第1節 競争力のある再エネ産業への進化

再エネの技術自給率向上に向け、より強靱なエネルギー供給構造を実現していくためには、次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池や、浮体式洋上風力等における技術の開発・実装を進め、再エネ導入に向けたイノベーションを加速させていく必要があります。

また、再エネの主力電源化には、再エネを電力市場へ統合していくことも重要です。2022年度より、FIT制度に加えて市場連動型のFIP制度が導入されています。FIP制度においては、発電事業者自身が卸電力取引市場や相対取引で売電するため、必要な環境整備、特にアグリゲーターの活性化が重要です。こうしたことを踏まえ、電力市場への統合を通じた再エネの導入拡大と新たなビジネスの創出を図るべく、FIP制度の詳細設計とアグリゲータービジネスの活性化に向けた検討を一体的に行いました。

近年、分散型エネルギーリソースも柔軟に活用する電力システムへの変化が進む中で、家庭、企業、公的機関、地域といった需要の範囲ごとに、自家消費や地域内系統の活用を含む需給一体型の再エネ活用モデルをより一層普及させるため、分散型エネルギーリソースのさらなる導入促進、分散型エネルギーリソースを活用する事業の構築支援及び関係するプレイヤーの共創の機会創出等の事業環境整備を進めています。

加えて、欧州を中心に世界で導入が拡大している洋上風力発電は、大量導入・コスト低減・経済波及効果が期待される再エネです。再エネ海域利用法の着実な施行により案件形成を進めるとともに、洋上風力関連産業の産業競争力の創出に向け、取り組んでいます。

1.再生可能エネルギーに関する次世代技術の開発

太陽光発電のさらなる導入拡大には、立地制約の克服が課題です。軽量かつ柔軟で、ビルの壁面等にも設置可能なペロブスカイト太陽電池は、こうした課題を克服するものであり、現在、グリーンイノベーション基金による支援を実施しています。再エネ・水素閣僚会議において定められたアクションプランにおいては、2030年を待たずに早期の社会実装を目指し、量産技術の確立、需要の創出、生産体制整備を進めていくことが示されています(第331-1-1)。

【第331-1-1】ペロブスカイト太陽電池

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【第331-1-1】ペロブスカイト太陽電池(ppt/pptx形式:197KB)

資料:
(左図)株式会社東芝、(右図)積水化学工業株式会社

浮体式洋上風力発電についても、導入目標を掲げ、その実現に向け、技術開発・大規模実証を実施するとともに、風車や関連部品、浮体基礎等の洋上風力関連産業における大規模かつ強靱なサプライチェーン形成を進めることが、アクションプランにおいて示されています。浮体式洋上風力の開発・実証に向けては、グリーンイノベーション基金において、「洋上風力発電の低コスト化プロジェクト」を進めており、将来のアジアへの展開も見据え、引き続き、技術開発や実証、技術力の高い国内サプライヤーの育成等に取り組んでいきます(第331-1-2)。

【第331-1-2】浮体式洋上風力発電

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【第331-1-2】浮体式洋上風力発電(ppt/pptx形式:59KB)

資料:
経済産業省作成

引き続き、再エネの諸課題を解決する技術シーズ等があれば、未来の利用可能な技術として、技術開発・実証等に取り組んでいきます。

2.コスト低減、電力市場への統合に向けた方向性

(1)競争力のある再エネ産業への進化

再エネの主力電源化には、再エネを電力市場へ統合していくことが重要です。2020年2月に、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下「主力電源化小委員会」という。)でまとめられた「中間取りまとめ」の内容を踏まえ、2020年6月に成立した再エネ特措法の改正を含む「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(令和2年法律第49号)」(以下「エネルギー供給強靱化法」という。)に基づき、2022年度より、FIT制度に加え、市場連動型のFIP制度が導入されています。

このFIP制度においては、発電事業者自身が卸電力取引市場や相対取引で売電することとなるため、その導入に当たっては、必要な市場整備や仲介する役割を担うアグリゲーターの活性化が重要となります。アグリゲーターの活性化については、2020年7月から、大量導入小委員会と主力電源化小委員会の合同会議において、FIP制度の詳細設計とアグリゲーション・ビジネスの活性化に向けた課題を一体的に検討しました。引き続き、市場統合を通じた再エネ導入拡大と新たなビジネスの創出に向け、取り組んでいきます。

