地域のエネルギーサプライチェーンの維持に向けて

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自動車の燃料となるガソリン・軽油や、寒冷地における暖房用の灯油など、石油製品は私たちの生活や企業の経済活動に欠かせません。こうした石油製品を全国津々浦々に供給する「サービスステーション(SS)」は、日本国内のエネルギー供給網(サプライチェーン)を構成する一員として、また万が一の災害の時の地域拠点として、とても重要な役割を担っています。

今回は、私たちの身近でエネルギー安定供給という課題に取り組むSSについて、その現状をご紹介します。

1.日本の石油サプライチェーンのすがた

石油産業のサプライチェーン

SSで販売されている石油製品は、中東などから輸入した原油を製油所で精製して製造、あるいは海外から直接輸入されています。最終的にはタンクローリーでSSまで届けられ、消費者に販売されます。

日本における石油産業のサプライチェーン
日本国内における石油産業のサプライチェーンを示した図です。

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2.SSの現状

SSの多くは中小企業

街のあちこちで見かけるSSですが、実は、こうしたSSを運営している石油販売業者のうち約98%は、中小企業です。それも、運営するSSが1カ所だけの企業が72.1%。2~3カ所を運営している企業を合わせると、91%を占めています。

SSの中小企業と大企業の比率、運営給油所数別の比率を示した円グラフです。

(出典)一般社団法人全国石油協会「平成29年度調査石油製品販売業経営実態調査報告書」 ※調査回答数は2,281社、( )内は企業数

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年々減少しているSS数

全国のSSの数は1994年度末のピークから下降しており、現在はピーク時の半数まで減少しています。その数は、2017年3月末時点で31,467カ所です。

SS数および石油販売事業者数の推移
SSの数と石油販売事業者数の1989年度末~2016年度末の推移を示したグラフです

(出典)資源エネルギー庁調べ

減少の一因は、ガソリン販売量の減少です。少子高齢化や自動車の燃費の向上など、さまざまな要因によってガソリンの販売量は減少し続けており、今後も減少傾向が続くと見られています。想定される減少値は、年平均でマイナス2.2%です。

また、SSが販売するガソリンなどの商品は差別化することが難しいため、事業者は価格面で差別化を図ろうとし、激しい価格競争の結果、SSの収益率が低下するといったことも起こっています。

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3.災害時の役割

エネルギー供給の「最後の砦」として

2011年3月に起こった東日本大震災以降、その教訓として、大規模災害が発生した場合においても対応ができるよう、製油所・油槽所やSSの災害対応力強化が進められてきています。

中でもSSは、平時だけではなく災害時においても地域の燃料供給の重要な拠点となります。東日本大震災においては、まさにそのような「SSが災害時に持つ役割」に注目が集まり、「地域におけるSSの災害対応力を強化することが重要だ」という認識が、広く共有されるようになりました。

2014年に策定された「エネルギー基本計画」においては、石油をエネルギー供給の「最後の砦」とし、供給網のいっそうの強靭化を図ることとしています。

具体的には、自家発電設備や大型タンクなどを備え、災害発生時には緊急車両などへの優先給油を行うSSを「中核SS」と名付け、2011年~2014年にかけて、石油製品供給拠点として整備。全国で1,622のSSが指定されています(2017年10月1日時点)。

災害時の対応力を向上させる取り組み

さらに、2016年に発生した熊本地震においては、一般の避難者、被災者が給油できる拠点を整備する必要性が認識されました。そこで、自家発電設備を備え、災害時にも地域住民の石油製品の供給拠点となる「住民拠点SS」を、今後全国で約8,000カ所整備していく予定です。このため、自家発電設備の導入費用を補助する支援制度を創設しています。2018年1月末時点で、627の住民拠点SSが整備されています。

また、災害時に迅速にSSの被害状況や営業状況を把握できるよう、災害時情報収集システムの構築を進めています。

一方、全国の石油組合の自主的な取り組みも進んでいます。地元自治体と災害協定を締結するとともに、自衛隊との合同訓練や救援物資運送者への給油訓練などの総合防災訓練に参加し、災害対応能力の強化を図っています。

