「パリ協定」のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み⑤ ~産業部門別に排出を規制するEU

イメージ画像

温室効果ガス(GHG)排出削減のための国際的な枠組みである「パリ協定」(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照 )。この協定に基づいて各国はさまざまな施策を進めています。今回は、EU(欧州連合)の掲げた目標と、それに向けた進捗状況についてご紹介します。

GHG排出量、再エネ比率、省エネルギーについて目標を設定

欧州は、EU法に基づいて、GHG削減と、再生可能エネルギー(再エネ)の比率や省エネルギー(エネルギー消費量)に関して、2020年と2030年における目標を次のように示しています。

リストアイコン GHG排出量を、1990年比で2020年までに20%削減、2030年までに40%削減
リストアイコン 再エネの比率を、最終エネルギー消費(最終的に消費者が使用するエネルギーの消費量)ベースで2020年に20%、2030年に32%まで増加
リストアイコン エネルギー消費量を、BAU(何も対策をせず現状を維持した場合、Business as usual)比で2020年までに20%削減、2030年までに32.5%削減

このうち、再エネの比率について、2020年の目標ではEU加盟国ごとに個別の導入目標が設定されていますが、2030年の目標はEU全体の目標となっており、EU加盟国が個別の数値目標をたてて分担するという形式はとられていません。また、エネルギー消費の削減目標についても、EU全体のエネルギー消費量に関する目標であって、加盟国ごとに数値の分担が決められてはいません。

なお、この目標について、EUの政策執行機関である欧州委員会は、2018年12月、再エネ比率の目標を27%から32%に、エネルギー消費の削減目標を27%から32.5%に引き上げるEU指令を施行しました。しかし、これにともなうGHG削減目標の引き上げ(40%から45%に)については、結論にはいたっていない状況となっています。

EUのGHG削減の進捗状況
EUのGHG削減進捗状況をグラフで示しています。また、要因1として「非化石電源比率(再エネ+原子力)」、要因2として「エネルギー消費削減」もグラフで示しています。

大きい画像で見る

では、GHG削減目標に向けて、現在の進捗はどのようになっているのでしょうか。2016年は、1990年に比べて26%の削減実績となっています。これは2030年に40%削減するという目標ラインと同じ水準ですが、直近の3年間の傾向では、ほぼ横ばい状態となっており、目標達成のためには引き続き排出削減を進めていく必要があります(※)。

※「目標ライン」は基準年度の実績と目標年度の実績予測値とを結んだ場合のラインを示しており、年度ごとの特性(政策・経済状況)などを加味して算出した数値ではありません。

EUの中期目標とその推移
EUの中期目標とその推移を表とグラフでそれぞれ示しています。

(出典)IEA World Energy Balancesなどを基に資源エネルギー庁作成

大きい画像で見る

部門ごとの中期目標と進捗状況は?

GHG削減目標を達成するため、EUは、電力・鉄鋼などのエネルギーを多く必要とする産業(エネルギー集約産業)とそれ以外の部門を分けて、以下のようなそれぞれの目標を設定しています。

① エネルギー集約産業部門(EU-ETS部門)の目標と進捗

EUは、この産業に属する企業に対して、個別に排出削減目標を設定し、「欧州排出量取引指令(EU-ETS, EU Emissions Trading System)」に基づいて、EU域内の企業間で「排出権」の取引をおこなうしくみを導入しています。「排出権」とは、対象となる企業に割り当てられた排出量の上限のことで、排出権を超える量のGHGを排出した企業は、市場を通じて他の企業から排出権を買い取る必要があります。この部門の対象となる産業全体の削減目標は、2005年比で2020年に21%削減、2030年に43%削減としています。

では、この部門の現在の進捗はどのようになっているのでしょうか。2030年に43%削減という目標に対し、2016年は26%の削減実績となっており、目標ラインよりも削減が進んでいる状況です。また、直近3年間の傾向を見ても削減の方向となっていることから、現在の傾向を維持することができれば、目標の達成が可能となる見込みです。

EU-ETS部門のGHG削減実績(2005年比)
EU-ETS部門のGHG削減の目標と実績を折れ線グラフで比べています

(出典)European Environment Agency, ETS data viewerなどを基に資源エネルギー庁作成

② エネルギー集約産業以外の産業・運輸・民生部門(ESD/ESR部門)の目標と進捗

この部門に関しては、2005年比で2020年に10%削減、2030年に30%削減という目標をEU全体で設定し、加盟国で分担するしくみ(ESD/ESR, Effort Sharing Decision/Effort Sharing Regulation)を導入しています。削減目標は、一人あたりGDPを基準として加盟国ごとに目標値が割り当てられています。

では、この部門の現在の進捗はどのようになっているのでしょうか。2030年に30%削減という目標に対し、2016年は10%の削減実績となっており、目標ラインと同じ程度の水準です。しかし、直近3年間の傾向を見ると、削減は横ばいとなっています。主要国(英国・フランス・ドイツ)別に見ても、従来は各国とも削減が進んできていましたが、最近では横ばいとなっています。とくに、排出量がもっとも多いドイツは、排出削減に向けた目標ラインを達成できておらず、最近でも排出が増えています。

ESD/ESR部門のGHG削減実績(2005年比)
ESD/ESR部門のGHG削減の目標と実績を折れ線グラフで比べています

(出典)European Environment Agency, ESD datasetなどを基に資源エネルギー庁作成

非化石比率は増加傾向にあるものの、最近では横ばい状態

GHG削減のために必要な、電源の非化石化(石油やガスといった化石燃料以外のエネルギーを使って電気をつくること)や、化石電源の低炭素燃料への転換(化石燃料を使う場合には、従来の石炭・石油から、天然ガスのような低炭素な燃料へと転換していくこと)など「エネルギー供給の低炭素化」の進捗状況はどうなっているでしょうか。

EU全体としては、約3割という一定の原子力発電比率を維持しつつ、再エネ比率を2010年の21%から2016年の30%まで増加させてきました。そのため、非化石電源の比率は2010年48%から2016年の56%まで増加していますが、最近では横ばいとなっています。

EUの電源構成
EUの電源構成の割合をグラフで示しています

(出典)IEA World Energy Balancesなどを基に資源エネルギー庁作成

省エネルギーについては、目標達成に向けてさらなる削減が必要

EUは、発電ロスなどを含めたエネルギー消費量である「一次エネルギー」の消費量を、BAU比で2020年に20%削減、2030年に32.5%削減する目標を示しています。これに対し、2016年では10%の削減実績となっており、目標ラインとはほぼ同じ水準となっています。しかし、最近の傾向は横ばいで、2030年の目標を達成するためにはさらなる削減が必要となります。

次回は、フランスの状況についてご紹介します。

お問合せ先

記事内容について

長官官房 総務課 戦略企画室

スペシャルコンテンツについて

長官官房 総務課 調査広報室

2019/6/13に公開した際、『EUの中期目標とその推移』の図版中、「EU-ETS(エネルギー集約産業)」の足元(2016)の数値が「▲13%」となっておりましたが、正しくは「▲26%」です。また、「ESR(運輸・民生)」の足元(2016)の数値が「▲11%」となっておりましたが、正しくは「▲10%」です。お詫びして訂正いたします。なお、本文の内容に影響及び変更はありません。(2019/6/14 18:00)

※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。