第1節 電力システム改革の推進
1.電力広域的運営推進機関の取組
東日本大震災では、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量の制約から、広域的な系統運用が十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を十分に手当することができず、国民生活に大きな影響を与えたことから、2013年11月に成立した「電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)」に基づき、強い情報収集権限と調整権限の下で広域的な系統計画の策定や需給調整等を行う「電力広域的運営推進機関」(以下「広域機関」という。)が2015年4月に発足しました。
広域機関では、全国大での広域連系系統の整備及び更新に関する方向性を整理した長期方針である「広域系統長期方針」や、広域連系系統の整備に関する個別の整備計画である「広域系統整備計画」の策定により、広域連系系統のあるべき姿の実現に向けた取組を進めています。再エネの大量導入とレジリエンス強化に向けて、全国大の送電ネットワークの将来的な絵姿を示すマスタープランを2023年3月29日に策定・公表し、計画的に系統整備を進めていきます。
また、各一般送配電事業者の中央給電指令所と連携した広域機関システムを通じて、全国の需給状況や地域間連系線の運用状況を24時間365日監視し、全国規模で一元的に情報を把握することで、需給ひっ迫時には電力融通等の必要な指示を行う等、広域的な需給調整を行っています。
加えて、既存の送配電設備のさらなる効率的な利用のため「日本版コネクト&マネージ」の取組を推進するとともに、一般送配電事業者がエリアを越えて、電力市場から広域的かつ効率的に調整力を調達・運用する需給調整市場等の整備も進めています。
2.電力の小売全面自由化への対応
家庭を含めた全ての電気の利用者が電力供給者を選択できるようにするため、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施しました。全面自由化に際しては、まず旧一般電気事業や旧特定規模電気事業といった類型に代わる区分として、小売電気事業(登録制)、送配電事業(許可制)、発電事業(届出制)といった事業ごとの類型を設け、それぞれに必要な規制を課すこととしました。具体的には、自由化後も電力の安定供給を確保し、需要家保護を図るため、以下のような様々な措置を講じています。
まず、電気の安定供給を確保するための措置として、適切な投資や人材の確保の必要性に鑑み、一般送配電事業者に対して、需給バランス維持、送配電網の建設・保守、最終保障サービスの提供、離島のユニバーサルサービスの提供を義務付けるとともに、これらを着実に実施できるよう、地域独占と総括原価方式の託送料金規制(認可制)を措置しました。
また、小売電気事業者に対して、需要を賄うために必要な供給力を確保することを義務付けることとし、将来的な供給力不足が見込まれる場合に備えたセーフティネットとして、広域機関が発電所の建設者を公募する仕組みを創設しました。
さらに、需要家保護を図るための措置として、小売電気事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課すとともに、旧一般電気事業者に対し、2020年3月末まで経過措置として料金規制を継続することとしました。ただし、電気の使用者の利益を保護する必要性が特に高いと認められるものとして、経済産業大臣が指定する指定旧供給区域のみ経過措置料金が存続することとされました。2019年4月、電力・ガス取引監視等委員会から、消費者等の状況や、競争者による競争圧力、競争環境の持続性の状況等を総合的に考慮した上で、2020年4月の時点においては、全ての供給区域において、経過措置料金を存続させることが適当と考えられる旨、経済産業大臣に対する意見が示されました。本意見を踏まえ、2019年7月に、全ての旧一般電気事業者に係る供給区域について、小売規制料金に係る経過措置の存続のための指定が行われました。以降、概ね年に1回程度、審査対象区域の検討を行うこととしております。
加えて、小売全面自由化に伴い、多種多様な事業者が卸電力取引所で取引を行う機会が増加することや、一時間前市場の創設等、制度変更により卸電力市場を利用して不当に利益を得るケースが想定されることから、不正取引(相場操縦等)の防止、国による市場監視、取引所の運営の適切性確保を可能とする規制措置を講じています。こうした措置を通じて、市場の透明性と廉潔性を維持することが、卸電力市場の活性化に資すること、ひいては小売電力市場の活性化につながることと考えています。
3.電力の小売全面自由化の進捗状況
(1)電気事業に係る制度設計について
2015年9月に開催された電力取引監視等委員会(その後、2016年4月に「電力・ガス取引監視等委員会」に改組)において、小売営業に関するルール、卸電力市場における不公正取引の取締手法、今後の託送料金制度のあり方等、電力取引の監視に必要な詳細な制度設計の議論が進められてきました。
