第1節 東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故への取組
1.廃止措置等に向けた中長期ロードマップ
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策については、関係省庁等において定めた「東京電力㈱福島第一原子力発電所廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」という。)に基づき、取組が進められてきました。対策に一部の遅れや課題はあるものの、全体としては着実に進捗してきています。引き続き、国も前面に立って、現場状況や研究開発成果等を踏まえ、中長期ロードマップに継続的な検証を加えつつ、必要な対応を安全かつ着実に進めていきます。
【第111-1-1】中長期ロードマップ(2015年6月12日改定)の概要
- 出典:
- 経済産業省
2.汚染水対策等
原子炉建屋内では、原子炉に水をかけて冷却を続けることで、低温での安定状態を維持していますが、この水が建屋に流入した地下水と混ざり合うことで、日々新たな汚染水が発生しています。このため、2013年9月には、原子力災害対策本部において「汚染水問題に関する基本方針」が決定され、①汚染源に水を「近づけない」、②汚染水を「漏らさない」、③汚染源を「取り除く」という3つの基本方針に沿って、予防的・重層的に対策を進めているところです。
汚染源に水を「近づけない」対策は、汚染水発生量の低減を目的としており、建屋への地下水流入を抑制するための多様な対策を組み合わせて進めています。具体的には建屋山側でくみ上げた地下水を海洋に排出する地下水バイパスを2014年5月から運用していることに加え、建屋のより近傍で地下水をくみ上げ、浄化して海洋に排出するサブドレン及び地下水ドレンの運用を2015年9月から開始しました。サブドレンについては、地下水くみ上げ能力の強化にも取り組んでいます。また、2016年3月には凍土方式の陸側遮水壁の凍結を開始し、同年10月には海側の凍結が完了しました。山側についても2017年3月末時点で約98%の凍結が進んでおり、凍結完了に向けて着実に作業を進めています。さらに、雨水の土壌浸透を防ぐ広域的な敷地舗装(フェーシング)についても、施工予定箇所の9割以上のエリアで工事を完了しています。これらの対策により、建屋流入量は、対策実施前の400㎥ /日程度から、2017年3月時点で120㎥ /日程度まで低減しました。
- 出典:
- 経済産業省
- 出典:
- 経済産業省
汚染水を「漏らさない」対策は、海洋へ放射性物質が流出するリスクの低減を目的としています。2015年10月には、建屋の海側に、深さ約30m、全長約780mの鋼管製の杭の壁(海側遮水壁)を設置する工事が完了したことで、放射性物質の海洋への流出量が大幅に低減し、港湾内の水質の改善傾向が確認されています。さらに、信頼性の高い溶接型の貯水タンクの設置や、フランジ型タンクから溶接タンクへのリプレースを進めているとともに、万一の漏えいにも備え、タンク周囲において、二重堰の設置や側板フランジ部への防水シール材等による予防保全策、1日4回のパトロールなどを実施しています。
【第111-2-3】鋼管製海側遮水壁(2015年10月完成)
- 出典:
- 東京電力ホールディングス
汚染源を「取り除く」対策としては、多核種除去設備(ALPS: Advanced Liquid Processing System)をはじめ、ストロンチウム除去装置などの複数の浄化設備により汚染水の浄化を行い、ストロンチウムを多く含む高濃度汚染水の処理については2015年5月に一旦完了しました。さらなるリスク低減の観点から、ストロンチウム除去装置で処理した汚染水の多核種除去設備による再浄化や、継続的に日々発生する汚染水の浄化などに取り組んでいます。また、原子炉建屋の海側の地下トンネル(海水配管トレンチ)には高濃度汚染水が溜まっており、万一漏えいした場合のリスクが大きいため、2014年11月からポンプで汚染水を抜き取り、トレンチ内を充填・閉塞する作業を進めてきました。2015年12月には、高濃度汚染水の除去・トレンチ内の充填を全て完了し、リスクの大幅な低減が図られました。
