第2節 原子力被災者支援
東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、政府は2015年6月、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を改訂し、国として取り組むべき方向性を提示しました。その後、福島の復興・再生に向けた取組は着実な進展を見せています。
一方で、復興の進捗にはいまだばらつきがあり、長期にわたる避難状態の継続に伴って、新たな課題も顕在化してきました。住民の方々が復興の進展を実感できるようにするためには、被災地域の実情を踏まえて、対策をさらに充実させていく必要があります。このような状況を踏まえ、原子力災害からの福島の復興・再生を一層加速していくため、2016年12月に「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」を閣議決定し、必要な対策の追加・拡充を行うこととしました。具体的には、早期帰還支援と新生活支援の両面の対策のより一層の深化、事業・なりわいや生活の再建・自立に向けた取組の拡充等を行うこととしています。また、帰還困難区域については、可能なところから着実かつ段階的に、政府一丸となって、1日も早い復興を目指して取り組んでいく方針を示し、特定復興再生拠点区域4の整備に向けた制度の構築を行うこととしました。
同指針に基づき、第193回国会において「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律(平成29年法律第32号)」が成立しました。同法には、特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画制度の創設、福島相双復興官民合同チーム(以下「官民合同チーム」という。)の体制強化、「福島イノベーション・コースト構想」の推進、風評被害払拭への対応の4つの柱に加え、被災12市町村が帰還環境整備に取り組むまちづくり会社等を「帰還環境整備推進法人」に指定できる制度、子どもへのいじめ防止のための対策、地域住民の交通手段の確保についても、その後押しを行うため、法律に位置づけることとされました。この改正法の内容を盛り込むため、2017年6月には「福島復興再生基本方針」を改定しました5。
その後の復興施策の進捗状況や、原子力災害からの復興の状況等を踏まえ、2019年3月に「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針の変更について」を閣議決定し、復興・創生期間における取組に加え、復興庁の後継組織の考え方について示す等、復興・創生期間後における復興の基本的方向性を示しました。
様々な取組により復興は大きく前進した一方、復興の進展に伴い新たな課題も生じており、こうした状況を踏まえ、2019年12月に「『復興・創生期間』後における東日本大震災からの復興の基本方針」(以下「2019年基本方針」という。)を閣議決定し、原子力災害被災地域については、中長期的な対応が必要であり、引き続き国が前面に立って取り組むこと、当面10年間、本格的な復興・再生に向けて取り組むこと、従来の帰還環境整備に加え移住等の促進に取り組むこと、復興庁の設置期間を10年間延長すること等が示されました。特に、帰還困難区域を抱える地方公共団体の状況はそれぞれ大きく異なることから、避難指示解除区域や特定復興再生拠点区域への帰還・居住に向けた課題について、個別かつきめ細やかに町村と議論し、取組を推進することとしています。
2019年基本方針に基づき、2020年6月には東日本大震災からの復興を重点的かつ効果的に推進するため、第1期復興・創生期間後の復興を支える仕組み、組織及び財源について必要な法律上の手当てを盛り込んだ「復興庁設置法等の一部を改正する法律(令和2年法律第46号)」が成立したところであり、引き続き、復興のステージが進むにつれて生じる新たな課題や多様なニーズにきめ細やかに対応しつつ、本格的な復興・再生に向けた取組を行うこととしています。
同法により改正された「福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)」(以下「福島措置法」という。)には、新たな住民の移住・定住の促進や交流人口・関係人口の拡大、営農再開の加速化、福島イノベーション・コースト構想のさらなる推進、風評被害への対応等が盛り込まれ、2021年4月1日に全面施行されました。さらに、改正された福島措置法を踏まえ、2021年3月には、「福島復興再生基本方針」を改定し、同年4月には、本方針に即して福島県知事が作成した「福島復興再生計画」を内閣総理大臣認定しました。
