第1節 電力システム改革の推進
1.電力広域的運営推進機関の取組
2011年3月に発生した東日本大震災では、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量に制約があり、広域的な系統運用が十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を十分に手当することができず、国民生活に大きな影響を与えたことから、2013年11月に成立した「電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)」に基づき、強い情報収集権限と調整権限の下、広域的な系統計画の策定や需給調整等を行う「電力広域的運営推進機関」(広域機関)が2015年4月に発足しました。
広域機関では、全国大での広域連系系統の整備及び更新に関する方向性を整理した長期方針である「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」や、広域連系系統の整備に関する個別の整備計画である「広域系統整備計画」の策定により、広域連系系統のあるべき姿の実現に向けた取組を進めています。2023年3月には、再エネの大量導入とレジリエンス強化に向けて、全国大の送電ネットワークの将来的な絵姿を示すマスタープランを策定・公表しました。今後は、このマスタープランを踏まえて、全国大での系統整備を計画的に進めていきます。
また、各一般送配電事業者の中央給電指令所と連携した広域機関システムを通じて、全国の需給状況や地域間連系線の運用状況を24時間365日監視し、全国規模で一元的に情報を把握することで、電力の需給ひっ迫時には電力融通等の必要な指示を行う等、広域的な需給調整を行っています。
加えて、既存の送配電設備のさらなる効率的な利用のため、「日本版コネクト&マネージ」の取組を推進するとともに、一般送配電事業者がエリアを越えて、電力市場から広域的かつ効率的に調整力を調達・運用する「需給調整市場」等の整備も進めています。
2.電力の小売全面自由化への対応
家庭を含めた全ての電気の利用者が、電力の供給者を選択できるようにするため、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施しました。全面自由化に際しては、旧一般電気事業や旧特定規模電気事業といった類型に代わる区分として、小売電気事業(登録制)、送配電事業(許可制)、発電事業(届出制)といった事業ごとの類型を設け、それぞれに対して必要な規制を課すこととしました。具体的には、自由化後も電力の安定供給を確保し、需要家保護を図るため、下記のような様々な措置を講じています。
まず、電力の安定供給を確保するための措置として、適切な投資や人材の確保の必要性に鑑み、一般送配電事業者に対して、需給バランスの維持、送配電網の建設・保守、最終保障サービスの提供、離島のユニバーサルサービスの提供を義務づけるとともに、これらを着実に実施できるよう、地域独占と総括原価方式の託送料金規制(認可制)を措置しました。また、小売電気事業者に対しては、需要を賄うために必要な供給力の確保を義務づけることとし、将来的な供給力不足が見込まれる場合に備えたセーフティネットとして、広域機関が発電所の建設者を公募する仕組みも創設しました。
さらに、需要家保護を図るための措置として、小売電気事業者に対して、契約条件の説明義務等の需要家保護のための規制を課すとともに、旧一般電気事業者に対しては、2020年3月末まで経過措置として料金規制を継続することとしました。ただし、電気の使用者の利益を保護する必要性が特に高いと認められるものとして経済産業大臣が指定する指定旧供給区域のみ、経過措置料金が存続することとしました。2019年4月には、電力・ガス取引監視等委員会から、消費者等の状況や競争者による競争圧力、競争環境の持続性の状況等を総合的に考慮した上で、2020年4月の時点においては、全ての供給区域において、経過措置料金を存続させることが適当と考えられる旨、経済産業大臣に対する意見が示されました。この意見を踏まえ、2019年7月には、全ての旧一般電気事業者に係る供給区域について、小売規制料金に係る経過措置の存続のための指定が行われました。その後は概ね年に1回程度の頻度で、審査対象区域の検討を行うこととしています。
加えて、電力の小売全面自由化に伴い、多種多様な事業者が卸電力取引所で取引を行う機会が増加することや、時間前市場の創設等、制度変更により卸電力市場を利用して不当に利益を得るケースが想定されることから、相場操縦等の不正取引の防止、国による市場監視、取引所の運営の適切性確保を可能とする規制措置も講じています。こうした措置により市場の透明性と廉潔性を維持することが、卸電力市場の活性化、ひいては小売電力市場の活性化につながることと考えています。
3.電力の小売全面自由化の進捗状況
(1)電気事業に係る制度設計
2015年9月に開催された電力取引監視等委員会(2016年4月に「電力・ガス取引監視等委員会」に改組)において、小売営業に関するルールや卸電力市場における不公正取引の取締手法、今後の託送料金制度のあり方等、適正な取引の確保のために必要となる詳細な制度設計について、議論が進められてきました。
また、電力システム改革が進展する中、電力分野においては、エネルギー政策の基本的視点として、「安全性」を大前提に、「安定供給」、「経済効率性」及び「環境適合」を同時に達成していくことが求められます。効率的かつ競争的な電力市場の整備等の環境整備を進めると同時に、電力システム改革が、日本経済における成長戦略としての効果を最大限に発揮するためにも、市場における担い手としてのエネルギー産業を、国際的にも競争力のあるものとしていくことが必要不可欠です。
このため、電気事業制度に係る制度設計をはじめ、電力分野における産業競争力の強化に向けた幅広い政策課題を検討する場として、2015年10月に、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の下に電力基本政策小委員会を設置し、2016年10月からは、電力・ガス基本政策小委員会へと検討の場を移しています。この小委員会では、例えば、2017年10月から料金規制の経過措置についての議論が開始されました。2018年度には、規制下にある料金メニューそれぞれの用途や契約状況が確認され、また、それらに関する新電力や需要家へのヒアリング・アンケート結果等を踏まえた議論が行われたほか、燃料費調整制度や最終保障供給制度のあり方等、多岐にわたる議論が行われました。その他にも、「電気事業法等の一部を改正する等の法律(平成27年法律第47号)」の附則に基づき、2020年度からの「発送電分離」を前にした検証が開始され、2018年9月から計7回にわたって、小売全面自由化後の競争状況や広域機関の活動状況、電力各社のシステム対応状況等について、議論を行いました。2019年6月には、送配電部門の法的分離に向けた電気事業を取り巻く状況についての検証結果がとりまとめられ、2020年4月に送配電部門の法的分離が行われました。その後、2023年12月には、電気事業法に係る検証規定に基づき、これまでの電力システム改革全体の検証を開始しました。
このように、電力システム改革の制度設計については、総合資源エネルギー調査会や電力・ガス取引監視等委員会において検討されてきたところであり、引き続き、適切な場において検討を進めていきます。
(2)小売電気事業者の登録
2023年12月末時点で、729者を小売電気事業者として登録しています。
この小売電気事業者の登録については、法令に則り、資源エネルギー庁が、最大需要電力に応ずるために必要な供給能力を確保できる見込みがあるかといった観点から、電力・ガス取引監視等委員会が、電気の使用者の利益の保護のための措置が講じられているかといった観点から、それぞれ審査を行っています。
登録された小売電気事業者の内訳を見ると、過去より高圧の小売電気事業を行っていた新電力事業者(PPS)に加え、LPガスや都市ガス、石油、通信、放送、鉄道関係の事業者等、非常に多岐にわたります。また、従来の料金体系とは異なる段階別料金や既存事業とのセット割、時間帯に応じて価格差を付ける時間帯別料金等、新たな料金メニューの提供も見られます。さらに、異業種の事業者間の連携や地域の枠を超えた事業統合等も始まっており、事業者の事業機会の拡大も進んでいます。
なお、電力取引報によると、2023年12月時点における電力市場全体の販売電力量に占める新電力のシェアは、約17%となっています。
(3)料金メニューの多様化
新電力の提供する料金メニューを見ると、全体的な傾向としては、基本料金と従量料金の二部料金制からなる既存の料金メニューに準じたものが多く見られます。他方で、一部では、完全従量料金メニューや定額料金メニュー、市場連動型料金メニュー、時間帯や季節に応じて料金単価が変更になるメニュー、指定された時間帯における節電状況に応じた割引メニュー、セットプラン等、新しい料金メニューも提供されるようになっています。
また、再エネ等の電源構成や地産地消型の電気であることを訴求ポイントとして、顧客の獲得を試みる小売電気事業者の参入も見られ、中には、需要家が発電所を選んで電力を購入できる等、特色のある小売電気事業者も存在しています。さらに、電力消費の見える化(電気の使用状況の可視化)や、電気の使用状況等の情報を利用した家庭の見守りサービス等も提供され始めています。その他にも、応援するスポーツチームとのつながりや里山の景観保存等、需要家の好みや価値観に訴求するサービスも始まっています。
加えて、需要家側の取組として、電力コストの削減といった観点から、同種の事業者間における電気の共同調達や、地域を問わない事業グループ全体としての電気の一括調達等の動きも見られています。
4.電力小売市場・卸売市場に関する取組
(1)小売取引の監視等
①各種相談への対応
電力・ガス取引監視等委員会は、相談窓口を設置し、電気の需要家等から寄せられた相談に対応し、質問への回答やアドバイス等を行っています。2023年4月〜2024年3月における相談件数は2,679件でした。本相談において、不適切な営業活動等に係る情報があった場合には、事実関係を確認し、必要な場合には小売電気事業者に対する指導等を行いました(第361-4-1)。
【第361-4-1】相談窓口への相談件数(電気)の推移
【第361-4-1】相談窓口への相談件数(電気)の推移(ppt/pptx形式:51KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
また、2023年5月に消費者庁と連名で電気の勧誘例等に関する注意喚起を行ったほか、2024年3月には経済産業省のX(旧Twitter)を活用し、電気・ガスの契約前の注意点を周知する等、消費者に対して情報提供を行いました。
②小売電気事業者に対する指導
(ア)勧告
●グランデータに対する勧告(2023年6月)
小売電気事業者であるグランデータは、2022年5月1日付で電気の小売供給契約の変更(燃料費調整額の算出方法の変更等)を行った際、電磁的方法による書面交付を承諾した約23万件の需要家に対し、契約の変更前に、携帯電話のショートメッセージサービス等を使用する方法で、契約の変更内容について通知しましたが、その通知内容は、契約の変更内容の説明として十分ではありませんでした。また、この契約の変更については、約34万件の需要家に対し、電気事業法で交付が義務づけられている書面を交付していませんでした。さらに、グランデータは、同年12月1日付で電気の小売供給契約の変更(燃料費調整額の算出方法の再変更等)を行った際、電磁的方法による書面交付を承諾した約15万件の需要家に対し、契約の変更前に、携帯電話のショートメッセージサービス等を使用する方法で、契約の変更内容について通知しましたが、その通知内容は、契約の変更内容の説明として十分ではありませんでした。
これらに加えて、グランデータの委託先等は、電気の小売供給契約の締結の勧誘等を行った際、他の小売電気事業者の名称に酷似した文言が広告バナーに表示されるウェブサイトを用いる等、需要家の誤解を招く情報提供等を行っており、グランデータは、委託先に対する指導・監督が十分ではありませんでした。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法に基づき、グランデータに対し、以下を求める業務改善勧告を行いました。
- ①今後、需要家に対する説明方法及び社内体制の改善等、必要な措置を講じること。
- ②今後、契約締結後交付書面の不交付の原因となりうる事象を把握し、是正するための社内体制の改善等、必要な措置を講じること。
- ③今後、電気の小売供給に係る供給主体並びに電気料金及びその算出方法について、需要家の誤解を招くおそれのある情報提供を行わないよう、情報提供の方法及び委託先に対する指導・監督を含めた社内体制の改善等、必要な措置を講じること。