また、電力システム改革が進展する中で、電力分野においては、エネルギー政策の基本的視点である、安全性、安定供給、経済効率性及び環境適合を同時に達成していくことが求められます。効率的かつ競争的な電力市場の整備等の環境整備を進めると同時に、電力システム改革が、日本経済における成長戦略としての効果を最大限に発揮するためにも、市場における担い手としてのエネルギー産業を、国際的にも競争力のあるものとしていくことが必要不可欠です。
このため、電気事業制度に係る制度設計を始め、電力分野の産業競争力強化に向けた幅広い政策課題を検討する場として、2015年10月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の下に電力基本政策小委員会を開催し、2016年10月より、電力・ガス基本政策小委員会に検討の場を移しています。ここでは例えば、前述の料金規制の経過措置について2017年10月から議論が開始され、2018年度中には、規制下にある料金メニューそれぞれの用途や契約状況が確認され、また、それらに関する新電力や需要家へのヒアリング・アンケート結果等を踏まえた議論が行われたほか、燃料費調整制度や最終保障供給制度のあり方等、多岐にわたる議論が行われました。その他にも、「電気事業法(昭和39年法律第170号)」に基づき、2020年度の発送電分離を前にした検証が開始され、2018年9月から計7回にわたり、小売全面自由化後の競争の状況や広域機関の活動状況のほか、電力各社のシステム対応状況等について議論を実施しました。2019年6月に送配電部門の法的分離に向けた電気事業を取り巻く状況についての検証結果が取りまとめられ、2020年4月に送配電部門の法的分離が行われました。
このように、電力システム改革の制度設計については、総合資源エネルギー調査会や電力・ガス取引監視等委員会において検討してきたところであり、引き続き、適切な場において検討を進めます。
(2)登録小売電気事業者数について
2023年3月末時点で、721者を小売電気事業者として登録しています。
この小売電気事業登録は、法令に則り、資源エネルギー庁が、最大需要電力に応ずるために必要な供給能力を確保できる見込みがあるか、電力・ガス取引監視等委員会が、電気の使用者の利益の保護のための措置が講じられているかといった観点から、それぞれ審査を行っています。
登録された小売電力事業者の内訳は、もともと高圧の小売電気事業を行っていた新電力事業者(PPS)に加え、LPガス及び都市ガス関係や、石油関係、通信・放送・鉄道関係等の事業者等、非常に多岐にわたります。従来の料金体系とは異なる段階別料金や既存事業とのセット割、時間帯に応じて料金差を付ける時間帯別料金等の新たなメニューの提供が見られます。また、異業種の事業者間の連携や、地域の枠を超えた事業統合等も始まっており、事業者の事業機会の拡大も進んでいます。
なお、電力取引報によると、2022年12月時点で電力市場全体としては、販売電力量ベースの新電力のシェアが、約18.3%となっています。
(3)料金メニューの多様化
新電力の提供する料金メニューを見ると、全体的な傾向としては、基本料金と従量料金の二部料金制からなる、既存の料金メニューに準じた料金設定が多く見られます。他方で一部では、完全従量料金メニューや定額料金メニュー、指定された時間帯における節電状況に応じた割引メニュー、セットプラン等、新しい料金メニューも提供されるようになっています。
また、再エネ等の電源構成や地産地消型の電気であることを訴求ポイントとして、顧客の獲得を試みる小売電気事業者の参入も見られ、中には、需要家が発電所を選んで、得票数の多かった発電所に報奨金を与えることができるといった、特色のある小売電気事業者も存在しています。さらに、電力消費の見える化(電気の使用状況の可視化)や、電気の使用状況等の情報を利用した家庭の見守りサービス等も提供され始めています。応援するスポーツチームとのつながりや里山の景観保存等、需要家の好みや価値観に訴求するサービスも始まっています。
加えて、需要家側の取組として、電力コスト削減の観点から、同種の事業者間における電気の共同調達や、地域を問わない事業グループ全体としての一括調達の動きも出始めています。
4.電力市場における適正な取引確保のための厳正な監視等
(1)小売取引の監視等
①各種相談への対応
電力・ガス取引監視等委員会は、相談窓口を設置し、電気・ガスの需要家等から寄せられた相談に対応し、質問への回答やアドバイス等を行いました。2022年4月〜2023年3月における相談件数は5,860件でした。本相談において、不適切な営業活動等に係る情報があった場合には、事実関係を確認し、必要な場合には小売電気事業者に対する指導等を行いました(第361-4-1)。
