第4節 二次エネルギーの動向
1.電力
(1)消費の動向
電力消費は、第一次石油危機が発生した1973年度以降も着実に増加し、1973年度から2007年度までの間に2.6倍に増大しました。その後、2008年度から2009年度にかけては世界的金融危機の影響で経済が低迷し、企業向けを中心に電力消費が減少に転じました。2010年度は、景気の回復とともに前年度比4.7%の増加となり、電力消費量は1兆354億kWhを記録しました。しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故を発端に、電力需給がひっ迫する中で電力使用制限令の発令や節電目標の設定もあり、2011年度は、前年度比で3.7%減少し、その後は減少傾向となりました。2021年度は新型コロナ禍からの経済回復等により前年度比1.1%増の9,237億kWhとなりました。
部門別の動向を見ると、産業部門が電力を最も多く消費していますが、素材産業の生産の伸び悩みと省エネの進展等により、1990年度以降は減少傾向にあり、2021年度は1990年度に比べ22.0%減となりました。電力消費の増加を長期的にけん引してきたのは業務他部門や家庭部門です。業務他部門では、事務所ビルの増加やOA機器の急速な普及等により電力消費が増加しました。家庭部門ではエアコンや電気カーペット等の冷暖房機器を始めとした家電の急速な普及等により電力消費が増加しました(第214-1-1)。
【第214-1-1】部門別電力最終消費の推移
(注1)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値の算出方法が変更されている。
(注2)民生は家庭部門及び業務他部門(第3次産業)。産業は農林水産鉱建設業及び製造業。
【第214-1-1】部門別電力最終消費の推移(xls/xlsx形式31KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
なお、最終エネルギー消費における電力化率は、1970年度には12.7%でしたが、2021年度には27.2%に達しました(第211-3-3参照)。
電気の使用状況には、季節や昼夜間で大きな差があります。特に近年では、冷暖房需要の有無等により、夏季・冬季と春季・秋季の使用状況の差が大きくなっています(第214-1-2、第214-1-3)。
【第214-1-2】最大電力発生日における1日の電気使用量の推移(10電力33計)
(注)1975年度は沖縄電力を除く。
【第214-1-2】最大電力発生日における1日の電気使用量の推移(10電力計)(xls/xlsx形式39KB)
- 資料:
- 電力広域的運営推進機関「系統情報サービス」
【第214-1-3】1年間の電気使用量の推移
(注1)2015年度までは10電力計。ただし、1965、1975、1985年度は沖縄電力を除く。
(注2)2017年度以降は10エリア計。
【第214-1-3】1年間の電気使用量の推移(xls/xlsx形式23KB)
- 資料:
- 2015年度までは電気事業連合会「電力需要実績」、2017年度以降は電力広域的運営推進機関「需給関連情報」を基に作成
電力は、需要と供給が常に一致している必要があります。需要と供給が一致していないと、周波数が乱れてしまい、電気の供給を正常に行えなくなり、場合によっては停電にもつながります。そのため、電力供給システムの安定化、信頼性向上のためには、季節や時間帯を通じた電力負荷の平準化対策が重要になります。発電設備の利用効率を表す年負荷率(年間の最大電力に対する年間の平均電力の比率)を見ると、1970年代には概ね60%を上回る水準で推移していましたが、その後、50%台にその水準が低下しました。2000年代半ば以降、負荷平準化対策を進めたことにより、日本の年負荷率は改善され、60%台に持ち直しました。なお、年ごとの負荷率は夏季の気温の影響も大きく受けており、冷夏であった2009年度は、年間の最大電力が抑えられたことで66.7%と高い値となりまたが、一方で記録的な猛暑となった2010年度には、年間の最大電力が増加したことで62.5%まで下がりました。東日本大震災以降は、省エネ機器の導入とピークカットの推進により、2011年度には67.8%と高い値を記録しました。その後は、新型コロナ禍の影響により経済社会活動の低下等があった2020年度を除いて、60%を上回る水準を維持しています。(第214-1-4)。
【第214-1-4】日本の年負荷率の推移
【第214-1-4】日本の年負荷率の推移(xls/xlsx形式19KB)
- 資料:
- 年間平均電力/最大電力3日平均(2015年度まで)は電気事業連合会「電気事業便覧」、年間平均電力/最大電力(2015年度から)は電力広域的運営推進機関「電力需給及び電力系統に関する概況」を基に作成
日本の年負荷率を他の主要国と比較すると、2020年時点では、英国、フランス、カナダには劣るものの、米国と同等の水準となっています(第214-1-5)。