①FIP制度について

FIP制度は、再エネ発電事業者が、発電した電気を他の電源と同様に卸電力取引市場や相対取引で自ら自由に売電し、そこで得られる市場売電収入を踏まえ、「発電コスト等により算出されるプレミアム算定の基準となる価格(以下「基準価格」という。)と、市場価格に基づく価格(以下「参照価格」という。)の差額(プレミアム単価)×売電量」を基礎とした金額を交付することで、再エネ発電事業者が市場での売電収入に加えてプレミアムによる収入を得ることにより、投資インセンティブを確保する仕組みです(第331-2-1)。

【第331-2-1】FIP制度の概要について

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【第331-2-1】FIP制度の概要について(ppt/pptx形式:145KB)

資料:
経済産業省作成

基準価格は、FIT制度における調達価格に対応するものであり、FIP制度の導入当初は、各区分等のFIT調達価格と同水準となる方向です。また、参照価格は、卸電力取引市場の前年度1年間の平均価格を基に、月ごとの価格補正や電源の発電特性等も踏まえて算定されます。この両者の差額を踏まえたプレミアムが発電事業者に交付されることで、再エネ事業の投資インセンティブが確保されるだけでなく、電力市場への統合に向け、再エネ事業者に電力市場を意識した電気供給を促していくことができます。その際に発現される効果は、基準価格が固定であるため、参照価格の変更頻度によって変わりますが、事業者に対し、燃料調達やメンテナンス時期の工夫等により、電力需給を踏まえた季節をまたぐ行動変容を促すため、上記の算定方法を採用しました。また、これに加えて、出力制御が発生するような時間帯にはプレミアムを交付しないという算定方法を設定することにより、事業者に対し、蓄電池併設や太陽光パネル設置方法の工夫等、電力需給を踏まえた電気供給をするインセンティブとなるよう、設計されています。

さらに、FIP電源の持つ環境価値については、市場とFIP制度の双方からの環境価値の二重取りにならないようにする前提で、再エネ発電事業者が自ら販売する仕組みです。

なお、FIP制度の対象については、調達価格等算定委員会において、それぞれの再エネ電源の発電特性、動向、事業環境、業界団体からのヒアリング等を踏まえながら審議が行われており、一定規模以上の新規認定については、FIP制度のみ認めています。加えて、50kW以上の認定事業者については、FIT制度の対象事業者であってもFIP制度の利用を認めることとしています。2023年度からは、一定の要件を満たした場合、10kW以上50kW未満の太陽光発電事業者についても同様に、FIP制度を利用することが可能となります。

②再エネの市場取引を進めていくための環境整備について

FIT制度における市場取引を免除された特例的な仕組みを見直し、FIP制度への移行を通じて、他の電源と同様に市場取引を行う仕組みへと改めていくためには、様々な環境整備が重要です。

まず、再エネの市場統合を進めていくためには、再エネ発電事業者自らが、発電した再エネ電気の市場取引等を行う必要があります。その具体的な方法としては、①自ら卸電力市場取引を行う方法、②小売電気事業者との相対(直接)取引を行う方法、③アグリゲーターを介して卸電力取引市場における取引を行う方法、の3つが主に想定され、こうした取引を通じて再エネ関連ビジネスの高度化や電力市場の活性化が進むと期待されます。一方で、電気を引き受ける側の小売電気事業者やアグリゲーターにとっては、発電予測や出力調整が従来電源に比べて容易ではない再エネ電気を相対取引するインセンティブが低い可能性もあるため、発電予測支援ビジネスやアグリゲーション・ビジネスの活性化のための環境整備を進めていくことも重要です。FIT制度からFIP制度へと移行してもなお、引き続き再エネの導入を拡大させていくために、アグリゲーターには、小規模再エネ由来のものも含めたより多くの再エネ電気を、効率的・効果的に市場取引することが期待されます。

こうした市場環境整備を進めるための仕組みを、FIP制度の詳細設計においても検討しました。例えば、再エネ発電事業者やアグリゲーターが持つ調整電源を上手く活用するため、FIP電源については、FIP電源以外の一般電源や他のリソースと一緒の発電バランシンググループを組成することを認めることにしました。また、アグリゲーションが可能な電源をFIP制度開始当初から増やしていくため、FIT認定事業者が希望する場合には、FIP制度へ移行することを認めることにしました。

