成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
上の岱(うえのたい)地熱発電所(秋田県湯沢市)
地下に眠る「地熱エネルギー」を利用して電気をつくる「地熱発電」。CO2の排出量はほぼゼロ、燃料費もかからず、天候などに左右されない安定性の高い国産エネルギーです。「地熱エネルギーの宝庫・東北エリアで見る、地熱発電の現場(前編)」でもご紹介したように、秋田県湯沢市では現在2つの大規模な地熱発電所が稼働していますが、さらなる発電所建設に向け、2つの調査事業もおこなわれています。シリーズ後編では、調査事業の現場をご紹介しましょう。
地熱発電所をつくるまでには、長い時間と莫大な初期投資のコストがかかります(「地熱という恵みをエネルギーとして活かしていくために」参照)。
※「地熱という恵みをエネルギーとして活かしていくために」の地熱開発のプロセスの図から更新
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最初におこなわれるのは、地下に眠るエネルギー資源を地表から調べて場所を推定する「地表調査」などです。こうした「初期調査」が終わると、次は噴気試験をおこなう「探査事業」が始まります。この時、貯留層の正確な位置、あるいは蒸気・熱水の噴出量や温度などを測る「調査井(ちょうさせい)」を掘削します。なお、掘削する時には、地上から貯留層へまっすぐ掘り下げず、斜めに掘り下げます。まっすぐ孔を掘るより斜めに掘るほうが、貯留層にあたる可能性が高くなるためです。
一般的に、小口径の調査井で1メートルを掘削するのにかかるコストは、20万円~25万円ほどと言われます。2km掘るとすると4億円前後かかる計算になります。実際に蒸気を取り出す大口径の生産井は、その2倍くらいの費用がかかります。また掘り始める前にも、やぐらを設置するなどの作業で数カ月を要します。探査事業と、それに続く「環境アセスメント」では、発電にじゅうぶんな熱水や蒸気が得られるか、環境に影響をおよぼす恐れはないかなどが確認されます。このような作業により、時間をかけてさまざまな調査や地元への説明がおこなわれたうえで、やっと発電所の建設が始まるのです。では、湯沢市の2つの事業は、今どのような工程にあるのでしょうか。
こちらは栗駒山北部一帯(栗駒国定公園内)で進められている事業で、2011年度から地表調査が始まりました。その後、噴気試験を含む地熱資源量の調査や、経済性評価などをおこない、現在は環境アセスメントをおこなっています。2019年の7月には、設置計画がもたらす環境への影響を評価するためどのような項目をどのような手法で調査するか定めた「環境影響評価方法書」を作成。住民に公開するなどして広く意見を求めました(2019年8月で意見募集は終了)。環境アセスメントは、この方法書にのっとって環境の現状調査や予測、評価などが進められています。たとえば猛禽類(もうきんるい)の生態は、複数年にわたって観察しなくては、影響の度合いを測ることができません。そうしたことから、評価方法書では項目を広めにとって調査をおこなうことにしています。計画では、環境アセスメントが終了後、2021年ころから建設に着手し、2024年の運転開始を目指しています。山葵沢(わさびざわ)地熱発電所と同じダブルフラッシュ方式を採用し、完成すれば発電出力は15,000kW級になる予定です。
かたつむり山で掘削された調査井の坑口
こちらも栗駒国定公園の中にあり、2010年から調査が始められ、地質構造調査や温泉モニタリング調査などを経て、現在は探査段階に入っている調査事業です。「仮噴気試験」と呼ばれる試験では、約110℃の蒸気と熱水が噴き出ることが確認され、化学成分を分析した結果でも「地熱流体(地下を流れる高温の流体)」であることが確認されるなど、良好なデータが得られています。また、掘削地点の「KJ-6」では、2018年に300℃の熱水・蒸気が確認されています。
木地山・下の岱で掘削された調査井の坑口
地熱発電は、発電所開設のためのボーリングやアセスメントなど、必要な作業や物資のほとんどを日本国内の企業でまかなうことができます。その意味では、地熱発電は、エネルギー自給率をアップするだけでなく、国内に利益を還元するエネルギー事業でもあると言えるでしょう。特に発電所で使うタービンは、噴き出す蒸気の圧力や成分に応じてひとつひとつ個別に作る必要があり、高い技術力を持つ日本企業が世界で高いシェアを誇っています。さらに、地熱発電は、地域の活性化にも役立てることができます。下の写真は、湯沢市で実際に販売されている、地熱を使って栽培された野菜です。湯沢市では温泉をひく井戸からの熱水を利用した栽培がおこなわれていますが、国内のほかの地域でも、地熱発電所からの熱水を利用した農業の取り組みなどがおこなわれています(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~地方創生にも役立つ再エネ『地熱発電』」参照)。
日本ならではのノウハウを活かして、今後さらに地熱エネルギーの利活用が進むことが期待されています。
資源・燃料部 政策課省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課
長官官房 総務課 調査広報室
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