はじめに 3-3
再エネは、温室効果ガスを排出しない脱炭素エネルギー源であるとともに、日本のエネルギー安全保障にも寄与できる重要な国産エネルギー源です。2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」において、再エネについては、2050年カーボンニュートラル及び2030年度の温室効果ガス排出削減目標の実現を目指し、再エネ最優先の原則を踏まえ、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促していくものと位置づけています。また、2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」においても、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら、再エネを導入拡大していくことが明確に示されています。さらに、2023年4月に、再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議(以下「再エネ・水素閣僚会議」という。)において定められた「『GX実現に向けた基本方針』を踏まえた再生可能エネルギーの導入拡大に向けた関係府省庁連携アクションプラン」(以下「アクションプラン」という。)においては、再エネの導入促進に向けた取組を具体化し、強力に進めるため、イノベーションの加速や次世代ネットワークの構築、事業規律を前提とした再エネの推進等、関係府省庁が協力して対応する施策について取りまとめました。
世界的には、再エネの導入拡大に伴い発電コストが低減し、他の電源と比べてもコスト競争力のある電源となってきており、それがさらなる導入につながるといった好循環が実現しています。日本においても、2012年7月に再エネ特措法に基づく固定価格買取制度(以下「FIT制度」という。FIT:Feed-in Tariff)が導入されて以降、再エネの導入量が制度開始前と比べて約4.3倍になる等、導入が急速に拡大してきました。2022年3月末時点で、FIT制度開始後に新たに運転を開始した設備は約6,705万kW、FIT制度の認定を受けた設備は約10,119万kWとなっています。日本の再エネの発電コストは着実に低減してきているものの、国際水準と比較して依然高い水準にあります。「第6次エネルギー基本計画」においては、2030年度の導入水準(再エネ比率36〜38%程度)を達成する場合のFIT・FIP(Feed-in Premium)制度における買取費用総額を5.8〜6.0兆円程度と見込んでいます。なお、2023年度の買取費用見込額は4.7兆円程度であり、2023年度の再エネ賦課金単価は、再エネ特措法で定められた算定方法に則り、ウクライナ情勢等に起因する年間を通じた市場価格の実績等を反映した結果、1.40円/kWhとなり、2022年度の単価から2.05円/kWhの低下となりました。
「第6次エネルギー基本計画」で掲げた、2030年度の再エネの導入水準の達成に向けては、地域との共生を前提に、導入までのリードタイムが比較的短い太陽光発電を最大限導入することが重要です。地域と共生した太陽光発電の導入を促進するため、関係省庁が連携して、公共施設、住宅、工場・倉庫の屋根等への導入、空港の再エネ拠点化等に取り組むとともに、地球温暖化対策推進法や建築物省エネ法に基づく促進区域等での導入拡大等にも取り組んでいきます。FIT・FIP制度における買取価格については、調達価格等算定委員会の意見を尊重し、2023年度下半期から、屋根設置の事業用太陽光発電の区分を新設しました。また、耐荷重の小さい屋根やビルの壁面等、既存の太陽電池では設置が困難であった場所への設置を可能にする、軽量で柔軟性を有するペロブスカイト太陽電池等の次世代型太陽電池については、グリーンイノベーション基金を活用して、研究開発から実証までを支援し、早期の社会実装に向けて取組を加速化していきます。
太陽光発電を中心に、再エネの導入が拡大したことに伴い、安全面や防災面、景観や環境への影響、将来の設備廃棄等に対する地域の懸念や、FIT調達期間終了後に事業継続や再投資が行われないことによる持続的な再エネの導入・拡大の停滞への懸念が高まっています。再エネの導入拡大に向けては、再エネが地域と共生する形で定着し、長期にわたる事業継続や再投資により、責任ある電源としての長期安定的な事業運営が確保されることが重要です。こうした懸念の解消に向け、2022年4月より、関係省庁による、再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会が開催され、同年10月には、再エネ事業の各事業実施段階における課題とその解消に向けた取組のあり方等を内容とする提言が取りまとめられました。また、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(以下「大量導入小委員会」という。)において、事業規律の強化を前提に、再エネ設備の最大限の活用を促すため、既存再エネの長期電源化と有効活用に向けた論点が整理されました。これらの議論等を踏まえ、大量導入小委員会の下に、再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループが設置され、2023年2月には中間取りまとめを公表しました。中間取りまとめでは、再エネ特措法に基づく認定における地域の方々への事業内容の事前周知の要件化や、関係法令に違反する事業者に対するFIT・FIP交付金による支援の一時停止といった事業規律の強化に必要な制度的措置の具体化や、2030年代後半に見込まれる太陽光パネルの大量廃棄への対応の必要性が取りまとめられました。
2050年カーボンニュートラル等の実現のためには、洋上風力発電の導入拡大も重要です。2019年4月には、洋上風力発電の導入を進めていくため、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)」(以下「再エネ海域利用法」という。)が施行されました。再エネ海域利用法の施行等の状況については、2021年に、長崎県の1区域、秋田県の2区域、千葉県の1区域の計4区域について、事業者選定を行いました。また、秋田県八峰町・能代市沖、長崎県西海市江島沖、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、新潟県村上市・胎内市沖の4区域について、2022年末より公募を開始しました。引き続き、再エネ海域利用法に基づき、事業環境整備を進め、安全保障や環境影響、リサイクル等の観点について十分に考慮しつつ、コスト効率的な案件の導入を促進していきます。
さらに、従来の系統運用の下での系統制約も顕在化しています。系統制約の克服に向けては、全国の送電ネットワークを、再エネ電源の大量導入等に対応しつつ、レジリエンスを抜本的に強化した次世代型ネットワークへの転換に取り組んできました。既存系統を最大限活用していくために、「日本版コネクト&マネージ」の具体化を進め、2023年4月より、基幹系統に加えて、ローカル系統等についても、ノンファーム型接続の受付を開始しました。また、系統整備の具体的対応として、全国大の送電ネットワークの将来的な絵姿を示すマスタープランを2023年3月に策定しました。計画的な系統整備のために、必要となる資金調達を円滑化する仕組みの整備を進めることに加えて、分散型リソースの活用、系統運用のさらなる高度化等により、引き続き、再エネの導入拡大に向けて重要となる系統制約の克服を目指します。
「第6次エネルギー基本計画」等における再エネ政策の基本的方針を踏まえ、2050年カーボンニュートラル及び2030年度の再エネ比率36〜38%という目標の達成のため、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといった電源について、引き続き、FIT・FIP制度を始め、あらゆる政策を総動員しながら、イノベーションの加速やコスト低減、市場への統合、地域と共生する形での適地確保や事業実施、系統制約の克服等を着実に進め、再エネの最大限導入を実現していきます。