加えて、FIT制度において免除されてきた再エネ発電事業者のインバランス負担についても、再エネの市場統合を図っていくため、FIP制度においては、他電源と同様に再エネ発電事業者にその負担が課されることになります。その際、再エネ発電事業者にインバランスを抑制させるインセンティブを持たせ、当該コストを下げるように努力することを促す制度にするため、FIP認定事業者には、バランシングコストとして、再エネ電気の供給量に応じてkWh当たり一律の額を交付することとし、特に制度開始当初においては、FIT制度からFIP制度への移行のインセンティブにもなるよう、変動電源について技術やノウハウの蓄積を目的とした経過措置を設けることにしました。

また、FIT制度からFIP制度への移行をさらに促進させるために、国民負担の増大を抑止しつつ、蓄電池の活用を促す観点から、FIT制度からFIP制度への移行案件に対して、事後的に蓄電池を設置した場合の基準価格変更ルールの見直しについて、大量導入小委員会及び調達価格等算定員会において議論がなされ、2023年度より、運用が開始されることとなりました。具体的には、発電設備の出力(PCS出力と過積載部分の太陽電池出力)と基準価格(蓄電池設置前の基準価格と蓄電池設置年度における該当区分の基準価格)の加重平均値に変更することで、従来の「最新価格への変更」に比べ、移行案件に対する蓄電池設置のインセンティブが高まることが期待されます。

3.需給一体型の再エネ活用モデルの促進

世界及び日本において、太陽光発電コストの急激な低下、デジタル技術の発展、電力システム改革の進展、再エネを求める需要家とこれに応える動き、多発する自然災害を踏まえた電力供給システムの強靱化(レジリエンス向上)の要請、再エネを活用した地域経済への取組、といった大きな変化が生じています。加えて、2019年11月以降には、FIT調達期間を終え、投資回収を終えた安価な電源として活用できる住宅用太陽光発電(FIT卒業電源)が出現しています。

こうした構造変化により、「大手電力会社が大規模電源と需要地を系統でつなぐ従来の電力システム」から、「分散型エネルギーリソースも柔軟に活用する新たな電力システム」への大きな変化が生まれつつあり、こうした変化を踏まえ、自家消費や地域内系統の活用を含む、需給一体型の再エネ活用モデルをより一層促進することが求められています。こうしたモデルの普及のために、民間の様々なサービスやEVを始めとした新たな分散型エネルギーリソースもあわせて、新たなビジネス創出の動きを加速化するための事業環境整備が必要です。

また、官民が連携して課題分析を的確に行うとともに、分散型エネルギーに関係するプレイヤーが共創していく環境を醸成することを目的として、2022年度も「分散型エネルギープラットフォーム」を開催しました。当該プラットフォームは、2019年度から経済産業省と環境省が共同で開催しており、多様なプレイヤーが一堂に会し、取組事例の共有や課題についての議論等を行う場を設けることで、幅広いプレイヤーが互いに共創する機会を提供するものです。2022年度も、2021年度に引き続き、オンラインでの意見交換会を開催し、これまで取り扱ってきた「地域」、「企業・公的機関」といったテーマに加え、「EV」や「水素」といった新たなテーマについて、関係する事業者等に参加いただき、課題の整理を行うディスカッションを行いました。また、全体を総括するイベントを開催し、講演やパネルディスカッションを通じて、分散型エネルギーに関する現状の課題の共有や、さらなるプレイヤーの拡大を図りました。

(1)家庭・大口需要家

住宅用太陽光発電の価格低下による自家消費のメリットの拡大やFITを卒業した太陽光の出現により、今後は、自家消費や余剰電力活用の多様化が進んでいくことが期待されます。一方、住宅を購入する多くの消費者にとっては、太陽光発電の設備投資に伴う追加的な経済的負担は大きく、ZEH化に向けた課題となっています。このような中で、再エネ導入を一層拡大しつつ、ZEHを普及させるためには、太陽光発電等の設備を第三者が保有するビジネスモデルを活用した新たなZEHのあり方を検討していくことが重要になってきています。

また、家庭や大口需要家に設置された再エネによる自家消費を促進するためには、エコキュートや蓄電システム、電気自動車等の分散型エネルギーリソースの導入促進も重要です。そのため、特に家庭用蓄電システム等については、普及拡大に向けた課題及びその対応策を整理するとともに、目標価格や導入見通し等を策定しています。目標価格については、経済産業省等の補助事業において、採択要件として活用しています。

(2)地域

再エネ電源を自律的に活用する地域での需給一体的なエネルギーシステムは、エネルギー供給の強靱化(レジリエンス)、地域内のエネルギー循環、地域内の経済循環等の点で有効です。そのため、地域の再エネをコージェネレーション等の他の分散型エネルギーリソースと組み合わせて利用するといった、地域レベルで再エネを需給一体的に活用する取組について、こうした取組をより行いやすくするための仕組みのあり方や、他分野の政策との連携強化等の検討をさらに深めていくことが重要です。

