第2節 ガスシステム改革及び熱供給システム改革の促進
1.ガスシステム改革の概要
2015年6月に成立した「電気事業法等の一部を改正する等の法律(平成27年法律第47号)」に基づき、2017年4月1日に、ガス小売全面自由化等のガスシステム改革が実施されました。ガスシステム改革の実施に当たっては、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会ガスシステム改革小委員会(2013年11月から2016年6月にかけて計33回開催)、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会(2016年10月と2017年2月の計2回開催)、産業構造審議会保安分科会ガス安全小委員会(2014年6月から2017年3月にかけて計16回開催)、同小委員会ガスシステム改革保安対策ワーキンググループ(2015年7月から2016年5月にかけて計6回開催)及び電力・ガス取引監視等委員会等において、随時議論がなされてきました。
ガスシステム改革は、①天然ガスの安定供給の確保、②ガス料金の最大限の抑制、③利用メニューの多様化と事業機会の拡大、④天然ガスの利用方法の拡大の4つを主な目的としており、2017年4月以降も、資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会のそれぞれにおいて、さらなる市場活性化のための検討を進めています。
その後、2022年4月1日には、大手ガス事業者の導管部門の法的分離等が行われました。
2.ガスの小売全面自由化の進捗状況
(1)ガス小売事業者の登録
ガス小売事業については、2016年8月から事前登録申請の受付が開始され、2024年3月末までに、「ガス事業法(昭和29年法律第51号)」に基づくガス小売事業者として、100者が登録されています(みなしガス小売事業者及び事業譲渡によりガス小売事業者に登録された者を除く)。このうち、都市ガスネットワークに参入し、一般家庭へ供給(予定を含む)しているのは、41者となっています(第362-2-1)。
【第362-2-1】ガス小売事業者の登録状況(2024年3月末時点)
【第362-2-1】ガス小売事業者の登録状況(2024年3月末時点)(ppt/pptx形式:60KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
ガス小売事業者の登録に当たっては、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会が、「ガスの使用者の利益の保護のために適切でないと認められる者」に該当しないか等、法令に則ってそれぞれ審査を行っています。
なお、電気事業法等の一部を改正する等の法律の経過措置により、旧一般ガス事業者から203者、旧簡易ガス事業者から1174者が、ガス小売事業者となりました。
(2)新規ガス小売事業者の用途別販売量割合及び件数
電力・ガス取引監視等委員会の「ガス取引報」によると、ガス小売全面自由化後から、新規ガス小売事業者によるガス販売量の割合も増加傾向にあります。2023年9月末時点のガス販売量における新規ガス小売事業者の割合を見ると、全体では19.5%となっています。用途別に見ると、家庭用や工業用において増加傾向が見られます(第362-2-2)。
【第362-2-2】ガス販売量における新規ガス小売事業者の割合の推移
【第362-2-2】ガス販売量における新規ガス小売事業者の割合の推移(ppt/pptx形式:45KB)
- 資料:
- 電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報」を基に作成
また、新規ガス小売事業者による用途別販売件数としては、家庭用が最も多くなっています(第362-2-3)。
【第362-2-3】新規ガス小売事業者のガス販売件数の推移(用途別)
【第362-2-3】新規ガス小売事業者のガス販売件数の推移(用途別)(ppt/pptx形式:169KB)
- 資料:
- 電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報」を基に作成
(3)経過措置料金規制の対象地域の指定解除
ガス小売全面自由化に伴い、ガスの小売供給に関する料金規制は原則撤廃されましたが、LPガスやオール電化等を含めた競争が不十分であると認められた供給区域及び供給地点については、需要家利益の保護の観点から、経済産業大臣が指定を行い、経過措置として料金規制を継続しています。ただし、指定を受けた供給区域及び供給地点(以下「指定旧供給区域等」という。)の競争状況は、3か月に一度の事業者報告により、経済産業大臣が継続して把握することとしており、競争が十分であると認められた供給区域については、指定を解除することとしています。
ガス小売全面自由化に先駆けて、2016年11月には、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会ガスシステム改革小委員会等の議論を受けて策定された指定基準に基づき、旧一般ガス事業者の供給区域等のうち12区域等、旧簡易ガス事業者の供給地点のうち1,730供給地点を、指定旧供給区域等として指定しました。その後、解除基準を満たした場合には解除を行っており、2023年12月末現在においては、旧一般ガス事業者の供給区域のうち4区域、旧簡易ガス事業者の供給地点のうち783供給地点が指定されています(第362-2-4)。
