第1節 エネルギー需給の概要
○エネルギー需給の概要
世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)は、経済成長とともに増加を続けています。石油換算では、1965年の37億トンから年平均2.4%で増加し続け、2021年には142億トンに達しました。2021年の世界のエネルギー消費量は、新型コロナ禍からの経済回復等の影響で前年比5.5%増加し、2019年を超える水準まで回復しました。
2000年代以降、アジア大洋州地域では中国やインド等がけん引して、消費量の伸びが高くなっています。一方、先進国(OECD諸国)では伸び率は鈍化しました。経済成長率、人口増加率が途上国と比べ低いことや、産業構造の変化や省エネの進展等が影響しています。この結果、世界のエネルギー消費量に占めるOECD諸国の割合は、1965年の70.6%から、2021年には38.6%へと32%低下しました(第221-1-1)。
【第221-1-1】世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー消費量)
(注1)1984年までのロシアには、その他旧ソ連邦諸国を含む。
(注2)1985年以降の欧州には、バルト3国を含む。
【第221-1-1】世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー消費量)(xls/xlsx形式39KB)
- 資料:
- BP「Statistical Review of World Energy 2022」を基に作成
ここで、1人当たりのGDPとエネルギー消費量の関係を見てみましょう。一般的に、経済成長とともにエネルギー消費が増加するため、今後途上国の経済が成長することでエネルギー消費も増えていきます。一方、ドイツとカナダを比較すると1人当たりのGDPはほぼ同じですが、1人当たりのエネルギー消費量は大きく異なることもわかります。各国の気候や産業構造に加え、エネルギー効率の違い等がこの差を生みだす原因になっています。現在主流の化石エネルギーは無尽蔵ではなく、また、化石エネルギーを大量に消費するとCO2の排出量も増えてしまいます。そのため、特に今後エネルギー消費量が大きく増えることが予測されている途上国では、エネルギー効率を高めていくことが重要であり、また日本を含む先進国には、それを手助けしていくことが求められています(第221-1-2)。
【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2021年)
【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2021年)(xls/xlsx形式24KB)
- 資料:
- BP「Statistical Review of World Energy 2022」、世界銀行「World Bank Open data」を基に作成
次に、世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)の動向をエネルギー源別に見てみます。石油は今日までエネルギー消費の中心となってきました。発電用を中心に他のエネルギー源への転換も進みましたが、堅調な輸送用燃料消費に支えられ、石油消費量は1965年から2021年にかけて年平均1.9%で増加し、依然としてエネルギー消費全体で最も大きなシェア(2021年時点で31.0%)を占めています。2021年の世界の石油消費は、新型コロナ禍からの経済回復により、前年比で増加しました。
石炭は、同じ期間に年平均1.8%で増加し、特に2000年代において、経済成長が著しい中国等、安価な発電用燃料を求めるアジア地域を中心に消費量が拡大しました。しかし、近年では、中国の需要鈍化、米国における天然ガスへの代替による需要減少等が原因となって、2015年以降は前年比で減少する年もあり、石炭消費量は伸び悩んでいます。この結果、2021年時点の石炭のシェアは26.9%となっています。
天然ガスは、同じ期間に石油と石炭以上に消費量が伸び、年平均3.2%で増加しました。天然ガスは、特に気候変動への対応が強く求められる先進国を中心に、発電用や都市ガス用の消費が伸びました。2021年の世界の天然ガス消費は、新型コロナ禍からの経済回復により前年比で増加し、一次エネルギーに占める天然ガスの割合は、24.4%になりました。
同じ期間で伸び率が大きかったのは、原子力(同8.6%)と、風力、太陽光等の他再生可能エネルギー(同12.8%)でしたが、2021年時点のシェアはそれぞれ4.3%及び6.7%と、エネルギー消費全体に占める比率はいまだに大きくありません。しかしながら、2021年は気候変動問題を背景にした取組や設備価格等が低下し続けていること等を背景に、他再生可能エネルギー消費は、前年比で増加しました。太陽光発電や風力発電のコストが低下していくことで、今後再エネのシェアはさらに拡大すると予想されます。また、2015年12月に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、2020年以降、全ての国が参加する公平で実効的な国際枠組みであるパリ協定が採択され、産業革命前と比べた気温上昇を2℃より低く抑えること、さらに1.5℃までに抑えるよう努力することが盛り込まれました。その後、各国においてパリ協定の締結が順調に進み、2016年11月に発効しました。さらに、2018年12月に開催されたCOP24(国連気候変動枠組条約第24回締約国会議)では、2020年以降のパリ協定の本格運用に向けパリ協定の実施指針が採択されました。パリ協定の発効、実施指針の採択は、世界の多くの国が温暖化対策に積極的に取り組んでいることを示す象徴的な出来事といえます。また、2021年10月31日から11月13日の間にCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催され、パリルールブックが完成しました。再エネのコスト競争力の高まりとともに、米国での導入量も大幅に増加しています。温暖化対策はエネルギーの選択に大きな影響を及ぼすため、今後もその動向を注視していく必要があります(第221-1-3)。
【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー消費量)