これらの予防的・重層的な取組により汚染水対策は大きく前進していますが、汚染水問題の最終的な解決のため、引き続き次の対策に取り組んでいます。まず、多核種除去設備等で浄化処理した水の長期的取扱いについては、技術検証を進めるとともに、有識者からなる「汚染水処理対策委員会」の下に「トリチウム水タスクフォース」を設置し、その取扱いに関する様々な選択肢について、技術的な評価結果を2016年6月に取りまとめました。さらに、技術的な観点に加え、風評被害など社会的な観点も含めた総合的な検討を進めるため、2016年9月、「汚染水処理対策委員会」の下に「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」を設置しました。また、建屋からの汚染水の漏えいリスクを完全になくすためには、建屋内滞留水中の放射性物質の量を減らす必要があるため、建屋内滞留水の除去や浄化を進めています。具体的には、1号機の原子炉建屋の滞留水の水位を連通部より低下させ、原子炉建屋とタービン建屋の切り離しを2016年3月に行いました。さらに、震災直後に貯留した1号機復水器内の高濃度汚染水を処理するための抜き取りを2016年10月に開始しました。さらに、2017年3月に1号機タービン建屋内の最下階エリアまでの滞留水の除去ができました。
3.使用済燃料プールからの燃料取出し
当面の最優先課題とされていた4号機使用済燃料プールからの燃料取出しについては、2014年12月22日に燃料1,533体全てを共用プールへ移送しました。
1号機については、2016年9月から建屋カバーの壁パネルの取り外し作業を開始し、11月に全18枚の取り外しを完了しました。オペレーティングフロア上部のガレキ撤去にむけて、ガレキ状況の調査や更なるダストの飛散防止のための防風シート設置等が進められています。2号機については、建屋上部の解体のため建屋周辺の整備工事が進められています。3号機については、2016年12月にオペレーティングフロアの放射線量低減のための除染および遮へい作業が完了し、2017年1月より燃料取出し装置の設置作業を開始しています。
【第111-3-1】福島第一原子力発電所1~4号機の原子炉の状況(2017年4月時点)
【第111-3-1】福島第一原子力発電所1~4号機の原子炉の状況(2017年4月時点)(ppt/pptx形式:403KB)
- 出典:
- 東京電力ホールディングスの資料を基に経済産業省作成
4.燃料デブリ取出し
(1)原子炉内部の様子
燃料デブリのある1~3号機の原子炉建屋内は線量も高く、容易に人が近づける環境ではないため、遠隔操作機器・装置等による除染や調査を進めています。
2号機では、2016年3月から7月にかけて、宇宙線ミュオンを利用して燃料デブリの所在を透視する装置により、原子炉内部の状況が測定されました。この調査では、圧力容器底部に燃料デブリと考えられる高密度の物質が存在していること等が確認されました。また、2017年1月から2月にかけて、原子炉格納容器内1階部分のペデスタル内側の状況を把握するため、遠隔操作により、カメラやロボットを原子炉圧力容器の近くまで投入しました。一連の調査により、圧力容器の下にある足場の脱落や堆積物の状況等を初めて直接確認するとともに、画像や放射線量など多くの情報が収集されるなど、廃炉に向けて大きな一歩となりました。
また、2017年3月には、1号機に遠隔操作で線量計と水中カメラを搭載したロボットを投入して調査を実施しました。調査の結果、燃料デブリが存在していると想定される格納容器底部付近の多くの地点で、放射線量や画像データを取得することができました。3月末現在、燃料デブリの分布を確認するため、これらのデータを分析・評価しております。いずれの調査においても、周辺環境に影響は生じておらず、モニタリングデータに有為な変動はみられておりません。
なお3号機では、原子炉格納容器内の水位が高く、1階及び地下階が水中下にあるため、水中遊泳ロボットによる調査が予定されています。
【第111-4-1】原子炉格納容器内の確認の様子と調査ロボット
<2号機調査(2017年1月26日~ 2月16日)にて確認された圧力容器下部付近の格子状の足場の脱落状況>
<1号機調査(2017年3月18日~ 22日)にて確認された排水溝に設置されていたポンプのバルブと推定(左)、格納容器地下階(水中)における落下物と推定(中央)>
- 出典:
- 東京電力ホールディングス
- 出典:
- JAEA楢葉遠隔技術開発センター
(2)廃炉に向けた研究開発
廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)が、2016年4月より本格運用を開始しました。また、2016年9月には、燃料デブリや放射性廃棄物などの分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町)の建設が開始されました。
研究開発の実施にあたっては、有望な技術を有する海外企業も参画できるようにするなど、国内外の叡智を結集するための取組も進めています。2015年度から、燃料デブリ取出しのための基盤技術の研究開発に、フランスの企業が参加しています。また、廃炉に関する研究開発を進めている政府機関、民間企業、大学などの連携強化の観点から、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に「廃炉研究開発連携会議」を設置しました。2016年4月に第3回、同年12月には第4回の会議をそれぞれ開催し、研究ニーズとシーズのマッチングなど、研究開発連携強化に向けた具体的取組と課題等について議論を行いました。
5.労働環境の改善
長期にわたる東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業を円滑に進めていくため、作業に従事するあらゆる方々が安心して働くことができる環境を整備することが重要です。
事故直後は、発電所構内全域で全面マスクと防護服の着用が必要であり、全面マスクについては装着すると息苦しい、作業時に同僚の声が聞こえづらい、防護服については動きづらい、通気性がなく熱がこもるといった課題がありました。これらは、作業時の大きな負担になるとともに、安全確保にあたっての課題ともなっていました。また、食事については、十分な休憩スペースもなかったことから、冷えたお弁当を床に座って食べるというような環境でした。
そのため東京電力は、福島第一原子力発電所の労働環境改善に継続的に取り組んできました。例えば、除染、フェーシング作業による環境線量低減対策を行うことで、全面マスクと防護服の着用が不要なエリアは、構内面積の95%まで拡大しました。これらのエリア内では、使い捨て防塵マスクと一般作業服等での作業が可能であり、人身災害の防止や安全確保に大きく寄与しています。また、食堂、売店、シャワー室を備え、一度に約1,200人を収容可能な大型休憩所を設置しました。食堂では、発電所が立地する大熊町内の大川原地区に設置した福島給食センターにおいて地元福島県産の食材を用いて調理した、温かくて美味しい食事を提供しています。
長期にわたる廃炉作業を着実に進めていくため、引き続き安全でより良い労働環境の整備に努めていきます。
【第111-5-1】構内面積約9割に拡大した一般作業服エリアと1200人収容可能な大型休憩施設内の様子
【第111-5-1】構内面積約9割に拡大した一般作業服エリアと1200人収容可能な大型休憩施設内の様子(ppt/pptx形式:546KB)
- 出典:
- 経済産業省
6.国内外への情報発信
東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた取組は、周辺地域の住民の安心・安全に深く関わるものです。また、風評被害を払拭するという観点からも、国内外の叡智を結集して活用するという観点からも、国内外に対して正確な情報を発信し、国内外からのご意見を伺うという、コミュニケーションの充実が重要です。
国際社会とのコミュニケーションとしては、2016年9月にウィーン(オーストリア)において開催された国際原子力機関(IAEA)総会をはじめとする政府要人との面談時等において、福島の現状を伝える映
像を上映するとともに、各国の参加者に映像を配布することで、世界の原子力関係者へ理解の促進を働きかけました。さらに、原子力施設の廃止措置の経験を有する国との間では、政府、研究機関及び事業者の各層において協力関係を構築しており、継続的に情報交換を行っています。
また、周辺地域とのコミュニケーションの一環として、廃炉・汚染水対策福島評議会の構成員である関係省庁、周辺地域の首長や関係団体等の方々のご意見を聞いた上で、廃炉・汚染水対策の進捗状況をわかりやすく伝えるためのパンフレットや動画の作成に取り組んでいます。
【第111-6-1】福島の現状を伝える動画「福島の今 2017春」(右のQRコードからも御覧いただけます)
- 出典:
- 経済産業省
【第111-6-2】パンフレット「廃炉の大切な話 2017」
- 出典:
- 経済産業省