この法改正を踏まえ、2020年7月には「令和3年度以降の復興の取組について」を復興推進会議決定し、2021年度から2025年度までの5年間を新たな復興期間として「第2期復興・創生期間」と位置づけ、引き続き国が前面に立って本格的な復興・再生に向けて取り組むこととしています。2021年3月には、2019年基本方針を見直す形で、「『第2期復興・創生期間』以降における東日本大震災からの復興の基本方針」を閣議決定しました。
また、福島イノベーション・コースト構想をさらに発展させるために、廃炉のための研究開発拠点の整備等の従来の取組に加え、「創造的復興の中核拠点」としてのF-REIの設立に向けた検討を進め、2022年3月には「福島国際研究教育機構基本構想」を決定するとともに、同年5月には「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律(令和4年法律第54号)」が成立しました。この改正法の内容等を盛り込むため、2022年8月には「福島復興再生基本方針」を改定するとともに、同年12月には、福島県知事から変更認定申請を受けた「福島復興再生計画」を内閣総理大臣変更認定しました。
1.避難指示区域等
(1)避難指示解除区域等における取組
避難指示解除については、2020年3月までに、帰還困難区域を除いて、全ての避難指示解除準備区域と居住制限区域の避難指示の解除を行ってきました。帰還困難区域については、JR常磐線の全線運転再開にあわせて、富岡町、大熊町、双葉町の帰還困難区域に設定されている特定復興再生拠点区域の一部区域(JR常磐線の3駅周辺)の避難指示の解除を初めて行いました。その後、2022年6月12日には葛尾村の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、帰還困難区域において初めて住民の帰還が可能となりました。同月中には大熊町、同年8月には双葉町、2023年3月には浪江町、同年4月には富岡町、同年5月には飯舘村の特定復興再生拠点区域の避難指示もそれぞれ解除されました。解除後の本格的な復興のステージにおいても、政府一丸となって、市町村ごとの課題にきめ細かく対応するとともに、国・県・市町村が連携しながら、産業の再生や雇用創出、インフラ・生活環境の整備、避難者の生活再建支援6等、当該区域の復興及び再生をさらに進めていきます。
(2)帰還に向けた安全・安心対策
政府としては、2016年12月の「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」において、以下のような総合的・重層的な防護措置を講じることとしています。
- 住民の方々の放射線不安に対するきめ細かな対応
- 避難生活の長期化等や放射線による健康不安への適切な対応
- 関係省庁におけるリスクコミュニケーションの取組の強化
- 生活支援相談員について、帰還後も支援を継続できるよう支援対象の明確化や関係省庁との連携促進
こうした取組を通じ、住民の方々が帰還し、生活する中で、個人が受ける追加被ばく線量を、長期目標として、年間1ミリシーベルト以下にすることを引き続き目指していくこととしています。また、線量水準に関する国際的・科学的な考え方を踏まえた日本の対応について、住民の方々に丁寧に説明を行い、正確な理解の浸透に努めています。
2.帰還困難区域への対応
帰還困難区域は、2011年12月に警戒区域と計画的避難区域の見直しを行った際、「将来にわたって居住を制限することを原則とした区域」として設定されました。一方、事故後5年が経過した2016年8月31日に、一部では放射線量が低下していることや、地元の強い要望を踏まえ、原子力災害対策本部・復興推進会議で「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」を決定し、帰還困難区域のうち、5年を目途に、線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す特定復興再生拠点の整備等について、基本的な考え方を示しました。
こうした中、2017年9月以降、双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村における特定復興再生拠点区域復興再生計画を内閣総理大臣が認定しました。また、2018年11月までに全ての特定復興再生拠点の整備が開始され、現在、国と自治体が連携してこれらの計画に基づく事業を進めています。2018年12月の第47回原子力災害対策本部において特定復興再生拠点区域の避難指示解除に向けた取組とその進め方を決定しました。2020年3月には、JR常磐線の全線開通にあわせて、双葉町、大熊町、富岡町の帰還困難区域に設定されている特定復興再生拠点区域の一部(JR常磐線の3駅周辺)について初めて避難指示を解除しました。その後、2022年6月12日には葛尾村の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、帰還困難区域において初めて住民の帰還が可能となりました。同月中には大熊町、同年8月には双葉町、2023年3月には浪江町、同年4月には富岡町、同年5月には飯舘村の特定復興再生拠点区域の避難指示もそれぞれ解除されました。
