成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
千葉県銚子沖の洋上風力発電(提供:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
2018年10月24日から12月まで開かれる臨時国会で、再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大に役立つ、ある法律が可決されました。それは、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」です。「海洋再生可能エネルギー発電」とは、海洋における再エネを活用して電気を生み出す発電方法のこと。その中でも洋上風力発電は、近年ヨーロッパで導入とコスト低下が急速に進んでおり、今後は日本においても本格的な普及が見込まれます。では、洋上風力発電を促進するために、どのような施策が進められようとしているのでしょうか。
海に設置された風車が風を受けて電気をつくる-。「洋上風力発電」と聞くと、そんなイメージを思い浮かべる人も多いことでしょう。こうした海における風力発電は「洋上風力発電」と呼ばれ、陸上よりも一般的に風況(風の状況)が良い、船舶で輸送するため道路輸送にくらべて制約が小さく、設備建設のための部材が運びやすいなどの利点があります。洋上風力発電には、風車の基礎を海底に固定する「着床式」と、海上に風車を浮かべる「浮体式」の2種類があります。「これからの再エネとして期待される風力発電」で、ヨーロッパでは風力発電が再エネの主力となっていることをご紹介しましたが、着床式の洋上風力発電も、ヨーロッパでは1990年頃から導入されており、以下のような発展の段階をたどっていると言われています。
洋上風力発電導入状況(②拡大期・成熟期以降)
(出典)第3回「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」におけるMHIヴェスタス社 資料
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特に近年のヨーロッパでは、洋上風力発電の導入量が年に1,000~3,000MWという規模で増えるなど、急激に拡大しています。2017年には累計導入量が15,780MWに達し、2012年の5,000MWから3倍以上に増加しました。
オランダのウインドファーム
背景には、いくつかの要因があります。まず、北海などのヨーロッパの海は「風況」つまり風の状況が良く、また海岸から100kmにわたって水深20~40mの遠浅の地形が続くなど自然環境に恵まれていることです。加えて、2000年代後半以降、洋上風力発電についてのルール整備が進められ、設置のための調査や、事業を実施する区域の選定、発電した後に電気を流す電力系統の確保などについて政府の役割が増しており、これによって事業者の開発リスクが低減されてきたことも大きな要因です。さらに、入札がおこなわれ、事業者間の競争が促されることで、価格が急速に低下している点も重要です。関連産業も成熟し、建築工法の改良による建設期間の短縮、大型風車(現在の主流は7~8MW級)の開発、基地港湾における産業集積の進展なども、コスト低下に役立っています。このような要因から、近年では入札での落札価格がkWhあたり10円未満の案件や、補助金ゼロで事業を実施できる案件が現れるなど、ヨーロッパでは洋上風力発電の急速な導入拡大と大幅なコスト低下が実現しているのです。
ヨーロッパにおける最近の洋上風力発電の入札の動向
(出典)各国政府資料等に基づき資源エネルギー庁作成
対して、日本における洋上風力発電の導入量は約2万kW(20MW)で、すべて国による実証事業です。もともと日本は、海底の地形が急に深くなる形状で、台風や地震も多いなど自然環境が厳しいことから、こうした環境への適応やコスト削減を図るための実証事業がおこなわれてきました。現在は、洋上風力発電の設置がもたらす影響を調べる「環境アセスメント」の手続き中の案件が約540万kW(5,400MW)に達するなど、企業が積極的に事業参入をおこなうフェーズに入っています。
洋上風力発電の導入状況および計画
しかし、以下の課題が明らかになってきており、事業の大きなハードルとなっています。
海域のうち大半を占めるのは「一般海域」と呼ばれる区域ですが、一般海域には、長期にわたって海域を独占して利用すること、つまり「占用」に関する統一されたルールがありません。各都道府県は条例により「占用許可」を出すことができますが、これは通常3~5年という短期間の許可となっており、また都道府県によって異なる運用がなされています。しかしこれでは、洋上風力発電事業者は中長期的な事業の見通しの予測が困難になり、資金調達が難しくなります。
海には、海運業や漁業など、先行して海を利用している事業者が多く存在します。しかしながら、洋上風力発電事業者から見れば、誰がどのように先行利用をおこなっているかの把握が難しく、また先行利用者から見れば、発電事業者に適切に意見を伝える方法がありませんでした。つまり、意見を調整するための枠組みが整っておらず、予期できない事業リスクと膨大な調整コストが事業実施の大きなハードルとなっています。
今後、日本でも洋上風力発電を増やしていくためには、ヨーロッパの取り組みも参考にしながら、これらの課題への対応策を組み合わせた導入促進策を進めていく必要があります。そこで政府は、2017年12月に一般海域利用についての検討チームを立ち上げるなど(「これからの再エネとして期待される風力発電」参照)、課題の解決に向けた検討を進めてきました。「再エネ海域利用法」は、これらの課題に対応しようとするものです。この法律では、国が、海洋再エネ発電に関する基本方針を定めた上で、海洋再エネ発電事業のための利用を促進する海域を指定したり、先行利用者との調整の枠組みを設けたり、海域の占用などにかかわる計画を認定することが定められています。「再エネ海域利用法」における、制度の具体的なしくみは以下の通りです。
つまり、この法律によって、事業者は最大で30年間、該当する海域を占用する権利を与えられます。また、利害関係者との調整の枠組みが明確になることで、安心して事業をおこなうことが可能となります。さらに、効率的な事業を実施するという観点から、公募にあたっては「供給価格」(電力を供給する価格)を重要な要素とすることで、事業者間の競争を促し、コスト低下につなげていくというしくみにもなっているのです。洋上風力発電を促進することは、周囲を海に囲まれた日本にとって、きわめて重要です。温暖化対策という観点はもちろんのこと、大規模開発によって国民負担の抑制と再エネの大量導入を実現できるほか、関連産業への波及効果や、地元産業に良い影響をあたえる可能性もあります。今回の法律の成立によりさまざまな課題が解決されることで、洋上風力発電の利活用が進むことが期待されているのです。
省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課
長官官房 総務課 調査広報室
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