【第362-2-4】指定旧供給区域等一覧(旧一般ガス事業者の供給区域等)
【第362-2-4】指定旧供給区域等一覧(旧一般ガス事業者の供給区域等)(ppt/pptx形式:185KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
料金規制を解除するに当たっては、解除基準を満たしているかという点に加え、適正な競争関係が確保されていると認められない事由がないかという点についても確認しながら、総合的に判断することとしていますが、旧一般ガス事業者の供給区域については、他の燃料や他のガス小売との競合の進捗が見られていないこと等の理由により、引き続き指定を行っています。
3.ガス事業制度検討ワーキンググループにおける議論
資源エネルギー庁は、2018年9月に、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会の下に、「ガス事業制度検討ワーキンググループ(ガスWG)」を設置しました。ガスWGは、2017年4月から始まったガス小売全面自由化の成果が一定程度見られる中、「エネルギー基本計画」や「規制改革実施計画」において一部継続検討課題とされていたテーマを踏まえつつ、ガスシステム改革のさらなる推進に向けて、ガス事業制度のあり方について専門的な見地から詳細な検討を進めることを目的としています。2023年度はガスWGを7回開催し、都市ガスのカーボンニュートラル化に向けた議論等を行いました。
都市ガスのカーボンニュートラル化
2050年カーボンニュートラル実現に向けては、多様な手段を追求しながら、ガスの脱炭素化を進めていく必要があります。このため、ガスWGでは、これらの多様な手段について、現状や技術開発等の動向を整理するとともに、海外の動向も確認しながら、日本の都市ガスのカーボンニュートラル化を推進していくための今後の方策等について幅広く検討を行っています。
具体的には、2023年6月にとりまとめた「都市ガスのカーボンニュートラル化について 中間整理」において、今後の検討の方向性を示すとともに、2023年11月に開催したガスWGからは、都市ガス分野のカーボンニュートラル化に向けて、本格的な市場創出・利用拡大につなげるための適切な規制・制度のあり方についての検討を進めています。
4.ガス小売市場・卸売市場に関する取組
(1)小売取引の監視等
①各種相談への対応
電力・ガス取引監視等委員会は、相談窓口を設置し、ガスの需要家等から寄せられた相談に対応し、質問への回答やアドバイス等を行っています。2023年4月〜2024年3月における相談件数は462件でした。本相談において、不適切な営業活動等に係る情報があった場合には、事実関係を確認し、必要な場合にはガス小売事業者に対する指導等を行いました(第362-4-1)。
【第362-4-1】相談窓口への相談件数(ガス)の推移
【第362-4-1】相談窓口への相談件数(ガス)の推移(ppt/pptx形式:53KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
また、2023年5月に消費者庁と連名でガスの勧誘例等に関する注意喚起を行ったほか、2024年3月には経済産業省のX(旧Twitter)を活用し、電気・ガスの契約前の注意点を周知する等、消費者に対して情報提供を行いました。
②ガス小売事業者に対する指導の例
ガス小売事業者のA社は、2020年10月頃から2021年12月頃までの間、一定の条件を満たさなければ需要家に付与されないポイント相当分が含まれていたにもかかわらず、あたかもA社にガスの小売供給契約の契約先を切り替えるだけで、当該ポイント相当分の金額を含めて「おトク」になるかのような広告を行い、需要家の誤解を招く情報提供を行っていました。当該情報提供によって自社のサービスに需要家を誘導することは、需要家の誤認に基づく選択を招きかねず、また、ガス小売事業者間の公正な競争を阻害するおそれがあります。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、A社に対し、ガスの適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を実施するように指導を行いました。
③旧一般ガスみなしガス小売事業者に対する監査
2017年4月にガス小売全面自由化を実施した際、競争が不十分であると認められた地域については、経過措置として、小売規制料金を存続させることとされました。電力・ガス取引監視等委員会は、「電気事業法等の一部を改正する等の法律(平成27年法律第47号)」附則第22条第4項の規定により、なおその効力を有するものとされた同法第5条の規定による改正前のガス事業法第45条の2の規定に基づき、旧一般ガスみなしガス小売事業者(4社)に対して、2022年度監査を実施しました。
監査の結果、電気事業法等の一部を改正する等の法律附則第37条第1項の規定に基づく旧一般ガスみなしガス小売事業者に対する勧告及び電気事業法等の一部を改正する等の法律附則第38条第1項の規定に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでした。
④変更登録手続に関する制度的対応
