第1節 東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故への取組

1.廃止措置等に向けた中長期ロードマップ

廃炉・汚染水・処理水対策は、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所廃止措置等に向けた中長期ロードマップ2」(2019年12月27日廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議決定。以下「中長期ロードマップ」という。)に基づいて進められています。2019年12月の改訂では、改めてリスクの早期低減・安全確保を最優先に進める「復興と廃炉の両立」を大原則として位置づけました。この大原則に基づき、個別の対策についても見直しを行っています(第111-1-1)。引き続き、国も前面に立って、東京電力福島第一原子力発電所の現場状況や廃炉に関する研究開発成果等を踏まえ、中長期ロードマップに継続的な検証を加えつつ、必要な対応を安全かつ着実に進めていきます。

【第111-1-1】中長期ロードマップ(2019年12月改訂)の概要

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【第111-1-1】中長期ロードマップ(2019年12月改訂)の概要(ppt/pptx形式:151KB)

資料:
経済産業省作成

2.汚染水・処理水対策等

原子炉建屋内では、原発事故により溶けて固まった燃料である「燃料デブリ」が残っており、水をかけて冷却を続けることで低温での安定状態を維持していますが、燃料デブリに触れた水は、高い濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」になります。この水が建屋に流入した地下水と混ざり合うことで、日々新たな汚染水が発生しています。2013年9月には、原子力災害対策本部において「汚染水問題に関する基本方針」が決定され、①汚染源に水を「近づけない」、②汚染水を「漏らさない」、③汚染源を「取り除く」という3つの基本方針に沿って、予防的・重層的に対策を進めています(第111-2-1、第111-2-2)。

【第111-2-1】汚染水対策の3つの基本方針と対応状況

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【第111-2-1】汚染水対策の3つの基本方針と対応状況(ppt/pptx形式:752KB)

資料:
経済産業省作成

【第111-2-2】汚染水対策の進捗

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【第111-2-2】汚染水対策の進捗(ppt/pptx形式:353KB)

資料:
経済産業省作成

汚染源に水を「近づけない」対策は、汚染水発生量の低減を目的としており、建屋への地下水流入を抑制するための多様な対策を組み合わせて進めています。具体的には建屋山側でくみ上げた地下水を海洋に排出する地下水バイパスを2014年5月から運用していることに加え、2015年9月からは「サブドレン」(建屋近傍の井戸)によって、建屋のより近傍で地下水をくみ上げ、建屋周辺の地下水位を管理する取組も実施しています。また、2016年3月に凍結を開始した凍土方式の陸側遮水壁(凍土壁)について、2018年3月に各分野の専門家で構成される汚染水処理対策委員会において、遮水効果が現れていると評価されており、2018年9月には全て凍結を完了しています(第111-2-3)。さらに、雨水の土壌浸透を防ぐ広域的な敷地舗装(フェーシング)についても、施工予定箇所の9割以上のエリアで工事を完了しています。これらの対策により、汚染水発生量は、対策実施前(2014年5月)の540㎥/日程度から、2022年度平均で90㎥/日程度まで低減しています。また、さらなる地下水流入抑制のため、局所的な建屋止水等を進めていく予定です。

【第111-2-3】凍土壁

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【第111-2-3】凍土壁(ppt/pptx形式:254KB)

資料:
経済産業省作成

汚染水を「漏らさない」対策は、海洋へ放射性物質が流出するリスクの低減を目的としています。2015年10月には、建屋の海側に、深さ約30m、全長約780mの鋼管製の杭の壁(海側遮水壁)を設置する工事が完了したことで、放射性物質の海洋への流出量が大幅に低減し、港湾内の水質の改善傾向が確認されています。また、多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)等により浄化処理した水については、鋼板をボルトで接合するフランジ型タンクに貯水していた水の移送等を進め、2019年3月からは漏えいリスクの低い溶接型タンクで全て保管しています。さらに、万一の漏えいにも備え、タンクから漏えいした水が外部環境に流出しないようにタンク周囲における二重の堰(二重堰)の設置や1日複数回のパトロール等を実施しています。

