再エネの発電量を抑える「出力制御」、より多くの再エネを導入するために

鹿児島の太陽光発電所の写真です。

鹿児島の太陽光発電所

2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、「再生可能エネルギー(再エネ)を主力電源化していく」ことが打ち出され、その方針を受けて、現在もさまざまな再エネの導入に向けた検討がおこなわれています。そんな中、再エネの発電量を減らすために特定の発電機を停止させる「出力制御」がおこなわれるかもしれないという話がきこえてきます。一見矛盾するようにも思えるこの話、いったいどういうことなのでしょう?今回は「再エネ大量導入」と「出力制御」の関係について見てみましょう。

九州地方は再エネ先進地域

日照条件に恵まれている九州地方では、今でも毎月5万kWのペースで太陽光発電の導入が進んでいます。2018年7月末時点で、合計約800万kWの太陽光発電が導入され、九州地方の太陽光発電の導入比率は全国の約2割におよんでいます。

こうした太陽光発電などの再エネ導入が拡大した結果、九州では多くの電気が再エネでまかなわれています。2018年のゴールデンウィーク、5月3日の13時には、九州地方における再エネの出力(発電した電気の量)は、需要すべてのうち93%(太陽光だけでも81%)に相当する量を記録しました。つまり、この時間帯は、九州で使われているほとんどの電気が再エネで発電されていたことになります。

2018年5月3日の九州の電力需給実績
2018年5月3日の九州の電力需給実績を示した図です。

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国際エネルギー機関(IEA)は、太陽光発電や風力発電のような、自然条件によって発電量が変動する再エネの導入比率がどれくらい進んでいるかによって、世界の国や地域を4つのグループに分けています。その中で九州地方は、日本で唯一、再エネ導入が進む欧州各国(ドイツ、スペイン、英国など)と同じ「フェーズ3」に位置づけられています。まさに、日本の再エネ先進地域といえます。

各国の変動再エネ比率と運用上のフェーズ(2016)
各国の変動再エネの比率と運用上のフェーズがどこにあるかを示した図です。

(出典)IEA「System Integration of Renewables」を基に作成

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ただ、太陽光は昼間には最大の発電量を記録するものの、夕方にかけて太陽の光が弱くなると、発電量が減少していきます。このように、出力が変動する太陽光発電をうまく活用していくためには、火力発電所で不足ぶんをおぎなったり、余った電気を揚水発電所の水をくみ上げることに使うなどして、うまく需要と合わせていくことが重要です。電気は、瞬時瞬時で需要と供給を一致させる必要があります。このため、需要と供給のバランスが崩れてしまうと、広域で停電してしまう可能性があります。再エネを大量に導入することと、電力を安定的に供給していくことを両立させていくことが、非常に重要となるのです。

太陽光の発電を制御するってどういうこと?

電力の需給バランスを保ち広域で停電が起こることを回避するため、発電量が需要量を上回ってしまう場合には、発電量を調整していくことが必要になります。この時、どういう順番や考え方で発電量と需要量を一致させていくのかを決めているのが「優先給電ルール」です。太陽光の発電の制御も、このルールに基づいておこなわれます。このルールに基づく制御の順番は電源の特性に合わせて決められており、その順番は大まかに言うと、①火力の制御、揚水の活用(余った電気を利用した水のくみ上げ)→②ほかの地域への送電→③バイオマスの制御→④太陽光・風力の制御→⑤水力・原子力・地熱の制御となっています。

優先給電ルールに基づく対応
優先給電ルールに基づく対応フローを示した図です。

「原発を先に止めるべきではないのか?」という疑問の声もあります。どうして、太陽光や風力の制御の順番を一番最後にしないのでしょうか。それには、各電源(電気をつくる方法)が持つ技術的な特徴が関係しています。水力・原子力・地熱は「長期固定電源」と呼ばれ、発電量を短時間で調整することが難しいという特徴があります。一度発電を抑制すると、出力をすぐに元に戻すことができないのです。一方、もしも長期固定電源を太陽光より先に止めてしまい、太陽光を抑制せずに使うとすると、前述したように太陽光は時間帯などによって発電量が変わるため、発電しない時間帯が生じてしまいます。その時間帯は火力発電でカバーしなくてはならなくなり、国民負担の増加や、CO2を多く排出してしまうことにつながります。たとえば、100万kWの原子力発電所(原発)を止めて、太陽光と火力で同じ量の電気を供給した場合、概算すると1日当たり1.3億円の国民負担が増加してしまうことになります。(※)

