LPガス料金に影響?訴訟になるリスクも?知っておきたい、「LPガス」の商慣行

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「LPガス(液化石油ガス)」には、ガスボンベに充てんすれば山間部や離島などにも運ぶことができる、利用者のすぐそばに分散して設置されていることから災害に強いといったメリットがあります(「災害に強い分散型エネルギー、LPガスの利活用」参照)。ただ、このLPガスには、昔からのちょっと気になる商慣行が存在しているのです。今回は、あなたのガス料金にも影響を与えているかもしれないLPガスの商慣行と、改善に向けた動きについてご紹介します。

LPガス事業者がエアコンやWi-Fi機器を無償で提供?!

日本の家庭で使われるガスには、大きく分けて「LPガス」と、導管を通って各家庭に供給される「都市ガス」の2つがあります。32の道県では、LPガスの使用世帯数が50%を上回っているなど、LPガスは全国の多くの家庭で使用されています。

都道府県別 LPガス普及率(令和3年度末)
47都道府県における、LPガス普及率を示したグラフです。多い県では普及率が86%となっています。

(出典) 2023年版LPガス資料年報「LPガス消費世帯数」より

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LPガスを販売するLPガス事業者は、全国で1万6381者も存在(2022年12月末時点)しており、ひじょうに多いことがわかります。かつて、LPガス事業者は他社との競争に勝とうと、アパートやマンションといった賃貸集合住宅のオーナーにガス給湯器やガスこんろを無償で提供し、ガス供給契約を獲得するという手法をとっていました。これが始まりとなって、さまざまな「無償貸与」がオーナーに対しておこなわれることが、LPガス事業における商慣行となっています。

無償貸与されているのは、給湯器やガスこんろに加え、エアコン、インターホン、Wi-Fi機器など、住宅に必要なさまざまなモノです。LPガス事業者はこれらのモノを費用負担して集合住宅に提供し、その後LPガス料金に上乗せするかたちで集合住宅入居者から代金を回収するのです。

LPガス事業者が「賃貸集合住宅に無償貸与したことがある」と回答した設備・機器
LPガス事業者のアンケートから無償貸与したことのある設備などを聞いたグラフです。回答者の98.4%が給湯器と回答しているほか、テレビ、ドアチャイム、宅配ボックスなど多岐にわたっています。

(出典)令和3年度石油ガス流通販売経営実態調査

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さらに近年では、集合住宅オーナーや建設業者から無償貸与を要求され、断るとLPガス供給契約を受注できなくなる事例もあらわれています。LPガス事業者が、積極的に無償貸与をおこない営業攻勢をかけているといった事例もあります。

LPガス事業者への調査結果
オーナーからの要求に応じて機器の負担をしたことがあるかを尋ねたグラフです。61.7%が「負担したことがある」と回答しています。

契約戸数が多い事業者ほど、設備費用の負担をした割合が高い
(出典)令和3年度石油ガス流通販売経営実態調査

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行き過ぎた「無償貸与」がLPガスの料金にも影響

この無償貸与サービスが行き過ぎた結果、私たち消費者にも、LPガス事業者にも問題が生じています。

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①LPガス事業者が多くのモノを費用負担して提供し、その費用をLPガス料金に上乗せした場合、その物件のLPガス料金が高くなってしまいます。賃貸集合住宅の場合、消費者は入居してからLPガスの料金を知ることが多い上、料金に不満があっても受け入れるしかない状況となってしまいます。これでは、消費者には選択の機会が事実上あたえられません。

②さまざまな製品の費用負担ができないLPガス事業者は、オーナーからガス供給契約を断られるという圧力がかかるようになっています。ガス料金そのものではなく、無償貸与されるモノが多いか・高額かといった点でガス供給契約が決まり、それが消費者の利益につながらない…という“ゆがみ”が発生しているのです。

こうした状況を改善するべく、さまざまな対策がとられています。たとえば、入居前にLPガス料金情報を入居者に示そうという取り組みです。2021年に経済産業省と国土交通省から関係業界に協力を依頼。業界が連携して取り組みを進めています。

入居前にLPガス料金情報を提示する取り組み
LPガス事業者が、不動産管理会社やオーナーを経由し、不動産仲介業者を通じて、入居前の消費者に料金を知らせる仕組みを図解したものです。

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また、各地域のLPガス協会の中には、集合住宅オーナー向けに注意喚起のチラシを配布しているところもあります。行き過ぎた無償貸与は、LPガス事業者の切り替えができなくなる、入居者からのクレーム、ガス料金値上げによる入居率ダウン…など、集合住宅オーナーにとってもトラブルが起こる恐れがあるためです。

うちのLPガス配管は誰のもの?裁判になるケースも

一軒家においても、LPガスの気になる商慣行があります。一軒家では、LPガスは外に設置されたガスボンベから配管を通じて屋内の機器へと供給されます。工務店や建設業者は、一軒家を建設する際、この屋内配管の工事を自社が提携するLPガス事業者に依頼することがよくあります。

しかし実は、この時にかかった配管工事費は住宅建築費には含まれておらず、その結果、配管の所有権は配管工事をおこなったLPガス事業者が持ったままになっていることがあります。つまり、LPガス事業者が一軒家の家主に配管を“貸し付けた”状態で、LPガスを供給しているわけです。

かつて、こうした貸付配管が家主に告知されないままおこなわれ、家主がガス事業者を切り替えようとした際に判明して、とつぜん高額の配管費用が請求されるといった問題がありました。この時のLPガス事業者の行為は裁判などによって否定されており、1999年に経済産業省が作成した「流通アクションプラン」に基づいて、業界が「LPガス販売指針」を策定。「契約時に配管の所有権がLPガス事業者にあることを明示する」ことが規定され、家主との間で事前に合意をとりつけることが求められるようになっています。

とはいえ、貸付配管による次のような問題は残ったままです。

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①家主にとっては料金の不透明性という問題や、LPガス事業者とのトラブルになりかねないリスクがあります。また、LPガス事業者の切り替えが抑えられるため、事業者間での競争も起こりづらくなってしまい、それが消費者利益につながらないという恐れがあります。

②LPガス事業者とのガス供給契約を解約しようとした家主が、貸付配管の精算を求められ、支払いを拒否したところ訴訟になったという事例が多く発生しています。

こうした「無償貸与」や「貸付配管」という商慣行から起こっている問題を解決するべく、「総合資源エネルギー調査会」に設置された「液化石油ガス流通ワーキンググループ」において、現在、商慣行の改革に向けた取り組みを議論しています。2023年7月には、

リストアイコン いわゆる「無償貸与」など、顧客獲得のための過大な営業行為は、消費者の不利益につながるため制限する
リストアイコン LPガス料金に含まれる設備費用を外出し表示した上で、ガス消費とは関係のない設備の費用をLPガス料金として請求することを禁止することで、LPガス料金の適正化・透明化を図る
リストアイコン 賃貸住宅への入居前に、入居希望者たる消費者にLPガス料金情報を提示する

などの制度改正案が示され、2024年2月9日からこの案を示した中間とりまとめなどがパブリックコメントにかけられています。

長く続いてきた商慣行をどのように変えていくのか?LPガス料金の透明性は高くなるのか?今後のニュースに注目です。

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