汚染源を「取り除く」対策としては、ALPSを始め、ストロンチウム除去装置等の複数の浄化設備により汚染水の浄化を行っています。また、原子炉建屋の海側の地下トンネル(海水配管トレンチ)に溜まっていた高濃度汚染水については、万一漏えいした場合にリスクが大きいため、2014年11月からポンプで汚染水を抜き取り、トレンチ内を充填・閉塞する作業を進め、2015年12月には高濃度汚染水の除去及びトレンチ内の充填を全て完了し、リスクの大幅な低減が図られました。建屋からの汚染水の漏えいリスクを完全になくすためには、建屋内滞留水中の放射性物質の量を減らす必要があります。このため、建屋内滞留水の除去や浄化を進め、2020年12月には、1~3号機原子炉建屋、プロセス主建屋、高温焼却炉建屋を除く建屋内滞留水処理を完了しました。また、1~3号機原子炉建屋について、2022~2024年度内に原子炉建屋滞留水を2020年末の半分程度に低減することを目標としていましたが、2号機については2022年3月に、1号機及び3号機については2023年3月にこの目標を達成しました。

さらに、大規模自然災害に対する対策にも取り組んでいます。津波対策としては、切迫性が高いとされている千島海溝津波に対する防潮堤の設置(2020年9月工事完了)に加え、2020年4月に内閣府が発表した日本海溝津波に対する防潮堤の設置工事等を進めています。また、近年国内で相次ぐ大規模な降雨に備え、浸水解析に基づき、排水路を改良しました(2022年8月供用開始)。こうした予防的・重層的な取組により、汚染水対策は大きく進んできています。

今後、雨水対策として、建屋周辺の舗装や、破損している1号機屋根のカバー等の対策を進めることで、汚染水発生量は2025年までに100㎥/日以下に、2028年度までに約50~70㎥/日に低減される見通しです。

しかし、汚染水問題の最終的な解決のためには、引き続き対策を重ねていくことが必要です。特に、汚染水を浄化処理し大部分の放射性物質を取り除いたALPS処理水3の取扱いについては、当面の課題となっています。

ALPS処理水の取扱いについては、6年以上にわたる有識者の検討等を経た上で、2021年4月の第5回廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議において、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」を決定し、安全性を確保し政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に、ALPS処理水を海洋放出する方針を公表しました。

その後、直ちに、「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」を新たに立ち上げ、同基本方針に定める対策について、政府一丸となってスピード感を持って着実に実行していくとともに、風評影響を受け得る方々の声をお聞きし、その懸念を払拭するべくしっかりと受け止め、必要な追加対策を機動的に講じていくこととしています。

同基本方針の決定以降、福島・宮城・茨城等、各地で開催したワーキンググループを始めとして自治体や農林漁業者等との意見交換を重ね、これらを踏まえ、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分に伴う当面の対策の取りまとめ」(2021年8月、第2回ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議決定)を策定しました。

また、この当面の対策の取りまとめ以降、政府は対策を順次実施してきました。さらに取組を加速させるため、対策ごとに今後1年の取組や中長期的な方向性を整理する「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた行動計画」(2021年12月、第3回ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議決定。以下「行動計画」という。)を策定し、この方針に沿って、各対策を進めてきました。2022年8月の第4回ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議において、行動計画を改定し、ALPS処理水の処分に伴う対策の強化・拡充の考え方を取りまとめました。そして、2023年1月の第5回ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議において、行動計画を改定するとともに、具体的な海洋放出の時期は、2023年春から夏頃と見込むと示しました。