- ④前記①から③までに基づいて講じた措置について、自社が電気の小売供給契約を締結している需要家に周知すること。
- ⑤前記①から④までに基づいて講じた措置について、電力・ガス取引監視等委員会に対し、文書で報告すること。
(イ)指導の例
●小売電気事業者A社に対する指導(2023年8月)
A社は、2022年4月頃から2023年1月頃までの間、自社の特定の料金プランについて、特定小売供給約款によって契約した場合よりも安価にならない場合があったにもかかわらず、自社のウェブサイト等において、当該プランの方が常に安価であるかのような広告表示を行い、需要家の誤解を招く情報提供を行っていました。当該行為によって、自社のサービスに需要家を誘導することは、需要家の誤認に基づく選択を招きかねず、また、小売電気事業者間の公正な競争を阻害するおそれがあります。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、A社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を実施するように指導を行いました。
●小売電気事業者B社に対する指導(2023年10月)
B社は、2022年12月頃から2023年4月頃までの間、旧一般電気事業者の電気の販売についての委託等を受けていないにもかかわらず、小売供給契約の締結の勧誘に際して、需要家に対し、自社が旧一般電気事業者の指定を受けている旨等を述べる等、あたかも自社が旧一般電気事業者の関係会社等であるかのような誤解を招く情報提供を行っていました。当該情報提供によって、自社のサービスに需要家を誘導することは、需要家の誤認に基づく選択を招きかねず、また、小売電気事業者間の公正な競争を阻害するおそれがあります。
また、B社は、2021年11月頃から2023年10月頃までの間、自社のホームページにおいて電源構成を開示するに当たり、必要な非化石証書を使用していないにもかかわらず、環境価値を有する電気であるとの印象を与えるような表示をしていました。当該表示は、自社の販売する電気があたかも環境価値を有するものであると需要家を誤認させ、需要家の混乱を招くとともに、事業者間の競争条件を歪める可能性があります。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、B社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を実施するように指導を行いました。
③小売市場重点モニタリング
電力・ガス取引監視等委員会は、一定の価格水準を下回る小売契約について、競争者からの申告や公共入札の状況を踏まえ、取引条件等を含む実態を重点的に把握する「小売市場重点モニタリング」を2019年9月から開始し、その調査結果を年2回程度の頻度で公表しています。
(ア)背景
2017年から2018年頃、複数の新規参入事業者より、「一部地域の旧一般電気事業者が、電気の購入先について、新規参入事業者への切替(以下、本項において「スイッチング」という。)をしようとしている顧客や、公共入札を行う顧客等の特定の顧客に対してのみ、対価が非常に低い小売供給を提案している1」という具体的な営業事例について、電力・ガス取引監視等委員会に相談がありました。旧一般電気事業者によるこのような行為は、一般的に、新規参入事業者の事業を困難なものとし、新規参入事業者を市場から退出させる等、将来の競争を減殺し、電気事業の健全な発達に支障を及ぼすおそれがあるため、第28回及び第32回制度設計専門会合(2018年3月及び同年7月開催)において、対応方針が検討されました。その結果、「電力の小売営業に関する指針」が改定され、スイッチング期間中の取戻し営業行為が、問題となる行為として位置づけられました。また、スイッチング期間以外における差別的な対価の提供に関する規制のあり方については、競争状況を引き続きモニタリングし、必要に応じてさらなる検討を行うこととされました。
その後、2019年4月に公開された電気の経過措置料金に関する専門会合のとりまとめにおいて、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の1つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、当該内部補助を受けた小売部門が廉売等の行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持又は強化するおそれがあることが指摘されました。加えて、このような不当な内部補助を防止するためには、社内外取引の無差別性を実効性のある形で確保することが最も有力で現実的な手段であること、また、不当な内部補助が行われているかどうかを確認するに当たっては、廉売等の行為による小売市場における競争の歪曲の有無を判断するため、具体的な小売価格についてモニタリングを行い、これらの状況を適切に把握する必要があることも指摘されました。
これらの指摘を踏まえ、第38回及び第40回制度設計専門会合(2019年5月及び同年7月開催)において、小売市場重点モニタリングの実施方法等を検討し、その内容を踏まえ、2019年9月から本取組を開始しました(第361-4-2)。
【第361-4-2】小売市場重点モニタリングの概要
【第361-4-2】小売市場重点モニタリングの概要(ppt/pptx形式:224KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
(イ)調査結果
2022年7月から同年12月に供給を開始した小売供給契約分について、調査の結果、問題となる事例(可変費を下回る価格設定)は認められなかった旨を、第86回制度設計専門会合(2023年6月開催)において報告し、その調査結果を公表しました。
また、2023年1月から同年6月に供給を開始した小売供給契約分について、調査の結果、問題となる事例(可変費を下回る価格設定)は認められなかった旨を、第91回制度設計専門会合(同年11月開催)において報告し、その調査結果を公表しました。さらに、同調査においては、モニタリング調査期間中の公共入札案件の成立件数が、前年同時期に比べて大幅に減少していることを確認したため、この理由について、モニタリング対象事業者へアンケート調査を実施しました。その結果、供給力不足や、燃料価格・市場価格の高騰による調達コストの増加等が要因として考えられること、また、今後は公共入札への応札を再開・増加予定としている事業者が多い状況であることを確認し、同専門会合において報告しました。
④小売規制料金に係る審査・監査・事後監視
(ア)規制料金の改定申請に対する審査
2016年4月に電力の小売全面自由化を実施した際、家庭用等の低圧の小売料金については、経過措置として、みなし小売電気事業者(旧一般電気事業者10社)に規制料金(経過措置料金)を存続させることとされました。
みなし小売電気事業者が規制料金を値上げしようとするときは、原則、経済産業大臣の認可が必要であるところ、2022年11月には、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力及び沖縄電力の5社から、2023年1月には、北海道電力及び東京電力エナジーパートナーの2社から、規制料金の値上げ認可申請(以下、本項において「本申請」という。)が行われました。その上で、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に対して、本申請に関する意見聴取があり、料金制度専門会合(2022年12月〜2023年4月開催)において、合計16回にわたって厳格かつ丁寧に審査を行い、2023年4月に本申請に関する査定方針案をとりまとめ、経済産業大臣に対して意見回答を行いました。
その後、経済産業省と消費者庁との協議を経て、2023年5月16日に開催された「物価問題に関する関係閣僚会議」において、本申請に関する査定方針が了承されました。これを踏まえ、経済産業省は、みなし小売電気事業者7社に対して、本申請に関する補正を指示し、各社から提出された補正書を受理しました。その上で、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に対して、本補正に関する意見聴取があり、料金制度専門会合(同年5月17日開催)において、査定方針どおりに補正されていることを確認し、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対して、認可することに異存がない旨、意見回答を行いました。この結果を踏まえ、同年5月19日に、経済産業大臣により本申請の認可がなされました。
なお、前述の経済産業省と消費者庁との協議においては、各事業者のコスト効率化のフォローアップを経済産業省が行うことが本申請の認可に当たっての条件とされたところ、電力・ガス取引監視等委員会では、2023年度から2025年度を集中改善期間と位置づけて、規制料金の改定を行った各事業者に対して、調達コストの効率化に向けたロードマップの策定を求めており、その進捗状況等を確認していくこととしました。具体的には、専門家や事業者へのヒアリングを実施し、料金制度専門会合において報告・公表等を行っています。
また、2024年1月に、レベニューキャップ制度における一般送配電事業者の「収入の見通し」の変更や、発電側課金の導入に向けた発電側課金単価の設定及び需要側託送料金単価の見直しに伴い、託送供給等約款の変更認可が行われ、これを踏まえた需要側託送料金の変動や、発電側課金の導入に伴う規制料金の料金原価の変動等に対応するため、同年2月5日及び6日に、みなし小売電気事業者(10社)から経済産業大臣に対して規制料金の変更届出(なお、北陸電力及び沖縄電力は、届出内容の一部に変更又は修正が生じたことから、同年2月13日に変更届出の取下げと再度の変更届出を行っており、以下、同年2月13日時点でなされた変更届出をまとめて「本届出」という。)が行われました。その上で、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に対して、本届出に関する意見聴取があり、料金制度専門会合(同年2月19日開催)において、本届出の内容について確認を行い、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対して、本届出の内容について異存がない旨、意見回答を行いました。
(イ)みなし小売電気事業者に対する監査
電力・ガス取引監視等委員会は、「電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)」附則第21条の規定に基づき、みなし小売電気事業者(10社)に対して、2022年度監査を実施しました。
監査の結果、電気事業法等の一部を改正する法律附則第25条の6の規定に基づくみなし小売電気事業者に対する勧告及び附則第25条の7の規定に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、1事業者に所要の指導を行いました。
(ウ)経過措置が講じられている電気の小売規制料金に係る原価算定期間終了後の事後評価
「電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)」附則の経過措置が講じられている電気の小売規制料金については、原価算定期間の終了後に、毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないか等を経済産業省において確認し、その結果を公表することとなっています。
2024年2月に、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣からの意見聴取を受けて、料金制度専門会合において、みなし小売電気事業者10社のうち、原価算定期間中の7社を除いた3社(中部電力ミライズ、関西電力及び九州電力)について、「電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等(20160325資第12号)」第2(6)⑤に基づく評価及び確認を行い、その結果をとりまとめました。
〈料金制度専門会合のとりまとめ内容(概要)〉
審査基準のステップ1(電気事業利益率による基準)では、個社の直近3か年度平均の利益率が、10社の過去10か年度平均の利益率を上回る事業者は、中部電力ミライズ及び九州電力の2社でした。
審査基準のステップ2(超過利潤累積額による基準/自由化部門の収支による基準)では、2022年度末の超過利潤累積額が一定水準額を下回ったものの、自由化部門の収支が直近2年連続で赤字となった事業者は、九州電力の1社でした。