【第361-4-1】相談窓口への相談件数(電気及びガス)の推移と相談事例(ppt/pptx形式:151KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
また、独立行政法人国民生活センター及び消費者庁と共同で、電気・ガスの相談事例の紹介及びアドバイスについてプレスリリース(2022年7月)を行う等、消費者に対し情報提供を行いました。
②小売電気事業者に対する指導
●小売電気事業者A社へ行った指導(2022年4月)
A社は、5件の小売供給契約について、需要家の承諾を得ずに契約先を自社に切り替えました。当該行為は、電力の適正な取引の確保の観点から問題であることから、電力・ガス取引監視等委員会は、A社に対し、電力の適正な取引の確保を図るため、所要の改善措置を速やかに実施するように指導を行いました。
③小売市場重点モニタリング
電力・ガス取引監視等委員会は、一定の価格水準を下回る小売契約について、競争者からの申告や公共入札の状況を踏まえ、取引条件等を含む実態を重点的に把握する「小売市場重点モニタリング」を2019年9月から開始し、その調査結果を年2回程度の頻度で公表することとしました。
(ア)背景
2017年〜2018年頃、複数の新規参入事業者より、一部地域の旧一般電気事業者が、電気購入先の新規参入事業者への切替(以下「スイッチング」という。)をしようとしている顧客や、公共入札を行う顧客等の特定の顧客に対してのみ、対価が非常に低い小売供給を提案している(当該対価は、水力や原子力等の可変費が非常に安い電源を利用しつつ、固定費は限定的に上乗せすることで可能となっている)という具体的な営業事例について、電力・ガス取引監視等委員会への相談がありました。旧一般電気事業者によるこのような行為は、一般的に、新規参入事業者の事業を困難とし、市場からの退出に至らせる等、将来の競争を減殺し、電気事業の健全な発達に支障を及ぼすおそれがあるため、第28回及び第32回制度設計専門会合(2018年3月、7月)において対応方針を検討しました。その結果、「電力の小売営業に関する指針」を改定し、スイッチングの期間中における取戻し営業行為を問題となる行為に位置づけました。また、スイッチングプロセス以外における差別的な対価提供に関する規制のあり方については、競争状況を引き続きモニタリングし、必要に応じてさらなる検討を行うこととされました。
その後、電気の経過措置料金に関する専門会合の取りまとめ(2019年4月23日)において、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の1つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、当該内部補助を受けた小売部門が廉売等の行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持又は強化するおそれがあることが指摘されました。加えて、このような不当な内部補助を防止するためには、社内外取引の無差別性を実効性のある形で確保することが最も有力で現実的な手段であること、また、不当な内部補助が行われているかどうかを確認するに当たっては、廉売等の行為によって小売市場における競争の歪曲の有無を判断するため、具体的な小売価格についてモニタリングを行い、これらの状況を適切に把握する必要があることも指摘されました。
これらの指摘を踏まえ、第38回及び第40回制度設計専門会合(2019年5月、7月)において小売市場重点モニタリングの実施方法等を検討し、その内容を踏まえ、2019年9月から本取組を開始しました(第361-4-2)。
【第361-4-2】小売市場重点モニタリングの概要(ppt/pptx形式:228KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
(イ)調査結果
2022年1月から同年6月に供給を開始した小売契約分について、調査の結果、法令上問題となるような事例(可変費を下回るような価格設定)は認められなかった旨を第78回制度設計専門会合(2022年10月25日開催)において報告し、その調査結果を公表しました。
④小売規制料金に係る審査・監査・事後監視
(ア)規制料金の値上げに対する審査
2016年4月に電力の小売全面自由化を実施した際、家庭用等の低圧の小売料金については、経過措置として、みなし小売電気事業者(旧一般電気事業者10社)に規制料金(経過措置料金)を存続させることとされました。
みなし小売電気事業者が規制料金を値上げしようとするときは経済産業大臣の認可が必要であり、2022年11月に東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の5社から認可申請が行われました。その上で、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に対して、同申請に係る意見聴取があり、同委員会の料金制度専門会合において審議が行われているところです(2023年3月現在)。さらに2023年1月、北海道電力、東京電力エナジーパートナーからも規制料金の値上げの認可申請が行われ、同様に料金制度専門会合で審議が行われています(2023年3月現在)。