また、自営線を活用してエネルギーを面的に利用する分散型エネルギーシステムの構築については、導入コスト等の採算面や工事の大規模化が大きな課題となっています。こうしたコスト面の課題解決に向けて、災害等による大規模停電時に、既存の系統配電線と地域にある再エネや分散型電源を活用して、自立した電力供給が可能となる地域マイクログリッドの構築が進められています。一方、災害時だけでなく平時での活用も見据えて、制度的・技術的課題の整理を行い、事業環境の整備につなげていく必要もあります。そこで、地域マイクログリッド事業に申請する事業者向けに、一般送配電事業者や地元自治体等のステークホルダーとの調整や事業を進めていく上での具体的な手順を示した手引書を作成しました。また、2021年度は、神奈川県小田原市と沖縄県宮古島市(来間島)で地域マイクログリッドが構築されました。

加えて、自家消費や地域と一体となった事業を優先的に評価するため、一定の要件(地域活用要件)を満たす再エネ事業については、当面、FIP制度のみならず、現行FIT制度の基本的な枠組みを維持して支援しています。その具体的な地域活用要件については、以下のとおりです。

①自家消費型の地域活用要件(事業用太陽光発電)

小規模事業用太陽光発電は、立地制約が小さく、需要地近接での設置が容易である電源です。このため、需要地において需給一体的な構造として系統負荷の小さい形で事業運営がなされ、災害時にも活用されることで、全体としてレジリエンスの強化に資することを要件とする、「自家消費型」の地域活用要件を設定することが必要です。

特に、低圧事業(10kW以上50kW未満)については、地域でのトラブルや、大規模設備を意図的に小さく分割することによる安全規制の適用逃れ、系統運用における優遇の悪用等が発生し、地域での信頼が揺らぎつつあります。地域において信頼を獲得し、長期安定的に事業運営を進めるためには、全量売電を前提とした野立て型設備ではなく、自家消費を前提とした屋根置き設備等への支援を重点化し、地域に密着した形での事業実施を求めることが重要です。このため、低圧事業については、2020年度から、自家消費型の地域活用要件をFIT制度の認定基準として求めています。

自家消費型の具体的な要件については、まず、自家消費を行う設備構造を有し、かつ需要地内において自家消費を行う計画であることを求めています。その際、ごく僅かしか自家消費を行わない設備が設置され、全量売電となることを防ぐため、自家消費の確認を厳格に行っていきます。加えて、災害時に活用するための最低限の設備を求めるものとして、給電用コンセントを有し、その災害時に利活用が可能であることを求めることとしました。ただし、営農型太陽光発電設備については、営農と発電の両立を通じて、エネルギー分野と農林水産分野での連携の効果が期待されるものもある中で、一部の農地には近隣に電力需要が存在しない可能性もあることに鑑み、農林水産行政の分野における厳格な要件確認を条件に、自家消費を行わない案件であっても、災害時の活用が可能であれば、自家消費型の地域活用要件を満たすものとして認めることとしています。

また2022年度以降の新規認定においては、共同住宅の屋根に設置する10kW以上20kW未満の太陽光発電設備については、自家消費を行う設備構造を有していれば、自家消費の量の基準も満たしているものと取り扱うこととしています。また、近接した10kW未満の複数設備(地上設置)で認定を取得し、設備を意図的に10kW未満に分割する等、10kW以上50kW未満の地域活用要件逃れの疑いのある案件が生じていることから、10kW未満で地上設置を選択した案件についても、建物登記等の提出を求めて電気の自家消費を行う建物等の確認を行うこととし、地域と共生した形での太陽光発電の導入加速化を図っていくこととしています。

なお、高圧以上事業(50kW以上)については、調達価格等算定委員会の議論を踏まえ、地域活用要件を設定してFIT制度による支援を当面継続していくのではなく、各電源の状況や事業環境を踏まえながら、FIP制度の対象を順次拡大し、早期の自立を促していく方針です。

②自家消費型・地域消費型又は地域一体型の地域活用要件(陸上風力発電・地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電)

地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電は、太陽光発電に比べて立地制約が大きく、太陽光発電や風力発電と比べると、FIT制度開始以降も導入スピードは緩やかであり、現時点では発電コストの低減の道筋が明確化していません。他方、電源特性の観点から、地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電は、発電予測がしやすい又は出力を調整しやすく、比較的FIP制度への適性が高いことも明らかになってきました。