審査基準のステップ3(行政による評価)では、九州電力の内部留保及び株主配当の推移を確認したところ、必要以上の内部留保や株主配当は確認されませんでした。
上記を踏まえ、原価算定期間の終了後に料金改定を行っていないみなし小売電気事業者3社について、審査基準に基づく評価を実施した結果、変更認可申請命令発動の要否の検討対象となる事業者はいませんでした。
今回、2022年度の事後評価の対象となったみなし小売電気事業者3社について、現行料金に関する値下げ認可申請の必要があるとは認められませんでした。
この結果を踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対し、値下げ認可申請の必要があると認められる事業者はいなかった旨を回答しました。
⑤小売電気事業者に関する今後の対応(電力の小売営業に関する指針の改正等の建議)
電力・ガス取引監視等委員会は、小売電気事業者の撤退等が増加している中、需要家の保護や社会的負担の抑制を図るため、2022年7月以降、制度設計専門会合において、小売電気事業の事業開始時・事業開始後・事業撤退時の3段階について、事業運営の状況に関するセルフチェック及び定期報告の仕組み(リスクチェック)や、事業撤退時における適切な周知期間のあり方等を検討し、必要な対応をとりまとめました。
また、電力・ガス取引監視等委員会は、2023年6月に小売電気事業者に対して業務改善勧告を行った事案を踏まえ、同年7月の制度設計専門会合において、契約変更時における不十分な情報提供を「電力の小売営業に関する指針」における「問題となる行為」として明記することや、その具体例について検討を行いました。
さらに、電力・ガス取引監視等委員会は、電源構成等や非化石証書の使用状況について、「電力の小売営業に関する指針」に沿った適切な表示が行われていない場合に、事業者に対して問題点を指摘する等の対応を行っています。一方で、「電力の小売営業に関する指針」における電源構成等や非化石証書の使用状況に関する記載は、項目が多岐にわたっており、特に注意を要する点について容易に理解できるものにはなっていない可能性があると考えられるため、同年12月に行われた制度設計専門会合において、「電力の小売営業に関する指針」を読みやすい構成・内容に改定することについて検討を行いました。
これらを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、2024年2月に、下記の事項に係る所要の制度的措置を図るよう、経済産業大臣に建議しました。
〈経済産業大臣に対する建議事項(概要)〉
●電気関係報告規則に基づく定期報告に関する事項
「電気関係報告規則(昭和40年通商産業省令第54号)」について、小売電気事業者に対し、同規則第2条の表第7号に掲げる電力取引報として「リスク管理体制の運用状況」及び「資金の概況」に係る定期報告を求めるための改正を行うこと。
●需要家に対する丁寧な情報提供に向けた対応に関する事項
「電力の小売営業に関する指針」及び「ガスの小売営業に関する指針」について、以下の対応を行うこと。
- 新規に小売供給契約を締結しようとするときのみならず、既に締結されている小売供給契約を変更しようとするときにおいても、十分な説明を行わないことが、説明義務に違反する「問題となる行為」であることを明記すること。
- 例えば、以下の場合は、小売供給契約を変更しようとするときの「問題となる行為」に該当する旨を明記すること。
- 需要家に対して、電子メールや携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)等を送信する方法で契約変更の内容を通知する際、当該電子メール等で、具体的な変更内容に一切触れず、事業者のホームページ等へのリンクのみを掲載する場合。
- 需要家への電子メール等で、契約変更の内容を簡潔に記載しつつ、事業者のホームページ等へのリンクを掲載していたとしても、リンク先のホームページ等において、変更内容に係る具体的な記載や資料の掲載等がない場合。
●電源構成等や非化石証書の使用状況の適切な開示の方法に関する事項
「電力の小売営業に関する指針」1(3)「電源構成等や非化石証書の使用状況の適切な開示の方法」について、下記の事項を含む改正を行うこと。
- 電源構成等や非化石証書の使用状況に関する情報の表示に係る全体像を示した整理表を追加すること。
- 「問題となる行為」と「望ましい行為」が混在している記載について、それぞれを分離して記載すること。
- 電源構成等や非化石証書の使用状況に関する情報の表示例を1つの項目に集約すること。
⑥関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力及び九電みらいエナジーに対する業務改善命令
2023年3月30日に、公正取引委員会は、中部電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力及び九電みらいエナジーの計5社に対し、当該5社及び関西電力が「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)」(以下「独占禁止法」という。)第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行っていたとして、独占禁止法の規定に基づき、排除措置命令及び課徴金納付命令を行いました。
当該事案に関連して、電力・ガス取引監視等委員会は、同年6月19日に、電気事業法第66条の13第1項の規定に基づき、関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力及び九電みらいエナジーの計5社に対して業務改善命令を行うことを、経済産業大臣に勧告しました。これを受け、同年7月14日に、経済産業大臣は、当該5社に対して、電気事業法第2条の17第1項の規定に基づき、他の旧一般電気事業者等との間で相互のエリアにおける電気料金又は営業方針に関する情報交換を行わないこと、再発防止のための改善計画を策定及び実施すること、事案の発生原因の公表や関係者の厳正な処分を行うこと等を命じる、業務改善命令を発出しました。
同年7月28日及び同年8月10日には、業務改善命令の対象となった事業者から改善計画が提出されました。電力・ガス取引監視等委員会は、同年8月以降の1年間を集中改善期間と位置づけ、各事業者の取組状況についてフォローアップを行うこととしました。具体的には、各事業者の社長との面談や、改善計画の進捗状況のヒアリング等を実施しています。
(2)電力等の卸取引の監視
①スポット市場の監視
2020年12月から2021年1月にかけて発生したスポット市場の価格高騰については、制度設計専門会合における分析・検討の結果を踏まえた議論を行い、2021年4月28日に、「2020年度冬期スポット市場価格の高騰について」を公表しました(2021年6月14日改訂)。この検証結果を踏まえ、2021年6月29日以降、電力スポット市場におけるコマごとのシステムプライス、エリアプライス、時間前市場におけるコマごとの平均価格のいずれかが30円以上となった場合には、旧一般電気事業者及びJERAに対して、入札可能量を全量市場供出していることを示すデータの提供を求めており、その確認結果については、速やかに電力・ガス取引監視等委員会のホームページにおいて公開しています。
また、電力・ガス取引監視等委員会では、卸電力取引所における入札について、不公正な取引が行われていないかを日々監視しています。このような日々の監視から、スポット市場で複数件の誤入札があったことを確認しており、誤入札に至った各事業者に対して事実関係の調査を実施した結果、いずれの事業者にも市場相場を変動させる意図は確認されず、再発防止に努めるよう、口頭又は文書による指導等を実施しました。特に、2023年9月には、関西電力が、本来意図していた入札量とは異なる内容での入札を複数回行っていたことが判明したため、事実関係について調査したところ、一定の試算に基づけばコマによってはスポット市場約定価格を30円/kWh程度も上昇させており、関西電力の過失の大きさや市場への影響が重大であったこと等に鑑みて、再発防止に向けて必要な措置を速やかに講じる計画を立案・実施した上で報告するよう、業務改善勧告を実施しました。
②ベースロード市場の監視
ベースロード市場は、日本卸電力取引所(JEPX)に開設された市場です。電力自由化により新規参入した小売電気事業者が、一般電気事業者であった小売電気事業者と同様にベースロード電源を利用できる環境を実現することで、小売電気事業者間のベースロード電源へのアクセス環境のイコールフッティングを図り、小売競争を活性化させるため、2019年度に創設されました。
2023年7月18日には「ベースロード市場ガイドライン」(以下、本項において「ガイドライン」という。)が改定され、2023年度のオークションから、受渡期間1年・固定価格取引商品に加え、受渡期間1年・事後調整付取引商品や、受渡期間2年・事後調整付取引商品の取扱いが開始されました。
ガイドラインでは、ベースロード市場の目的を踏まえ、各区域における旧一般電気事業者等の「大規模発電事業者」は、ベースロード電源の発電平均コストを基本とした価格を上限(以下「供出上限価格」という。)として、資源エネルギー庁が算定した量(以下「供出量」という。ただし、大規模発電事業者のベースロード市場への参加が任意の開催回(第4回オークション)についてはその限りではない。)をベースロード市場に供出することが適当であるとしています。また、大規模発電事業者の小売部門におけるベースロード電源に係る調達価格が、供出価格を不当に下回っている場合には、ベースロード市場の目的が達成されないおそれがあります。
こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会では、(1)ベースロード市場の受渡年度の前年度において、適切な量及び価格が供出されているかという観点から、2023年度に実施されたベースロード市場のオークション(2024年度受渡分:8月、10月、11月、1月の計4回)に関する取引内容について監視を行い、その結果を下記のように公表しました。また、(2)ベースロード市場の受渡年度の翌年度において、発電コスト及び発電量に関する想定と実績の乖離が合理的であったかという観点から、2022年度に受渡が行われた2021年度のベースロード市場について事後的な監視を行い、その結果を下記のように公表しました。
〈ベースロード市場の監視結果(概要)〉
(1)-1 受渡年度(2024年度)の前年度における供出量の監視結果
2023年度の第1回〜第3回オークションにおいて、全ての大規模発電事業者がガイドラインで定める電力量を満たしていることを確認しました。
(1)-2 受渡年度(2024年度)の前年度における供出上限価格の監視結果
2023年度の第1回〜第4回オークションにおいて、供出上限価格の算定誤りが発覚した大規模発電事業者は計5社であり、約定結果に影響を及ぼした1社と複数回のオークションで算定誤りが発覚した1社については業務改善指導を行い、それ以外の3社については注意喚起を行いました。
また、燃料費の価格変動リスクの見積手法については、2023年8月開催の第1回オークションにおいて大規模発電事業者のうち2社に是正を求め、1社については同年10月開催の第2回オークションにおいて、もう1社については同年11月開催の第3回オークションにおいて、一定の改善がなされていることを確認しました。その一方、同年11月開催の第3回オークションにおいて、大規模発電事業者のうち1社がガイドラインに定められた算定手法とは認められないことが確認されたため、業務改善指導を行いました。
(2)受渡年度(2022年度)の翌年度における監視結果
ガイドラインに基づき、大規模発電事業者に対して2021年度オークション(2022年度受渡分)の実績発電コスト・実績発電量に関する根拠の提出を求め、想定と実績との乖離に係る合理性を確認した結果、監視の観点からは、合理性が乏しいと判断される点は確認されませんでした。
(3)容量市場の創設・運用・監視
①容量市場の創設・運用
かつての総括原価方式の枠組みの下での電源投資は、規制料金を通じて安定的に回収されていました。他方、総括原価方式と規制料金による投資回収の枠組みがない中での電源投資は、原則として、市場取引又は市場価格を指標とした相対取引の中で投資回収される仕組みに移行していくと考えられます。このため、FIT制度の対象となる再エネ電源を除けば、大部分の電源に係る投資回収の予見性は、かつての総括原価方式下の状況と比べ、低下すると考えられます。
また、FIT制度等を通じて再エネ電源が拡大することになれば、従来型電源の稼働率が低下するとともに、再エネ電源が市場に投入される時間帯においては市場価格が低下するため、全電源にとって売電収入が低下すると考えられます。その結果、電源の将来の収入見通しの不確実性が高まることになるため、事業者の適切なタイミングにおける電源投資意欲がさらに減退する可能性があります。