引き続き、福島県や市町村の意向を踏まえながら、関係省庁と緊密に連携して、特定復興再生拠点区域の帰還環境の整備に全力で取り組んでいきます。
帰還困難区域の特定復興再生拠点区域外については、2021年8月31日に決定した「特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた避難指示解除に関する考え方」(原子力災害対策本部・復興推進会議)に基づき、2020年代をかけて、帰還意向のある住民が帰還できるよう、帰還に関する意向を個別に丁寧に把握した上で、帰還に必要な箇所を除染し、避難指示解除の取組を進めていくこととしています。この政府方針を実現するため、2023年2月には「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律案」を第211回国会に提出しました。残された土地・家屋等の扱いについては、地元自治体と協議を重ねつつ、引き続き検討を進めていきます。また、2020年12月の第52回原子力災害対策本部において、特定復興再生拠点区域外の居住を前提としない土地活用による避難指示解除に関する仕組みを決定しました。これに基づき、2023年5月に、飯舘村の特定復興再生拠点区域外の一部について、公園用地として避難指示が解除され、本仕組みを活用した初めての解除となりました。引き続き、この仕組みについて、国は、各自治体の意向を十分に尊重し、運用していきます。
3.環境汚染への対処
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じており、これによる人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となりました。こうした状況を踏まえ、「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号)」が可決・成立し、2011年8月30日に公布されました。
本法律は、除染の対象として除染特別地域と汚染状況重点調査地域を定めています。除染特別地域は、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域で、国が除染実施計画を策定し、除染事業を進めてきました。他方、汚染状況重点調査地域は、地域の空間放射線量が毎時0.23マイクロシーベルト以上の地域がある市町村について、あらかじめ関係地方公共団体の長の意見を聴いた上で国が指定し、各市町村等が除染を行ってきました。除染特別地域(帰還困難区域を除く)については2017年3月に、汚染状況重点調査地域については2018年3月に、除染実施計画に基づく面的除染が完了しました。
また、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む除去土壌等や、福島県内に保管されている10万ベクレル/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全かつ集中的に管理・保管する施設として、中間貯蔵施設を整備しています。
中間貯蔵施設事業の実施に当たっては、「『第2期復興・創生期間』以降における東日本大震災からの復興の基本方針」(2021年3月閣議決定)及び「令和5年度の中間貯蔵施設事業の方針」(2023年3月公表)に沿って、特定復興再生拠点区域等で発生した除去土壌等の搬入や、中間貯蔵施設内の各施設の安全な整備・管理運営等、安全を第一に、地域の理解を得ながら事業を実施していきます。
中間貯蔵施設整備に必要な用地全体の面積は約1,600haを予定しており、2023年3月末までの契約済面積は約1,285ha(全体の約80.3%。うち、民有地は、全体約1,270haに対し、約93.8%に当たる約1,191haについて契約済)、1,853人(全体2,360人に対し約78.5%)の方と契約に至っています。
中間貯蔵施設については、2016年11月から受入・分別施設と土壌貯蔵施設等を整備しました。受入・分別施設では、福島県内各地にある仮置場等から中間貯蔵施設に搬入される除去土壌を受け入れ、搬入車両からの荷下ろし、容器の破袋、可燃物・不燃物等の分別作業を行います。土壌貯蔵施設では、受入・分別施設で分別された土壌を放射能濃度やその他の特性に応じて安全に貯蔵します。2017年6月に除去土壌等の分別処理を開始し、2017年10月には土壌貯蔵施設への分別した土壌の貯蔵を開始しました。また、2020年3月には、中間貯蔵施設における除去土壌と廃棄物の処理・貯蔵の全工程で運転を開始しました。
中間貯蔵施設への除去土壌等(帰還困難区域を含む)の輸送については、2023年3月末までに累計で約1,346㎥の輸送を実施しました。また、より安全で円滑な輸送のため、運転者研修等の交通安全対策や必要な道路交通対策に加えて、輸送出発時間の調整等、特定の時期・時間帯への車両の集中防止・平準化を実施しました。