(イ)みなし小売電気事業者に関する監査
電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法等の一部を改正する法律(平成27年法律第47号)附則第21条の規定に基づき、経過措置料金規制の対象であるみなし小売電気事業者(10社)に対して監査を実施しました。
2021年度において実施した監査の結果、同附則第25条の6に基づくみなし小売電気事業者に対する勧告並びに同附則第25条の7に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、1事業者に所要の指導を行いました。
(ウ)経過措置が講じられている電気の小売規制料金に係る原価算定期間終了後の事後評価
電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則の経過措置が講じられている電気の小売規制料金については、原価算定期間終了後に毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないか等を経済産業省において確認し、その結果を公表することとなっています。
2023年2月、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣からの意見聴取を受けて、料金制度専門会合において、原価算定期間を終了しているみなし小売電気事業者10社のうち、規制料金の値上げ認可申請中の7社を除いた3社(中部電力ミライズ、関西電力及び九州電力)について、電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等(20160325資第12号)第2(6)⑤に基づく評価及び確認を行い、2023年3月に、以下のとおり取りまとめました(第361-4-3)。
【第361-4-3】料金制度専門会合取りまとめ(審査基準の適用結果)(ppt/pptx形式:1,222KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
これを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対し、経過措置が講じられている電気の小売規制料金の値下げ認可申請の必要があると認められる事業者はいなかった旨を回答しました。
⑤小売電気事業者に関する今後の対応について(リスクチェック等)
電力・ガス取引監視等委員会は、小売電気事業者の撤退等が増加している中、需要家の保護や社会的負担の抑制を図るため、2022年7月以降、制度設計専門会合において、小売電気事業の①事業開始時、②事業開始後、③事業撤退時の3段階について、事業運営の状況に関するセルフチェック・定期報告の仕組み(リスクチェック)や、事業撤退時の適切な周知期間のあり方等を検討し、必要な対応を取りまとめました。
これを受け、電力・ガス取引監視等委員会は、2022年12月、以下の事項に係る所要の制度的措置を図るよう、経済産業大臣に建議しました。
1.小売電気事業の開始時に関する事項
- (1)関係法令等において、法第2条の2に定める小売電気事業の登録の申請に際して、その申請者に対し、①小売電気事業に係る「事業上のリスク要因の分析」や「当該リスク要因への対策の検討」等(以下「リスク分析等」という。)に関する様式の提出を求めることや、②リスク分析等を踏まえた3年間の事業計画の提出を求めること等を規定すること。さらに、登録に当たっては、リスク分析等が適切に行われていること等を確認する旨を規定すること。
2.小売電気事業の開始後に関する事項
- (1)「電力の小売営業に関する指針」において、小売電気事業者が、自身の財務状況等に関する情報について、可能な範囲で、ホームページやパンフレット、チラシ等を通じて需要家に分かりやすく情報提供することが「望ましい行為」である旨を規定すること。さらに、虚偽又は誤解を招く方法で、当該情報を提供することは、「問題となる行為」である旨を規定すること。
3.小売電気事業の撤退時に関する事項
- (1)関係法令等において、小売電気事業者が、その意思によって事業の全部を休止し、又は廃止しようとする場合(以下「全部休廃止時」という。)に求められる需要家への周知について、①30日以上(例えば60日)の周知期間を設ける必要があることや、②特に、より長い周知期間を確保する必要がある可能性が高いケース(特別高圧や高圧の契約を解除する場合等)は、90日以上の周知期間を設ける必要があること等を規定すること。さらに、当該周知に当たって、①需要家が周知内容を確実に認識するような方法を用いる必要があることや、②需要家が容易に認識できるよう、見やすい文字・体裁で記述する必要があること等を規定すること。