今後、仮に電源投資が適切なタイミングで行われなかった場合、電源の新設やリプレース等が十分に実施されない状態の中で、既存の発電所が閉鎖されていくこととなります。そのような場合には、中長期的に供給力不足の問題が顕在化するとともに、電源の開発には一定のリードタイムを要することから、電力の需給ひっ迫期間中の電気料金の高止まりや、再エネをさらに導入した際に需給調整手段として必要となる調整電源を確保できない等の問題も生じることが考えられます。
こうした状況を踏まえると、単に卸電力市場(kWh価値の取引市場)等に供給力の確保・調整機能を委ねるのではなく、一定の投資回収の予見性を確保する施策である「容量メカニズム」を追加で講じ、電源の新陳代謝が市場原理により適切に行われることを通じて、より効率的に中長期的に必要な供給力・調整力を確保できるようにすることが求められます。
2017年2月に公表された総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会(以下「貫徹小委」という。)の「中間とりまとめ」においては、こうした観点から検討を進めた結果、一定量の供給力を確保することができる「容量市場」は、①あらかじめ必要な供給力を確実に確保することができること、②卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化により需要家にもメリットがもたらされること、③再エネ拡大等に伴う売電収入の低下は全電源に影響していること等を踏まえると、最も効率的に中長期的に必要な供給力等を確保できる手段であるとされました。
この貫徹小委の中間とりまとめを受け、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会(以下「制度検討作業部会」という。)では、容量市場の詳細制度設計について、ヒアリングや広域機関における検討も踏まえつつ、検討を行いました。そして、2020年7月に、2024年度における必要供給力を確保するための初回メインオークションが実施されました。その約定結果の検証を踏まえた上で、安定供給に必要な供給力を確実に確保しつつ、適切な価格形成が行われ、2050年カーボンニュートラル宣言にも整合的となるよう、制度を見直しました。その後は毎年度、各年度の4年後に必要な供給力を確保するためのメインオークションが実施されており、各オークションの開催後には、その検証結果も踏まえた制度の見直しを行っています。2023年10月には、2027年度における必要供給力を確保するための第4回メインオークションが実施されました。また、メインオークションによって確保している1年後の供給力からさらに追加で供給力を調達する、あるいは、確保する必要がなくなった供給力をリリースするための追加オークションが、必要に応じて開催されることとなっています。なお、2024年度を対象とした追加オークションは開催されていません(第361-4-3)。
【第361-4-3】容量市場(メインオークション・追加オークション)の収入
【第361-4-3】容量市場(メインオークション・追加オークション)の収入(ppt/pptx形式:88KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
一方で、メインオークションにおける落札電源の大部分が既設電源となっており、メインオークションは4年後の「1年間」の供給力を評価する市場であるため、メインオークション単独では、電源投資を行う者に対して、長期的な収入の予見可能性を付与することは困難と考えられます。
こうした状況から、電源への新規投資を促進するべく、メインオークションとは別に、新規投資を対象とした入札を行い、さらに、容量収入を得られる期間を「1年間」ではなく「複数年間」とする方法により、巨額の初期投資に対して長期的な収入の予見可能性を付与する新たな入札制度が、2023年度から容量市場の一部として創設されることとなりました。また、2020年10月に2050年カーボンニュートラル実現を目指すことを宣言したことや、それを受けて2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」を踏まえ、新たな入札制度の対象となる新規投資については脱炭素電源への新規投資とし、制度名称については「長期脱炭素電源オークション」としました。なお、火力発電所の休廃止の増加を背景として発生した2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫を踏まえ、短期的な電力需給ひっ迫を防止する目的で、比較的短い期間での建設が可能なLNG火力の新設・リプレース案件を、一定期間内に限り、追加的に新規投資の対象としています(第361-4-4)。
【第361-4-4】長期脱炭素電源オークションの概要
【第361-4-4】長期脱炭素電源オークションの概要(ppt/pptx形式:59KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
この長期脱炭素電源オークションの初回入札は2024年1月に行われ、脱炭素電源として400万kW、LNG火力として2023年度〜2025年度の3年間で600万kWの募集が行われています。
②容量市場の監視
容量市場は、発電事業者の投資回収の予見性を高め、中長期的に必要となる供給力や、再エネの主力電源化を実現するために必要な調整力を確保することを目的として創設された市場です。容量市場のオークションにおいて、市場支配力を有する事業者が、正当な理由なく、稼働が決定している電源を応札しない又は期待容量(設備容量のうち、実需給年度において供給力として期待できる設備容量)を下回る容量で応札すること(以下「売り惜しみ」という。)や、電源を維持するために容量市場から回収が必要な金額を不当に上回る価格で応札すること(以下「価格つり上げ」という。)によって、本来形成される約定価格よりも高い約定価格が形成される場合には、小売電気事業者が支払うべき容量拠出金の額が増加し、ひいては電気の使用者の利益を阻害するおそれがあります。
こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会には、「容量市場における入札ガイドライン」(以下、本項において「ガイドライン」という。)に基づき、市場支配力を有する事業者による売り惜しみや価格つり上げの監視が期待されています。2020年7月の初回メインオークションにおける約定価格の高騰を踏まえ、監視をより一層厳格にするべく、2021年度メインオークション以降は、応札の受付期間終了後に行う事後監視に加え、応札の受付期間開始前にも事前監視を行うこととされました。2023年度メインオークションでは、下記のとおり、問題となる売り惜しみ又は価格つり上げがなかったかどうかの観点から、事前監視及び事後監視を行いました。
- 売り惜しみ:ガイドラインに基づき、売り惜しみの可能性があると判断された電源について、理由の説明を求めるとともにその裏付けとなる根拠資料の提出を求め、その合理性を確認しました。
- 価格つり上げ:ガイドラインに基づき、監視対象となった電源について、ガイドラインに沿った適切な価格で応札されているかを確認すべく、応札価格を構成する人件費や修繕費等の算定方法及び算定根拠の説明を求め、事実関係を確認しました。
その結果、一部の事業者において、本来形成される約定価格よりも高い約定価格が形成されるおそれのある算定誤りを確認したことから、当該算定誤りを是正した価格で応札するよう求めました。また、2022年度メインオークションにおいても同様の算定誤りが確認されたことから、当該事業者に対し、再発防止策の確実な実施等の措置を講じるよう指導しました。
(4)非化石価値取引市場の創設・運用・監視
①非化石価値取引市場の創設・運用
高度化法により、小売電気事業者には、自らが調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上とすることが求められています。
しかし、卸電力取引所では、非化石電源と化石電源の区別がされないため、非化石電源の持つ価値が埋没しており、非化石電源比率を高める手段として活用ができません。その結果、取引所取引の割合が比較的高い新規参入者にとっては、非化石電源を調達する手段が限定される状況となっており、高度化法における目標の達成が困難な面があります。
このような状況を踏まえ、新たな市場である「非化石価値取引市場」を創設することによって、非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで小売電気事業者の非化石電源の調達目標の達成を後押しするとともに、需要家にとっての選択肢の拡大にもつなげることとしました。また、FIT電気に由来する非化石証書(以下「FIT非化石証書」という。)の売上については、FIT賦課金の低減に充てることとし、これにより、FIT制度による国民負担の軽減も促すこととしました。
FIT非化石証書の取引については、2018年5月に初回オークションを開始し、また、FIT電気以外の再エネ等の電気に由来する非化石証書(以下「非FIT非化石証書」という。)の取引についても、2020年11月に初回オークションを開始しました。その後は、四半期に一度の頻度でオークションを実施しています。これにより、非化石価値を有する電気については、全量が証書化されることとなりました。
なお、非化石価値取引市場の創設に当たっては、上記の制度趣旨を踏まえ、非化石価値を顕在化し、その非化石価値に適切な評価を与えることができるようにするため、下記のとおり、非化石証書の有する環境価値と需要家にとっての選択肢拡大という非化石証書の主な役割について、基本的な考え方を整理しました(第361-4-5)。
【第361-4-5】市場創設効果(イメージ)
【第361-4-5】市場創設効果(イメージ)(ppt/pptx形式:247KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
②非化石証書の有する環境価値
電気の持つ環境価値にはいくつかの概念が考えられますが、非化石価値(高度化法における非化石電源比率の算定時に非化石電源として計上できる価値)以外に、ゼロエミ価値(CO2排出係数が0kg-CO2/kWhであることの価値)や、環境表示価値(小売電気事業者が需要家に対してその付加価値を表示・主張できる権利)が主なものとして挙げられます。
非化石証書の購入者は、販売する電気に非化石証書を使用することで、こうした価値を需要家に訴求することができます。「電力の小売営業に関する指針」において、電源構成の表示に関しては、実際に受電した電源の構成を表示するとの整理がなされており、非化石証書を使用したとしても電源構成は変わらない点に留意が必要ですが、この指針において、再エネ由来の証書に関しては、電源種に応じて「再エネ100%」又は「実質再エネ100%」といった環境価値を表示することは許容することとしています。
③需要家の選択肢の拡大
非化石証書を購入した小売電気事業者は、電気とともに環境価値を需要家に販売することが可能となります。非化石証書には、再エネの電気に由来する再エネ指定の非化石証書と、再エネ以外の非化石電源の電気に由来する指定無し証書の2種類が存在します。例えば、再エネの推進に貢献したいと考える需要家は、数ある料金メニューから、再エネ指定の非化石証書を活用した環境価値付きの料金メニューを選択することで、実際に再エネの推進に貢献することが可能となります。
また、2021年には、「RE100」等の再エネ電気への需要家ニーズの高まりに対応するため、需要家による直接購入を可能とし、価格を大幅に引き下げることで、グローバルに通用する形でFIT証書を取引できる「再エネ価値取引市場」を創設しました。
なお、2019年2月のオークションからは、非化石証書に発電所情報等を付与(トラッキング)した証書を調達できるようにするための実証実験を開始し、2022年8月のオークションからは、日本卸電力取引所(JEPX)において、証書に対する当該トラッキングの本格的な運用を開始しています。
④非化石価値取引市場の監視
非化石価値取引市場は、再エネ価値に対する需要家ニーズの増大を踏まえ、2021年度より「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」に分離されることとなりました。この分離に当たって行われた非化石価値取引市場の制度見直しに伴い、小売電気事業者が高度化法上の目標を達成するために購入できる証書は、高度化法義務達成市場で扱われる「非FIT非化石証書」に限定されることとなりました。非FIT非化石証書の由来となる電源の多くが原子力や大型水力であり、売り手の大宗を旧一般電気事業者が占めることから、旧一般電気事業者の入札行動が非FIT非化石証書の価格形成に強い影響を及ぼすといった懸念が、制度検討作業部会で指摘されました。