【第214-1-5】主要国の年負荷率比較(2020年)
【第214-1-5】主要国の年負荷率比較(2020年)(ppt/pptx形式:38KB)
- 資料:
- 海外電力調査会「海外電気事業統計」(2022年版)を基に作成
(2)供給の動向
日本では、1973年の第一次石油危機を契機として、電源の多様化が図られてきました。
2021年度の電源構成は、LNGが34.4%(3,558億kWh)、石炭が31.0%(3,202億kWh)、新エネ等が12.8%(1,317億kWh)、水力(揚水含む)が7.5%(776億kWh)、石油等が7.4%(767億kWh)、原子力が6.9%(708億kWh)となりました。2020年度と比べると、LNGと水力のシェアが低下する一方で、新エネ等、石油等、原子力のシェアが増加しました(第214-1-6)。
【第214-1-6】発電電力量の推移
(注1)1971年度までは沖縄電力を除く。
(注2)発電電力量の推移は、「エネルギー白書2016」まで、旧一般電気事業者を対象に資源エネルギー庁がまとめた「電源開発の概要」及び「電力供給計画の概要」を基に作成してきたが、2016年度の電力小売全面自由化に伴い、自家発電を含む全ての発電を対象とする「総合エネルギー統計」の数値を用いることとした。なお、「総合エネルギー統計」は、2010年度以降のデータしか存在しないため、2009年度以前分については、引き続き、「電源開発の概要」及び「電力供給計画の概要」を基に作成している。
【第214-1-6】発電電力量の推移(xls/xlsx形式36KB)
- 資料:
- 2009年度までは資源エネルギー庁「電源開発の概要」、「電力供給計画の概要」、2010年度以降は資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
原子力については、1955年に「原子力基本法(昭和30年法律第186号)」に基づき着手され、1966年に初の商業用原子力発電所である日本原子力発電所東海発電所(16.6万kW)が営業運転を開始し、2010年度には原子力の発電量が2,882億kWhとなりました。その後、東日本大震災の影響により、2013年9月以降、原子力発電所の停止が続いていましたが、2015年8月に九州電力川内原子力発電所1号機が運転を再開し、順次原子力発電所の再稼動が進んでいます。同様に九州電力川内原子力発電所2号機が2015年10月、関西電力高浜発電所3・4号機が2016年1月と同年2月、四国電力伊方発電所3号機が2016年8月、関西電力大飯発電所3・4号機が2018年3月と同年5月、九州電力玄海原子力発電所3・4号機が2018年3月と同年6月、関西電力美浜発電所3号機が2021年6月に再稼働に至っており、2022年12月現在、計10基が再稼働されています。
石炭については、確認可採埋蔵量が豊富で、比較的政情が安定している国々に広く存在しているため、供給安定性に優れており、石油・LNG等より相対的に安価なエネルギー源です。日本では、二度の石油危機を機に、石油中心のエネルギー供給構造からの転換の一環として、石炭火力発電の導入が図られてきました。
LNGについては、1969年にアラスカから日本に初めて導入されて以来、安定的かつクリーンなエネルギーとしての特性を活かし、環境規制の厳しい都市圏での大気汚染防止対策上、極めて有効な発電用燃料として導入が進んできました。特に2011年度以降は、原子力発電の代替としての利用が進みました。
石油による発電は、1980年代前半以降、石油代替エネルギーの開発・導入等により減少基調で推移しました。2011年度以降、原子力発電所の稼動率の低下等を補うため発電量が一時増加しましたが、その後は、原子力発電所の再稼動や再エネの普及の影響等により再度減少しています。
水力については、戦前から開発が始まりました。1960年代には、大規模水力発電所に適した地点での開発はほぼ完了し、その後の発電電力量は横ばいの状態が続いています。
新エネ等については、FIT制度が導入された2012年から発電電力量の増加が加速し、2012年度には309億kWhでしたが、2021年度には前年度から9.9%増加して1,317億kWhとなっています。
電気の品質を図る指標の1つである停電時間及び停電回数については、現在、日本は世界トップレベルの水準を維持しています(第214-1-7)。これは、電気事業者が発電所の安定した運転や、送配電線の整備や拡充に努めていることに加え、最新の無停電工法の導入や迅速な災害復旧作業等による事故停電の発生回数の減少、そして発生した場合の1事故当たりの停電時間の短縮に取り組んでいることによるものと考えられます。
【第214-1-7】低圧電灯需要家1軒当たりの年間停電回数と停電時間の推移
(注1)2015年度までは10電力計。ただし、1988年度までは沖縄電力を除く。