こうした中、再エネの自立化を促すため、調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電でFIT制度の新規認定を認める対象については、FIP制度が施行された2022年度から、地域活用要件を求めることとし、その規模を、地熱発電・水力発電は1,000kW未満、バイオマス発電は2,000kW未満としています。また、陸上風力発電については、50kW未満(リプレースは1,000kW未満)のものに、2023年度から地域活用用件を求めています。

また、これらの電源に適用される地域活用要件については、調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、FIP制度の適用対象拡大を念頭に置いた制度設計であるという発想の下で、いたずらにコスト増をもたらさず、相対的に緩やかなものが設計されています。具体的には、以下のいずれかの地域活用要件を満たすことが求められます。

(ア)自家消費型・地域消費型の地域活用要件

低圧太陽光発電事業の地域活用要件と同程度に電気を自家消費することが求められます。又は、再生可能エネルギー電気特定卸供給により供給し、かつ、その供給先の小売電気事業者等が、小売供給する電気の一定割合を当該発電設備が所在する都道府県内へ供給することが求められます。あるいは、発電設備から産出された熱を原則として常時利用しつつ、一定の電気も自家消費することが求められます。

(イ)地域一体型の地域活用要件

当該事業計画に係る再エネ発電設備が所在する地方公共団体の名義の取決めにおいて、当該発電設備による災害時を含む電気又は熱の当該地方公共団体内への供給が位置づけられていることが求められます。又は、当該発電事業を地方公共団体が自ら実施又は直接出資することが求められます。あるいは、再生可能エネルギー電気特定卸供給により供給し、かつ、その供給先の小売電気事業者等が、地方公共団体が自ら事業を実施又は直接出資するものであることが求められます。なお、こうした地方公共団体が自ら事業を実施又は直接出資するものについては、地方公共団体の主体的な関与を求めていきます。

4.認定案件の適正な導入と国民負担の抑制

(1)新規認定案件のコストダウンの加速化

現在、日本の再エネの発電コストは国際水準と比較して依然高い水準にあり、FIT制度に伴う国民負担の増大をもたらしています。日本の再エネの発電コストが高い原因として、例えば太陽光発電については、「市場における競争が不足し、太陽光パネルや機器等のコスト高を招いていること」や、「土地の造成を必要とする場所が多く、台風や地震の対策をする必要がある等、日本特有の地理的要因が工事費の増大をもたらしていること」等が挙げられます。

再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立を図るため、FIT制度では、入札により調達価格を決定することが国民負担の軽減につながると認められる電源については、入札対象として指定することができるとされています。事業用太陽光発電は、2017年度の入札制度導入以降、入札対象範囲を順次拡大しており、2020年度からは「250kW以上」に拡大しました。2021年度からは、予見可能性の向上のため、上限価格を公表するとともに、参加機会の増加のため、入札実施回数を年間2回から年間4回としています。また、陸上風力発電については、2021年度から「250kW以上」を対象として入札を実施し、2022年度からは対象範囲を「50kW以上」に拡大しました。加えて、一般木材等バイオマスによるバイオマス発電(10,000kW以上)及びバイオマス液体燃料によるバイオマス発電等についても、入札を実施しています。

今後、2050年カーボンニュートラルの実現を見据えると、再エネのさらなる導入拡大は不可欠であり、継続的なコスト低減とともに、案件組成が促されるような制度設計・環境整備が必要です。2022年度の調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、2023年度の入札の対象範囲について、事業用太陽光発電は、FIT制度で250kW以上、FIP制度で500kW以上とし、屋根設置のさらなる導入に向けて、設置の形態等に基づき、メリハリをつけてさらなる導入促進策を図るべく、屋根設置の太陽光発電について入札制の適用を免除することとしました。陸上風力発電(50kW以上)、一般木材等バイオマスによるバイオマス発電(10,000kW以上)及びバイオマス液体燃料によるバイオマス発電についても、引き続き2023年度も入札対象とすることとしています。なお、陸上風力発電については、入札が年1回であることから、最大限の導入と国民負担の抑制を図るため、応札容量が募集容量を大きく上回った場合は、同年度内に追加の入札を行うこととしました。また、着床式洋上風力発電(再エネ海域利用法適用外)についても、再エネ海域利用法に基づく公募における事業者の参加状況や評価結果を踏まえ、国内の着床式洋上風力発電において、一定程度の競争効果が見込まれることから、入札制を適用することとしました。