こうした背景を踏まえ、非FIT非化石証書の取引における公平性や価格形成における透明性の確保を図る観点から、制度検討作業部会の「第五次中間とりまとめ」(2021年8月)に基づき、電力・ガス取引監視等委員会が、旧一般電気事業者及び電源開発を対象に、非FIT非化石証書の取引について監視を行うこととなりました。具体的には、非化石価値取引市場(高度化法義務達成市場)の各回オークション(8月、11月、2月、5月の計4回)ごとに、売り惜しみ及び価格つり上げの観点から、問題となる行為がないかについて監視を行っています。また、第4回オークション(5月)の取引終了後には、下記の3つの価格水準を相対的に比較し、乖離が認められる場合には、不当な価格設定の観点から、合理的説明を求めることとしています2。
(ア)各回の入札価格と相対契約(外部取引分)の価格水準
(イ)各回の入札価格と相対契約(内部取引分)の価格水準
(ウ)相対取引間(外部取引分及び内部取引分)の価格水準
なお、2023年度に実施した監視(2022年度第3回オークションから2023年度第2回オークションまで)では、問題となる事例は認められませんでした。
(5)発電・小売間の不当な内部補助の防止策
電気の経過措置料金に関する専門会合のとりまとめ(2019年4月)では、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の1つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が、社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、内部補助を受けた小売部門が廉売等の行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持又は強化するおそれについて指摘がありました。また、制度検討作業部会の「第二次中間とりまとめ」(同年7月)に係る議論では、非FIT非化石価値取引市場に関して、旧一般電気事業者が、非化石証書の収入分について発電部門から小売部門に不当に内部補助を行うことによって、小売市場における競争を歪曲する懸念について指摘がありました。さらに、容量市場の導入に当たっては、容量拠出金により収入を得る事業者(旧一般電気事業者以外も含まれうる)の発電部門から小売部門への内部補助について、同様の懸念が想定されました。
このように、旧一般電気事業者が、社外・グループ外の小売電気事業者と比較して、自社の小売部門にのみ有利な条件で電力の卸売を行うこと(不当な内部補助)等により、旧一般電気事業者の小売部門による不当な廉売行為等、小売市場における適正な競争を歪曲する行為が生じることへの懸念があることから、2020年7月に、電力・ガス取引監視等委員会は、旧一般電気事業者各社に対して、社内外の取引条件を合理的に判断し、内外無差別に卸売を行うこと等へのコミットメントを要請し、各社からはコミットメントを行う旨の回答を受領しました。
コミットメントに対する各社の取組状況を確認するため、社内外・グループ内外の取引単価や個別の条件に関するデータの提出及び説明を受ける形式で、第62回制度設計専門会合(2021年6月開催)、第67回制度設計専門会合(同年11月開催)、第75回制度設計専門会合(2022年7月開催)、第79回制度設計専門会合(同年11月開催)において、フォローアップの結果を報告しました。また、第83回制度設計専門会合(2023年3月開催)において整理した評価方針に基づき、第86回制度設計専門会合(同年6月開催)では、旧一般電気事業者各社の2023年度の通年の相対契約の内外無差別性について確認を行い、その結果、北海道電力及び沖縄電力については、現時点で内外無差別な卸売を行っていると評価されました。
加えて、第63回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会(2023年6月開催)では、長期の卸取引の促進についての議論が行われ、長期卸の販売と条件解除の進め方(段階的拡大)の絵姿が示されたことを受けて、第89回制度設計専門会合(同年9月開催)では、長期卸の内外無差別性の評価方針について審議が行われました。また、この専門会合においては、容量市場に係る収入・支出及び託送料金の発電側課金に関して、不当な内部補助の防止という観点から必要となる対応についても、審議が行われました。まず、容量市場に係る収入については、旧一般電気事業者各社の控除の考え方が社内外の取引において無差別であることを確認する必要があると整理されました。次に、容量拠出金については、旧一般電気事業者各社の小売部門が、当該費用も適切に認識した上で小売取引の条件や価格を設定しているかを確認する必要があると整理されました。最後に、発電側課金については、そのコストが卸価格に含まれ、小売部門にとっては電力調達単価の要素の一部となるため、卸取引の無差別性と小売価格について従来どおりのフォローアップを行う必要があると整理されました。
また、第91回制度設計専門会合(同年11月開催)では、旧一般電気事業者各社における2024年度以降の単年・長期の卸取引の取組状況に関して、中間的な報告を行い、多くの事業者が長期の卸標準メニューを設定し、内外無差別なスケジュールで販売を実施する予定である点について、大きな前進であると評価されました。また、この専門会合では、同年10月に開催された制度検討作業部会において、電力・ガス取引監視等委員会事務局より、非化石証書の内部取引価格の設定を求める方向性を示したことを踏まえて、今後のフォローアップのあり方についての審議が行われ、今後は非化石証書の内部取引分も小売価格に反映すべきコストとして認識することを求め、確認を行っていく必要があると整理されました。
さらに、第93回制度設計専門会合(2024年1月開催)では、内外無差別な卸売におけるオフサイトPPAの考え方について審議が行われました。
今後は、2024年度以降の単年・長期の相対契約の内外無差別性について、それぞれ単年・長期の評価方針を基に、容量市場に係る収入・支出や非化石証書の内部取引分も含めて確認・評価を行い、2024年度上期の制度設計専門会合において、審議が行われる予定です。また、引き続き、コミットメントに対する旧一般電気事業者各社の取組状況について、定期的なフォローアップを行い、必要な対応を検討していきます。
(6)電力先物市場の活性化
電力先物市場について、東京商品取引所(以下「TOCOM」という。)が、2019年8月に電力先物の試験上場(3年間の時限的な上場)の認可を取得し、同年9月から取引を開始しました。2020年12月から2021年1月にかけて、寒波に伴う電力需要の増加等の複数の要因により、電力スポット市場価格が高騰したことを受けて、価格変動リスクヘッジ手段としての電力先物の必要性が再認識されました。2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」でも、事業者のリスク管理の手法の1つとして、先物市場の活用が盛り込まれています。このような流れを受け、TOCOMは2022年4月に電力先物を本上場しました。TOCOMや、ドイツ取引所傘下の欧州エネルギー取引所(EEX)、第二種特定商品市場類似施設における取引、相対での店頭商品デリバティブ取引等を含め、電力先物市場は活性化しつつあります(第361-4-6、第361-4-7)。
【第361-4-6】電気事業者のリスク管理に資する電力先物市場
【第361-4-6】電気事業者のリスク管理に資する電力先物市場(ppt/pptx形式:64KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
【第361-4-7】電力先物の取引高の推移
【第361-4-7】電力先物の取引高の推移(ppt/pptx形式:44KB)
- 資料:
- 日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場約定量並びに東京商品取引所(TOCOM)及び欧州エネルギー取引所(EEX)の取引高を基に経済産業省作成
また、2023年11月には、「電力先物の活性化に向けた検討会」を設置しました。取引開始から4年が経過し、取引に係る知見が蓄積されつつある電力先物について、発電事業者や小売電気事業者に加えて、市場運営者や金融機関、有識者も交え、現物の商流を踏まえる重要性や電力先物に求められる役割、現在の電力先物市場が抱える課題、今後の制度設計の方向性等に関して議論を行い、2024年4月にとりまとめを行いました。
5.送配電分野に関する取組
(1)送配電事業の監視
①一般送配電事業者等に対する監査
電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法第105条の規定に基づき、一般送配電事業者及び送電事業者(以下「一般送配電事業者等」という。)13社(ライセンス数)に対して、2022年度監査を実施しました。
主な重点監査項目として、一般送配電事業者においては、送配電業務に関連し、小売電気事業者や発電事業者との間における託送料金に係る誤算定や工事費負担金の長期未精算等の事案が毎年発生しており、原因究明や再発防止策等を各社が実施しているところです。2021年度にも、託送料金に係る誤算定や工事費負担金の長期未精算等の事案が発生していることから、2022年度監査においても、引き続き再発防止の観点から、再発防止策の実施状況等の「約款の運用等」を重点的に確認しました。また、2020年12月28日に電気事業託送供給等収支計算規則等が改正され、不適切な発注・契約による支出増については、託送料金に係る超過利潤の計算において、費用として扱ってはならないことが明確にされました。この省令改正を受けて、2022年度監査では、「託送供給等収支」の監査において、超過利潤計算書上、超過契約額(委任又は請負の契約に係る手続について正当な理由なく透明性又は公平性が確保されていない場合であって、当該契約について合理的な金額を超えて支出した場合におけるその超えた部分の額をいう。)の有無及び調査方法を重点的に確認しました。さらに、一般送配電事業者の情報漏えい事案を受けて、2022年度の「体制整備等」の監査において、情報管理についての監査を強化しました。
監査の結果、電気事業法第66条の12の規定に基づく一般送配電事業者等に対する勧告及び電気事業法第66条の13の規定に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、7事業者に所要の指導を行いました。
②送配電事業者の業務実施状況の監視
電力・ガス取引監視等委員会は、必要に応じ、電気事業法に基づく報告徴収を行い、送配電事業者の業務実施状況を把握・分析するとともに、問題となる行為等が見られた場合には、その是正や再発防止を図るよう指導しています。
一般送配電事業者は、電気事業法第22条の3に規定する特定関係事業者以外の電気事業者と契約する需要者や発電者等に関する情報(以下「非公開情報」という。)を、その特定関係事業者が閲覧することができないよう体制を整備する義務を負っていますが、2022年12月以降に電力・ガス取引監視等委員会が行った調査により、一般送配電事業者7社においては、特定関係事業者であるみなし小売電気事業者(以下「関係小売電気事業者」という。)の従業員が非公開情報を閲覧可能な状態となっており、実際に閲覧や業務利用がなされていたことが判明しました。これを受けて、電力・ガス取引監視等委員会は、当該7社及びその関係小売電気事業者に対し、処分等を実施しました(詳細は次項に記載)。
また、2023年4月1日〜2024年3月31日までの期間においては、一般送配電事業者における託送料金の近接性評価割引の誤算定やデータの誤り等によるインバランス料金の誤精算の事案が発生し、これらについての再発防止策を着実に実施するよう指導を行いました。
③一般送配電事業者による非公開情報の漏えい事案
電力・ガス取引監視等委員会は、2022年12月以降、一般送配電事業者各社における非公開情報の情報管理状況等についての調査を行い、その結果、関西電力送配電、東北電力ネットワーク、九州電力送配電、四国電力送配電、中部電力パワーグリッド、中国電力ネットワーク、沖縄電力の計7社において、関係小売電気事業者の従業員が非公開情報を閲覧可能な状態となっており、実際に閲覧や業務利用がなされていたことが判明しました。