(注2)2016年度以降は一般送配電事業者計。
【第214-1-7】低圧電灯需要家1軒当たりの年間停電回数と停電時間の推移(xls/xlsx形式25KB)
- 資料:
- 2015年度までは電気事業連合会「電気事業のデータベース」、2016年度以降は電力広域的運営推進機関「電気の質に関する報告書」を基に作成
しかし、2018年度は、北海道胆振東部地震に伴う大規模な停電等、自然災害による停電が多発したことで、年間停電回数は0.31回、停電時間は225分と増加しました。2019年度も、千葉県を中心とした台風15号等自然災害による停電が発生し、年間停電回数は0.23回、停電時間は86分となり、過去5年平均を上回りました。2020年度、2021年度は、台風や地震の影響が少なく、停電回数・停電時間ともに過去5年平均を下回りました。
政府は一連の災害が電力供給に大きな支障をもたらしたことを踏まえ、電力インフラにおけるレジリエンスの重要性とともに、レジリエンスの高い電力システム・インフラの在り方について検討を進めています。
(3)価格の動向
電気料金は、石油危機後には石油火力による発電が主流だったこともあり急上昇しましたが、その後は低下傾向となりました。その後、2011年度以降は原子力発電所の稼動停止、燃料価格の高騰等に伴う火力発電費用の増大の影響等により、再び電気料金が上昇しました。その後、2015年度から2016年度にかけては、燃料価格の低下に伴う火力発電費用の減少等により、電気料金は一時的に低下しましたが、2017年以降は増加と減少を繰り返しています。2021年度は、電灯・電力の平均で前年度比7.6%増となりました(第214-1-8)。
【第214-1-8】電気料金の推移
(注1)2016年度以前は旧一般電気事業者10社を対象。2016年度以降は全電気事業者を対象。
(注2)電灯料金は、主に一般家庭部門における電気料金の平均単価で、電力料金は、各時点における自由化対象需要分を含み、主に工場、オフィス等に対する電気料金の平均単価。平均単価は、電灯料収入、電力料収入をそれぞれ電灯、電力の販売電力量(kWh)で除したもの。
(注3)再エネ賦課金は含まない。
【第214-1-8】電気料金の推移(xls/xlsx形式30KB)
- 資料:
- 電気事業連合会「電力需要実績」、「電気事業便覧」、電力・ガス取引監視等委員会「電力取引の状況(電力取引報結果)」を基に作成
(4)電力小売全面自由化の動向
電力小売事業は、2016年度から全面自由化されました。電力の小売自由化は2003年に始まり、その後、小売自由化の対象は、大規模工場やデパート、オフィスビル等から中小規模工場や中小ビル等へと拡大しました。そして2016年度からは、家庭や商店等においても電力会社を自由に選べるようになりました。
2016年4月末時点での登録小売電気事業者数は291事業者でしたが、2023年3月時点では700以上にまで増加しました。また、旧一般電気事業者を除く登録小売電気事業者及び特定送配電事業者(以下「新電力」という。)による販売電力量は、2016年4月においては約35億kWhと販売電力量全体の5.2%でしたが、2022年12月には約121億kWhと販売電力量全体の18.1%となっています(第214-1-9)。
【第214-1-9】新電力の販売電力量と販売電力量に占める割合の推移
【第214-1-9】新電力の販売電力量と販売電力量に占める割合の推移(xls/xlsx形式35KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「電力調査統計」を基に作成
用途別では、特に高圧、低圧で新電力の割合が高く、2022年12月時点では、高圧が20.6%、低圧が24.9%となっています。
また、一般家庭が主な対象となる電力契約の供給者変更(以下「スイッチング」という。)申込件数は、2016年4月末時点では約82万件でしたが、2022年11月末時点では約2,779万件まで増加しており、全体の44.4%が電力契約の切替えを申し込んだことになります(第214-1-10)。地域別のスイッチング率は、2023年3月末時点で、関西で58.1%、東京で54.9%、北海道で45.2%、中部で37.9%、九州で30.2%等となっています。
【第214-1-10】電力契約のスイッチング申込件数の推移
(注)各月末時点の累計件数。
【第214-1-10】電力契約のスイッチング申込件数の推移(xls/xlsx形式30KB)
- 資料:
- 電力広域的運営推進機関「スイッチング支援システムの利用状況について」を基に作成
(5)電力市場の動向
電力小売全面自由化により、小売事業者間の競争は活性化しましたが、新規参入者が小売市場における競争に参加しやすくなるためには、必要な供給力を電力市場から確保できる環境整備が必要となります。電力市場の厚みが増すことにより、新規参入者にとっては、供給元が多様化するとともに、取引価格の安定化等が期待されます。加えて、電力市場の厚みの向上は、透明性・客観性の高い電力価格指標の形成にも資するため、電力取引の活性化や、発電における投資回収の見通し向上といった効果も期待されます。