長期固定電源を再エネに変えた場合に起こる変化を示した図です。

※発電コストを原子力10円/kWh、太陽光24円/kWh、火力(LNG)14円/kWh、太陽光の発電比率を14%(残りを火力)として機械的に概算した数字。

このような理由から、出力制御がおこなわれる時には、太陽光・風力は水力・原子力などより先に制御の対象とされるわけです。

この出力制御のルールは、再エネを導入する際のルールとして位置づけられ、発電事業者にもあらかじめ知らされています。しかし裏を返せば、自然条件によって発電量が変動するという難しさのある太陽光・風力発電でも、万が一発電しすぎた場合には出力制御をおこなうことができるという安全弁があるおかげで、安心して電力網への接続量を増やすことができるのです。接続量が増加した結果、再エネの発電量は、たとえ出力制御がおこなわれる時間帯が生じたとしても、1年を通した全体としてみれば、増加することになります。つまり、出力制御は、再エネ導入に役立つ対応なのです。実際、前述のIEAの分類において「フェーズ4」に位置づけられるアイルランドや「フェーズ3」に位置づけられるスペインなどでも、出力制御を条件とすることで再エネの導入を進めており、実際に出力制御がおこなわれることがあります。

九州地方で出力制御は起こるの?

太陽光発電の急速な導入が進む九州地方では、今後、涼しくなって電力消費が減少していくと、出力制御がおこなわれる可能性が高まります。たとえば、多くの電気を使う⼯場などが休みになる週末で、あまりクーラーも使われなかったので電⼒需要が大きく下がったという場合や、太陽光よりも制御順が後になっている水⼒発電所の発電量が大⾬によって急激に増えた、といったような場合、太陽光の出⼒を抑える必要がでてくるかもしれません。

こうした再エネの出力制御は、原発の運転状況に関わらず、再エネが増えれば必然的に起きうるものです。実際に、原発のない諸外国(アイルランドなど)や日本の一部の離島(種子島など)でもすでにおこなわれています。つまり、出力制御は、需要の動向や天候、各発電所の運転状況など、複合的な要因によって発生しているのです。

新たにビジネスを始める再エネ事業者にとってみれば、どの程度出力制御がおこなわれるかということは、事業性を判断する上で大変重要な情報です。このため、九州電力を含む電力会社は、国の審議会(総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ)や各社のホームページにおいて、再エネの導入実績や今後の出力制御量・時間の見通しを公表しています。また、出力制御に対する再エネ事業者の理解を深めるための周知活動を実施しています。さらに、再エネの出力制御を確実に実施して電力の安定供給を維持するため、九州電力と再エネ事業者との間で2017年の秋以来、「出力制御対応訓練」を複数回にわたって実施し、再エネ事業者との連携強化に努めています。

加えて、こうした再エネの制御を可能な限り少なくするための取り組みも進めていきます。たとえば、九州地方と中国地方をつなぐ「関門連系線」がより多く電気を流せるようになると、九州地方で電気が余った場合にも、再エネを制御するのではなく、中国地方や関西地方で電気を消費してもらうことができるようになります。このため、これまでに関門連系線の運用方法の見直しや予算事業を通じて、流せる再エネ電気の量をこれまでの約2倍に増やしてきました。さらに、2018年度末には3倍程度にまで拡大していきます。

実際の再エネの出力制御は、資源エネルギー庁が定めた指針に基づき輪番で制御していくことで、特定の事業者に負担が寄らないようなやり方でおこないます。事後的に、その手続きの「透明性」、再エネ事業者間の「公平性」などをしっかりと確認していくことも大切です。

再エネを主力電源化していくためには、既存の電源・ネットワークと調和させ、しっかりと根付かせていくことが重要です。出力制御は、まさにこのための手段なのです。

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