福島県内の除去土壌等については、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることとされています。除去土壌等の福島県外での最終処分に向けては、最終処分量の低減を図ることが重要です。このため、県外での最終処分に向けた当面の減容処理技術の開発や、除去土壌等の再生利用等に関する中長期的な方針として、2016年4月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」を取りまとめ、2019年3月に見直しを行いました。また、2016年6月には、除去土壌等の再生利用を段階的に進めるための指針として、「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方について」を取りまとめました。
これらに沿って、福島県南相馬市小高区東部仮置場及び飯舘村長泥地区において、除去土壌を再生資材化し、盛土の造成等を行うといった再生利用の安全性を確認する実証事業を実施してきました(なお、南相馬市の実証事業については、2021年9月に盛土を撤去済)。2022年度は、飯舘村長泥地区における実証事業で、農地造成、水田試験及び花き類の栽培試験を実施しました。これまでに飯舘村長泥地区の実証事業で得られた結果からは、空間線量率の上昇は見られず、盛土の浸透水の放射能濃度は概ね検出下限値未満となっています。また、福島県外においても実証事業を実施すべく、関係機関等との調整を開始しました。
減容・再生利用技術の開発に関しては、2022年度も大熊町の中間貯蔵施設内に整備している技術実証フィールドにおいて、中間貯蔵施設内の除去土壌等も活用した技術実証を行いました。また、2022年度は双葉町の中間貯蔵施設内において、仮設灰処理施設で生じる飛灰の洗浄技術・安定化に係る基盤技術の実証試験を開始しました。
そして、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向け、減容・再生利用の必要性・安全性等に関する全国での理解醸成活動の取組の1つとして、2022年度は2021年度に引き続き、全国各地で対話フォーラムを開催しており、これまで、第5回を広島市内で2022年7月に、第6回を高松市内で同年10月に、第7回を新潟市内で2023年1月に、第8回を仙台市内で同年3月に開催しました。さらに、2022年度も引き続き、一般の方向けに飯舘村長泥地区の実証事業に係る現地見学会を開催したほか、大学生等への環境再生事業に関する講義、現地見学会等を実施する等、次世代に対する理解醸成活動も実施しました。
加えて、中間貯蔵施設にて分別した除去土壌の表面を土で覆い、観葉植物を植えた鉢植えを、2020年3月以降、首相官邸、環境省本省内の環境大臣室等、新宿御苑や地方環境事務所等の環境省関連施設や関係省庁等に設置を進めています。なお、鉢植えを設置した前後の空間線量率にいずれも変化は見られていません。
4.原子力災害の被災事業者等のための自立支援策、風評被害対策
住民の方々が帰還して故郷での生活を再開するために、また、外部から新たな住民を呼び込むために、働く場所、買い物をする場所、医療・介護施設、行政サービス機能といった、まちとして備えるべき機能が整備されている必要があります。避難指示が解除された多くの市町村内において学校が再開し、また、第二次救急医療機関が開院し、消防署も再開する等、生活環境の整備は進展していますが、まちの様々な機能を担っていた事業者の多くは、住民の避難に伴う顧客の減少、長期にわたる事業休止に伴う取引先や従業員の喪失、風評被害による売上減少といった苦難に直面しており、こうした状況を克服するためには、生活、産業、行政の三位一体となった政策を進めていく必要があります。
こうした状況を踏まえ、2015年8月24日に、国、福島県、民間(福島相双復興推進機構)からなる官民合同チームが創設されました。その主な活動内容は、避難指示等の対象となった12市町村の被災事業者を個別に訪問し、事業再開等に関する要望や意向を把握するとともに、その結果を踏まえ、事業再建計画の策定支援、支援策の紹介、生活再建への支援等を実施していくことです。国、県、民間が一体となって腰を据えた支援を行うため、「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律(平成29年法律第32号)」(2017年5月19日公布・施行)に、福島相双復興推進機構へ国の職員の派遣を可能とする等の措置を盛り込み、2017年7月から経済産業省及び農林水産省の職員を派遣する等、体制強化を図りました。