現在、日本では、電力の価値別に様々な電力市場が整備されています。実際に発電された電気(kWh価値)は、卸電力市場で取引されます。前日スポット市場は、2005年度に開始した日本初の電力市場で、翌日に受渡する電気の取引を行います。2005年の取引開始以降、しばらくは取引量が少ない時代が続きましたが、2017年4月に「グロスビディング」と呼ばれる、旧一般電気事業者の発電部門がグループ内取引をしている電力の一定量を卸電力市場に放出する仕組みが開始されて以降、大幅に拡大しました。
卸電力価格は、2011年の東日本大震災以降、化石エネルギーの輸入増により上昇傾向にありましたが、2014年以降は国際燃料価格等と連動し低下傾向にありました。しかしながら、2020年以降は電力の需給ひっ迫や、2021年末からの国際燃料価格の高騰等により、再び卸電力価格は上昇傾向にあります(第214-1-11)。
【第214-1-11】スポット市場の推移
【第214-1-11】スポット市場の推移(xls/xlsx形式33KB)
- 資料:
- 日本卸電力取引所「取引状況」を基に作成
その他の卸電力市場として、時間前市場では、前日スポット市場による電気の取引後、発電機のトラブルや需要の急増といった需給の誤差に対応するための取引を行います。また2019年度より開始した先物市場は、価格変動リスクをヘッジするため、電力先物取引を行います。同様に2019年度より開始したベースロード市場は、新電力がベースロード電源(石炭、原子力、一般水力(流れ込み式)等)にアクセスできるように開設されました。
2020年度からは、発電することができる能力(kW価値)を取引する場として、新たに容量市場の入札が開始されました。容量市場は、再エネの主力電源化を実現するために必要な調整力の確保や、中長期的な供給力不足に対処することを目的として創設されました。容量市場では、4年後の電力の供給力を取引します。2020年に行われた初めてのオークションでは、上限価格に近い高値を記録しましたが、2021年と2022年のオークションでは低下しました。一方、調達量に関しては、オークション開始以来、目標調達量の90%以上を確保しています(第214-1-12)。
【第214-1-12】容量市場の入札結果の推移
【第214-1-12】容量市場の入札結果の推移(xls/xlsx形式29KB)
- 資料:
- 電力広域的運営推進機関「容量市場メインオークション約定結果」を基に作成
2021年度からは、短時間で需給調整できる能力(ΔkW価値)を取引する市場として、需給調整市場が開始されました。電力は貯めておくことが難しいため、常に需要と供給を一致させる必要があり、需要の変化にあわせて発電所等で需要と供給を一致させるために必要な電力を調整力といいます。調整力は、2016年4月以降、各地域の一般送配電事業者が公募によって調達を行ってきましたが、2021年4月からは全国一体の需給調整市場で取引されています。需給調整市場の商品は大きく5つあり、2021年4月からは応動時間の最も遅い3次調整力②の取引が、2022年4月からは3次調整力①の取引が開始されており、今後、2024年度までに全ての取引が開始される予定となっています。
その他に非化石電源で発電された環境価値を取引する市場として、非化石価値取引市場が開設されています。従来の卸電力取引市場では、非化石電源と化石電源を区別せず取引を行っていました。他方で、小売事業者には高度化法において非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められています。また、「RE100」のようなイニシアティブに参加する需要家からは、非化石電源の購入ニーズが高まっています。こうした背景の下、2018年度より非化石価値取引市場は開始されました。当初は、FIT電源の非化石証書のみを取引していましたが、2020年度からは非FIT電源の非化石証書の取引が開始されました。さらに、2021年度からは、FIT証書を取引する「再エネ価値取引市場」と、非FIT(再エネ指定)証書と非FIT(再エネ指定なし)証書を取引する「高度化義務達成市場」に分割されました。2018年の開始当初の取引量は限られていましたが、2020年度より高度化法の中間目標が設定され、また2021年度より再エネ価値取引市場に需要家や仲介業者が参加できるようになったことから、取引量は急速に拡大しています(第214-1-13)。
【第214-1-13】非化石価値取引市場(FIT証書)の推移
(注)2021年11月以降は、再エネ価値取引市場に名称変更
【第214-1-13】非化石価値取引市場(FIT証書)の推移(xls/xlsx形式28KB)
- 資料:
- 日本卸電力取引所「取引状況」を基に作成