現在、上記の行動計画に沿った取組が、関係各省において、着実に進められています。例えば、安全対策については、原子力規制委員会において、東京電力から提出されたALPS処理水の処分に係る実施計画に対する審査が、公開の場で行われています。この審査と並行して、国際原子力機関(以下「IAEA」という。)職員及び国際専門家が繰り返し来日し、東京電力の計画及び日本政府の対応について科学的根拠に基づき厳しく確認するとともに、その結果について国内外に高い透明性をもって発信されています。また、理解醸成の取組としては、漁業者を始めとする生産者や、その取引相手となる流通・小売事業者から消費者に至るまでサプライチェーン全体に係る皆さまに対して、ALPS処理水の安全性や処分の必要性に関する説明を行うとともに、国内外の消費者等に対して、テレビCMやWeb広告、新聞広告、SNS等を活用した広報を行う等の取組を進めています。またさらに、風評対策としては、事業者が安心して事業を継続・拡大できるよう生産性向上や販路拡大に対する支援等の様々な施策を講じるために必要な予算を計上しました。放出による影響を強く懸念する漁業者の方々に対しては、ALPS処理水の放出に伴う水産物の需要減少等の事態に対応するための緊急避難的な措置として、水産物の一時的買取り・保管、販路拡大等を行うための基金を創設しました。これに加えて、ALPS処理水の海洋放出に伴う影響を乗り越えるための漁業者支援に向けた基金も措置しました。

3.使用済燃料プールからの燃料取り出し

2011年に決定された「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」において、当面の最優先課題とされていた4号機使用済燃料プールからの燃料取り出しについては、2014年12月に燃料1,535体全てを共用プール等へ移送しました。3号機については、2019年4月から燃料の取り出しを開始し、2021年2月に全燃料566体の取り出しを完了しました。1号機については、2021年6月から原子炉建屋を覆う大型カバーの設置に向けた作業を実施しています(第111-3-1)。2号機については、2021年8月より、オペレーティングフロアの線量低減作業を実施するとともに、2022年6月に燃料取り出し用構台の設置に向けた工事を開始しました。引き続き、2031年内に全号機で取り出し完了することを目標に、安全を最優先に燃料取り出しに向けた準備作業を進めていきます(第111-3-2)。

【第111-3-1】1号機大型カバーの設置

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【第111-3-1】1号機大型カバーの設置(ppt/pptx形式:226KB)

資料:
東京電力の図を元に経済産業省作成

【第111-3-2】東京電力福島第一原子力発電所 1~4号機の状況

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【第111-3-2】東京電力福島第一原子力発電所 1~4号機の状況(ppt/pptx形式:176KB)

資料:
経済産業省作成

4.燃料デブリの取り出し

(1)燃料デブリの取り出しに向けた原子炉格納容器内の調査

燃料デブリのある1~3号機の原子炉建屋内は放射線量も高く、容易に人が近づける環境ではないため、遠隔操作機器・装置等による除染や原子炉内の調査を進めています(第111-4-1)。2019年12月に改訂された中長期ロードマップにおいて、初号機の燃料デブリの取り出し方法を確定し、2021年内に2号機で試験的取り出しに着手し、その後、段階的に取り出し規模を拡大していくことを示しました。

【第111-4-1】原子力発電所の構造

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【第111-4-1】原子力発電所の構造(ppt/pptx形式:371KB)

資料:
国際廃炉研究開発機構の図を元に経済産業省作成

1号機では、2017年3月に線量計と水中カメラを搭載したロボットを、ペデスタル(原子炉圧力容器を支える台座)の外側に投入して調査を実施しました。調査の結果、1階足場や原子炉格納容器底部において、放射線量や画像データを取得することができ、原子炉格納容器内部の損傷状況や、原子炉格納容器底部の堆積物を確認できました。2022年2月から2023年3月にかけて、前回の調査で確認できた原子炉格納容器底部の堆積物の分布等を把握するため水中ロボットを投入し、内部調査を実施しました。これまでペデスタル内外に堆積物、またペデスタル開口部及びペデスタル内の壁面下部のコンクリート損傷、鉄筋の露出を確認しました(第111-4-2)。今回の結果を踏まえ、東京電力はペデスタルの耐震性評価等を実施する予定です。