チームは総勢271名の体制で、福島県内(福島市、いわき市、南相馬市等)と東京都内の計6か所を拠点にしており、個別訪問等を実施しています(第112-4-1)。商工業分野においては、チーム発足翌日から事業者訪問を開始しており、これまでに、約5,800者に訪問し、そのうち約1,600の事業者に、専門家によるコンサルティングを実施する等、被災事業者の自立に向けた支援に取り組んでいます(2023年3月末時点)。
【第112-4-1】福島相双復興推進機構(官民合同チーム)の概要
【第112-4-1】福島相双復興推進機構(官民合同チーム)の概要(ppt/pptx形式:123KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
農業分野についても、2016年7月から国と県により認定農業者約500者への個別訪問を実施した後、2017年4月から官民合同チームによる認定農業者以外の農業者の個別訪問を開始し、これまでに約2,600者の訪問を実施しています(2023年3月末時点)。また、速やかな営農再開に向けて、官民合同チームが被災市町村等を訪問し、集落座談会における営農再開支援策の説明等を行うとともに、地域農業の将来像の策定やその実現に向けた農業者の取組を支援しています。今後も官民合同チームによる個別訪問等を通じて課題を把握し、支援の充実を図っていきます。
2017年9月以降は、分野横断・広域的な観点から、商業施設やまちづくり会社の創設・運営、企業誘致に係る戦略策定等、12市町村のまちづくり専門家支援も進めているほか、交流人口拡大に向けた情報発信支援や、外部からの人材の呼び込み・創業支援の取組を進めています。さらに、2021年6月からは、新たに浜通り地域等15市町村の水産関係の仲買・加工業者等への個別訪問を開始しており、これまでに99者に訪問し、そのうち60の事業者に販路開拓や人材確保等の支援を実施しています(2023年3月末時点)。
事業・なりわいの再建は徐々に進みつつありますが、地域によって復興の状況は異なります。今後も官民合同チームは、被災事業者の帰還、事業・なりわいの再建を進め、まちの復興を後押しすべく、個々の実情を踏まえたきめ細かな対応を粘り強く続けていきます。
このように、事業者の方々による取組やまちの復興をサポートする体制が整いつつある一方で、事故発生後いまだに継続している風評被害の存在は、農林水産業を始めとして、福島の産業・なりわいの復興の大きな妨げとなっています。放射線に関する正しい知識、福島の復興の現状や農林水産物を始めとする県産品の安全性や質の高さを国内外に正しく発信し、風評を払拭していくことが大きな課題です。各種の国際会議等を含めて、あらゆる機会を活用し、風評対策を強力に推進していきます。特に農林水産物については、生産段階における第三者認証取得や安全性検査への支援、流通・販売段階における販路開拓への支援等、あらゆる段階で風評払拭に必要な支援を行うことにより、安全性についての消費者の正しい理解を促進し、県産品のブランド力の回復を後押ししていきます。
こうした取組をより実効的なものとしていくために、福島特措法に基づき、2017年度から毎年度、流通段階における販売不振の実態や要因の調査を行い、その結果に基づき復興庁、農林水産省、経済産業省の連名で、小売業者等への指導や生産者への助言等に関する通知を発出する等の対応をしています。また、国、福島県、農業関係団体等が参画する「福島県産農林水産物の風評払拭対策協議会」により、風評被害の実態や施策の効果を継続的に検証する体制を構築しています。
さらに、テレビやインターネット、SNS、ラジオ等あらゆる媒体を活用した、正確でわかりやすい効果的な情報発信や、在京大使館への働きかけ及び海外メディアによる被災地の訪問取材等を進めており、日本産食品への輸入規制措置を講じた55か国・地域のうち、43か国・地域が輸入規制措置を撤廃しています(2023年3月末時点)。引き続き、2017年12月に策定された「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」に基づき、関係府省庁が連携して風評払拭に向けて、工夫を凝らした情報発信等に取り組んでいきます。
5.福島イノベーション・コースト構想
福島イノベーション・コースト構想については、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会7の開催時に、世界中の人々が、浜通りの力強い再生の姿に瞠目する地域再生を目指して検討が始まり、特に震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業・雇用を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指して、2014年6月に、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会において取りまとめられました。