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4.地域のエネルギー供給網を安定的に維持していくために

「SS過疎地」という問題

近年、前述したような厳しい経営環境の下で、廃業するSSも増えてきました。その結果、近隣にSSがなくなってしまった地域も増え始めています。

市町村内のSS数が3カ所以下となった自治体、いわゆる「SS過疎地」は、2017年3月末時点で、全1,718市町村の18%に該当する302市町村となっています。

SS過疎市町村数の推移
2014年度末2015年度末2016年度末
0カ所101112
1カ所667175
2カ所96100101
3カ所111106114
合計283市町村288市町村302市町村

また、人口メッシュ(地域を細かい格子状に区切り、1つの区画=メッシュの範囲内における人口などの情報を示したデータ)で見た場合、「最寄りのSSまでの道路距離が15km以上ある地区」が存在する市町村も、302にのぼります。さらに、2016年、SS過疎地にあるSSに、今後の事業継続意志を尋ねるアンケートを行ったところ、「継続する」が72%だったものの、「未定」が19%、「廃業を考えている」が9%にのぼりました。

SS過疎地の住民は、灯油やガソリンなど、生活に必須な石油製品を購入するため、遠方まで出向く必要が生じます。すでに一部市町村では、高齢者世帯などの冬場の灯油配達に支障が出ているなど、石油製品の安定供給に問題が生じています。

SS過疎化をふせぐための取り組み

ここまで見てきたように、エネルギー供給網としてのSSは、地域の命綱のような重要な存在です。地域住民の生活環境を維持するために、また災害時の燃料供給拠点を確保するという観点からも、持続可能な燃料供給体制を地域ごとに確保するため、早急な対策が必要です。

そこで、SSの抱える課題を解決するため、さまざまな取り組みが行われています。

SS過疎地の対策については、さまざまな事例が各地で生まれています。たとえば、和歌山県すさみ町では、「道の駅」を整備するにあたって、隣接する閉鎖中のSSを町が買い取りました。町では、ここを、将来想定される震災対応の拠点として位置づけています。その後、指定管理者制度で運営事業者を選定。町が行う地下タンク入換については資源エネルギー庁も支援し、2017年2月中旬に営業を開始しました。

和歌山県すさみ町にある、「道の駅」に隣接するSSの写真です。

和歌山県すさみ町の「道の駅」に隣接するSS

また秋田県仙北市は資源エネルギー庁などと対応を協議し、「実証事業」の枠組みを活用して、さまざまな施策を行いました。そのひとつが、地域住民に灯油のホームタンク(200リットル)を配置するという取り組みです。これによって、各家庭の備蓄量を増強し、大雪による孤立への備えを強化すると同時に、SS側では、一回当たりの配送量を増加させ、配送効率の向上につなげました。こうした効率化により生み出された余力を活用し、除雪事業など、石油以外の収益の獲得をはかっています。

秋田県仙北市のSSの写真と、各家庭が灯油を備蓄する様子です。

秋田県仙北市のSSと、各家庭の灯油の様子

地域のエネルギー供給網を維持していくためには、SSが閉鎖する段階になって初めて課題を認識するのではなく、取り得る対策の選択肢が狭まらないうちに、課題を認識し、検討を行うことが必要です。先行事例を見ても、数年にわたる丁寧な地元での調整があって可能となるアプローチもあることがわかります。早期の課題認識と共有、計画策定、実行が求められています。

SSの経営基盤を強化する

厳しい経営環境の中でSSのネットワークを維持していくためには、経営基盤の安定化や、生産性の向上が不可欠です。そこで資源エネルギー庁では、2017年12月、「中小企業等経営強化法」に基づき、石油卸売業・燃料小売業について、取り組むべき具体的な事項を「指針」として提示しました。

中長期的な視点でSSのあり方を考える

今後、人口減少や過疎化の進展により、SSをはじめとする燃料供給インフラの維持がますます困難になっていく可能性があります。地域においては、SSだけでなく、郵便局、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、宅配事業者など地域の生活を支えているあらゆるプレイヤーが、人手不足や需要減少といった共通の課題を抱えています。そうした中で、SSも含めて、地域における生活サービス拠点の一体化が進む可能性もあります。

また、電気自動車(EV)や、カーシェアリング、自動運転などの技術革新により、ヒトとクルマの関わり方が大きく変化する可能性もあります。こうした大きな構造変化の中で、燃料供給のあり方はどのようになっていくのでしょうか。今、SSを取り巻く環境は大きく変化していると言えます。資源エネルギー庁では、地域の燃料供給網の維持に向けて、こうした変化に対応するための燃料供給のあり方について、検討を進めています。

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