(2)住宅用太陽光発電設備の意義とFIT買取期間終了の位置づけ

太陽光発電は、温室効果ガスを排出せず、国内で発電できることでエネルギー安全保障にも寄与することに加え、火力発電等と異なり燃料費が不要であり、また、自家消費を行い、非常用電源としても利用可能な分散型電源となり得る特徴があります。一般家庭が太陽光発電設備を設置する理由は様々ですが、光熱費の節約や売電収入を得るといった経済的な理由だけでなく、自ら発電事業者として再エネの推進に貢献していくことを目指している方もおられます。一般に、太陽光パネルは、20年以上発電し続けることが可能であり、特に住宅に設置されたパネルは、改築・解体等をするまで設備が維持され、稼働し続けることが期待されます。

このような状況の中、2009年11月に開始した余剰電力買取制度の適用を受けた住宅用太陽光発電設備については、2019年11月以降、固定価格での調達期間が順次満了を迎えています。その規模は、2022年までに累積で約130万件、約530万kWとなっており、今後も累積では、2025年までに約200万件、約860万kWに達する見込みですが、これはFIT制度という支援制度に基づく10年間の買取が終了するに過ぎず、その後も10年以上にわたって、自立的な電源として発電していくという役割が期待されます。

調達期間終了後の円滑な移行に向けて、現行の買取事業者からは、買取期間の終了が間近に迫った世帯に対して、調達期間終了日等が個別通知されています。また、資源エネルギー庁のWebサイトに情報提供ページを開設し、調達期間終了後の選択肢の提示や、電気の買取を希望する事業者情報の提供等を行っています。

5.立地制約のある電源の導入促進(洋上風力のための海域利用ルールの整備)

(1)洋上風力を巡る世界の動き

洋上風力発電には、陸上風力発電と比較して次のような特徴があります。まず、洋上は陸上よりも比較的風況が優れているため、設備利用率をより高めることが可能(世界平均では陸上で約30%、洋上で約40%)です。また、輸送制約等が小さく、大型風車の設置が可能であり、建設コスト等を抑えることができるため、コスト競争力のある再エネ電源といえます。さらに、事業規模は数千億円に至る場合もあり、また、部品数も数万点と多いため、部品調達・建設・保守点検等を通じて地元産業を含めた関連産業への波及効果が期待できます。

このような特徴を持つ洋上風力発電は、現在世界で最も飛躍的に導入が拡大している再エネ電源の1つであり、世界風力エネルギー協会(GWEC)によると、世界の洋上風力発電導入量は、2013年以降毎年増加し、2022年には約8.8GWが導入され、2022年末の総導入量は約64.3GWとなり、全風力発電導入量の約6%を占めています。

欧州では、1990年に、スウェーデンで世界初の洋上風力発電所の実証試験が開始されたのを皮切りに、デンマークやオランダ等で次々に実証試験が行われました。2000年頃からはデンマークを中心に、事業化を目指した洋上風力発電所の建設が始まり、2000年代半ば頃からは英国、ベルギー、ドイツ等の参入が進みました。2022年末時点では、世界の洋上風力発電導入量の約4割を欧州が占めています。

このように欧州で洋上風力発電の導入が進んだ背景にはいくつか要因があります。まず、北海等の欧州の海は風況が良く、また海岸から100kmにわたって水深20〜40mの遠浅の軟弱地盤の地形が続く等、自然的条件に恵まれている点が挙げられます。加えて、2000年代後半以降、洋上風力発電についてのルール整備が進められ、設置のための調査や、事業を実施する区域の選定、電力系統の確保等について政府の役割が増しており、これによって事業者の開発リスクが低減されてきたことも大きな要因です。また、入札制度も導入されており、事業者間の競争が促されることで、コストが急速に低下している点も重要です。例えば、2015年以降の入札では、落札額が10円/kWhを切る事例や市場価格となる事例(補助金ゼロ)も生まれています(第331-5-1)。

【第331-5-1】欧州における最近の洋上風力発電の入札の動向

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【第331-5-1】欧州における最近の洋上風力発電の入札の動向(ppt/pptx形式:137KB)

資料:
経済産業省作成

アジアでも、洋上風力発電の累積導入量を、台湾は2035年に40GW、韓国は2030年に1,600万kWとする目標を設定しており、また、中国は2022年末時点での累積導入量が世界全体の約半分に達する等、洋上風力発電の導入拡大に向けた動きが活発化しています。