福島イノベーション・コースト構想の実現に向けて、多岐にわたる課題を政府全体で解決していくため、2017年5月に福島特措法を改正し、同法に福島イノベーション・コースト構想を位置づけました。この改正法に基づき福島県が策定した重点推進計画について、2018年4月に内閣総理大臣の認定を行うとともに、同日に開催した第2回福島イノベーション・コースト構想関係閣僚会議において、「福島イノベーション・コースト構想の今後の方向性」を一部改正しました。また、復興・創生期間後も見据えた浜通り地域等の自立的・持続的な産業発展の姿と具体的な取組を示すため、2019年12月に「福島イノベーション・コースト構想を基軸とした産業発展の青写真」を復興庁・経済産業省・福島県の3者で策定し、青写真を踏まえた重点推進計画の改定について2020年5月に内閣総理大臣の認定を行いました。また、重点推進計画が統合された福島復興再生計画について、2021年4月に内閣総理大臣の認定を行いました。
加えて、福島県は、2017年7月に、福島イノベーション・コースト構想を推進する中核的な組織として、一般財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構を設立しました。同機構は、2018年4月より体制を順次強化し、2019年1月には公益財団法人に移行しました。また、「復興庁設置法等の一部を改正する法律(令和2年法律第46号)」(2020年6月公布・一部施行)に、国職員をその身分を保有したまま、当該職員を同機構に派遣することができる措置を盛り込み、2020年度から順次、国職員を派遣し、体制強化を図っています。
廃炉やロボット等の分野における技術開発・拠点整備等のプロジェクトは、現在着々と具体化が進められています。例えば、福島ロボットテストフィールドは、物流、インフラ点検、災害対応で活躍するロボット・ドローンの研究開発や、実証試験と性能評価が1つの場所で実施可能な、世界に類を見ない研究開発拠点です。2020年3月には全面開所し、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や内閣府の研究開発プロジェクトにおいて活用されているほか、民間企業の利用も進んでおり、「空飛ぶクルマ」の試験飛行の場所としても活用されています。また、2020年9月の「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」等の見直しにより、福島ロボットテストフィールドにおける研究開発のためのドローンの飛行のための手続が容易となったように、関係省庁等と連携して、福島ロボットテストフィールドの有する設備や環境を活かして拠点としての優位性を高めていきます。なお、世界中のロボット関係者が一堂に集まり、ロボットの社会実装と研究開発を加速させることを目的とした競演会「World Robot Summit 2020」の一部の競技を、2021年10月に福島ロボットテストフィールドで開催し、地元企業連合チームが災害対応の部門で準優勝を飾る等、その技術力の高さを証明しました。さらに、福島県は「福島浜通りロボット実証区域」として、各市町村や関係機関等と事業者等の仲介を行い、ロボットやドローンの実証試験や操縦訓練の場を提供しており、2023年3月末時点で1,058件以上の実証試験が実施されています。
廃炉関連分野では、2016年4月から、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)の本格的な運用が開始されています。また、廃炉に向けて国内外の英知を結集する拠点である廃炉環境国際共同研究センター国際共同研究棟(福島県双葉郡富岡町)の運用が開始されました。さらに、2018年3月には、放射性物質分析・研究施設「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町)の施設管理棟の運用が開始され、2022年6月からは中・低線量の廃棄物試料を分析する第1棟の運用が開始されました。人材育成については、2018年10月に、廃炉事業に必要な技術者を養成するため、放射線防護教育等の基礎・基盤的な技能を身につけるための研修施設として「福島廃炉技術者研修センター」(東京電力福島第一原子力発電所内)が設置されました。
原子力災害を中心とした複合災害の記録と記憶を後世に継承し、世界と共有する「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉郡双葉町)は、2020年9月の開館後、来館人数が18万人を超えています(2023年3月末時点)。通常展示に加え、「地図と写真でみる東日本大震災」企画展等を開催し、また東京において所蔵資料を出張展示する特別展も開催しました。
また、災害及び復興に向けた取組の実態や、福島が抱える課題(風評・風化・リスクコミュニケーション等)に関する調査研究事業の本格的な研究が開始されています。環境・リサイクル分野では、2015年以降、福島県が環境・リサイクル産業の集積を図るため立ち上げた「ふくしまエネルギー・環境・リサイクル関連産業研究会」(2022年11月改称)の会員によって、太陽光パネル、バイオマス系廃棄物、二次電池、風力発電設備のリサイクル等のテーマについて、事業化に向けた検討が進められています。