2.ガス
(1)全体
日本のガス供給の主な形態として、2016年度までは「ガス事業法(昭和29年法律第51号)」で規制されていた①一般ガス事業、②ガス導管事業、③大口ガス事業(以下この3つを「都市ガス事業」という。)、④簡易ガス事業が存在しました。また、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(昭和42年法律第149号)」で規制されている⑤液化石油ガス販売事業(以下「LPガス販売事業」という。)等の形態が存在しました。その後、都市ガス小売全面自由化を踏まえたガス事業法の改正により、都市ガス事業は2017年4月から事業類型が変更されています(第214-2-1)。
【第214-2-1】ガス事業の主な形態
【第214-2-1】ガス事業の主な形態(ppt/pptx形式:45KB)
(2)都市ガス事業
①消費の動向
都市ガスの販売量の推移を見ると、2000年代後半まで、家庭用・工業用・商業用の全てで増加してきたことがわかります。その構成の推移を見ると、かつて消費の中心であった家庭用のシェアは、1990年代以降、5割を下回る一方、工業用のシェアが急速に増大しており、工業用のシェアは2006年度には5割を上回りました。2000年代半ば以降は、家庭用、商業用の販売量が横ばいとなっており、工業用の販売量の増加傾向も鈍化しているため、消費総量の伸びは緩やかになっています。2021年度の総販売量は、商業用、工業用、その他用が前年度より増加した影響により、前年度比で4.1%増加しました。2001年度から2021年度までの21年間で見ると、総販売量は1.6倍に拡大しました(第214-2-2)。
【第214-2-2】用途別都市ガス販売量の推移
(注1)全都市ガス事業者。
(注2)1996年度から2005年度までの用途別販売量は日本エネルギー経済研究所推計。
【第214-2-2】用途別都市ガス販売量の推移(xls/xlsx形式35KB)
- 資料:
- 経済産業省「ガス事業生産動態統計調査」等を基に作成
用途別に増減要因を見ると、都市ガス需要家件数の9割強を占める家庭用では、近年、高効率給湯器等の省エネ機器の普及に伴い、需要家当たりの消費量が減少傾向にありましたが、その一方で継続的な新規需要家の獲得や都市ガス利用機器の普及拡大により、販売量をカバーしてきました。一方、工業用では、LNGを導入した大手都市ガス事業者による産業用の大規模・高負荷需要(季節間の使用量変動が少ない等)を顕在化させる料金制度の導入等により、1980年以降、大規模需要家へのガス導入が急速に進んだことに加えて、ガス利用設備の技術進展や気候変動問題への対応等により、需要家当たりの消費量が伸びたことで、大幅な消費量の増加につながりました。
②供給の動向
都市ガス事業における原料は、その主体を石炭系ガスから石油系ガスに、石油系ガスから天然ガスへと変遷を遂げてきました。天然ガスは、一部の国産天然ガスを除き、その大部分が大手一般ガス事業者を中心としたLNG輸入プロジェクト(海外の産出先との長期契約)により調達されてきました。原料に占める天然ガスの割合は年々高まり、1980年代に入って50%を超え、2021年度では、約96%を占めました(第214-2-3)。
【第214-2-3】原料別都市ガス生産・購入量の推移
(注)2005年度までは一般ガス事業者のみ。2006年度以降は全都市ガス事業者。
【第214-2-3】原料別都市ガス生産・購入量の推移(xls/xlsx形式40KB)
- 資料:
- 日本ガス協会「ガス事業便覧」、経済産業省「ガス事業生産動態統計調査」を基に作成
また、ガス事業者のガスの調達方法として、大手事業者等では上記のように海外からLNGを調達していますが、石油系のガスを主な原料としている事業者では石油元売事業者からLPガスを調達しています。他のガス事業者や国産天然ガス事業者等から卸供給を受ける場合もあります。
一方、ガス供給インフラであるパイプライン網は、日本の場合、これまで消費地近傍に建設したLNG基地等のガス製造施設を起点としたものとなっています。一部地域において、国産天然ガス事業者による長距離輸送導管や大規模消費地における大手ガス事業者の輸送導管が一定程度敷設されていますが、基本的には、消費地ごとに独立したパイプライン網となっています。
③価格の動向
都市ガスの小売価格は、石油危機後に急上昇しましたが、1983年度以降は低下傾向にありました。1995年度から2005年度までは、LNG輸入価格の上昇傾向等を受けて原料費が上昇したものの、労務費等のコスト削減努力や大口需要家の増加等を背景に、都市ガス価格は低下傾向となりました。その後は、LNG輸入価格の変動と連動する形で、都市ガス価格も変動しています。2020年度は、新型コロナ禍による世界的なガス需要の減少を受け、LNG輸入価格が低下したことで都市ガス価格も低下しました。2021年度は、新型コロナ禍からの経済回復により、LNG輸入価格が上昇し、都市ガス価格も上昇しました(第214-2-4)。
