第2節 国内電力・ガス産業の動向
1. 我が国電力・ガス市場の自由化等の取組と産業の動向
(1)電力・ガスの自由化
2016年4月の電力の小売部門の自由化以降、異業種からの活発な新規参入(2017年3月現在で約380事業者が小売電気事業に登録済)が進み、多様な料金メニューの提供等を通じた競争の活性化など、改革に伴う一定の効果が表れ始めています。具体的には、2016年12月の電力取引報によると、電力の小売全面自由化で新たに自由化された市場において、新電力への契約の切替えを選択した需要家が全国で約3.6%となっています。また、地域の既存電力会社が設定した自由料金メニューへの切替えを選択した需要家も約3.6%となっており、両者を合わせると、約7.2%の消費者が自由料金メニューへの切替えを行っています(電力の小売全面自由化の進捗状況については、第3種第6章第1節3を参照)。小売部門の全面自由化が行われています。ガスについては、これまでの改正で、自由化領域の販売量は一般ガス事業の販売量全体に占める比率で64%まで拡大してきていましたが、今回の全面自由化を契機に、ガスの市場で更なる競争が進展することが予想されます。また、電力からガスへ、ガスから電力への相互参入が可能となり、欧州で見られたように、総合的にエネルギーを取り扱う企業が生まれてきています。
(2)動き始めたJERAの挑戦
2015年4月、燃料・火力融合によるシナジー効果、資産・調達規模の拡大、市場プレゼンスの拡大による「グローバル・エネルギー事業者」を目指し、東京電力・中部電力の共同出資で「JERA」が設立されました。
2016年7月には、東京電力・中部電力の既存燃料事業、国外発電事業、エネルギーインフラ事業が統合れ、LNG調達については、年間約3,900万トンと世界最大級 (我が国LNG輸入量の約5割)となっています。さらに、2017年春には両社の既存火力の統合について方針を発表しており、これによって、ガス・石炭をあわせた火力発電設備量は、欧州のガス火力の主要プレーヤーであるEngieにも比肩する水準まで拡大することとなります。(2020年想定)
こうした規模のメリットを最大限に活かして、バーゲニングパワーのある燃料の調達や、燃料トレーディング事業への進出などに取り組んでいます。石炭のトレーディングについては、JERAの規模となったことで、EDFの子会社であるEDFTradingを買収するなど、JERAの規模のメリットが既に表れ始めているといえます。
さらに、JERAは規模の拡大に加えて、従来東京電力が進めていた燃料事業開発のノウハウと、中部電力が進めていたトレーディング事業や多様な燃料の活用ノウハウが組み合わさることで、国外発電の拡大等のサプライチェーン全体における積極的なグローバル展開も掲げています。先ほどのフランスのEngieとの規模の比較で言えば、国外での発電規模にはまだ差がある状況ですが、足下、持分出力で600万kW程度(計画・建設中案件含む)である国外での発電規模を、2030年までに2,000万kW程度と、3倍以上に増加させることを目標としています。
JERAの具体的な取組はいずれも始まったばかりであり、成果として表れてくるのは今後のこととなりますが、自由化や国内外の市場の変化に対応して、機能別再編を通じた世界市場での活躍を目指す事業者の取組として、注目が寄せられています。
※2015年度の一般家庭等の通常の契約口数(約6,253万件)を用いて試算
- 出典:
- 電力・ガス取引監視等委員会 電力取引報(2016年12月実績)
【第132-1-2】ガス小売自由化の歴史
- (注1)
- 小売全面自由化後も、需要家保護の観点から、競争が進展していない地域においては、経過措置として小売料金規制を存続させる。
- 出典:
- 資源エネルギー庁
- 出典:
- JERA提供資料より資源エネルギー庁作成
- 出典:
- JERA提供資料より資源エネルギー庁作成
【第132-1-5】JERAの石炭トレーディングの商流(EDF Trading買収後)
【第132-1-5】JERAの石炭トレーディングの商流(EDF Trading買収後)(ppt/pptx形式:472KB)
- 出典:
- JERA提供資料
- 出典:
- JERA提供資料より資源エネルギー庁作成
(3)我が国のエネルギー企業の対応
JERA以外のエネルギー企業においても、国外展開や、従来のエリアを越えた事業展開、電力・ガスの相互参入、上流下流等の異分野への進出、デジタル化への投資など、新しい動きが表れ始めています。
①国外展開を強める企業の事例
これまで以上に国外への進出が志向され始めており、多くの企業では、経営計画等において積極的な目標を打ち出しています。
例えば関西電力では、国外事務所設置等を通じた現地ネットワーク強化や投資地域・対象を欧米・再エネ等に拡大することで、2025年目標として国外発電容量を10~12GWへ拡大することを(2017年2月現在1.4GW)掲げています。また電源開発では、アジアや米国を中心とした地域で高効率かつクリーンな石炭火力技術を武器に、2025年には国外発電容量10GW(2017年3月現在6.7GW)を目指しています。また、東京電力は、その技術力を活かした送配電分野の国外展開を目指しており、東京ガスは原料価格の低減と国外事業の拡大、大阪ガスは国外ダウンストリーム事業の拡大を目指すなど、各社はそれぞれの強みを活かした国外展開を目指しています。