【第111-4-2】原子炉格納容器内部調査装置(水中ロボット)及び調査画像

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【第111-4-2】原子炉格納容器内部調査装置(水中ロボット)及び調査画像(ppt/pptx形式:922KB)

資料:
東京電力ホールディングス株式会社

2号機では、2019年2月に過去の調査装置を改良した伸縮式パイプ型調査装置を原子炉格納容器内に挿入し、堆積物に接触させ、硬さ等の情報を取得するとともに、小石状の堆積物をつかんで動かせること等を確認できました。現在、数グラムの燃料デブリを採取する「試験的取り出し」に向け、取り出し用のロボットアームを日英の企業で共同開発を進めています。2021年7月には、英国で開発していたロボットアームが日本に到着し、2022年2月より、日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センターにおいて、ロボットアームのモックアップ試験を実施しています(第111-4-3)。2022年8月、試験的取り出しにおける作業の安全性及び確実性を高める観点から、試験的取り出し装置であるロボットアームのソフトウェア改良等を行うため、2023年度後半目途で試験的取り出しに着手を目指すこととしました。

【第111-4-3】ロボットアームのモックアップ試験の様子

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【第111-4-3】ロボットアームのモックアップ試験の様子(ppt/pptx形式:1,384KB)

資料:
東京電力ホールディングス株式会社

3号機では、原子炉格納容器内の水位が高く、1階足場及び原子炉格納容器底部が水中下にあるため、2017年7月に水中遊泳ロボットによる調査を行いました。ペデスタル内側の1階足場及び原子炉格納容器底部を調査した結果、原子炉圧力容器の直下の部品(CRDハウジング支持金具)が複数箇所損傷していることや、ペデスタル内側の原子炉格納容器底部に、落下したと思われる1階足場の金具や炉心部の部品のほか、燃料デブリの可能性がある溶融物等を確認することができました。

なお、いずれの調査においても、周辺環境に影響は生じておらず、放射線モニタリングデータに有意な変動は見られていません。

(2)廃炉に向けた研究開発

廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、2016年4月から、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として日本原子力研究開発機構(JAEA)の「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)が、本格運用を開始しました(第111-4-4)。

【第111-4-4】モックアップ設備を有する楢葉遠隔技術開発センターと試験設備

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【第111-4-4】モックアップ設備を有する楢葉遠隔技術開発センターと試験設備(ppt/pptx形式:780KB)

資料:
国際廃炉研究開発機構(IRID)

また、2017年4月から、国内外の英知を結集し、廃炉に係る基礎的・基盤的な研究開発や人材育成に取り組む拠点として、「廃炉国際共同研究センター(現:廃炉環境国際共同研究センター)国際共同研究棟」(福島県双葉郡富岡町)を運用しています。

2018年3月には、燃料デブリや放射性廃棄物等の分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町)の一部施設が運用を開始しました。さらに、同センターを活用した分析実施体制の構築に向けて整備を進めており、2022年6月には第1棟が竣工しました(第111-4-5)。

【第111-4-5】燃料デブリや放射性廃棄物等の処理・処分技術の開発等を行う大熊分析・研究センター

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【第111-4-5】燃料デブリや放射性廃棄物等の処理・処分技術の開発等を行う大熊分析・研究センター(ppt/pptx形式:373KB)

資料:
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)

研究開発の実施に当たっては、有望な技術を有する海外企業も参画できるようにする等、国内外の英知を結集するための取組も進めています。2015年度以降、燃料デブリ取り出しのための基盤技術等の研究開発に、海外企業も参加しています。

5.廃棄物対策

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に伴い発生する固体廃棄物は、物量が膨大かつ多種多様な性状を有しているため、発生する廃棄物については、安全かつ合理的な保管・管理を徹底することが求められます。