【第214-2-4】都市ガス価格及びLNG輸入価格の推移
【第214-2-4】都市ガス価格及びLNG輸入価格の推移(xls/xlsx形式27KB)
- 資料:
- 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」、電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報結果」を基に作成
ガス料金を国際比較すると、近年の北米地域でのシェールガスの生産の増加により、同地域との価格差が拡大しており、2021年の日本のガス料金(税込)は米国と比べ、家庭用は約2.9倍、産業用は約2.7倍となりました。また、欧州諸国のガス料金と比較しても、日本のガス料金は高い水準となっています(第224-5-1参照)。これは、日本を欧米諸国と比較した際、天然ガスの輸送形態が複雑なこと(日本では天然ガスを液化してLNGとして輸入後、再気化して供給するものが大半)、需要家1件当たりの使用規模が欧米諸国と比べて小さいこと、導管埋設の施工環境が厳しく施工コストがかかること(特に市街地における工事帯延長の確保や、他埋設物との輻輳による導管の浅層埋設等が困難)等の理由によると考えられます(第214-2-5)。
【第214-2-5】主要国・地域の需要家1件当たり都市ガス消費量(2020年)
【第214-2-5】主要国・地域の需要家1件当たり都市ガス消費量(2020年)(xls/xlsx形式19KB)
- 資料:
- 日本ガス協会「ガス事業便覧」を基に作成
④都市ガス小売全面自由化の動向
電力に1年遅れる形で、2017年度から都市ガスの小売事業が全面的に自由化されました。都市ガスの小売自由化は1995年に始まり、当初は大規模工場等が都市ガス会社を自由に選べるようになりました。その後、小売自由化の対象が、中小規模工場や商業施設等へと拡大し、2017年4月からは家庭や商店等においても都市ガス会社を自由に選べるようになりました。
新規にガス小売事業者として登録したガス小売事業者(旧一般ガスみなしガス小売事業者以外のガス小売事業者のことを指し、以下「新規小売」という。)による都市ガス販売量は、2017年4月には2.8億㎥と全体の8.2%でしたが、2022年12月には6.6億㎥と全体の19.9%まで増加しました(第214-2-6)。用途別では、特に工業用での新規小売の割合がけん引しており、2022年12月には24.5%となっています。
【第214-2-6】新規小売の都市ガス販売量と都市ガス販売量に占める割合の推移
【第214-2-6】新規小売の都市ガス販売量と都市ガス販売量に占める割合の推移(xls/xlsx形式29KB)
- 資料:
- 電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報結果」を基に作成
また、一般家庭が主な対象となる都市ガス契約の供給者変更(以下「スイッチング」という。)申込件数の推移は、2017年4月末時点では約15万件でしたが、2022年12月末時点では約541万件にまで増加し、全体の約20%が都市ガス契約の切替えを申し込んだことになりました(第214-2-7)。2022年12月末日時点における地域別のスイッチング率を見ると、近畿では約26%、中部・北陸で約22%、関東で約22%、九州・沖縄で約13%になった一方、北海道、東北、中国・四国ではまだスイッチングの発生はありません。
【第214-2-7】都市ガス契約のスイッチング申込件数の推移
(注)各月末時点の累計件数。
【第214-2-7】都市ガス契約のスイッチング申込件数の推移(xls/xlsx形式31KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「スイッチング申込件数」、電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報結果」を基に作成
⑤ガス小売事業のうち、特定ガス発生設備においてガスを発生させ、導管によりこれを供給する事業(旧簡易ガス事業)
2017年4月に改正ガス事業法が施行されたことにより、法律上、旧簡易ガス事業は「ガス小売事業」の一部となりました。旧簡易ガス事業における消費は、1970年の制度創設以来、家庭用を中心に着実に増加してきましたが、近年は大手事業者への事業売却等により減少傾向にありました。旧簡易ガス事業は、2022年3月末時点で1,244事業者、その供給地点群数は7,295地点群(計約180万地点)でした。2021年の年間生産量(販売量)は13,934万㎥で、調定数当たりの全国平均販売量は10.53㎥/月でした。旧簡易ガス事業は、LPガスバルクによる供給設備や、LPガスボンベを集中する等の簡易なガス発生設備によるガス供給であるという特性から、2021年の年間用途別販売量は家庭用が93.1%を占めており、残りが商業用等の用途となりました。