電力・ガス取引監視等委員会は、2022年12月23日に、関西電力送配電から新電力顧客情報の漏えいの事実について報告を受けてから、全ての一般送配電事業者及び関係小売電気事業者に対して、同様の事案についての調査依頼を行うとともに、各社からの報告内容に応じて、電気事業法第114条第1項の規定により委任された電気事業法第106条第3項の規定の権限に基づく報告徴収や、電気事業法第114条第1項の規定により委任された電気事業法第107条第2項の規定の権限に基づく立入検査を実施しました。また、2023年2月3日には、一般の方からの情報提供を受け付ける情報提供受付フォームを設置し、加えて、経済産業局における関係者の事情聴取や、広域機関への「スイッチング支援システム」のアクセスログの提供依頼等を行い、電力・ガス取引監視等委員会として必要な対応を行うため、事案の解明作業を行いました。また、資源エネルギー庁においても、同年2月10日に、一般送配電事業者の中立性や信頼性の確保及び事業の健全性の確保の観点から、全ての一般送配電事業者に対して、法令等遵守体制や適正な競争環境の確保の観点からの取組の一層の強化等を求める緊急指示を行いました。
電力・ガス取引監視等委員会による事案の解明作業の結果、関係小売電気事業者において非公開情報が閲覧可能となっていた経緯としては、①一般送配電事業者と関係小売電気事業者が共用するシステムにおいて、マスキングないしアクセス制御の不備があったもの、②災害等の非常時対応業務委託に基づき設置していた端末やアクセス権限を付与したシステムが、平常時においても利用可能となっていたもの、③一般送配電事業者と関係小売電気事業者の双方から業務を受託している業務委託先を通じて、関係小売電気事業者に対して情報が提供されていたもの、④情報端末の管理の不備により、関係小売電気事業者の従業員が使用可能な場所に一般送配電事業者が利用する情報端末が置かれていたもの、⑤一般送配電事業者が管理するシステムを利用するためのID・パスワードが関係小売電気事業者の従業員に知れたもの等がありました。また、一部の関係小売電気事業者においては、このようにして知りえた非公開情報を、積極的な営業行為又は顧客からの申込や申出への対応に利用していました。電力・ガス取引監視等委員会は、こうした事案により、電気事業者間の公平な競争に影響を及ぼしうる又は電気事業者間の業務において不公平な状況が創出されているものと認めました。
(ア)事案を踏まえた一般送配電事業者及び関係小売電気事業者への対応
電力・ガス取引監視等委員会は、こうした事案の内容や経緯、法令違反の態様等を考慮し、2023年3月31日に、電気事業法第66条の13第1項の規定に基づき、関西電力送配電、関西電力、九州電力送配電、九州電力及び中国電力ネットワークの計5社に対して業務改善命令を行うことを、経済産業大臣に勧告しました。これを受けて、同年4月17日には、経済産業大臣から、当該5社に対し、電気事業法第2条の17第1項又は電気事業法第27条第1項の規定に基づき、①託送情報に係る情報システムの共用状態の速やかな解消、②行為規制遵守に係る内部統制の抜本的強化、③事案の発生原因の調査・公表や関係者の厳正な処分の実施等を命じる、業務改善命令を発出しました。また、同日に、電力・ガス取引監視等委員会は、東北電力ネットワーク、東北電力、中部電力パワーグリッド、中部電力ミライズ、中国電力及び四国電力の計6社に対し、業務改善命令の対象となった5社と同様の取組を行うよう、電気事業法第66条の12第1項の規定に基づく業務改善勧告を行うとともに、四国電力送配電及び沖縄電力の計2社に対し、上記①②の取組を行うよう、業務改善指導を行いました。今般、電気事業法上の不適切な行為が見られなかった北海道電力ネットワーク、北海道電力、東京電力パワーグリッド、東京電力エナジーパートナー、北陸電力送配電及び北陸電力の計6社についても、今回の事案が一般送配電事業者の中立性・公正性に疑念を生じさせる重大な事案であることを踏まえ、同種の事案の発生を防止するためには、不適切事象を発生させた事業者に求められる措置に準じた措置を講じることが重要であると考えられることから、上記①②の取組を行うよう、要請を行いました。
同年5月12日には、業務改善命令、業務改善勧告及び業務改善指導の対象となった事業者(以下「処分等対象事業者」という。)より「業務改善計画」が提出されました。電力・ガス取引監視等委員会は、その実施状況、計画の取組の十分性及び実効性が担保されているかを確認するため、業務改善計画の提出日から1年間を集中改善期間と位置づけ、電力・ガス取引監視等委員会において、モニタリングを実施することとしました。具体的には、各処分等対象事業者の社長との面談、本店・支店・営業所における対策の進捗状況の実地確認や従業員へのヒアリング、内部統制体制の構築やシステムの物理分割に向けた取組状況のヒアリング等を既に実施しています。
また、同年4月17日時点では、電気事業法上の不適切な行為が見られなかった北陸電力送配電においても、前述の要請を受けて業務の総点検に取り組む中で、非公開情報が北陸電力において閲覧可能となっていたことが判明しました(ただし、北陸電力の従業員による不適切な情報閲覧は認められていません。)。これを受け、電力・ガス取引監視等委員会は、同年12月19日に、北陸電力送配電に対して、再発防止を徹底するとともに、先般の要請に対する取組に係る不十分な事項を整理した上で、早期に実施し、当該整理及び実施状況に係る電力・ガス取引監視等委員会のモニタリングに対応するよう、業務改善指導を行いました。
引き続き、各処分等対象事業者の取組状況については、今後のモニタリングを通じて確認を行っていきます。
(イ)事案を踏まえた再発防止のための制度的措置
電力・ガス取引監視等委員会は、2023年6月29日に、一連の事案への再発防止策としての制度的措置として、①一般送配電事業者が、非公開情報の管理の用に供する情報システムの共用状態を速やかに解消する義務を負うこと、②一般送配電事業者が内部統制体制において管理部門を設置し、管理部門により現業部署の業務の法令適合性を担保するための必要な措置を実施する義務を負うこと、③関係小売電気事業者が非公開情報をその業務において利用することを禁じることを省令に規定すべき旨、経済産業大臣に対して建議しました。
(2)一般送配電事業者の収支状況(託送収支)の事後評価等
日本の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネの進展等によって電力需要が伸び悩む一方で、再エネの導入拡大に伴って系統連系ニーズが高まっており、また、送配電設備の高経年化への対応が増加する等、大きく変化しつつあります。こうした事業環境の変化に対応しつつ、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけコストを抑制していくとともに、再エネの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められています。
このような問題意識の下、料金制度専門会合において、一般送配電事業者の2022年度の収支状況の事後評価及び追加的な分析・評価を実施しました。
〈料金制度専門会合のとりまとめ内容(概要)〉
①法令に基づく事後評価
2022年度の当期超過利潤累積額(又は当期欠損累積額)について、新たな託送料金制度であるレベニューキャップ制度の導入に伴い、各事業者において2023年4月に新たな託送料金が適用されていることから、各事業者ゼロとなっており、基準に抵触しなかった(ストック管理)。
また、想定単価と実績単価の乖離率について、変更認可申請命令の発動基準となる一定の比率を超過した事業者はいなかった(フロー管理)。
東京については、2017年度収支から、ストック管理とフロー管理のそれぞれにおいて、廃炉等負担金を踏まえて他の一般送配電事業者に比べて厳格な基準が適用されることとなったが、当該基準に達していなかった。
②追加的な分析・評価
収入面については、節電・省エネ等の影響により電力需要が想定を下回ったため、沖縄を除く9社において、実績収入が想定原価(=想定収入)を下回った。一方、沖縄は、実績収入の想定収入からの乖離率が、2021年度の+3.8%から+5.3%に拡大した。
費用面については、北陸、関西、沖縄の3社において、実績費用が想定原価(=想定費用)を上回った。特に、沖縄は、離島供給に係る燃料費や給料手当等の増加により、2年連続で想定費用を大きく上回ったが、想定費用からの乖離率は、2021年度の+13.8%から+11.4%に縮小した。
全体的な傾向としては、実績収入が想定収入を下回る中で、費用のうち、設備関連費は抑制されているものの、人件費・委託費等が想定費用を上回っている。この結果、2022年度の託送収支においては、東北、四国、九州を除く7社で当期超過利潤額がマイナス(当期欠損)となった。
この結果を踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対し、託送供給等約款の変更認可申請を命じることが必要となる事業者はいなかった旨を回答しました。
(3)調整力の調達・運用状況の監視及びより効率的な確保等に関する検討
①一般送配電事業者が行う公募等の結果の確認
一般送配電事業者によるブラックスタート機能等の公募調達は、発電事業者等の競争を促すことで、コスト効率的な調達を実現するための仕組みです。しかし、現状では、ブラックスタート機能等を提供可能な旧一般電気事業者以外の電源等が多く存在しているとはいい難い状況です。このような状況を改善し、競争を促進していくためには、透明性のある公募調達を行うとともに、潜在的な応札者に対して適切な情報提供を行うことで、発電事業者等の入札参加の拡大を図ることが必要です。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、一般送配電事業者が行った公募調達等の結果を分析し、旧一般電気事業者の入札行動に問題となる点がないか、また、一般送配電事業者による調整力の運用が、容量(kW)価格や電力量(kWh)価格に基づき適切に運用されているか等について、監視を行いました。
こうした中、2022年5月に実施された2026年度向けのブラックスタート機能公募の調達結果を事後確認する中で、入札事業者の入札価格の算定において考慮すべき卸市場収入が過少と考えられる案件があり、制度設計専門会合での議論を経て、当該入札事業者に対し、適切に再算定を行うことを求めることとしました。その後、2023年度末までに、当該入札事業者が適切に卸市場収入を再算定し、それを踏まえて契約額を変更したことを確認しました。
②2023年度夏季の需給対策(追加供給力(kW)公募)の運用の事後確認等について
2023年度夏季の需給対策として、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会において実施が決定された、追加供給力(kW)公募について、電力・ガス取引監視等委員会は、調達・運用結果の適切性の事後確認、今後の検討課題の提示及び調達・精算時の論点整理等を行いました。
こうした中、2022年度冬季の追加供給力公募の精算時において、公募要綱の記載における燃料調達費用の精算を巡って、一般送配電事業者と供給力提供事業者の見解が相違する事案があり、制度設計専門会合での議論を経て、実際に要した費用に基づいた精算協議を求めるとともに、今後の課題として、費用圧縮の観点から、燃料調達価格の乖離について一定額精算する等の工夫を公募要綱において記載するよう求めました。こうした求めを踏まえて、2023年度夏季の追加供給力公募では公募要綱が変更され、燃料価格の変動リスクは応札事業者の応札価格に盛り込まれず、実費精算されることとなり、これにより、一般送配電事業者の変動リスクの支払いが回避されることとなりました。
③需給調整市場の創設・運用
一般送配電事業者が、電力供給区域の周波数制御や需給バランス調整を行うために必要な調整力を調達するに当たっては、特定電源への優遇や過大なコスト負担を回避しつつ、実運用に必要な量の調整力を確保することが重要となります。このような観点から、一般送配電事業者による調整力の公募が2016年より実施されており、DR等の調整力も調達されるようになっています(第361-5-1)。
【第361-5-1】需給調整市場の概要
【第361-5-1】需給調整市場の概要(ppt/pptx形式:64KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
2017年2月の貫徹小委の「中間とりまとめ」においては、今後、公募結果を踏まえつつ、需給調整市場の詳細設計を行い、一般送配電事業者が調整力を市場で調達・取引できる環境を整備することが適当であるとされました。また、「電力システム改革専門委員会報告書」においても、系統運用者が供給力を市場からの調達や入札等で確保した上で、その価格に基づきリアルタイムでの需給調整・周波数調整に利用するメカニズム(リアルタイム市場)を送配電部門の一層の中立化に伴い導入することが適当であるとされています。
