第3節 再生可能エネルギーの主力電源化に向けて
1.再生可能エネルギーの主力電源化に向けたこれまでの取組
(1)再エネ固定価格買取制度による導入促進
再生可能エネルギー(再エネ)は、現時点では安定供給面、コスト面で様々な課題がありますが、温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることから、エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で、長期を展望した環境負荷の低減を見据えつつ活用していく重要な低炭素の国産エネルギー源です。パリ協定を契機とした脱炭素化の機運の高まりや、世界における再エネの発電コスト低減などの環境変化を踏まえ、日本のエネルギー供給の一翼を担う長期安定的な主力電源として持続可能なものとなるよう、円滑な大量導入に向けた取組を引き続き積極的に進めていきます。
FIT制度は、再エネ導入を強力に促進するため、国民負担を伴う時限的な特別措置として、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)」(以下、「再エネ特措法」という。)に基づき2012年7月に導入されました。FIT制度の下では、再エネ発電事業者は、再エネ電気を投資インセンティブが確保される水準の固定価格で長期間にわたって電気事業者によって買い取られることが保証されるとともに、発電事業者としての然るべき市場取引についても免除されることで、投資回収の予見性が強固に確保されてきました。一方で、買取義務に基づき電気事業者が再エネ電気を固定価格で買い取るにあたり必要な費用は、電気料金の一部として一般の電気の使用者に負担してもらう制度となっており、再エネの導入拡大は、国民の負担に直結する制度となっています。
2012年7月にFIT制度が導入されて以降、再エネの導入量は制度開始前と比べて約3.4倍になるなど、導入が急速に拡大しました。具体的には、2019年9月末時点で、FIT制度開始後に新たに運転を開始した設備は約5,062万kW、FIT制度の認定を受けた設備は約8,918万kWとなっています。
FIT制度の下での再エネの導入拡大に伴い、国民負担も大きく増大しています。FIT制度導入以降、太陽光発電等の再エネ導入が進み、発電コストは低減傾向にあるものの、今なお国際水準と比較して高い状況にあり、国民負担の増大をもたらしています。
- 出典:
- 経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた制度改革の必要性と課題」より抜粋
- (注)
- 2017~2019年度の買収費用総額・賦課金総額は試算ベース。
2030年度賦課金総額は、買収費用総額と賦課金総額の割合が2030年度と2018年度が同一と仮定して算出。
kwh当たりの買収金額・賦課金は、(1)2018年度については、買収費用と賦課金については実績ベースで算出し、(2)2030年度までの増加分については、追加で発電した再エネが全てFIT対象と仮定して機械的に、①買収費用は総買収費用を総再エネ電力量で除したものとし、②賦課金は賦課金総額を全電力量で除して算出。
- 出典:
- 経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた制度改革の必要性と課題」より抜粋・一部修正
(2)FIT制度下で生じた国民負担の増大等の課題に対応する入札制や事業計画認定制度の導入
国民負担の増大という課題に関しては、「再生可能エネルギーの最大限の導入と国民負担の抑制との両立」を掲げて2016年に再エネ特措法の改正(2017年4月施行)を行い、コスト効率的に再エネを導入するための入札制の導入や、認定を受けたまま事業を開始しない未稼働案件などへの対策として適切な事業実施を確保するための事業計画認定制度の創設などを行いました。
今後、再エネの導入をさらに拡大していくためには、あらゆる政策を総動員し、国民負担を抑制していくことが必要不可欠です。
- (注)
- 発受電月報、各電力会社決算資料等をもとに資源エネルギー庁作成。
グラフのデータには消費税を含まないが、併記している賦課金相当額には消費税を含む。
なお、電力平均単価のグラフではFIT賦課金減免分を機械的に試算・控除の上で賦課金額の幅を図示。
- 出典:
- 経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた制度改革の必要性と課題」より抜粋・一部修正
COLUMN
再エネの導入拡大と価格の低下