固体廃棄物の適切な保管・管理を行うため、東京電力は、2016年3月に、今後10年程度の廃棄物の発生量を予測した「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の固体廃棄物の保管管理計画(以下「保管管理計画」という。)」を策定し、進捗状況等に応じて、毎年度改訂しながら、固体廃棄物貯蔵施設・減容施設の整備や焼却炉による減容処理等、廃炉工程を進める上で増加する廃棄物を適切に保管・管理するための取組を進めています。2023年2月20日に改訂された保管管理計画においては、国の中長期ロードマップの目標である「2028年度内までに、水処理二次廃棄物及び再利用・再使用対象を除く全ての固体廃棄物(伐採木、ガレキ類、汚染土、使用済保護衣等)の屋外での保管を解消し、作業員の被ばく等のリスク低減を図る」ために必要な取組等が定められています。

また、廃棄物の処理・処分の検討を進めていくためには、廃棄物の核種組成、放射能濃度等を分析することが必要ですが、事故炉である東京電力福島第一原子力発電所は、廃棄物の物量が多く、核種組成も多様であることから、分析試料数の増加に対応しながら、分析を進めていくことが重要です。今後、初号機の燃料デブリ取り出し開始以降からの第3期を目前に控え、廃棄物の分析体制の強化は重要な課題の1つです。東京電力は、今後の廃炉を効率的に進めるために必要な分析対象物と分析数を年度ごとに見積もった「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた固体廃棄物の分析計画」(以下「分析計画」という。)を、2023年3月30日に公表しています。この分析計画を着実に実行していくため、政府、東京電力、原子力損害賠償・廃炉等支援機構、日本原子力研究開発機構等の関係機関の連携の下、必要となる「分析人材の育成・確保」、「施設の整備」、「分析を着実に実施していくための枠組みの整備」等、分析体制の強化のための取組を進めています。この分析計画及び分析体制整備に必要な対応については、今後の分析作業の進捗や得られたデータに基づく検討を踏まえ、不断に見直しを行っていく予定です。

6.労働環境の改善

長期にわたる東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業を円滑に進めていくため、作業に従事するあらゆる方々が安心して働くことができる環境を整備することが重要です。

事故直後は、発電所構内全域で全面マスクと防護服の着用が必要であり、全面マスクについては装着すると息苦しい、作業時に同僚の声が聞こえづらい、防護服については動きづらい、通気性がなく熱がこもるといった課題がありました。これらは、作業時の大きな負担になるとともに、安全確保に当たっての課題ともなっていました。また、食事については、十分な休憩スペースもなかったことから、冷えたお弁当を床に座って食べるというような環境でした。

そのため東京電力は、発電所内の労働環境改善に継続的に取り組んできました。例えば、除染、フェーシング作業による環境線量低減対策を行うことで、全面マスクと防護服の着用が不要なエリアは、構内面積の96%まで拡大しました。さらに、1~4号機を俯瞰する高台について、マスクなしで視察が可能となる運用を開始しています。あわせて、ヘリポートを設置し搬送時間を短縮したことで緊急時の医療体制を強化する等、健康管理対策も充実してきました。また、食堂、売店、シャワー室を備え、一度に約1,200人を収容可能な大型休憩所を設置しました。食堂では、発電所が立地する大熊町内の大川原地区に設置した福島給食センターにおいて地元福島県産の食材を用いて調理した、温かくて美味しい食事を提供しています(第111-6-1)。

【第111-6-1】構内面積96%まで拡大した一般作業服等エリアと1,200人を収容可能な大型休憩所

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【第111-6-1】構内面積96%まで拡大した一般作業服等エリアと1,200人を収容可能な大型休憩所(ppt/pptx形式:689KB)

資料:
経済産業省作成

長期にわたる廃炉作業を着実に進めていくため、引き続き安全でより良い労働環境の整備に努めていきます。また、国内における新型コロナ禍を踏まえ、発電所では、出社前検温の実施やマスク着用の徹底、休憩所の時差利用等による3密回避等、感染拡大防止対策を行っています。

7.国内外への情報発信

長期にわたる廃炉作業は、帰還・復興が進展する周辺地域において住民の安心・安全に深く関わるものです。また、今もなお風評被害が根強く残っています。このため、国内外に対し、東京電力福島第一原子力発電所の現状についてわかりやすく正確な情報を発信するとともに、地域・社会の不安や疑問に答えていくことが重要です。

