災害に強い都市ガス、さらなるレジリエンス向上へ
スペシャルコンテンツでは、災害に強いエネルギーシステムの構築について、さまざまな取り組みが進められていることをお伝えしてきました(「より強い電力インフラ・システムをつくるために~災害を教訓に進化する電力供給の姿」「『法制度』の観点から考える、電力のレジリエンス ①法改正の狙いと意味」など参照)。このようなエネルギーの強靱性、つまり「エネルギーレジリエンス」は、電力だけでなく、ガスにおいても重要です。今回は、ガスの中でも「都市ガス」のレジリエンスについて、その特性や取り組みをご紹介しましょう。
災害時にも安定供給の実績をほこる都市ガス
都市ガスの導管は、そのほとんどが地中に埋められて設置されています。そのため、台風や豪雨など風雨による影響を基本的に受けにくく、近年の大きな台風や豪雨でも、ほかのインフラに比べて、ガスの支障件数(事故など支障が起きた件数)は非常に少なくなっています。
近年の台風・豪雨によるさまざまなインフラの支障件数
また、地中のガス導管は地震にも強く、多少の揺れでは損傷しないようにできています。ただし、地震時にあらかじめ定めた値よりも大きな揺れを感知した場合には、二次災害を防止するための保安措置としてガス供給を緊急停止し、導管や設備の安全性の確認をおこないます。
大規模な災害の場合には、この確認作業に多くの人手が必要となるため、早期に供給を再開できるよう日本全国のガス事業者の間では、災害時の相互応援体制が確立されています。
サプライチェーン全体でレジリエンスを強化
このように、これまでの災害で証明されてきた都市ガスのレジリエンスですが、将来に向けたさらなるレジリエンスの強化も欠かせません。そのため、ガスのサプライチェーンの上流から下流までさまざまな取り組みが進められています。
天然ガスのサプライチェーンにおけるレジリエンス強化
都市ガスの上流:原料となるLNGの確保と安定供給
都市ガスの原料となるのは「液化天然ガス(LNG)」です。日本は世界最大のLNG輸入国ですが、LNGの輸入量の約4割が都市ガスに利用されています。そのため、LNGの輸入がとだえてしまうと、都市ガスの供給にも大きな影響をあたえることになります。
LNGは、「化石燃料」と呼ばれる燃料の中でもCO2の排出量が少ないこと、成長が続くアジアなどの新興国ではこれまで以上にエネルギーが必要となっていることなどから、今後も世界でLNGの需要は増すと考えられています。こうした状況の中でも安定的にLNGを調達することは、ガスのレジリエンスを高める上で非常に大切です。
そこで、日本ではLNGの調達先や調達方法を多角化することで安定供給を図ろうとしており、現在も新しい供給源の確保に向けた取り組みを継続しています。また、急成長するアジアの需要を取り込み、日本が主導してLNGの国際市場をつくろうという動きもあります。
日本のLNG調達内訳
ガス業界全体の取り組みとしては、日本ガス協会が中心となって「大規模供給途絶時の対応ガイドライン」を策定しています。LNGの調達に何らかのトラブルがあり、自社のみでは対応できない場合、原料の融通をおこなうことができるようにしたものです。ガス事業者だけでなく、電気事業者や欧米の企業などとも連携して、LNGの調達やコストの低減に取り組む事業者もあらわれています。
都市ガスの中流:低圧ガス導管を耐震性の高いポリエチレン管へ交換
都市ガスを各家庭や工場などに届けるガス導管には、高圧・中圧・低圧の3種類があります。
このうち、高圧・中圧のガス導管については、地震発生時に被害を受けにくいよう設計・建設されており、阪神・淡路大震災クラスの地震にも耐えられます。実際に、東日本大震災でも、ガス供給に影響をおよぼすような被害は発生していません。
低圧ガス導管については、耐震性の低いガス導管から地震や腐食に強いポリエチレン管への取り替えが進んでいます。
都市ガスの保安対策の方向性を示すものとして、経済産業省の「産業構造審議会保安・消費生活用製品安全分科会ガス安全小委員会」で議論された「ガス安全高度化計画」では、「2025年度末に低圧ガス導管の耐震化率を90%にする」目標が設定されました。これを受けて、事業者が積極的な取り組みをおこなった結果、目標の大幅な前倒し達成が実現されたことから、次期目標として「2030年度末に95%に向上していく」ことが計画されています。
