「高レベル放射性廃棄物処分問題」を学生と考えてみた

「高レベル放射性廃棄物処分問題」を学生と考えてみた

(上智大学四谷キャンパスにて開催)

皆さんは、「NIMBY」という言葉をご存知でしょうか。

これは「Not In My Back Yard」つまり「私の家の裏庭には作らないでほしい」という意味で、「公共のために必要な施設や事業であることは理解していても、いざ自分の住む地域でそれが建てられようとすると反対する」という感情のことです。原子力発電(原発)に利用したウラン燃料を再処理した後には、再利用できない「高レベル放射性廃棄物」が残されますが(「放射性廃棄物の適切な処分の実現に向けて」参照)、その処分については、NIMBYの感情が生じるという難しさがともないます。そのため、処分場の選定にあたっては、国民の皆さんと地域の皆さんの双方の理解が不可欠です。

2018年3月13日、この高レベル放射性廃棄物の処分の実現に向けて、学生の皆さんに関心を持ってもらうべく、「高レベル放射性廃棄物学生フォーラム~高レベル放射性廃棄物の課題解決に向けて」を開催しました。今回は、その模様をご紹介します。

国民みんなで「地層処分」に関する議論を深める

現在、高レベル放射性廃棄物の最適な処分方法だと国際的に考えられているのは、地下深くの安定した岩盤に閉じ込める「地層処分」です。日本では、地下300m以深の地層に処分することになっています(「放射性廃棄物の適切な処分の実現に向けて」参照)。

2017年には、地下深部の「科学的特性」に関する日本全国の状況について、データを客観的に整理してまとめた「科学的特性マップ」を公表しました(「『科学的特性マップ』で一緒に考える放射性廃棄物処分問題」参照)。地層処分について国民の皆さんに広く知ってもらい、議論を深めてもらおうと、さまざまな取り組みが進められています。

資源エネルギー庁の主催でおこなわれた今回の学生フォーラムも、そうした取り組みの一環です。今回開催したフォーラムでは、処分地を選定する際にどのようにして住民の理解を得ていくか、また処分地選定と地域の将来像をどのように結び付けていくかといったアイデアを考えてもらいました。

フォーラムでは、まず、これまで高レベル放射性廃棄物に関する学習や取り組みをした学生から、活動成果を発表してもらいました。その内容をご紹介しましょう。

学生たちによるこれまでの活動の成果

千葉大学教育学部

千葉大学の学生からは、同大学の「ディベート教育論」で地層処分について取り上げた際の討論の様子が発表されました。

授業では、「日本では高レベル放射性廃棄物について『地層処分』ではなく、地上での管理をおこなうべきではないか」という主張を題材にして、賛成側と反対側に分かれディベート討論を実施。地層処分と地上管理それぞれのリスクや費用、輸送事故等の不測の事態、技術開発の進捗などのポイントについて、活発な議論が交わされたことが報告されました。

上智大学経済学部釜賀研究会

次に、2017年、「ISFJ日本政策学生会議政策フォーラム」(※)で「高レベル放射性廃棄物最終処分立地の最適な合意を目指して」という論文を執筆し、「最優秀賞」を受賞した上智大学の学生から、その論文で提言した政策アイデアについての紹介がおこなわれました。

処分地選定の合意形成に向けた壁や課題に関して、アンケートを実証分析したり、自治体などのヒアリング結果を分析。安全面や将来の事故に対する人々の不安に対応するための「双方向のリスクコミュニケーション」のあり方や、国策に寄与することで生まれる「地元の人々の誇り」に貢献するものとして、地域計画にのっとった病院の整備など金銭以外の支援策などが必要だという結論が得られたことが報告されました。

※ISFJ日本政策学生会議政策フォーラム:日本全国の大学から多数のゼミが参加し、政策提言論文を発表し、その内容を競う。2017年度は25大学から48のゼミが参加し(参加学生数675名)、117グループが論文をエントリー。

市町村長の立場にたって考える住民へのプレゼンテーション

この難しい問題に挑戦したのは、17名の学生です。

学生は3グループに分かれ、「最終処分場の受け入れを検討する市町村長の立場にたって、住民に対して、模擬説明会でのプレゼンテーションをおこなう」というテーマでグループワークをおこないました。その際、想定する市町村の人口や、経済規模などは自由に学生に設定してもらいました。また、各テーブルには専門家として原子力発電環境整備機構(NUMO)の職員が参加し、学生からの質問に対する情報提供をおこないましたが、議論は学生主体で自由におこなわれました。

最終発表では、各グループの代表が市町村長となり、他グループの学生が住民となって模擬説明会を実施。発表と質疑応答をおこないました。ここからは、実際のホワイトボードの写真を見ながら、各班でどのようなアイデアが出されたのか見てみましょう。

A村「教育テーマパークで世界に発信」

A村は少子高齢化による村の消滅という危機を迎えており、その対策として処分場を受け入れて、以下の視点を踏まえたテーマパークを作る

リストアイコン 最終処分場を教育ツールとして、サイエンスを学べる教育テーマパークを創設
リストアイコン NUMO職員とともに、世界から人が集まる町おこし
リストアイコン 風評被害や事故リスクへの不安に対して、処分場の安全対策を体感する。①300mバンジージャンプまたはフリーフォール②ガラス固体化をくるむ鉄の容器「キャニスター」を使ったジェットコースター③エネルギーのゆりかごから墓場までの体験ゾーン

B町「みんなで決める誇れる町づくり」

B町は、鉄道の廃線で商業施設が衰退しており、処分場誘致によって新たな事業をおこし、若者が住みやすく、皆が誇れる町づくりをめざす

リストアイコン 最終処分場を受け入れることに「誇り」をもち、「みんなで創る町」づくりには、安全性や風評被害に不安を抱えている住民の声に応える、納得のいく議論のプロセスが重要
リストアイコン そのため、高校生以上が参加可能な住民会議を創設し、1年間に複数回、2カ月間の集中審議
リストアイコン 最終処分場誘致の長所短所整理や、地域づくりの具体的な計画について、とことん議論

C町「最良福祉のベッドタウン構想」

C町は都心から近いベッドタウンで、最良の福祉政策を実現するための財政策として処分場を誘致する

リストアイコン 処分場の誘致をテコに、町民へサービス拡充のための投資を展開し、町を「最良福祉のベッドタウン化」する
リストアイコン 若年層や高齢層が住みやすい町を作り、人口増の好循環へ
リストアイコン 子育て支援制度、医療制度の充実、高齢者支援など、制度・しくみを充実して、人と人とのコミュニケーションを強化する街づくり

参加した学生からは、「最終処分という難しいテーマであったものの、とても有意義な議論だった」、「中間発表をはさんで最終発表まで4時間もの議論となったが、あっという間だった」、「課題設定だけで議論の範囲に制限が無く議論がしやすかった」といった感想が聞かれました。

多くの国民のみなさんに、処分場の問題を、未来に向けた自分たちの問題として考えていただくため、こうした機会を今後ももうけていく予定です。

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