電力・ガス取引監視等委員会は、2023年7月14日に経済産業大臣が旧一般電気事業者等5社に対して業務改善命令を発出した事案(詳細は前節に記載)に関連して、全ての旧一般電気事業者に対し、「域外進出のこれまでの状況」及び「今後の域外進出の障害として認識している事項」について報告を求める等を行い、同年9月及び同年10月の制度設計専門会合において、営業活動や電源調達に関して検討を実施しました。
これを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、2024年2月に、ガス小売事業に係る変更登録手続が営業活動へのブレーキ等につながることを避けるため、例えば、最大ガス需要の増加にあわせてガスの供給能力も増加する場合等、ガス事業を行う上で支障がないと考えられる場合については、変更登録の対象外として届出とする等の対応に係る所要の制度的措置を図るよう、経済産業大臣に建議しました。
⑤公正取引委員会による中部電力等及び東邦ガスに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等
2024年3月4日に、公正取引委員会は、中部電力及び中部電力ミライズに対し、当該2社及び東邦ガスが独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行っていたとして、独占禁止法の規定に基づき、排除措置命令及び課徴金納付命令を行いました。また、同日に、公正取引委員会は、中部電力ミライズ、東邦ガス及びシーエナジーに対し、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反するおそれがある行為を行っていたものとして、警告を行いました。
当該各事案に関連して、電力・ガス取引監視等委員会は、同日に、中部電力ミライズ、東邦ガス及びシーエナジーに対し、ガス事業法及び電気事業法の規定に基づく報告徴収等を行いました。
(2)ガスの小売規制料金の原価算定期間終了後の事後評価及び特別な事後監視
ガスの小売料金については、2017年4月に自由化されたものの、競争が不十分であると認められた地域については、需要家利益の保護の観点から、経済産業大臣が指定を行い、ガスの小売規制料金の経過措置を存続しています(指定旧供給区域等の指定)。これらの経過措置が講じられているガスの小売規制料金については、原価算定期間の終了後に、毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないか等を経済産業省において確認し、その結果を公表することとなっています。
また、ガスの小売規制料金の経過措置が課されない又はガスの小売規制料金の経過措置が解除されたガス小売事業者のうち、旧供給区域等における都市ガス又は簡易ガスの利用率が50%を超える事業者を対象として、当該旧供給区域等の料金水準について報告徴収を行い、ガス小売料金の合理的でない値上げが行われていないかを確認する特別な事後監視を行っています。
①ガスの小売規制料金の原価算定期間終了後の事後評価
経過措置が講じられているガスの小売規制料金については、原価算定期間の終了後に、毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないか等を経済産業省において確認し、その結果を公表することとなっています。
2023年11月、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣及び経済産業局長からの意見聴取を受けて、料金制度専門会合において、原価算定期間が終了している旧一般ガスみなしガス小売事業者3社(東邦ガス、日本ガス及び南海ガス)について、「電気事業法等の一部を改正する等の法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等(20170329資第5号)」第2(8)④に基づく評価及び確認を行い、その結果をとりまとめました。
〈料金制度専門会合のとりまとめ内容(概要)〉
審査基準のステップ1(ガス事業利益率による基準)では、個社の直近3か年度平均の利益率が、4社の10か年度平均の利益率を上回る事業者は、南海ガスの1社でした。
審査基準のステップ2(超過利潤累積額による基準/自由化部門の収支による基準)では、南海ガスは、2022年度末の超過利潤累積額が一定水準額を下回っており、また、自由化部門の収支が直近2年連続赤字とはなっていませんでした。
上記を踏まえ、原価算定期間の終了後に料金改定を行っていない旧一般ガスみなしガス小売事業者3社について、審査基準に基づく評価を実施した結果、変更認可申請命令発動の要否の検討対象となる事業者はいませんでした。
今回、2022年度の事後評価の対象となった旧一般ガスみなしガス小売事業者3社について、現行料金に関する値下げ認可申請の必要があるとは認められませんでした。
この結果を踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣及び経済産業局長に対し、経過措置が講じられているガスの小売規制料金の値下げ認可申請の必要があると認められる事業者はいなかった旨を回答しました。
②ガス小売料金の特別な事後監視