旧簡易ガス事業の料金は、石油危機後に急上昇し、1987年度に低下に転じて以降、2004年度までほぼ横ばいで推移してきました。その後、2000年代後半に再度上昇し、近年は横ばい傾向となっていました(2017年度以降データなし)(第214-2-8)。
【第214-2-8】旧簡易ガス事業全国平均価格の推移
(注)2017年度以降データ更新なし。
【第214-2-8】旧簡易ガス事業全国平均価格の推移(xls/xlsx形式22KB)
- 資料:
- 日本ガス協会「ガス事業便覧」を基に作成
(3)LPガス販売事業
①需給の動向
LPガスは全国の約半数の世帯で使用されているほか、タクシー等の自動車用、工業用、化学原料用、都市ガス用、電力用等、幅広い用途に使われており、国民生活に密着したエネルギーです。
LPガスは、プロパンガスとブタンガスの2種類があり、プロパンガスは主として家庭用・業務用、ブタンガスは主として産業用、自動車用に使用されています。
②価格の動向
家庭用LPガスの料金は、販売事業者がそれぞれの料金計算方法によって料金を設定する方式になっています。
家庭用LPガスの小売価格の推移を見ると、上昇傾向が続いていることがわかります。家庭用LPガス価格の構成を見ると、小売段階での配送費、人件費、保安費等が全体の63.3%34を占めており、小売価格低減のためには、各流通段階、とりわけ小売段階での合理化・効率化の努力が求められます。2021年度は、LPガス輸入価格が前年度より73.9%上昇したことで、小売価格も前年度より3.4%上昇しました(第214-2-9)。
【第214-2-9】LPガス家庭用小売価格及び輸入CIF価格の推移
(注)家庭用小売価格は10㎥当たり。
【第214-2-9】LPガス家庭用小売価格及び輸入CIF価格の推移(xls/xlsx形式28KB)
- 資料:
- 財務省「日本貿易月表」、総務省「小売物価統計調査」、石油情報センター「価格情報」等を基に推計
3.熱供給
熱供給事業とは、「熱供給事業法(昭和47年法律第88号)」に基づき、21 GJ/h以上の加熱能力を持つ設備を用いて、一般の需要に応じて熱供給を行う事業を指します。一般的には地域冷暖房と呼ばれ、一定地域の建物群に対し、蒸気・温水・冷水等の熱媒を熱源プラントから導管を通じて供給します(第214-3-1)。
【第214-3-1】熱供給事業の概要
【第214-3-1】熱供給事業の概要(ppt/pptx形式:856KB)
- 資料:
- 日本熱供給事業協会
熱供給事業は、それぞれの施設・建物が個別に冷温水発生機等の熱源設備を設置する自己熱源方式とは異なり、供給地区内に設置された熱源プラントで熱供給を集約して行うことにより省エネルギー、環境負荷の低減といった効果が得られます。さらに、都市エネルギー供給システムとして複数の施設・建物への効率的なエネルギー供給、施設・建物間でのエネルギー融通、未利用エネルギーの活用等、エネルギーの面的利用は地域における大きなCO2削減効果があると期待されています。その他、各建築物内に熱源設備や屋上へ冷却塔を設置する必要がなくなるため、災害発生時等の二次災害防止や屋上ヘリポートの設置を行うことができます。さらに、熱源プラントの蓄熱槽や受水槽の水を火災や震災発生時に利用できる等、災害に強いまちづくりに資する事業です。
日本の熱供給事業による2021年度の販売熱量は22PJ、2022年3月末現在で供給延床面積は5,539万㎡となりました(第214-3-2)。販売熱量を熱媒体別に見ると、冷熱需要が54%、温熱が43%、給湯・直接蒸気が3%となりました。使用燃料は、都市ガスが67%、電力が16%、排熱他が16%でした。
【第214-3-2】熱供給事業の販売熱量と供給延床面積
【第214-3-2】熱供給事業の販売熱量と供給延床面積(xls/xlsx形式24KB)
- 資料:
- 日本熱供給事業協会「熱供給事業便覧」を基に作成
近年、海水、河川水、下水、清掃工場排熱等の「未利用エネルギー」を利用する形態や、コージェネレーションシステムの活用等の形態も出てきました。こうした未利用エネルギーやコージェネレーションシステムを活用することにより、エネルギーの総合的な有効利用や熱源システムの効率化が進んでいます。
4.石油製品
(1)消費の動向
日本の石油製品(燃料油)の販売量の推移を見ると、第一次石油危機までは急激に伸びてきましたが、二度にわたる石油危機を踏まえ、エネルギーセキュリティの観点から石油代替と利用効率の向上を進めたことで、燃料油の販売量は減少に転じました。その後、1986年度以降は、原油価格の下落や円高等の影響により石油製品価格が低下したため、販売量が増加しました。1990年代半ば以降はほぼ横ばいに推移しましたが、2003年度頃から減少傾向となりました。2021年度は新型コロナ禍からの経済回復により、燃料油の販売量は前年度比1.0%増の1億5,349万klとなりました。
