020年以降、全ての国が参加する公平で実効的な国際枠組みである「パリ協定」が採択され、産業革命前と比べて気温上昇を2℃より低く抑えること、さらに1.5℃までに抑えるよう努力することが盛り込まれました。その後、各国においてパリ協定の締結が順調に進み、2016年11月に発効しました。また、2018年に開催されたCOP24では、2020年以降のパリ協定の本格運用に向けて、パリ協定の実施指針が採択されました。パリ協定の発効、実施指針の採択は、多くの国が気候変動問題に対して積極的に取り組んでいることを示す象徴的な出来事といえます。気候変動問題への対応は、エネルギーの選択に大きな影響を及ぼすため、今後もその動向を注視していく必要があります(第221-1-3)。

【第221-1-3】世界のエネルギー消費の推移(エネルギー源別、一次エネルギー消費)

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(注)端数処理(四捨五入)の関係で、グラフ内の構成比の合計が100%とならないこと等がある(以下同様)。

【第221-1-3】世界のエネルギー消費の推移(エネルギー源別、一次エネルギー消費)(xls/xlsx形式:40KB)

資料:
Energy Institute「Statistical Review of World Energy 2023」を基に作成

次に、世界の最終エネルギー消費の推移を部門別に確認します。1971年から2021年までの間に、鉄鋼・機械・化学等の産業用は2.2倍に、家庭や業務等の民生用は2.1倍に、輸送用は2.8倍に増加しました。輸送用が大きく増えた背景には、世界中でモータリゼーションが進展し、自動車用燃料の需要が急増したこと等があると考えられます(第221-1-4)。

【第221-1-4】世界のエネルギー消費の推移(部門別、最終エネルギー消費)

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(注)本表には発電用及びエネルギー産業の自家使用等が含まれていないため、合計量が前表より少なくなっている。

【第221-1-4】世界のエネルギー消費の推移(部門別、最終エネルギー消費)(xls/xlsx形式:27KB)

資料:
IEA「World Energy Balances 2023 Edition」を基に作成

COLUMN

エネルギー需給の展望

ここでは、将来の世界のエネルギー需給に関する予測を、IEAのデータを用いて確認します。具体的には、IEAが想定している3つの将来シナリオにおける2050年の見通しを、2022年の実績と比較します。1つ目の公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario, 以下「STEPS」という。)は、各国が表明済の具体的政策を反映したシナリオ、2つ目の表明公約シナリオ(Announced Pledges Scenario, 以下「APS」という。)は、有志国が宣言した野心を反映したシナリオ、3つ目のネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオ(Net Zero Emission by 2050 Scenario, 以下「NZE」という。)は、2050年世界ネットゼロを達成するためのシナリオです。IEAのシナリオでは、STEPS、APS、NZEの順に気候変動対策が強くなり、低炭素なエネルギーや技術がより多く利用されるようになります。

まず、2050年における世界の一次エネルギー消費全体の見通しについて確認します。STEPSでは2022年比で1.15倍に増加し、APSでは0.99倍となる見通しです。これに対して、NZEでは0.86倍まで減少します。これらの数値を見ると、各国が現在掲げている政策や表明している公約では、2050年のネットゼロには届かないことがわかります。

次に、エネルギー源別に見ていきます。化石エネルギーで最も大きな影響を受けるのは石炭と見られ、2022年の石炭消費との比較では、STEPSでも0.60倍に減少し、APSでは0.26倍、NZEでは0.09倍まで減少します。石油については、2022年の石油消費と比較すると、STEPSでは1.00倍と横ばいですが、APSでは0.54倍に減少、NZEでは0.22倍まで減少します。石油消費の減り方は、石炭消費の減り方よりも緩やかですが、これは主な用途が異なることが要因と考えられます。石炭は、主に発電用や産業用に使われており、比較的容易に天然ガスや再エネ等に置き換えていくことが可能です。一方の石油は、主に輸送用燃料として使われていますが、これを他のエネルギーに置き換えていくのは容易ではありません。そのため、石油の方が消費の減り方が緩やかになっています。また、化石エネルギーの中で最もクリーンな天然ガスについては、2022年の天然ガス消費と比較すると、STEPSでは1.00倍と横ばいですが、APSでは0.58倍に減少、NZEでは0.22倍に減少します。

化石エネルギーが減少する見通しとなっている一方、再エネと原子力については、いずれのシナリオでも大きく増える見通しです。中でも、太陽光や風力を中心とした再エネの増加見通しが顕著です。水力も含めると、2022年比でSTEPSでは2.41倍、APSでは3.27倍、NZEでは3.79倍まで増加すると予測されています。原子力についても、2022年比でSTEPでは1.64倍、APSでは2.02倍、NZEでは2.29倍まで増加するとされています(第221-1-5)。

【第221-1-5】世界のエネルギー需給の展望(一次エネルギー消費)

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【第221-1-5】世界のエネルギー需給の展望(一次エネルギー消費)(xls/xlsx形式:23KB)

資料:
IEA「World Energy Outlook 2023」を基に作成

将来は不確実であり、これらのシナリオはあくまでも一定の前提に基づいた試算に過ぎません。しかし、このようなシナリオ分析を行いながら、将来の最適なエネルギーのあり方について考えていくことが重要です。

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「Statistical Review of World Energy」は、2022年版までBPより公表されていましたが、2023年版からEnergy Instituteより公表されています(以下「Statistical Review of World Energy」に係るデータについて同様)。