- (2)関係法令等において、小売電気事業者が、その意思によって事業の一部を休止し、又は廃止しようとする場合(以下「一部休廃止時」という。)であって、電気の使用者の利益を阻害すると考えられる場合には、法第2条の8第3項に準じて、(1)に記載した周知期間の確保や適切な周知等が必要となる旨を規定すること。
- (3)「電力の小売営業に関する指針」において、託送料金等の未払い等に伴い、①小売電気事業者が、一般送配電事業者等から託送供給契約を解除される可能性を認識した場合であって、かつ、②当該契約解除を回避するための措置を講じることができる見込みが無いと小売電気事業者が自ら判断した場合について、小売電気事業者が需要家に速やかに周知しないことは、「問題となる行為」である旨を規定すること。さらに、当該周知に当たって、全部休廃止時及び一部休廃止時と同様、①需要家が周知内容を確実に認識するような方法を用いる必要があることや、②需要家が容易に認識できるよう、見やすい文字・体裁で記述する必要があること等を規定すること。
- (4)「電力の小売営業に関する指針」において、小売電気事業の休止・廃止や、料金の改定等、需要家からの苦情・問合せが増加すると見込まれる場合は、必要に応じて、苦情・問合せの処理体制を適時に見直すこと等が適切であり、こうした対応を怠ることが「問題となる行為」である旨を規定すること。
- (5)「電力の小売営業に関する指針」において、需要家側から小売電気事業者に対し、小売供給契約の解約や、それに関連する問合せ等を行う際に、WEBやメールなど、複数の方法が利用可能となるよう、小売電気事業者が体制の整備を行うことが「望ましい行為」である旨を規定すること。
(2)電力等の卸取引の監視
①スポット市場の監視
2020年12月から2021年1月にかけて発生したスポット市場の価格高騰については、制度設計専門会合における分析・検討の結果を踏まえた議論の上、2021年4月28日に、「2020年度冬期スポット市場価格の高騰について」を公表しました(2021年6月14日改訂)。この検証結果を踏まえ、2021年6月29日以降、電力スポット市場におけるコマ毎のシステムプライス、エリアプライス、時間前市場におけるコマ毎平均価格のいずれかが30円以上となった場合には、旧一般電気事業者及びJERAに対して、入札可能量を全量市場供出していることを示すデータの提供を求めており、その確認結果を速やかに電力・ガス取引監視等委員会のホームページにおいて公開しています。
また、電力・ガス取引監視等委員会では、卸電力取引所における入札において不公正な取引が行われていないか、日々監視を行っています。このような日々の監視を通して、スポット市場において複数件の誤入札があったことを確認しています。このような誤入札に至った各事業者に対し、事実関係の調査を実施したところ、いずれの事業者にも市場相場を変動させる意図は確認されませんでした。なお、今後も同様の入札行動が繰り返される場合には厳重な措置がありうる旨を指摘し、再発防止策の徹底を求めるとともに、プレスリリース等による市場参加者への注意喚起を行いました。特に、余剰全量供出が未達となった事業者のうち数社に対しては、実際に約定価格が大きく変動した可能性等を考慮して、各社に対し再発防止を徹底するよう、文書による業務改善指導を実施しました。
また、このような監視を通して、適時に公表が求められている情報を保有していたにもかかわらず、これを公表せずに、スポット市場で関連する取引を行っていた事業者がいたことが判明したため、当該事業者に対しては、出力低下に関する情報を公表することなく、燃料消費を抑制することを目的とした、高値での買い入札を行わないよう、業務改善勧告を実施しました。
2021年2月より、日本卸電力取引所においてスポット市場のシステムプライスの入札カーブが公開されていましたが、2022年6月7日より、新たに分断エリア別のスポット市場の入札カーブが月別・受渡日別にコマ毎に公開されることになり、エリアプライスの入札カーブも確認することが可能となりました。さらに、当該入札カーブは、2023年2月20日の同取引所ホームページ更新により、約定点付近の入札状況をより詳細に確認することが可能となっています。
②ベースロード市場の監視
ベースロード市場は、日本卸電力取引所に開設された市場です。電力自由化により新規参入した小売電気事業者が、一般電気事業者であった小売電気事業者と同様の環境でベースロード電源を利用できる環境を実現することで、小売電気事業者間のベースロード電源へのアクセス環境のイコールフッティングを図り、小売競争を活性化させるため、2019年度に創設されました。
「ベースロード市場ガイドライン(以下、本項目において「ガイドライン」という。)」では、ベースロード市場の目的を踏まえ、各区域における旧一般電気事業者等の「大規模発電事業者」は、ベースロード電源の発電平均コストを基本とした価格を上限(以下「供出上限価格」という。)として、資源エネルギー庁が算定した量(以下「供出量」という。ただし、大規模発電事業者のベースロード市場への参加が任意の開催回(4回目オークション)の場合はその限りではない。)を当市場に供出することが適当とされています。また、大規模発電事業者の小売部門のベースロード電源に係る調達価格が供出価格を不当に下回っている場合には、ベースロード市場の目的が達成されないおそれがあります。
こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会では、(1)ベースロード市場の受渡年度の前年度において、適切な量及び価格が供出されているかという観点から、2022年度に実施されたベースロード市場のオークション(2023年度受渡分:7月、9月、11月、1月の計4回)に関する取引内容について監視を行い、その結果を以下のように公表しました。また、(2)ベースロード市場の受渡年度の翌年度において、発電コスト及び発電量に関する想定と実績の乖離が合理的であったかという観点から、2021年度に受渡が行われた2020年度ベースロード市場について事後的な監視を行い、その結果を以下のように公表しました。
(1)-1 受渡年度(2023年度)の前年度における供出量の監視結果
2022年7月に開催された第1回オークションでは、大規模発電事業者のうち1社については、誤って適格相対契約量を供出量から二重控除した結果、供出量を満たしていなかったため、当該事業者に対して注意喚起を行いました。以降のオークションにおいては、いずれの事業者もベースロード市場ガイドラインで定める電力量を満たしていることを確認しました。
(1)-2 受渡年度(2023年度)の前年度における供出上限価格の監視結果
2022年7月に開催された第1回オークションでは、大規模発電事業者のうち1社については、供出上限価格の計算にあたり、誤った数値で燃料費の算定が行われていたため、当該事業者に対して注意喚起を行いました。2022年9月に開催された第2回オークションでは、ベースロード市場における供出上限価格の計算にあたり、東日本エリアの大規模発電事業者のうち1社については、燃料費単価の見積り方法を前回オークションから変更したことで供出価格が上昇していましたが、変更の適時性に関する客観的かつ合理的な説明が確認されなかったため、当該事業者に対して次回以降のオークションでの是正を求めました。その他の大規模発電事業者の供出上限価格について、ガイドラインに沿わない方法で設定している事例は確認されませんでした。一方で、燃料費の算定に関しては、価格変動リスクを非常に大きく見積り、供出上限価格ひいては供出価格が非常に高くなっている事例が確認されたため、実質的な売り惜しみにつながる可能性があることや、内外無差別性の確認が困難であること等の様々な課題が認識され、制度の見直しを検討することとしました。
第79回制度設計専門会合(2022年11月)、第80回制度設計専門会合(2022年12月)及び第82回制度設計専門会合(2023年2月)にわたり制度の見直しを検討し、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会(以下「制度検討作業部会」という。)における検討を求めました。
(2)受渡年度(2021年度)の翌年度における監視の結果、
一部の大規模発電事業者では想定時の発電コストの中に算定の誤りが発生していたことを確認したため、当該事業者に対して注意喚起を行いました。なお、当該算定誤りが供出上限価格に与える影響は僅少であり、約定結果に影響を与えるものではありませんでした。
③容量市場の監視
容量市場は、発電事業者の投資回収の予見性を高め、再エネの主力電源化を実現するために必要な調整力の確保や、中長期的な供給力不足に対処することを目的として創設された市場です。容量市場のオークションにおいては、市場支配力を有する事業者が、正当な理由なく、稼働が決定している電源を応札しないこと(以下「売り惜しみ」という。)又は電源を維持するために容量市場から回収が必要な金額を不当に上回る価格で応札すること(以下「価格つり上げ」という。)によって、本来形成される約定価格よりも高い約定価格が形成される場合には、小売電気事業者が支払うべき容量拠出金の額が増加し、ひいては電気の使用者の利益を阻害するおそれがあります。
こうした観点から、電力・ガス取引監視等委員会には、「容量市場における入札ガイドライン」(以下、本項目において「ガイドライン」という。)に基づき、市場支配力を有する事業者による売り惜しみや価格つり上げの監視が期待されています。2020年7月の初回オークションにおける約定価格高騰を踏まえ、2021年度メインオークション以降、より一層監視を厳格にするべく、応札の受付期間終了後に行う事後監視に加え、応札の受付期間開始前に事前監視を行うこととされました。2022年度メインオークション(2022年11月実施)においては、以下のとおり、問題となる行為がなかったかどうかの観点から、事前・事後ともに監視を行いました。
- 売り惜しみ:ガイドラインに基づき、売り惜しみの可能性があると判断された電源について、そのリスト及び理由の説明を求めるとともにその裏付けとなる根拠資料の提出を求め、その合理性を確認。