2012年のFIT制度施行後、日本の再エネ導入は大きく加速しました。実際に、2012年から2018年の間に、水力を除く再エネの発電量は約3倍になっており、電源における再エネ比率は2018年で16.9%にまで拡大しています。導入の拡大によって、コストの低減が進む電源も出てきています。例えば太陽光は、普及とともに発電単価が下がったことに合わせて買取料金を順次引下げ、2019年現在では、太陽光発電の買取価格と市場の電力価格がほぼ同じ価格レベルにまでなっています。再エネの主力電源化に向けては、こうした競争力ある電源は、他電源と同様に電力市場に統合され、さらなる市場拡大を図ることが必要です。
- 出典:
- IEA「World Energy Balances 2019」より経済産業省作成
- ※
- 電気料金は、電力需要実績確保(電気事業連合会)及び各電力会社決算資料等に基づくもの。
2020年度の調達価格は、調達価格等算定委員会で示された意見を記載したものであり、現時点で経済産業大臣として決定したものではない点に留意が必要である。
- 出典:
- 電力需要実績確報(電気事業連合会)より経済産業省作成
2.再エネの主力電源化を実現するためのさらなる制度改革
(1)「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」における議論の概要
FIT制度下で生じた国民負担の増大や未稼働案件への対応等の課題に対しては、2016年の再エネ特措法改正により一定の対応がなされました。しかし、海外に比べ引き続き高い発電コストや、立地制約や系統制約の顕在化、天候の影響を受けて大きく変化する発電量を補う調整力の必要性など、残された課題や制度改正後に生じた変化に対応し、さらなる措置が必要です。
このため、2017年12月に、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会及び電力・ガス事業分科会の下に再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会を設置し、現行制度下でどのような政策対応が可能かについて議論を進めてきました。
その結果、再エネの「主力電源化」に向けた環境整備をさらに進めるためには、現行制度を前提とした政策対応だけでなく、FIT制度の抜本見直しに併せて、再エネ政策の再構築に取り組む必要があるとの結論に至りました。これを踏まえ、2019年9月、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の下に「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会」(以下、「主力化制度改革小委員会」という。)を設置し、必要な制度改革の議論を深めていくこととなりました。
- 出典:
- 経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた制度改革の必要性と課題」より抜粋
(2)「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会」における議論の概要
主力化制度改革小委では、再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会が2019年8月20日に取りまとめた「中間整理(第3次)」を踏まえ、FIT制度の抜本見直しと再エネの「主力電源化」に向けたさらなる環境整備について議論を行い、2020年2月に「中間取りまとめ」を公表しました。
この中で、①電源の特性に応じた支援制度、②地域に根差した再エネ導入の促進、③再エネ主力時代の次世代電力ネットワーク等の論点について、課題と対応の方向性が整理されています。それぞれについて、以下で紹介していきます。
- 出典:
- 経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた制度改革の必要性と課題」より抜粋
①電源の特性に応じた支援制度
ひとくちに再エネといっても、太陽光、風力、水力、地熱といった電源の種類や規模の大小に応じて特性が大きく異なることを踏まえ、これまでの政策等による再エネの電源種類ごとのコスト低減状況や地域貢献などを考慮した上で、導入促進のためのさらなる政策対応をきめ細かく分けていくことが必要です。
こうした考え方に基づき、(ア)電力市場でコスト競争に打ち勝って自立的に導入が進んでいくことによって競争力ある電源への成長が見込まれる「競争電源」と、(イ)需給一体的に活用され、災害時のレジリエンス強化やエネルギーの地産地消に貢献することによって地域において活用され得る「地域活用電源」の大きく2つに分類した上で、それぞれに必要な支援制度の詳細設計を進めていく必要があるとの考え方が示されました。
(ア)競争電源