地元を中心とする国内への情報発信としては、周辺地域の首長や関係団体等が参加する廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会を開催し、廃炉・汚染水・処理水対策の進捗をお伝えしているほか、対策の進捗をわかりやすく伝え、様々な不安や疑問にお答えしていく動画・パンフレットの作成等に取り組んでいます(第111-7-1)。また、情報発信に際しては、双方向のコミュニケーションを意識し、住民に東京電力福島第一原子力発電所を視察いただき、その中で感じた疑問に直接お答えする視察・座談会の取組や、地元でのイベントへの廃炉関連ブースの出展や、コンテンツ制作における地元の方々の意見の事前聴取・内容への反映等の取組を進めています。東京電力も、2018年11月に東京電力廃炉資料館(福島県双葉郡富岡町)を開館し、事故当時の状況や廃炉・汚染水・処理水対策に関する情報発信を行っています。

【第111-7-1】福島の現状を伝える動画とパンフレット

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【第111-7-1】福島の現状を伝える動画とパンフレット(ppt/pptx形式:534KB)

資料:
経済産業省作成

また、国際社会とのコミュニケーションとしては、ウィーン(オーストリア)において開催されるIAEA総会において、これまで8回のサイドイベントを開催しました。直近では2022年9月に東京電力福島第一原子力発電所の廃炉及び福島の復興に係るサイドイベントをオンラインで開催しました。東京電力福島第一原子力発電所における廃炉や復興の進捗状況等の取組を紹介するプレゼンテーションやQ&Aセッションを通じて、参加者に対して理解の促進を図りました。

IAEAによるALPS処理水の安全性に係るレビューは、2021年7月に日本政府とIAEAとの間で、「東電福島第一原子力発電所ALPS処理水の取扱いに係るIAEAとの協力の枠組みに関する付託事項(TOR)」を署名し、本TORに基づき、2022年2月にALPS処理水の処分の安全性に関するレビューミッションが行われ、同年4月にIAEAは、本レビューに関する報告書を公表しました。この報告書では、国際安全基準に照らして、放出設備の設計において予防措置が的確に講じられていることや、人への放射線の影響は規制当局が定める水準より大幅に小さいこと等が確認されました。一方で、国内外の関係者の理解を得るため、現実に即した評価や説明の追加を求める等の指摘がありました。また、2022年11月には2回目の安全性に関するレビューミッションが行われ、2023年4月に2回目の安全レビューに関する報告書も公表されました。この報告書では、1回目のレビューでの指摘が適切に反映されていること、IAEA側の理解が深まったこと、追加ミッションは必要ないこと等が明記されました。引き続き、レビューの内容に関しても国際社会に向けて発信していきます(第111-7-2)。

【第111-7-2】ALPS処理水の処分の安全性に関するレビューミッションの様子

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【第111-7-2】ALPS処理水の処分の安全性に関するレビューミッションの様子(ppt/pptx形式:948KB)

資料:
経済産業省作成

さらに、原子力発電施設を有する国との二国間関係としては、政府や産業界等の各層において協力関係を構築しており、継続的に情報交換を行っています。また、在京外交団等や特に関心を有する国・地域に対し、廃炉・汚染水・処理水対策の現状及びALPS処理水の海洋放出に係る対策の進捗等について、累次にわたって説明する機会を設けているほか、IAEAや様々な国際会議における説明、政府のホームページにおける情報提供等を実施してきています。このほか、国内外の報道関係者に対しても説明を実施してきています。

2
本ロードマップは2011年に決定された「東京電力(株)福島第一原子力発電所1〜4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(2011年12月21日原子力災害対策本部政府・東京電力中長期対策会議決定)を継続的に見直しているものであり、廃炉措置等に向けた取組の基本方針です。
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東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分に関する基本方針の決定を機に、風評被害の防止を目的に、「ALPS処理水」の定義を変更し、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と呼称することとしました。