第29回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会ガスシステム改革小委員会(2016年2月)において、ガスの小売規制料金の経過措置が課されない又はガスの小売規制料金の経過措置が解除されたガス小売事業者のうち、旧供給区域等における都市ガス及び簡易ガス利用率が50%を超える事業者については、特別な事後監視として、ガス小売料金の合理的でない値上げが行われないよう、当該供給区域等の料金水準(標準家庭における1か月のガス使用量を前提としたガス小売料金)を、3年間監視することと整理されました。これを受けて、電力・ガス取引監視等委員会では、これらの事業者の家庭向けの標準的な小売料金について、定期的に報告を受け、料金改定の状況等を確認しています。
この結果、2023年4月〜2024年3月においては、文書指導に至った事業者はいませんでした。
③ガス小売経過措置料金規制に係る指定旧供給区域等の指定の解除
2020年11月11日、旧一般ガスみなしガス小売事業者である東京ガス・大阪ガス・東邦ガス(以下「対象3社」という。)に係る指定旧供給区域等の解除に関して必要と考えられる事項について、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に対し、意見の求めがあったところ、同年12月21日の電力・ガス取引監視等委員会において、経済産業大臣への意見回答内容について審議されました。電力・ガス取引監視等委員会での審議の結果、指定の解除を行うためには、対象3社より以下の意思表明がなされている必要があるものとされました。
〈電力・ガス取引監視等委員会での結論〉
- 他の事業者から、ガス製造に係る業務(熱量調整や付臭等の一部工程に係る業務を含む。以下同じ。)の委託の依頼があった場合には、設備余力がない等の理由がない限りは、それを受託する。特に、既にガス製造に係る業務の委託契約を締結している事業者がその業務の継続を希望する場合には、やむを得ない理由がない限りは、それを継続する。
- 他の事業者から、ガスの卸供給の依頼があった場合には、供給余力がない等の理由がない限りは、これを行う。
- 「スタートアップ卸」について、旧一般ガスみなしガス小売事業者の小売事業との競争性を確保できる価格水準で都市ガスを調達できる環境を整備し、新規参入を支援するために開始された趣旨を踏まえ、利用実績が上がるよう、積極的に取り組む。この際、卸価格の設定に当たっては、「旧一般ガスみなしガス小売事業者の標準メニューの最も低廉な小売料金から一定の経費を控除し算定した上限卸価格の下で、卸元事業者と利用事業者が個別に卸価格を交渉する」ものとされていることを踏まえ、他の事業者からの求めに応じて誠実に交渉を行い、対応する。
注)この記載にある「設備余力がない等の理由」、「供給余力がない等の理由」とは、それぞれ、「設備余力がない」、「供給余力がない」に準ずる客観的かつ合理的な事由を指しています。なお、コストを下回る等、経済合理的でない価格水準での他の事業者の依頼に応じることまでを求めるものではありません。
その後、対象3社による指定旧供給区域等小売供給に係る指定旧供給区域等の指定の解除に際して、競争上必要な取組について、全社から真摯に対応する旨の意思表明がなされたため、2021年4月28日の総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会において、「電気事業法等の一部を改正する等の法律(平成27年法律第47号)」附則第22条第2項の規定に基づき、東京ガス及び大阪ガスの指定旧供給区域等小売供給に係る指定旧供給区域等の指定の解除について、了承されました。なお、東邦ガスについては、同社がガス等の取引に関して、公正取引委員会による調査を受けていることを踏まえ、同社の指定旧供給区域等小売供給に係る指定旧供給区域等の指定の解除については、調査結果等が明らかになった後に、解除可否を判断することとされています。
2021年5月14日、東京ガス及び大阪ガスの供給区域における経過措置料金規制の指定の解除について、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に対して意見の求めがあり、電力・ガス取引監視等委員会での審議の結果、同年5月31日に、当該意見の求めに対して、解除に異存ない旨の意見を回答しました。その後、東京ガス及び大阪ガスの指定旧供給区域等の指定は、電気事業法等の一部を改正する等の法律附則第22条第2項の規定に基づき、同年10月1日付で解除されました。
これ以降、電力・ガス取引監視等委員会は、毎年4月頃を目途に、対象3社によって意思表明された内容が適切に実施されているかについて、各社の取引状況を監視し、意思表明との関係で問題となりうる行為が確認された場合には、改善を求め、指導を行う等しています。
5.ガス導管分野に関する取組
(1)一般ガス導管事業者等に対する監査
電力・ガス取引監視等委員会は、ガス事業法第170条の規定に基づき、一般ガス導管事業者、特定ガス導管事業者及びガス製造事業者(以下、本項において「一般ガス導管事業者等」という。)257社(ライセンス数)に対して、2022年度監査を実施しました。