(2)日本の状況と再エネ海域利用法の運用

周囲を海に囲まれた日本にとって、洋上風力発電の導入は重要です。「第6次エネルギー基本計画」の中でも「特に、洋上風力は、大量導入やコスト低減が可能であるとともに、経済波及効果が大きいことから、再生可能エネルギー主力電源化の切り札として推進していくことが必要である」と位置づけられています。また、洋上風力発電は、海外において急激にコスト低下が進んでおり、大規模な開発も可能であることから、再エネの最大限の導入と国民負担の抑制を両立し得る重要な電源です。しかし、主に次の2点の課題により、日本においては導入が進んでいない状況にありました。

1点目は、「海域の占用に関する統一的なルールがない」ことです。従来、海域の大半を占める一般海域には、占用の統一ルールがなく、都道府県が条例に基づき通常3〜5年の占用許可を出す運用がなされていました。FIT制度の調達期間の20年と比較して短期の占用許可しか得ることができないため、中長期的な事業予見性が低くなり、資金調達が困難になっていました。2点目は、「先行利用者との調整の枠組みが不明確」という課題です。海域を新たに利用するに当たっては、海運業や漁業等の地域の先行利用者との調整が不可欠ですが、調整のための枠組みが存在せず、事業者にとっては大きな負担となっていました。

これらの課題の解決に向けて、2019年4月に再エネ海域利用法が施行されました。本法律により、以下で示す手続の流れに基づき、経済産業大臣及び国土交通大臣が、自然的条件が適当であること、漁業や海運業等の先行利用に支障を及ぼさないこと、系統接続が適切に確保されること等の要件に適合した区域を促進区域として指定し、公募による事業者選定を行います。選定された事業者は、区域内で最大30年間の占用許可を受けるとともに、再エネ特措法に基づく認定を得ることができます。公募による事業者選定では、長期的・安定的・効率的な事業実施の観点から、最も優れた事業者を選定することで、コスト効率的かつ長期安定的な洋上風力発電の導入を促進する仕組みとなっています(第331-5-2)。

【第331-5-2】再エネ海域利用法の手続の流れ

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【第331-5-2】再エネ海域利用法の手続の流れ(ppt/pptx形式:206KB)

資料:
経済産業省作成

制度運用を進めるため、2019年5月に法律に基づく基本方針(海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針)を策定するとともに、同年6月には、関係審議会での議論を踏まえて、2つのガイドライン(海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン・一般海域における占用公募制度の運用指針)を定めました。

上記の法令及びガイドラインに基づき、毎年着実な案件形成を進めており、2022年9月には、今後の促進区域の指定に向け、既に一定の準備段階に進んでいる区域として11区域、有望な区域として5区域を整理しました。

「長崎県五島市沖」については、2019年12月に促進区域として指定し、公募占用計画の審査を経て、2021年6月に事業者選定を行いました。また、秋田県・千葉県の計3海域(「秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖(北側・南側)」、「千葉県銚子市沖」)については、2020年7月に促進区域として指定し、同じく公募占用計画の審査を経て、2021年12月に事業者選定を行いました。また、既に促進区域に指定されていた「秋田県八峰町・能代市沖」に加え、「長崎県西海市江島沖」、「秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖」、「新潟県村上市・胎内市沖」については、2022年9月に新たに促進区域に指定し、これら合計4海域について、2022年12月末より、洋上風力発電事業を行うべき者を選定するための公募を開始しました。加えて、2023年5月には、それまで一定の準備段階に進んでいる区域として整理していた北海道の5区域について、新たに有望な区域として整理しました(第331-5-3)。

【第331-5-3】再エネ海域利用法の施行状況

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【第331-5-3】再エネ海域利用法の施行状況(ppt/pptx形式:147KB)

資料:
経済産業省作成

(3)洋上風力関連産業の産業競争力強化に向けた取組

再エネ海域利用法に基づき、洋上風力発電の案件形成は着実に進みつつあります。洋上風力発電のさらなる導入拡大には、洋上風力関連産業の競争力を強化し、コストの低減をしっかりと進めることが重要です。このため、再エネ海域利用法を通じた洋上風力発電の導入拡大と、これに必要となる関連産業の競争力強化や国内産業集積、インフラ環境整備等を、官民が一体となる形で進め、相互の「好循環」を実現していくため、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」(以下「官民協議会」という。)を2020年7月から開催し、2020年12月には、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」(以下「産業ビジョン」という。)を策定し、中長期的な政府及び産業界の目標、目指すべき姿と実現方策等について一定の方向性を示しました(第331-5-4)。