- 価格つり上げ:ガイドラインに基づき、監視対象となった電源について、ガイドラインに沿った適切な価格で応札されているか確認すべく、応札価格を構成する人件費や修繕費等のコスト算定方法及び算定根拠の説明を求め、事実関係を確認。
その結果、本来形成される約定価格よりも高い約定価格が形成されるおそれのある応札価格の算定誤りを確認し、再発防止策の確実な実施等の措置を講じるよう指導しました。
また、実需給の1年度前に開催判断が行われる追加オークションに向けた監視のあり方についても制度検討作業部会において議論され、ガイドラインへの反映が行われました。
④非化石価値取引市場の監視
非化石価値取引市場は、再エネ価値に対する需要家ニーズの増大を踏まえ、2021年度より目的等別に「再エネ価値取引市場」と「高度化法1義務達成市場」に分離されることとなりました。市場の分離に当たって行われた非化石価値取引市場の制度見直しに伴い、小売電気事業者が高度化法目標を達成するために購入できる証書は、高度化法義務達成市場で扱われる非FIT非化石証書に限定されることとなりました。非FIT非化石証書の由来となる電源は主に原子力や大型水力であり、売り手の大宗が旧一般電気事業者となることから、その入札行動が価格形成に強い影響を及ぼすことに対する懸念が制度検討作業部会で指摘されました。
こうした背景を踏まえ、当該取引における公平性や価格形成の透明性確保を図る観点から、制度検討作業部会の第5次中間取りまとめ(2021年8月26日)に基づき、旧一般電気事業者及び電源開発を対象とし、電力・ガス取引監視等委員会が非FIT非化石証書の取引について、監視を行うこととなりました。具体的には、非化石価値取引市場の各回オークション(8月、11月、2月、5月の計4回)ごとに、売り惜しみ及び価格つり上げの観点から、問題となる行為がなかったかどうかの監視を行うこととなっています。また、第4回(5月)の取引終了後に、以下の3つの価格水準を相対的に比較し、乖離が認められる場合は、不当な価格設定の観点から合理的説明を求める((イ)及び(ウ)については、乖離の有無によらず、内部補助の観点から、原則、社内取引価格の考え方を聴取する)ことになっています。
(ア)各回の入札価格と相対契約(外部取引分)の価格水準
(イ)各回の入札価格と相対契約(内部取引分)の価格水準
(ウ)相対取引間(外部取引分及び内部取引分)の価格水準
これまでに実施した監視では、2021年度第1回オークション(2021年8月)において、東北電力が一切の売入札を行っておらず、それに対して合理的な説明が得られなかったことから、同社に対して注意喚起を行うとともに、売り惜しみの監視を通じて確認された問題となる事例として、事業者名と当該行為の内容を公表しています。
(3)発電・小売間の不当な内部補助の防止策
電気の経過措置料金に関する専門会合の取りまとめにおいて、電気の小売規制料金の経過措置を解除するか否かを判断するに当たっての考慮要素の1つとして、「競争環境の持続性」が挙げられ、卸市場において市場支配力を有する事業者が社内の小売部門に対して不当な内部補助を行い、当該内部補助を受けた小売部門が廉売等の行為を行うことによって、小売市場における競争を歪曲し、結果として、小売市場における地位を維持又は強化するおそれについて指摘がありました。また、制度検討作業部会の第2次中間取りまとめ(2019年7月24日)に係る議論では、非FIT非化石価値取引市場に関し、旧一般電気事業者がその非化石証書収入分について発電部門から小売部門に不当に内部補助を行うことによって、小売市場における競争が歪曲する懸念について指摘がありました。さらに、容量市場の導入に当たっては、容量拠出金により収入を得る事業者(旧一般電気事業者以外も含まれうる)の発電部門から小売部門への内部補助について、同様の議論が生じることも想定されます。
これらの指摘等を踏まえ、旧一般電気事業者が電力の卸売において、社外・グループ外の小売電気事業者と比して、自社の小売部門にのみ有利な条件で卸売を行うこと等により、旧一般電気事業者の小売部門による不当な廉売行為等、小売市場における適正な競争を歪曲する行為が生じること(不当な内部補助)への懸念があることから、電力・ガス取引監視等委員会は、2020年7月、旧一般電気事業者各社に対して、社内外の取引条件を合理的に判断し、内外無差別に卸売を行うこと等のコミットメントを要請し、各社よりコミットメントを行う旨の回答を受領しました。
コミットメントについての各社の取組状況を確認するため、社内外・グループ内外の取引単価や個別の条件についてデータの提出及び説明を受ける形式で、第62回制度設計専門会合(2021年6月)及び第67回制度設計専門会合(2021年11月)においてフォローアップの結果を報告しました。両制度設計専門会合においては、体制面では小売部門から独立した部門が相対卸取引を行っていることが確認されました。また、価格面では社内・グループ内の取引価格が、社外・グループ外取引価格の平均水準よりも不当に低い事例は確認されませんでした。一方、交渉機会が必ずしも内外無差別に確保されていない点や、オプション価値が明確化されておらず、オプション性のある商品が必ずしも内外無差別に供されていない点、卸取引の窓口について発電部門と利害関係が必ずしも一致しているかわからない点が課題として指摘されました。