2021年度監査では、前年度と比べると指摘事項の件数は減少したものの、本省及び地方経済産業局所管事業者ともに、省令の理解不足又は単純ミスによる配賦計算誤り等の指摘事項があったことから、2022年度監査においても、主な重点監査項目として、引き続き、託送供給収支に係る配賦計算誤り等による間違いがないかについて、「託送供給収支」を重点的に確認しました。また、2022年4月より、一定規模以上の一般ガス導管事業を分社化するとともに、全ての一般ガス導管事業者及び特定ガス導管事業者に対して、行為規制に基づく体制整備等を行うこととされました。さらに、親会社等が、一般ガス導管事業者及び特定ガス導管事業者に対して差別的取扱いを要求すること等が禁止されたことにより、これらが適切に実施されているか等について、「託送供給等に伴う禁止行為・体制整備等」を重点的に確認しました。
監査の結果、ガス事業法第178条第1項の規定に基づく一般ガス導管事業者等に対する勧告及びガス事業法第179条第1項の規定に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、69事業者に所要の指導を行いました。
(2)ガス導管事業者の収支状況等の事後評価
一般ガス導管事業者及び特定ガス導管事業者(託送供給約款を定める必要がないものとして経済産業大臣の承認を受けた者を除く。以下、本項において「ガス導管事業者」という。)は、事業年度ごとに託送収支計算書を作成・公表することとされており、その超過利潤累積額が一定額を超過した場合又は乖離率がマイナス5%を超過した場合には、経済産業大臣が、託送料金の値下げ申請を命令できることとされています。このため、2023年11月1日付で、経済産業大臣及び各経済産業局長等から電力・ガス取引監視等委員会に対し、ガス導管事業者の2022年度収支状況の確認について、意見の求めがありました。これを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、料金制度専門会合において、法令に基づく事後評価(ストック管理・フロー管理)を実施するとともに、追加的な分析・評価を行い、2024年2月に、その結果をとりまとめました。
事後評価の結果、対象事業者147社のうち2社(ENEOSエルエヌジーサービス、大津市)については、2022年度終了時点における超過利潤累積額が、変更命令の発動基準となる一定水準額を超過していました。また、7社(由利本荘市、東海ガス(下仁田地区)、魚沼市、館林瓦斯、福山ガス、山口合同ガス、筑後ガス圧送)については、2022年度終了時点における想定単価と実績単価の乖離率が、変更命令の発動基準となるマイナス5%を超過していました。
これらの事業者のうち、現行の託送供給約款料金の水準維持の妥当性について合理的な説明がなされたため、変更命令の対象外とした福山ガスを除き、期日までに託送供給約款の料金改定の届出が行われない場合、経済産業大臣及び所管の経済産業局長から変更命令を行うことが適当である旨、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣及び各経済産業局長等に対し、意見を回答しました。
なお、2023年12月末日又は2024年3月末日が料金改定の期日とされていた事業者については、託送料金の改定の届出が行われたことを確認しました。
6.ガス安全小委員会における議論
ガスの小売全面自由化が行われ、新たなガス小売事業者の参入が開始されたことから、ガス小売事業者の保安水準の維持・向上を図る施策の検討を産業構造審議会保安・消費生活用製品安全分科会ガス安全小委員会において実施しました。ガス小売事業者の自主保安活動の特徴的な取組をホームページでわかりやすく紹介し、消費者が保安面で優れているガス小売事業者を選択することを支援する「見える化」制度を、2017年度に構築しました。2023年度も、経済産業省のホームページで各ガス小売事業者の自主保安活動を公表し、ガス小売事業者の保安水準の向上を後押ししました。
7.熱供給システム改革の概要
熱供給システム改革は、電力・ガスシステム改革とあいまって、熱電一体供給も含めたエネルギー供給を効率的に実施できるようにするため、2013年11月に総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の下に設置された「ガスシステム改革小委員会」において、熱供給事業のあり方等が検討・審議され、2015年6月の「電気事業法等の一部を改正する等の法律(平成27年法律第47号)」の成立を受けた後は、熱供給システム改革を着実に進めていく上で必要な実務的な課題を含めた具体的な制度設計について議論が行われました。
2016年4月に実施された熱供給システム改革では、許可制としていた熱供給事業への参入規制を登録制とするとともに、料金規制や供給義務等を撤廃し(ただし、他の熱源の選択が困難な地域では、経過措置として料金規制を継続)、熱供給事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課しました。
熱供給システム改革の実行により、事業環境の整備が行われ、エネルギー市場における垣根の撤廃や異業種からの参入が促進されることで、電力・ガスシステム改革が一体的に推進されることが期待されています。
8.熱供給分野に関する取組
他の熱源の選択が困難であるとして、経過措置としての料金規制が継続されている指定旧供給区域において、熱料金の値上げ改定を行う場合には、経済産業大臣による指定旧供給区域熱供給規程の変更認可が必要となります。2023年度には、経済産業大臣に対して、3事業者3区域について、エネルギー価格の高騰等を背景とした指定旧供給区域熱供給規程の変更認可の申請があり、電力・ガス取引監視等委員会で審査の上、熱料金の値上げ改定が認可されました。