- 出典:
- 各社の中期経営計画等を基に資源エネルギー庁作成
- 出典:
- J-POWER資料
なかでも電源開発(J-POWER)の国外展開の歴史は古く、1962年にペルーの水力発電計画への国外技術協力(コンサルティング)がその起点となります。現在、国外コンサルティング事業はアジアや中南米を中心に64か国335件となっています。(2017年3月末時点)
また、国外での発電事業についても、長年にわたる着実な取組により、現在では6か国約670万kW(持分出力)の実績を有しています。特にタイでは、2013年カエンコイⅡガス火力発電所(1,468MW・49%持分)への投資から本格的な事業展開が始まり、2007年7つのSmall Power Procedures、2014年ノンセン・ガス火力1、2号機、2015年ウタイ・ガス火力1、2号機運転開始など積極的に展開しており、約450万kW(同社国外電源の約67%)の持分出力を確保しています。(2017年3月末時点)
今後は、旺盛なエネルギー需要が望めるタイ、インドネシア等のアジアや、豊富な事業機会が見込める米国を中心として、発電能力並びに国外での収益向上を目指すこととしています。
※2016年度持分相当利益は未確定
- 出典:
- J-POWER提供資料
- 出典:
- J-POWER 提供資料
ガス事業者についても同様に国外展開を志向する動きが見られます。大阪ガスは、ガス販売事業等の中下流ビジネスを、東南アジアを中心に取り組んでいます。
特に、2013年に大阪ガスの子会社であるOsaka Gas SingaporeとCITY GAS(顧客数約75万戸)は、シンガポール産業用天然ガス市場で共同販売事業を目的に、産業用天然ガス販売会社であるCity-OG Gas Energy Servicesの株式売買契約を締結しました。
当該会社は、大阪ガスのエネルギーソリューションノウハウとCITY GASの天然ガス販売事業インフラを活用し、化学業・食品業を中心とした産業用市場において、ガスの需要開発から販売までを行っています。
- 出典:
- 大阪ガス提供資料
東京ガスは、2014年に100%子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズとガスマレーシア社でガスマレーシアエネルギーアドバンス社を共同設立し、マレーシアで東レが展開する東レグループマレーシアへ、電力・蒸気をトータルで供給するエネルギーサービスを提供する基本合意を締結しました。また、2015年にも、東レがアメリカのサウスカロライナ州に新設する工場に対して同様のサービスを提供する基本合意を締結しています。
たとえばマレーシアの事例では、当該サービスの導入により、小規模な設備投資で約20%の省エネ、約30%のCO2排出量の削減を図ることができるとされており、今後我が国が地球規模での温室効果ガス排出削減に貢献していく上で、こうした新興国等での削減への貢献は、極めて重要な要素になってくると考えられます。
②電力・ガス相互参入の事例
電力ガスの小売全面自由化によって、電気事業者がガスの供給へ、ガス事業者が電気の供給へ、それぞれ相互に参入する状況が生まれています。その際に既存の事業エリアを越えた展開を行う例もあり、例えば九州電力は、東京ガス、出光興産と連携をし、関東エリアに200万kW級の石炭火力を新設するため、千葉袖ヶ浦エナジーを設立しています。これは、出光興産の燃料調達力、九州電力の発電所運転ノウハウ、東京ガスの関東圏での顧客基盤などのシナジーを狙ったものとされています。その他にも、東京電力エナジーパートナーが日本瓦斯会社と、関西電力が岩谷産業と、東京ガスや大阪ガスがNTTファシリティーズと連携するなど、新たな事業分野への参入に当たって、他者とのアライアンスが進んでいると言えます。
- 出典:
- 各社HP等より資源エネルギー庁作成
③上流・下流分野への進出事例
先述のJERAの事例において、火力発電から上流の燃料調達、燃料トレーディング事業への注力の例を紹介しましたが、ガス事業者においても上流進出等の事例が見られます。
東京ガスは、住友商事と共同で、米国メリーランド州コーブポイントLNGプロジェクトの事業主であるDominion Cove Point LNG社(ドミニオンコーブポイントLNG社、以下「ドミニオン社」)と天然ガス液化加工契約を締結しました。本プロジェクトは、米国内で生産されるシェールガスをはじめとした天然ガスを精製・液化して、LNGとしての輸出を可能にするものです。また、住友商事と東京ガスは米国法人を設立し、米国産天然ガスを調達・ドミニオン社へ液化加工を委託し、そこで液化された年間約230万トン分のLNGを、東京ガス及び関西電力に向けて販売することとしています。