油種別構成を概観すると、自動車の保有台数が伸びたことによるガソリン・軽油の販売量比率の上昇、石油化学産業の生産の伸びに応じたナフサの販売量比率の上昇等、いわゆる白油化が進んできました。2021年度の販売比率は、ガソリンが29.0%、ナフサが27.1%、軽油が20.9%となりました。
B重油及びC重油の販売量比率は、第一次石油危機前は5割以上を占めていましたが、1980年代以降、製造業の省エネ化による需要減少や、石炭・天然ガス等の石油以外の燃料への転換、電力部門における石油火力の縮小等により販売量は減少し、石油製品全体に占める割合は、2021年度には5.4%まで低下しました(第214-4-1)。
【第214-4-1】燃料油の油種別販売量の内訳
(注)2002年1月よりB重油はC重油に含まれる。
【第214-4-1】燃料油の油種別販売量の内訳(xls/xlsx形式34KB)
- 資料:
- 経済産業省「資源・エネルギー統計年報」を基に作成
(2)価格の動向
ガソリン、軽油、灯油等の石油製品は、原油から蒸留・精製されて生産されるため、価格が原油価格の動向にほぼ連動しています。2003年度後半以降は、中国の石油消費・輸入が増える等で世界の需要が拡大したこと、これに対する原油供給が伸び悩んだこと等が影響し、世界的に原油価格は上昇し、それに伴い石油製品の価格も上昇しました。その後も石油製品の価格は継続的に上昇しましたが、2008年9月には、世界的な金融危機を背景に大きく下落しました。以降は、各国による景気刺激策等による経済の回復に応じて上昇に転じ、2014年半ばまで上昇傾向が続きました。しかし、シェールオイルの増産や中国の景気後退懸念、OPECの減産見送り等により、2014年後半から再度大きく下落しました。2016年度は世界経済の緩やかな回復や、2016年12月のOPEC総会及びOPEC・非OPEC閣僚会議で15年ぶりの減産合意もあり、再び上昇に転じました。その後、価格は緩やかな上昇を続けたのち、米国によるイラン原油禁輸の適用除外措置発表等の影響により、2018年12月頃から下落しました。その後は小幅な動きが続きましたが、2020年に入ってからは新型コロナ禍による世界的な石油需要減少等もあり、大きく下落しました。この価格下落を受け、OPECとロシア等の非OPEC産油国からなる「OPECプラス」が大規模な協調減産を実施し、価格は再び上昇傾向になりました。その後、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵略の影響で価格は高騰しました。
2022年12月現在、原油の輸入CIF価格は約83円/Lとなっています。また、ガソリン小売価格は168円/L、軽油小売価格は148円/L、灯油小売価格(配達)は120円/Lという水準です(第214-4-2)。
【第214-4-2】原油輸入価格と石油製品小売価格
【第214-4-2】原油輸入価格と石油製品小売価格(xls/xlsx形式47KB)
- 資料:
- 日本エネルギー経済研究所石油情報センター資料、財務省「日本貿易統計」を基に作成
(3)石油製品輸出の動向
日本の石油製品の国内需要は緩やかな減少傾向にあり、今後も国内の人口減少が想定される中、長期的に精製設備能力の余剰が増えると見込まれるため、石油精製各社は生産設備の集約化を進めてきました。その結果、燃料油生産量は2000年度の225,105千klから、2021年度には142,044千klに減少しました。
その一方で、石油精製各社は、燃料供給の多様性を維持する企業努力として、余剰設備の有効利用を図り、設備稼動率の低下による製造コスト上昇を回避すべく、各種石油製品の輸出を行ってきました。2021年度の燃料油の輸出量は前年度比29.5%増加の23,941千klとなっています。ジェット燃料には、海外を往復する航空機への燃料供給が輸出量として計上されており、B・C重油には外国航路を行き来する船舶に日本で生産した燃料を供給したものが輸出量として計上されています。2021年度は、新型コロナ禍からの経済回復により、海外を往復する航空機の運航が増加したため、ジェット燃料の輸出量は前年度比で51.2%増加しました(第214-4-3)。
【第214-4-3】燃料油の油種別輸出量の推移
【第214-4-3】燃料油の油種別輸出量の推移(xls/xlsx形式37KB)
- 資料:
- 経済産業省「資源・エネルギー統計年報」を基に作成
2021年度の燃料油の輸出先については、海外を往復する航空機や船舶向け(ボンド)の比率が41.7%となっており、ボンド以外を国別に見ると、韓国、豪州、シンガポール等、アジア・オセアニア向けが上位を占めています(第214-4-4)。
【第214-4-4】燃料油の輸出先(2021年度)
(注)ボンドは外航船舶と国際線航空機向け供給分。
【第214-4-4】燃料油の輸出先(2021年度)(xls/xlsx形式25KB)
- 資料:
- 経済産業省「資源・エネルギー統計年報」を基に作成