低圧ガス導管における耐震化率の推移
このような設備対策に加えて、緊急対策や復旧対策の強化もおこなわれています。緊急対策としては、被害の少ない地域では供給を継続できるよう、地域の導管網を適切な規模に分割する取り組み(ブロック化)を推進しています。加えて、二次災害防止を大前提として、ブロック内の耐震化率などに応じて、緊急停止を判断する揺れの基準値を引き上げ、大きな揺れでも供給を継続できるようにしています。復旧対策としては、大規模な災害を想定し、より迅速で円滑な初動対応を目指して、事業者間の連携を強化しているほか、さまざまなメディアを使った適切な情報発信に取り組んでいます。
都市ガスの下流:都市ガスで実現する「分散型エネルギーシステム」
災害によるトラブルに強くなるためには、供給サイドだけでなく需要サイド、つまり私たち利用者側にも、ガスのレジリエンスを高める対策が必要です。
需要サイドでおこなうレジリエンス向上の取り組みとしては、今、電源(電気をつくる方法)を需要家の近くなどに分散して設置する「分散型エネルギーシステム」について、その災害に対する有効性が期待されています。都市ガスを使って発電し、その際に発生する廃熱を冷暖房や給湯などに利用する高効率なエネルギーシステム「コージェネレーションシステム(コジェネ)」は、この分散型エネルギーシステムのひとつです。
コジェネは、家庭用では「エネファーム(家庭用燃料電池)」として、普及が拡大しています。(「知っておきたいエネルギーの基礎用語〜『コジェネ』でエネルギーを効率的に使う」参照)
コジェネ&エネファームの解説図
コジェネは、停電時でも継続的・安定的に電力や熱を供給することができ、地域ごとのエネルギーレジリエンス強化にとても役立ちます。実際に、近年の災害では、停電時にコジェネやエネファームなどが継続的に稼働して、社会機能を維持するのに役立ってきました。たとえば、2018年の北海道胆振東部地震で発生したブラックアウトでは、帰宅困難者の避難場所としてコジェネを備えた「さっぽろ創世スクエア」が活用され、街区の電力や熱を供給し続けることができました。
また、2019年の台風15号で発生した大規模停電では、千葉県の「むつざわスマートウェルネスタウン」が、道の駅および周辺の町営団地にコジェネで電力や排熱温水を供給し、防災拠点として機能しただけでなく、災害時の早期復旧にも貢献しました。
分散型エネルギーシステムを全国に普及拡大していくため、地域単位で「コージェネレーション・地域エネルギーシステム協議会(コジェネ協議会)」を設置し、分散型エネルギーシステムの導入事例やノウハウを共有する取り組みも進んでいます。この協議会はガス事業者だけでなく、地方自治体や地方経産局も参加する官民連携のプラットフォームとなっています。
ガスにも「スマートメーター」を導入
さらに、今後は都市ガスにおいても、電力で利用が進む「スマートメーター」の導入が進んでいくと考えられており、すでに一部大手ガス事業者では導入の検討・準備が進んでいます。
現在普及している「マイコンメーター」は、ガス漏れや震度5相当以上の地震の揺れを感知すると、ガスの供給を自動的に停止するなどの保安機能を持っています。スマートメーターを導入することで、既存のマイコンメーターが持つ保安機能に加え、平時には、ガスの漏えいや「過大流量」(ガスが不自然に大量に流れること)といった保安情報を、常に遠隔で監視することができるようになります。また災害が起こった時には、遠隔での復旧閉開栓が可能になり、よりいっそうの早期復旧が期待できるなど、さらなる保安・レジリエンス強化に結びつけていくことができます。
スマートメーターシステムの概念
このようなさまざまな取り組みにより、近年の激甚化する災害にも負けない強靱な都市ガスシステムをつくりあげていきます。
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電力・ガス事業部 ガス市場整備室
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