また、大阪ガスは、非エネルギー分野である「ライフ&ビジネスソリューション事業」の強化を図っております。その一つとして、100%子会社である大阪ガスケミカルでは、大阪ガスで天然ガス転換以前に行っていた石炭ガスの製造を通じて蓄積してきた技術等を基盤に、付加価値の高い機能性材料を開発・販売しています。2014年には水・空気の浄化等に利用される活性炭事業で世界トップクラスのシェアを持つJacobi Carbons AB(本社スウェーデン、以下「Jacobi」)を取得し、大阪ガスケミカルの推計によると、2015年には活性炭事業で世界第2位、高付加価値のヤシ殻活性炭に関してはトップシェアとなっています。今後は、活性炭事業のグローバルバリューチェーンの拡充を通じ、競争力のさらなる強化が期待されます。
- 出典:
- 大阪ガス提供資料
④デジタル化等への投資の事例
データ分析、センサリング等の各種の技術進歩は、電力・ガス分野においても、新たな付加価値の創出やコスト改善における、新たな可能性となっています。
火力発電所においては、IoTの活用による保守業務の効率化や運転効率の最適化の取組が始まっています。例えば、遠隔監視センターを設置し、運転保守のエキスパートが24時間体制でガスタービンの稼働状況を監視しながら、1ユニットあたり2,000点の監視データをセンサーで収集し、刻々と変化する監視データから、予兆検知・性能劣化の診断を行い、常時顧客と連携して状況に応じた最適なアドバイスを行い、トラブルの未然防止およびプラント稼働率の最大化を実現するための取組などが行われています。
再エネ分野では、電力各社において、太陽光発電を中心とする再エネの出力の推定や予測が必要になっています。例えば関西電力においては、気象庁の衛星画像を利用して、日射量を推定・予測する日射量短時間予測システム「アポロン」を開発しました。アポロンは1km四方の日射量を、最大3.5時間先まで3分刻みで推定・予測可能であり、関西電力管内の太陽光発電の出力推定・予測に活用されています。
送配電分野においても、設備の老朽化や再エネの導入拡大に伴い新たな設備投資の必要性が増大する中、デジタル化等による修繕・投資の効率化や保守・監視の取組が行われつつあります。電力インフラにおける送電線や鉄塔の巡視・点検では、習熟した保全作業員による目視点検が主流となっていますが、山間部などのアクセスしにくい場所を点検する場合、点検場所までの移動に時間がかかるほか、高所作業では危険が伴います。ドローンを使用することで、高所の送電線や鉄塔上部の画像を撮影することができ、迅速な状況把握・作業時間の短縮・安全性の向上に繋がることが期待されています。
電力小売分野においては、スマートメーターの導入を契機とした新しいサービスの創出に向けた取組が行われています。例えば小売分野で期待されている技術の1つであるディスアグリゲーション技術は、分電盤に小さなセンサーを設置し、全体を分離・ラベル付けすることで、家庭で「どの家電が」、「いつ」、「どれくらい」使用されているかが推定できる技術であり、この技術を活用することで、スマートな電力情報インフラ構築(ディマンドレスポンス余力把握や行動誘発型ピークシフト)や消費者の便益(=新サービス機会)創造が期待されています。
ガス分野においても、災害復旧においてモバイルシステムを活用した迅速な復旧への取組などが行われています。
東京ガスは、東日本大震災後の2013年にインターネットに接続可能な携帯端末を使用し、開栓作業結果を報告するシステム(災害復旧支援モバイル報告システム(TG-DRESS))を開発しました。携帯端末による高い汎用性とシンプルな操作性で、災害時の作業員増員への円滑な対応が可能となり、熊本地震では、この技術を活用し開栓業務の所要時間を約30%削減することに成功しています。
【第132-1-14】新たな見える化の仕組み
- 出典:
- インフォメティス社提供資料
- 出典:
- 東京ガス提供資料
⑤地域における新たな取組の事例
自由化を受けて、様々な企業が地域密着の事業を加速させています。
一足先に自由化が行われた電力については、2016年12月時点で販売実績のある事業者数は290者ある中、地域を限定して事業を展開する事業者も半数程度存在しており、地域の需要家の多様な選択肢の確保に寄与しています。
その他、ガス供給や熱供給を行う事業者も含めて、地域に根差したエネルギー事業者は、自治体出資のある事業者も存在し、その多くは、地域内の企業、商店街、自治体などと連携して多様な料金メニュー・サービスを提供しています。
また、既存の大手電気事業者でも地域密着型の取組を進めている事例もあります。中国電力は、自社が保有する4,500件を超える特許と地域の中小企業のニーズをマッチングさせ、活用を促すことで、地域と一体となった経済成長を目指しています。
ドイツにおけるシュタットベルケの位置づけを考えれば、こうした地域密着型の取組も、地元からの強固な信頼を獲得する上で重要な取組となる可能性があります。
- 出典:
- 資源エネルギー庁調べ
【第132-1-17】地域におけるガス事業者、熱供給事業者の取組内容等の例
- 出典:
- 資源エネルギー庁調べ