諸外国においても、需給調整市場を開設し、調整力を市場の仕組みを活用して前週や直前に調達しています。同時に、欧米では需給調整の広域化にも取り組んでいます。例えば、欧州は、卸電力市場の広域統合から需給調整市場の広域統合へとルール・プラットフォームの整備を進めています。
日本においても、再エネの導入が進む中、調整力を効率的に確保していくことは重要な課題です。また、調整力の公募は、一部の調整力を除き、各エリアの一般送配電事業者がエリア内の調整力のみを調達していますが、効率的に調整力を調達するためには、エリアを超えて広域的に調整力を確保することも課題となっています。他方、各一般送配電事業者のシステムは、現状において、調整力の広域的な市場調達やその運用を前提として構築されておらず、日々の需給調整に支障を生じさせずにこうしたシステムの改修や実運用の変更を進めるためには、ルール検討やシステム構築を慎重に行う必要があります。
現在、制度検討作業部会や広域機関の委員会において、需給調整市場の詳細設計が進められており、2021年4月からは、再エネの予測誤差に対応する調整力(三次調整力②)について、2022年4月からは、実需給断面から1時間に生じる誤差に対応する調整力の一部(三次調整力①)について、市場取引を開始しています。2024年4月からは、沖縄エリアを除き、調整力の公募が終了するとともに、実需給断面から1時間に生じる誤差に対応するその他の調整力(一次調整力、二次調整力①、二次調整力②)について、市場取引が開始し、全調整力商品が需給調整市場での取引に移行しました。また、各一般送配電事業者のシステム改修に向けた検討や、調整力の広域運用に向けた準備についても、並行して進められています。
④需給調整市場の監視及び価格規律のあり方の検討
2021年4月より、需給調整市場において三次調整力②の取引が開始されましたが、2022年8月に、価格が高い水準で推移する期間がありました。電力・ガス取引監視等委員会は、この事象の背景等を確認するため、需給調整市場の参加事業者に対して入札価格等のデータに関する報告徴収を行った上で、「需給調整市場ガイドライン」(以下、本項において「ガイドライン」という。)の改定を建議し、2023年3月にガイドラインが改定されました。事前的措置の対象事業者等に対し、改定されたガイドラインに沿った応札行動を求めた結果、2023年度における三次調整力②の約定価格は、前年度の水準と比較して低下しました。
さらに、2022年4月から取引が開始された三次調整力①については、制度検討作業部会や広域機関の需給調整市場検討小委員会において、約定量の募集量未達及び応札単価が三次調整力②と比べて高い水準で推移する期間がある点が指摘されました。これを受けて、電力・ガス取引監視等委員会は、この事象の背景等を確認するため、事前的措置の対象事業者等に対して入札価格等のデータに関する報告徴収を行った上で、2023年4月から同年10月にわたり、制度設計専門会合において、需給調整市場の価格規律の見直しについてさらなる議論・検討を行いました。議論・検討の結果、調整力提供事業者のインセンティブを適切に確保すること等を整理し、この見直しを踏まえたガイドラインの改定について、経済産業大臣に建議しました。意見募集の後、2024年3月にガイドラインの改定が行われました。
(4)インバランス料金制度の運用状況の監視等
計画値同時同量制度において、小売電気事業者と発電事業者は、1日を48コマに分割した30分単位のコマごとに、それぞれ需要と発電の計画を策定することとなっています。この計画と実績のずれ(インバランス)については、一般送配電事業者が発電事業者等から公募により調達した電源等を用いて調整を行うことになりますが、その費用については、小売電気事業者と発電事業者からインバランス料金として回収しています。このように、インバランス料金は、実需給における電気の過不足の精算価格となっていますが、同時に卸電力取引における価格シグナルのベースにもなっています。
このため、電力・ガス取引監視等委員会では、インバランス料金の動きを監視し、その動きが合理的でない可能性がある場合には、その原因等を分析しました。また、一般送配電事業者におけるインバランス料金単価の誤算定事案については、再発防止策を着実に実施するとともに、関係事業者との精算に当たっては真摯に対応するよう、指導を行いました。なお、業務改善勧告に至るような事案はありませんでした。
また、制度設計専門会合において、インバランス料金制度における需給ひっ迫時の補正インバランス料金の上限値に関して議論・検討を行い、2024年度は引き続き暫定的な措置として200円/kWhを適用し、2025年度以降は別途検討することとしました。
(5)託送料金制度に係る制度等の運用・検討
①レベニューキャップ制度の運用
2020年6月にエネルギー供給強靱化法が成立し、新たな託送料金制度である「レベニューキャップ制度」が、2023年度より導入されることとなりました。レベニューキャップ制度とは、収入の見通しを定期的に承認し、その範囲内で託送料金を設定するという制度です。2022年度中に一般送配電事業者から申請のあった内容について、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会において厳格な審査を実施し、その後、経済産業大臣により認可等がなされたことを踏まえ、2023年4月より、レベニューキャップ制度に基づく新たな託送料金が適用されました。
レベニューキャップ制度では、エネルギー政策の変更その他のエネルギーを巡る諸情勢の変化等を目的とした申請であって、外生的要因により、収入の見通しの算定に当たって予見できない費用の増減が規制期間において生じる等、関連省令等に沿った申請である場合には、規制期間中における収入の見通しの調整(期中調整)が認められています。そうした中、2023年9月に、電気事業法第17条の2第4項に基づき、各一般送配電事業者から経済産業大臣に対して、第一規制期間(2023〜2027年度)の収入の見通しの変更承認申請(期中調整申請)が行われました。電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣から意見の求めがあったことから、第48回及び第49回料金制度専門会合(2023年10月及び同年11月開催)、第471回及び第476回電力・ガス取引監視等委員会(同年10月及び同年11月開催)において議論を行いました。そして、経済産業大臣に回答した結果を踏まえ、同年11月に、経済産業大臣により収入の見通しの変更の承認がなされました。
その後、第一規制期間の収入の見通しの変更が承認されたこと、2024年度からの発電側課金の導入に向けて発電側課金単価の設定及び需要側託送料金単価の見直しが必要であることを踏まえ、2023年12月に、電気事業法第18条第1項に基づき、各一般送配電事業者から経済産業大臣に対して、託送供給等約款の変更認可申請が行われました。電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣から意見の求めがあったことから、第51回及び第52回料金制度専門会合(同年12月及び2024年1月開催)、第479回・第481回・第484回電力・ガス取引監視等委員会(2023年12月及び2024年1月開催)において議論を行いました。そして、経済産業大臣に回答した結果を踏まえ、2024年1月に、経済産業大臣により託送供給等約款の変更認可申請の認可がなされました。
②送配電効率化・計画進捗確認ワーキンググループの運用
レベニューキャップ制度が導入されるに当たり、各一般送配電事業者には、効率化計画を含む事業計画を着実に実施していくことが求められており、その達成状況は、本制度における重要な評価事項となっています。そのため、各一般送配電事業者が投資計画を進めるに当たって、経営効率化に向けた進捗が図られているか等を確認する目的で、電力・ガス取引監視等委員会は、2023年1月に、料金制度専門会合の下に、「送配電効率化・計画進捗確認ワーキンググループ」を設置しました。同年5月に開催した第1回のワーキンググループでは、各一般送配電事業者の効率化の取組等に係る検証のポイントについて整理を行い、その後、同年8月から2024年2月に開催した第2回〜第4回のワーキンググループでは、部門や主要設備ごとの効率化の取組等について議論を行いました。また、送配電ネットワークの形成に関わる関係企業等へのヒアリングも実施しました。
③発電側課金の導入
発電側課金は、系統を効率的に利用するとともに、再エネの導入拡大に向けた系統増強を効率的かつ確実に行うため、小売事業者が全て負担している送配電設備の維持・拡充に必要な費用について、需要家とともに系統利用者である発電事業者にも一部の負担を求めることで、より公平な費用負担とするものとして、議論を進めてきました。
発電側課金の円滑な導入に向けた検討を進め、第47回大量導入小委員会(2022年12月開催)等において、既認定FIT/FIP(発電側課金の導入年度の前年度の入札で落札した場合及び再エネ海域利用法において2023年度までに公募を開始した場合を含む)については調達期間等が終了してから発電側課金の対象とすること、新規FIT/FIPについては調達価格等の算定において考慮すること、非FIT/卒FITについては事業者の創意工夫(相対契約等)の促進及び円滑な転嫁の徹底を行うこととしたほか、揚水発電や蓄電池のkWh課金については、揚水発電・蓄電池を経由した際の発電側課金の負担に鑑み、他の電源との公平性の観点から免除することとしました。また、2023年2月には、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会の「今後の電力政策の方向性について中間とりまとめ」において、発電側課金を2024年度に導入する方針を決定しました。
この方針を踏まえ、2023年4月に、電力・ガス取引監視等委員会は、制度設計専門会合において、発電側課金の導入に向けた詳細設計を「発電側課金の導入について中間とりまとめ」としてとりまとめ、発電側課金の導入・運用に関して、経済産業大臣へ建議しました。
その後、省令改正等が行われ、2023年12月には、一般送配電事業者が、発電側課金単価の設定等が必要であることを踏まえ、経済産業大臣に対し、託送供給等約款の変更認可申請を行いました。この申請においては、託送料金の約1割弱が発電側課金で回収されることとなり、電源が送配電設備の整備費用に与える影響を課金額に反映させる割引制度等が新たに盛り込まれました。これらの申請内容については、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に対して意見の求めがあり、電力・ガス取引監視等委員会で審査を実施し、経済産業大臣に回答した結果を踏まえ、2024年1月に、経済産業大臣により託送供給等約款が認可されました。
(6)自由化の下での財務会計面での課題解決に向けた取組
2016年4月の電力小売全面自由化以降、総括原価方式による料金規制の撤廃に伴い、電気事業の財務・会計上の特性にも変化が生じました。このため、電力分野の自由化を進めるに当たっては、これらの制度変更に伴う課題として、一般の事業においては問題とならないような点、例えば、制度変更により事後的に費用が増大する場合の対応費用をどのように回収するか等が課題となりえます。このため、財務・会計制度や負担のあり方について、具体的な措置の検討・審議を行うため、貫徹小委の下に「財務会計ワーキンググループ」を開催し、小売全面自由化の下での原子力事故に係る賠償への備えに関する負担や廃炉に係る会計制度のあり方に関する議論を行い、2017年2月に結果をとりまとめました。
このとりまとめで示された方向性を踏まえ、財務会計面での課題解決に向け、2017年10月及び2018年4月に制度改正を実施しました。
①原子力事故に係る賠償への備えに関する負担のあり方
東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた「原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)」に加えて、新たに「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成23年法律第94号)」が制定されました。現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」に納付しています。
