大きく変化する世界で、日本のエネルギーをどうする?「エネルギー基本計画」最新版を読みとく(前編)

イメージ画像

世界ではさまざまな出来事が起こっており、エネルギーを取り巻く情勢も刻一刻と変化しています。そうした中で、日本のエネルギー政策はどのようにデザインされていくのでしょうか?そんなエネルギー政策の基本的な方向性が記されているのが、「エネルギー基本計画」です。2025年2月18日、最新版となる「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。日本はいま、どんなエネルギー問題に直面しているのでしょう。その問題を乗り越えるため必要な政策とはどんなものなのでしょうか。

世界のエネルギー情勢が大きく変化。第7次エネルギー基本計画の特徴は?

「エネルギー基本計画」は、少なくとも3年ごとに検討を加え必要に応じて見直されることとなっており、その時々のエネルギー問題が反映されています。前回の「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されたのは2021年10月でしたが、それ以降、日本を取り巻くエネルギー情勢は大きく変化しています。

変化① 「エネルギーの安定供給」を確保することが、経済安全保障の観点からますます重要に

2022年2月に、ロシアがウクライナ侵略を開始し、世界のエネルギー情勢は一変しました。当時、ロシアに対するエネルギー依存度を高めていた欧州各国を中心に、ロシア産ガスから脱却する方針を示したことにより、短期的なエネルギー需給バランスが大きく崩れ、その価格は、欧州のみならず、アジアのLNG市場においても史上最高値を付けることとなりました。

LNGのアジア価格
アジアのLNGスポット価格のほか、英国・米国・オランダの天然ガス、ブレント原油の価格指標について、折れ線グラフで示しています

2019年頃と比較して、2022年の価格は平均で約6倍に

大きい画像で見る

中東情勢についても、一時期、イスラエル・パレスチナ情勢の悪化やイスラエル・イラン間の軍事的緊張関係が高まるなど、変化しています。中東は、戦略的に重要な海上水路(チョークポイント)が集結するエリアで、原油の約9割以上を中東に頼る日本のエネルギー安全保障にも大きな影響をもたらします。

中東情勢の緊迫化と世界のチョークポイント
世界地図で中東情勢の概要、チョークポイントを示しています

青い丸印がチョークポイント
(出典)「エネルギー⽩書2023」を元に経済産業省にて作成

大きい画像で見る

変化② 「DX」や「GX」の進展にともなって、電力需要の増加が見込まれる

この20年ほどの日本の電力需要は、省エネルギー(省エネ)対策や人口減少傾向などが要因で減少していました。しかし、近年、データセンターや半導体工場の新増設などの「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の進展や、電動車や産業の電化(エネルギー源を電気にすること)などの「GX(グリーントランスフォーメーション)」にともなって、電力需要の増加が見込まれるようになっています。

電力広域的運営推進機関が毎年とりまとめている電力需要の想定では、今後10年の電力需要は増加傾向になると予想されています。

電力需要量(全国合計)の想定
2011年~2034年において、電力需要量の想定を折れ線グラフで示しています

(出典)電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの想定」より資源エネルギー庁作成

身近でも進むDX化
身近でも進むDX化として、生成AI・セルフレジ・IoT・Eコマース・インターネットサービス・データセンターなどをイラストで紹介しています

変化③ 各国は、「カーボンニュートラル」実現に向けた野心的な目標を維持しつつ、多様かつ現実的なアプローチを拡大

日本の「2050年カーボンニュートラル」のような期限付き「カーボンニュートラル」目標をかかげる国・地域は、2025年2月時点で146カ国・地域にのぼります。

期限付き「カーボンニュートラル」を表明している国・地域(2025年2月)
2050年まで・2060年まで・2070年までと期限付き「カーボンニュートラル」を表明している国・地域を世界地図で示しています

(出典)各国政府HP、 UNFCCC NDC Registry、Long term strategies、World Bank databaseなどを基に作成

しかし、2023年の「COP28」でも示されたように、「世界の気温上昇を1.5度に抑える」という目標まで隔たりがあるとも指摘されています(「気候変動対策、どこまで進んでる?初の評価を実施した『COP28』の結果は」参照)。

こうした中で、各国は、野心的な目標を維持しながらも、多様かつ現実的なアプローチを拡大しつつあります。

変化④ 世界はエネルギー構造転換を経済成長につなげるための産業政策を強化している

欧米各国を中心に、世界各国では、気候変動対策と産業政策を連動させ、カーボンニュートラル実現に向けた国内外のエネルギー転換を自国の産業競争力強化につなげるための政策を強化しています。たとえば、EUでは2023年2月に「グリーンディール産業計画」を公表するなど、グリーン産業支援をおこなっています。

こうした動向も踏まえ、日本も、エネルギー政策と産業政策を一体的に構築していく必要があります。

安定供給、経済成長、脱炭素…多様な問題に対応するための政策とは?

第7次エネルギー基本計画は、これらの変化をふまえて、GXの取り組みの中長期的な方向性を官民で共有する「GX2040ビジョン」と一体的に示されました。

まず、新たなエネルギー基本計画においても、エネルギー政策の重要なポイントである「S+3E」(安全性:Safety、エネルギー安定供給:Energy Security、経済効率性:Economic Efficiency、環境適合性:Environment)の原則が維持されています。

エネルギー政策の基本的視点「S+3E」
「S+3E」の関連性を図で示しています

その上で、日本はすぐに使える資源にとぼしく、国土を山と深い海に囲まれているという特有の事情を抱えていることから、再生可能エネルギー(再エネ)を主力の電源(電気をつくる方法)として最大限導入すると同時に、特定の電源や燃料源に過度に依存しないような「バランスのとれた電源構成」を目指していくことも示されています。

さらに、エネルギー危機に耐えられるような、エネルギー需給構造への転換も必要です。そのために、徹底した省エネや、製造業における燃料の転換を進めると同時に、再エネや原子力などの脱炭素電源を最大限活用することも今回示されています。

以上、「第7次エネルギー基本計画」の大きな方向性を見てきました。
後編では、個別の分野について示された方針をご紹介しましょう。

お問合せ先

記事内容について

長官官房 戦略企画室

スペシャルコンテンツについて

長官官房 総務課 調査広報室

※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。