【第331-5-4】「洋上風力産業ビジョン(第1次)」の概要

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【第331-5-4】「洋上風力産業ビジョン(第1次)」の概要(ppt/pptx形式:170KB)

資料:
経済産業省作成

この産業ビジョンでは、①魅力的な国内市場の創出、②投資促進・サプライチェーン形成、③アジア展開も見据えた次世代技術開発と国際連携といった基本方針に基づき、方策等についての一定の方向性を取りまとめました。政府による導入目標としては、「年間100万kW程度の区域指定を10年継続し、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万〜4,500万kWの案件を形成する」ことを掲げました。

この政府目標達成に向けた案件形成を加速するため、まずは、「日本版セントラル方式」による事前調査等のプッシュ型の案件形成や、需要地とポテンシャルのある適地を結ぶ系統整備等の国内インフラ整備を進めていく必要があります。これまで、洋上風力発電の実施に当たっては、複数の事業者が、初期段階の調査等を同一区域で重複して実施することの非効率性が指摘されてきました。このため、「日本版セントラル方式」として、開発の初期段階から政府が関与することによって、より迅速かつ効率的な風況・地質調査や適時の系統確保等を行うことを目指し、この方式の確立に向けて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)において、実証事業を実施しました。今後については、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」という)が担い手となって、洋上風力発電事業の検討に必要な調査を実施する予定であり、2022年5月には、JOGMECに当該調査業務を追加することを含む改正法を公布しました。今後については、調査の仕様を定めたガイドラインの策定等、必要な制度設計の検討を進めていきます。

また、電力安定供給や経済波及効果といった観点からは、競争力があり強靱なサプライチェーンを形成することが重要です。足元では、欧州で技術が確立した「着床式」の洋上風力の導入を着実に進めていくことが重要ですが、遠浅な海が広がる欧州に比べて、急深な地形・複雑な地層である日本では、深い海域でも利用可能な「浮体式」の洋上風力の導入拡大が不可欠です。浮体式洋上風力の商用化を早期に実現するため、グリーンイノベーション基金の「洋上風力発電の低コスト化プロジェクト」に1,195億円を割り当て、風車・浮体・電気システム・メンテナンスの4項目において、2021年に採択を行い、要素技術開発を進めています。今後、最速で2023年から行う実海域での実証を通じて、コスト低減や量産化に向けて取り組んでいきます。さらに、風車については、グローバルなコスト競争と開発競争が激化しており、風車の大規模化が加速しています。政府としても、浮体式洋上風力の導入目標を掲げ、その実現に向け、引き続き技術開発・大規模実証を実施するとともに、風車や関連部品、浮体基礎等の洋上風力関連産業における大規模かつ強靱なサプライチェーン形成、人材育成の取組等を進めています。

特に、人材育成については、長期的、安定的に洋上風力発電を導入・普及させていく上で、風車製造関係のエンジニア、洋上工事や調査開発に係る技術者、メンテナンス作業者等、幅広い分野における人材が必要です。2021年には、産業界と連携して必要なスキルの棚卸しを行っており、2022年度から、大学・高専等や企業が洋上風力人材育成のために提供するカリキュラム作成や、風車設備のメンテナンスや洋上作業に係る訓練を行うための訓練設備整備費の補助を開始しました。2023年度も、引き続き産業界とも連携をしながら支援を行う予定です。

(4)洋上風力発電の導入促進に向けた改正港湾法に基づく基地港湾の指定

洋上風力発電設備の設置及び維持管理に利用される基地港湾においては、重厚長大な資機材を扱うことが可能な耐荷重や広さを備えた埠頭が必要であり、参入時期の異なる複数の発電事業者間の利用調整も必要となります。このため、2019年12月に「港湾法の一部を改正する法律(令和元年法律第68号)」が公布され、国が基地港湾を指定し、当該基地港湾の特定の埠頭を構成する行政財産について、国から再エネ海域利用法等に基づく許可事業者に対し、長期的かつ安定的に貸し付ける制度を創設しました。これらの措置を講じることにより、事業の見込みが立ちやすくなり、洋上風力発電事業のより一層の円滑な導入に資することになります。

当該制度に基づき、2020年9月に能代港、秋田港、鹿島港、北九州港の4港を基地港湾として指定するとともに、2023年4月には新たに新潟港を指定しました。秋田港については、既に地耐力強化のための工事が完了しており、2021年4月に発電事業者への貸付を開始しました。2020年9月に基地港湾として指定された他の3港については、2022年度も引き続き地耐力強化等の必要な整備を実施しています。