原子力損害の賠償に関する法律の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えについては、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきでしたが、政府は何ら制度的な措置を講じておらず、事業者がそうした費用を料金原価に算入することもありませんでした。従来、総括原価方式の下で営まれてきた電気事業においては、一般の事業と異なり、将来的な費用増大リスクを見込んだ自由な価格設定を行うことはできず、料金の算定時点において合理的に見積もられた費用以外を料金原価に算入することは認められていませんでした。これは、規制料金の下では、全ての需要家から均等に費用を回収することとなるため、同じ電気を利用した需要家間では不公平は生じないということを前提として、その電気を利用した時点で現に要した費用(合理的に見積もられた費用)のみ料金原価への算入を認める、という考え方に基づいています。
しかし、2016年4月に電力小売事業が全面自由化され、新電力への契約切替により、一般負担金を負担しない需要家が増加することとなりました。そうした中、賠償への備えを小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担していくことになります。
こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、これまで全ての需要家が等しく受益していた賠償への備えについて、全ての需要家が公平に負担することが適当であり、また、そうした措置を講ずることが福島の復興にも資するものとの考えに立ち、負担のあり方について、貫徹小委で検討を進めました。その結果、回収する金額の規模は、現行の一般負担金の算定方法を前提とすることが適当と考えられ、現在の一般負担金の水準をベースに1kW当たりの単価を算定した上で、これを前提に、2010年度までの日本の原子力発電所の毎年度の設備容量等を用いて算出した金額から、回収が始まる前の2019年度末時点までに納付した又は納付することになると見込まれる一般負担金の合計額を控除した約2.4兆円としました(第361-5-2)。
【第361-5-2】全ての需要家から公平に回収する賠償への備えのイメージ
【第361-5-2】全ての需要家から公平に回収する賠償への備えのイメージ(ppt/pptx形式:104KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
回収方法については、電源構成に占める原子力の割合が供給区域ごとに異なる一方で、賠償への備えの負担は、過去の原子力の電気の利用に応じて行うべきものであることや、現状、一般負担金は小売規制料金に含まれ、供給区域ごとに異なる水準となっていること等を踏まえると、賠償への備えを国民全体で負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める託送料金の仕組みを利用することが適当と考えられました。
こうした検討を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきであった賠償への備えを託送料金で回収する仕組みを可能とする制度改正(電気事業法施行規則の改正)を2017年9月に実施し、2020年4月に施行しました。
なお、留意点として、本来、発電部門の原価として回収されるべき賠償への備えについて、託送料金の仕組みを通じて広く全ての需要家に負担を求めるに当たっては、その額の妥当性を担保する措置を講ずるとともに、個々の需要家が自らの負担を明確に認識できるよう、指針等を通じて、小売電気事業者に対し、需要家の負担の内容を料金明細票等に明記する措置を講じることとされました。また、原子力に関する費用について、託送料金の仕組みを通じた回収を認めることは、結果として、原子力事業者に対し、他の事業者に比べて相対的な負担の減少をもたらすこととなります。そのため、競争上の公平性を確保する観点から、原子力事業者に対しては、例えば、原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにする等、一定の制度的措置を講じることとしています。
②東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保のあり方
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に必要な資金については、東京電力が負担することが原則であり、東京電力にグループ全体で総力を挙げて捻出させる必要があるとの考え方の下、「国民負担増とならない形で廃炉に係る資金を東京電力に確保させる制度」について、2016年10月に、東京電力改革・1F問題委員会から国に対して検討要請がなされました。
この要請を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の円滑かつ着実な実施を担保するため、長期間にわたり必要となる巨額の資金の管理を担保する制度として、事故炉の廃炉を行う原子力事業者(事故事業者)に対し、廃炉に必要な資金を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に積み立てることを義務づける等の措置を講じることを内容とする「廃炉等積立金制度」を2017年10月より開始しています。
また、発電・送配電・小売に分社化されている東京電力において、グループ全体で総力を挙げて捻出する資金が自由化の下でも確実に廃炉に充てられるための制度として、東京電力パワーグリッド(送配電部門)が親会社である東京電力ホールディングスに対して支払う東京電力福島第一原子力発電所の廃炉費用相当分について、超過利潤として扱われないよう、費用側に整理して取扱われるようにするとともに、乖離率の計算に際しては、実績単価の費用の内数として扱われるようにする制度的措置を2018年3月に実施しました。
その後、新たな託送料金制度である「レベニューキャップ制度」が2023年4月から導入されていますが、過去の廃炉費用相当分の実績値を踏まえた上で、必要な金額を収入上限に算入することを可能としています。これにより、事故後の送配電事業の経営合理化分を、引き続き、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉費用に充てることを可能とし、廃炉に要する資金を確実に確保することとしています。
③廃炉に関する会計制度の扱い
(ア)廃炉会計制度
従前の電気事業会計制度の下では、廃炉に伴う資産の残存簿価の減損等により、一時に巨額の費用が生じることで、事業者が合理的な意思決定をできず廃炉判断を躊躇する、事業者の廃炉の円滑な実施に支障をきたす、との懸念がありました。このため、2013年と2015年に、設備の残存簿価等を廃炉後も分割して償却(負担総額は変わらないが、負担水準を平準化)する会計制度が措置されました。こうした制度整備を受けて、2015年に5基、2016年に1基の原子炉について、廃炉決定が行われています。
廃炉会計制度は、計上した資産の償却費が廃炉後も着実に回収される料金上の仕組みがあわせて措置されることを前提としており、現在は小売規制料金により費用回収することが認められています。したがって、現在は経過的に措置されている小売規制料金が将来的に撤廃されることを見据えた場合、今後もこの制度を継続するには、着実な費用回収を担保する措置を講ずることが不可欠です。この点について、2015年3月の総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループの報告書「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、「着実な費用回収を担保する仕組み」として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の託送料金の仕組みを利用することとされました。
制度創設の経緯・趣旨を踏まえれば、廃炉会計制度は、原発依存度低減というエネルギー政策の基本方針に沿って措置されたものとして、本制度を継続することが適当であるとされました。本制度を継続するために必要となる着実な費用回収の仕組みについては、小売規制料金が将来的に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当と考えられます。
こうした検討を踏まえ、廃炉を行う際の設備の残存簿価等について、引き続き小売料金での償却等を認め、2020年4月以降に託送料金での回収を可能とする制度改正(電気事業会計規則等の改正)を2017年10月に実施しました。なお、発電・送配電・小売の各事業が峻別された自由化の環境下において、発電に係る費用の回収に託送料金の仕組みを利用することは、原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成するために講ずる例外的な措置と位置づけられるべきと考えられます。
(イ)原子力発電施設解体引当金
原子炉の運転期間中に廃炉に必要な費用を着実に積み立てるため、原子力事業者には、毎年度、原子力発電所1基ごとの廃止措置に要する総見積額を算定し、経済産業大臣の承認を得た上で、各原子炉の発電実績に応じ、原子力発電施設解体引当金(以下「解体引当金」という。)として積み立てることが義務づけられています。解体引当金は、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の長期にわたる稼働停止が続き、従来の生産高比例法では引当が進まないといった課題が生じたことから、2013年に引当方法を定額法に変更するとともに、引当期間を運転期間40年に廃炉後の安全貯蔵期間10年を加えた原則50年に変更する制度改正が行われ、今後、競争が進展した環境下でも本制度を継続し、廃炉後の安全貯蔵期間中も引当を継続させるためには、廃炉会計制度と同様、費用回収が着実に行われる仕組みが必要となっています。
その引当期間については、事業者が負担するという原則に立てば、着実な費用回収が前提となる安全貯蔵期間に入る前、すなわち、廃炉前に引当を完了していることが、廃炉を円滑に実施する観点からより適切な制度のあり方であり、原則50年としている引当期間を原則40年に短縮することとしました。
しかし、引当期間の見直しを行った場合、2013年の制度改正以降に廃炉を決定し、解体引当金の残額を10年間に分割した引当を現在行っているものや、今後早期廃炉するものについては、解体引当金の未引当分を一括して引き当てる必要が生じます。しかし、制度の事後的な変更により事業者の財務に影響を与えることは適当でないことに加え、こうした費用の発生が早期廃炉を志向する事業者の判断を歪めてしまうようなこととなれば、廃炉会計制度の趣旨にも反することになります。そのため、2013年の制度改正以降に廃炉を決定したものや、今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とすることで、一括して発生する費用を分割して計上する仕組みとすることとしました。
解体引当金の基礎となる原子力発電所の解体に必要な費用については、1985年及び1999年の総合資源エネルギー調査会原子力部会において示された算定式に基づき、毎年度、物価変動や廃棄物量の変動を加味し、炉ごとに総額(総見積額)を算定しています。この算定式は、原子力部会において技術的な検討を行った結果として導き出されたものであり、その前提に大きな変更はないことから、現時点で合理的に見積もることできる費用が不足なく含まれているものと評価できます。一方で、この算定式は、モデルとなるプラントの廃炉工程を前提としたものであるため、今後、個々のプラントにおいて廃止措置を実施していく過程等で、例えば、多数の炉が設置されている原子力発電所では、設備の共有等による効率化等により、総見積額の見直しが必要となりえます。こうしたことを踏まえ、自由化の下でも廃炉に必要な費用があらかじめ確実に確保されるよう、個別の炉・発電所ごとに固有の事情(規制変更等により算定式の前提を大幅に変更する必要がある場合を除く)が生じた場合に、当該事象を速やかに総見積額に反映させることが可能となる仕組みを導入することが必要と考えられます。ただし、総見積額の妥当性を確保するため、これまでと同様に、総見積額を経済産業大臣が承認する仕組みとすることとしました。
これらの検討を踏まえ、引当期間を原則40年することに加えて、2013年の制度改正以降に廃炉を決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とする等の制度改正(解体引当金省令の改正)を2018年4月に実施しました。
その後、2023年5月に成立し、2024年4月に施行されたGX脱炭素電源法により、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(平成17年法律第48号)」が改正され、使用済燃料再処理機構が行う業務に、廃炉に必要となる資金の管理等の廃炉推進業務が追加されたことから、原子力発電施設解体引当金制度は廃止されました。