再エネの主力電源化を実現するには、再エネが他の電源と同じように電力市場に統合され、競争の結果、需要家から選ばれる形で普及拡大していくことが望ましく、そのためには再エネの発電コストを低減していくことが欠かせません。これまで、発電コストが着実に低減している電源や、今後コスト競争力を高めていくことができると期待される電源(大規模事業用太陽光発電、風力発電等)は、「競争電源」と位置づけた上で、これらの電源が電力市場の中で、再エネ以外の電源と比べても競争力を有する電源となることを促すためには、さらなる制度整備が必要であるとの考え方が示されました。
その際、FIT制度で確保されている投資インセンティブについては、再エネのコスト競争力が他の電源と比べまだ十分でないことに鑑みれば、引き続きその確保が必要と考えられる一方、FIT制度に基づく市場取引の免除については、電力システム全体への悪影響を生じさせている状況を踏まえ、その見直しが必要です。こうした考え方の下、FIT制度に代わって、再エネの電力市場への統合を促す新たな制度の在り方として、ドイツやフランスといった欧州等を中心に導入が進んでいる「FIP(Feed inPremium)制度」(市場価値に一定のプレミアムを上乗せして交付する制度)を念頭に検討していくことが適当との考え方が示されました。
(イ)地域活用電源
需要地に近接して柔軟に設置できる電源(住宅用太陽光発電、小規模事業用太陽光発電等)や、地域に賦存するエネルギー資源を活用できる電源(小規模地熱発電、小水力発電、バイオマス発電等)は、「地域活用電源」と位置づけ、電力市場への統合に向けて現行制度下でのコストダウンを進めながらも、むしろ災害時のエネルギーレジリエンスの強化等にも資するよう、地域における需給一体型モデルの中で活用していくことが重要との考え方が示されました。
自家消費や地域と一体となった事業を優先的に評価するために、一定の要件(地域活用要件)を設定した上で、当面は現行のFIT制度の基本的な枠組みを維持することが適切との考え方が示されました。
- 出典:
- 経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた制度改革の必要性と課題」より抜粋
②地域に根差した再エネ導入の促進
再エネの主力電源化のためには、再エネが導入される地域で信頼を得て、地域社会と一体となった形で、責任ある長期安定的な事業運営が確保されることが欠かせません。これまでも、安全の確保、地域との共生、太陽光発電設備の廃棄対策等が進められてきましたが、FIT制度の導入を契機に急速に拡大してきた太陽光発電事業に対する地域の懸念や住民とのトラブル、法令違反が依然として存在しています。こうした地域における懸念を払拭し、責任ある長期安定的な事業運営が確保される環境を構築することも必要との考え方が示されました。
例えば、太陽光発電設備の解体・撤去及びこれに伴い発生する廃棄物の処理は、発電事業者の責任の下、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)」(廃棄物処理法)等に基づき行われる必要があります。FIT制度の下では、制度創設以来、廃棄等に必要だと想定される費用を織り込んだ形で調達価格を決定してきています。しかし、廃棄等費用を積立てている事業者は、2019年1月末時点で2割に届いていません。太陽光発電設備の廃棄等費用の確実な積立てを担保する制度について検討するため、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会新エネルギー小委員会の下に「太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキングループ」を設置し、2019年12月に「中間整理」を取りまとめました。
この中で、以下の要件に基づき、義務的な積み立てを求めること、当該積立金の取戻しの際には、廃棄処理が確実に見込まれる資料の提出を求めること、法令上の措置が必要なものについては再エネ特措法の抜本見直しの中で具体化した上で2022年7月までに開始すること等が示されました。(義務的積立ての要件)
- 対象:10kW以上すべての太陽光発電の認定案件
- 方式:源泉徴収的な外部積立 ※例外的に、長期安定発電の責任・能力を担うことが可能と認められる場合、確実な資金確保が可能な方法による内部積立ても許可
- 金額:調達価格の算定において想定してきている廃棄等費用の金額水準
- 時期:調達期間の終了前10年間
「太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキングループ 中間整理」の内容は、主力化制度改革小委員会に報告され、2020年2月の「主力化制度改革小委員会中間取りまとめ」にも反映されました。
- 出典:
- 経済産業省「太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループ中間整理」より抜粋・一部加工
- 出典:
- NEDO推計
COLUMN
地域に根ざした再エネに向けて