エネルギー分野では、福島イノベーション・コースト構想の取組を加速し、その成果も活用しつつ、福島県全体を未来の新エネ社会を先取りするモデル創出拠点とする「福島新エネ社会構想」(2016年9月7日策定、2021年2月8日改定)を推進していきます(福島新エネ社会構想については、第3節参照)。
これらの取組に加えて、福島イノベーション・コースト構想をさらに発展させる観点から、研究開発、産業化及び人材育成の中核となる「創造的復興の中核拠点」としてのF-REIの新設に向けて、2022年3月に、F-REIの機能等を具体化する「福島国際研究教育機構基本構想」を復興推進会議で決定しました。同年5月には、F-REI設立に係る規定を新設した「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律(令和4年法律第54号)」が成立し、同年8月に、同法に基づく「新産業創出等研究開発基本計画」を策定しました。また、同年9月、F-REIの立地を浪江町とするとともに、F-REI設置の効果が広域的に波及するよう取組を進めることを復興推進会議において決定しました。さらに、同年12月には、F-REIの長期・安定的な運営に必要な施策の調整を進めるため、「福島国際研究教育機構に関する関係閣僚会議」の開催を復興推進会議において決定する等、準備を進め、2023年4月にF-REIを設立したところです。F-REIは、①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信の5分野の研究開発に取り組むこととしており、例えばエネルギー分野においては、カーボンニュートラル社会の実現に向けた、様々な研究開発を実施していくこととしています。
福島イノベーション・コースト構想の推進に向けた道筋は、拠点の整備や主要プロジェクトの具体化に留まりません。これらの拠点やプロジェクト等も活用しながら、地元企業と浜通り地域の外から進出してくる企業とが一体となって、重点分野における実用化技術開発を進めていくことが必要であり、民間企業が主体となって行う実用化開発等を支援しています。2021年度からは、浜通り地域等の自治体と連携して実施する実用化開発等を重点的に支援する制度を新設しました。また、浜通り地域をスタートアップ創出の先進地とすることを目指し、実証フィールドの整備やスタートアップの実用化開発等の重点支援等を実施していきます。さらに、同じく2021年度から、自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金について、本構想の重点分野の補助率を引き上げる制度改正も行いました。加えて、福島イノベーション・コースト構想推進機構が福島相双復興推進機構とも連携しながら、地元企業と進出企業の連携による新たなビジネス機会の創出に向けたビジネスマッチングの取組等を実施しています。2020年度からは、浜通り地域等で起業創業を目指す企業や個人等に対して、専門家による伴走支援等を行う「Fukushima Tech Create」事業も実施しています。さらには、拠点の強みを活かした交流人口の拡大や、生活環境の整備、高等教育機関等における研究活動の促進、初等中等教育機関と大学、企業等とが連携した構想を支える人材の育成等を推進しています。
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- 帰還困難区域のうち、5年を目途に、線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す復興拠点を指します。
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- 福島復興再生基本方針は、福島復興再生特別措置法第5条に基づく原子力災害からの福島の復興及び再生に関する施策の総合的な推進を図るための基本的な方針で、2012年7月に閣議決定し、2017年6月、2021年3月、2022年8月に改定されています。
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- 2018年7月に避難指示区域等における被災者の生活再建に向けた関係府省庁会議(第3回)において「避難指示区域等における被災者の生活再建に向けた対応強化策」を取りまとめました。
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- 2020年3月30日に東京オリンピックは2021年7月23日から同年8月8日に、東京パラリンピックは同年8月24日から同年9月5日に開催されることが決定され、それぞれ同日程で開催されました。