【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー消費量)(xls/xlsx形式41KB)
- 資料:
- BP「Statistical Review of World Energy 2022」を基に作成
世界の最終エネルギー消費は、1971年から2020年までの期間に約2.3倍に増加しました。部門別では、鉄鋼・機械・化学等の産業用エネルギー消費は2.1倍、家庭や業務等の民生用エネルギー消費は2.0倍であるのに対して、輸送用エネルギー消費は2.6倍に増えました。輸送用が大きく増えた背景には、この間に世界中でモータリゼーションが進展し、自動車用燃料の需要が急増したことがあると考えられます(第221-1-4)。
【第221-1-4】世界のエネルギー需要の推移(部門別、最終エネルギー消費量)
(注1)端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある。
(注2)消費量合計が前表より少ないのは、主に本表には発電用及びエネルギー産業の自家使用が含まれていないためである。
【第221-1-4】世界のエネルギー需要の推移(部門別、最終エネルギー消費量)(xls/xlsx形式27KB)
- 資料:
- IEA「World Energy Balances 2022 Edition」を基に作成
COLUMN
エネルギー需給の展望
ここでは、将来の世界のエネルギー需要予測を、国際エネルギー機関(IEA)のデータを用いて見てみます。IEAではいくつかの将来シナリオを想定していますが、これらを2021年の実績と比較してみます。公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario, STEPS)は、各国が表明済の具体的政策を反映したシナリオ、表明公約シナリオ(Announced Pledged Scenario, APS)は、有志国が宣言した野心を反映したシナリオ、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオ(Net Zero Emission by 2050 Scenario, NZE)は、2050年世界ネットゼロを達成するためのシナリオです。パリ協定では、産業革命前からの気温上昇幅を2℃に抑える目標が設定され、1.5℃に抑える努力を追求することが定められました。その後、2℃では甚大な影響が免れず、1.5℃に抑えるべきという声が高まりました。そしてIEAは2021年5月に気温上昇を1.5℃に抑えるシナリオを発表し、2021年秋に開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、公式文書にも1.5℃を追求することが織り込まれました。
2050年の世界の一次エネルギー消費量は、公表政策シナリオでは、2021年比で約1.19倍の石油換算177億トン、表明公約シナリオでは2021年比で約1.01倍の石油換算150億トンになる見通しです。これに対して、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは2021年比で約0.85倍の石油換算127億トンまで減少します。これらの数値を見ると、世界の国々が現在掲げている政策目標や表明している公約では、「1.5℃の追求」に届かないことがわかります。
次にエネルギー源別に見てみましょう。IEAのシナリオでは、公表政策、表明公約、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現の順に気候変動対策が強くなり、低炭素なエネルギーや技術がより多く利用されるようになっています。
化石エネルギーで最も大きな影響を受けるのは石炭と見られています。2021年の石炭消費量との比較では、公表政策シナリオでも0.68倍、表明公約シナリオでは0.29倍、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは0.10倍まで減少します。また石油については、2021年の石油消費量と比較すると、公表政策シナリオでは1.07倍に増加しますが、表明公約シナリオでは0.59倍に減少、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは0.22倍まで減少します。このように、石油の消費量の減り方は石炭のそれよりも緩やかです。これは、石炭と石油とでは主な用途が異なるためです。石炭は主に発電用や産業用に使われており、これらは比較的容易に天然ガスや再エネに置き換えていくことが可能です。一方の石油は主に自動車用の燃料として使われていますが、これを他のエネルギーに変えていくのは容易ではありません。そのため、石油の方が消費量の減り方が緩やかになっています。化石エネルギーの中で、最も減り方が緩やかなのは、天然ガスです。天然ガスは、石炭や石油と比較してクリーンであるため、様々な分野で利用されると見られており、2021年の天然ガス消費量との比較では、石油と同様に公表政策シナリオでは1.02倍に増加しますが、表明公約シナリオでは0.63倍に減少、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは0.28倍に減少します。
炭素排出の非常に少ない水力を含む再エネや原子力は、いずれのシナリオでも増える見通しになっています。中でも風力や太陽光を中心とした再エネの増加見通しが顕著です。2021年比で公表政策シナリオでは2.37倍、表明公約シナリオでは3.28倍、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは3.76倍まで増加すると予測しています。
将来は不確実であり、これらのシナリオはあくまでも一定の前提に基づいた試算に過ぎません。このようなシナリオ分析を行いながら、将来のよりよいエネルギーのあり方について考えていくことが重要です。
【第221-1-5】世界のエネルギー供給展望(エネルギー源別、一次エネルギー供給量)
(注)他再生可能は、風力、太陽光、地熱、バイオマス等の再エネである。
【第221-1-5】世界のエネルギー供給展望(エネルギー源別、一次エネルギー供給量)(xls/xlsx形式42KB)
- 資料:
- IEA「World Energy Outlook 2022」