最近では、再エネの普及にともない自然災害による太陽光発電設備の崩落・浸水事故なども増加しています。法令で報告が義務づけられた50kW以上の設備の事故は、17年度は89件にのぼっています。2019年の台風15号・19号でも、35件以上の被害が確認されています。また安全に関する法令違反や風力発電の騒音等での住民とのトラブルも増えているといったケースも生じています。
再エネが地域に根ざして持続的にその導入を拡大していくためには、地元住民の理解を得ながら安全で安心できる再エネのさらなる普及が求められています。
- 出典:
- 電気保安統計年鑑(2017年度)より経済産業省作成。なお、2017年のデータから事故報告対象が500kW以上から50kW以上に拡大。写真は経済産業省「台風15号の停電復旧対応等に係る検証結果取りまとめ」より抜粋
- 出典:
- 経済産業省「再エネ事業の長期安定化に向けた事業規律の強化と地域共生の促進」より抜粋
(3)再エネ主力時代の次世代電力ネットワークの在り方
2012年のFIT制度導入以降、天候等に発電量が左右される再エネの導入が急速に進むにつれ、従来の考え方で運用されている系統では対応しきれない状況が生じるなどの課題が顕在化してきました。また、日本の系統整備の状況は、地域偏在性がある再エネの立地ポテンシャルを踏まえたものに必ずしもなっておらず、再エネ導入の観点からは最適ではないといった課題も顕在化してきています。
系統制約の克服のために、これまで、電源接続案件の募集や、既存系統を最大限活用するための「日本版コネクト&マネージ」といった新たな取組が進められています。しかし、今後、再エネの主力電源化を実現するには、こうした取組に加え、系統の増強・新設を含めたさらなる対策が必要との考え方が示されました。
①プッシュ型の系統形成と費用負担
再エネの大量導入を促しつつ、国民負担を抑制していくためには、電源からの接続要請に都度対応する「プル型」のネットワークではなく、地域ごとの再エネ電源等のポテンシャルを考慮した上で、一般送配電事業者や電力広域的運営推進機関等が主体的・計画的に系統設備の増強・新設判断を行っていく「プッシュ型」のネットワークとしていく必要があるとの考え方が示されました。
- 出典:
- 経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた制度改革の必要性と課題」より抜粋
②分散型グリッドの推進
2018年の北海道胆振東部地震や2019年の台風15号等の自然災害に伴う停電時に、倒木などで停電復旧までの期間が長期化した地域において、太陽光発電やコージェネレーションなどの分散型電源を活用した電力が地域内の系統を通じて各家庭や企業に供給され、住民の生活維持や企業の活動継続に貢献するなど、再エネが地域のレジリエンスを向上させた好事例が複数見られました。
こうした災害の教訓を踏まえ、特定の区域において、一般送配電事業者の送配電網を活用して、新規参入者自ら面的な系統運用を行うニーズが高まっていることが指摘されました。
こうした状況を受け、「持続可能な電力システム構築小委員会」において議論されたのと同様に、主要系統と接続した既存設備を運用・管理することによって、コスト効率化や地域のレジリエンスを向上させる新たな事業者の参画を促すため、一般送配電事業者から譲渡または貸与された配電系統を維持・運用し、託送供給及び電力量調整供給を行う事業者を、電気事業法で「配電事業者」として新たに位置付けるべきであるとの考え方が示されました。
配電事業者がアグリゲーターを介して分散型電源にまとめてアプローチできるようになれば、災害時における電力需給ひっ迫の解消への貢献も期待されます。アグリゲーターを適切な義務や規制の対象とすることにより規制の適用関係が明確化され、再エネをはじめとする分散型電源のさらなる普及が期待されます。
- 出典:
- 太陽光発電協会「災害時の太陽光発電の自立運転機能活用実態調査」より経済産業省作成
COLUMN
固定価格買取(FIT)期間満了となる住宅用太陽光発電と満了後の選択肢
2019年11月以降、住宅用太陽光発電のFIT期間満了を迎え、固定買取の対象から順次対象外になっています。その戸数は2023年までに165万戸、発電設備容量では670万kWがFIT対象外電源になります。事業用太陽光発電については、2032年7月以降、順次FIT対象外電源になっていく見通しです。
FIT対象外となった太陽光発電については、EVや蓄電池等と組み合わせて自家消費に役立てたり、消費し切れなかった余剰電力を電力会社に自由な契約で売買していくことなどが選択肢になってきます。今後、FIT対象外となる太陽光発電を柔軟に活用していくためにも、蓄エネルギー技術のさらなるコスト低減が望まれます。
- 出典:
- 経済産業省「更なる再エネ拡大を実現するためのエネルギー需給革新の推進」より抜粋・一部修正