これらの指摘を踏まえ、第71回制度設計専門会合(2022年3月24日開催)において、旧一般電気事業者の内外無差別な卸売の実効性を高めるとともに、取組状況を外部から確認することを可能にするため、遅くとも2023年度当初からの通年契約に向けて、①交渉スケジュールの明示・内外無差別な交渉の実施、②卸標準メニュー(ひな型)の作成・公表、③発電・小売間の情報遮断、社内取引の文書化のさらなる徹底等の取組を求めることとしました。
その後、第75回制度設計専門会合(2022年7月26日開催)において、旧一般電気事業者各社のコミットメントの履行状況(2022年度受渡分)及び2023年度交渉に向けた上記3つの取組状況を確認し、結果を報告しました。2022年度受渡分に関しては、新たに確認された各社の内外無差別な取組の進捗として、体制面ではカンパニー制を導入した事業者が存在することを確認しました。交渉スケジュールに関しては、社内・グループ内取引の協議より社外・グループ外取引の協議が遅い事例を確認しました。オプション価値に関しては、計6社が社内外・グループ内外で同等の最終通告期限を設定し、計4社が社内外・グループ内外で同等の通告変更量のアローアンスを設定したことを確認しました。一方、2023年度交渉に向けた取組状況に関しては、③情報遮断については以前からの取組も含めて一定の進展があったものの、①交渉スケジュール、②卸標準メニューについては検討中の事業者が多く、取組の明示・公表をした事業者はいませんでした。
以上の結果を踏まえ、第79回制度設計専門会合(2022年11月25日開催)において、旧一般電気事業者各社の2023年度交渉に向けた取組状況を中心に確認し、結果を報告しました。①交渉スケジュールに関しては、7社がホームページにて公表したことを確認しました。②卸標準メニューについては、10社がホームページにて公表したことを確認しました。③情報遮断に関しては、発電・小売が一体の旧一般電気事業者全8社で情報遮断に関する社内規程が整備されていることを確認しました。このように、2023年度向けの卸交渉について、多くの事業者が内外無差別な卸売の実効性確保に向けて新たな取組を開始している点は大きな前進であり、また、自社小売も参加する形の入札制やブローカー制を採用した事業者も存在しており、透明性の観点から一定の評価ができると整理しました。一方で、検討中の事業者や、既に取組を開始しているものの交渉スケジュールや卸標準メニューの具体的条件を公表していない事業者も存在しており、そうした事業者に対しては事後的な確認をより詳細に行うこととしました。
また、第56回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会(2022年11月24日開催)においては、内外無差別性の確認されたエリアから順次、常時バックアップを廃止するとされました。さらに、旧一般電気事業者各社の現時点における内外無差別性を評価するに当たり、フォローアップに先立って、各社への確認項目と評価基準を検討し、第83回制度設計専門会合(2023年3月27日開催)において、その評価方針について審議が行われました。
今後は、2023年度の通年の相対契約の内外無差別性について、前述の評価方針を基に確認・評価し、2023年半ば頃の制度設計専門会合で審議が行われる予定です。また、引き続き旧一般電気事業者各社のコミットメントの実施状況について定期的なフォローアップを行い、必要な対応を検討していきます。
(4)容量市場の創設・運用
かつての総括原価方式の枠組みの下では、発電投資は規制料金を通じて安定的に回収されていました。総括原価方式と規制料金の枠組みによる投資回収の枠組みがない中では、原則として、発電投資は市場取引を通じて、あるいは市場価格を指標とした相対取引の中で投資回収される仕組みに移行していくと考えられます。このため、固定価格買取制度(FIT制度)の対象となる再エネ電源を除けば、大部分の電源に係る投資回収の予見性は、従来の総括原価方式下の状況と比較して、低下すると考えられます。
また、固定価格買取制度等を通じて再エネ電源が拡大することになれば、従来型電源の稼働率が低下するとともに、再エネ電源が市場に投入される時間帯においては市場価格が低下するため、全電源にとって売電収入が低下すると考えられます。その結果、電源の将来収入見通しの不確実性が高まり、事業者の適切なタイミングにおける発電投資意欲をさらに減退させる可能性があります。
今後、仮に電源投資が適切なタイミングで行われなかった場合、電源の新設やリプレース等が十分に実施されない状態で、既存発電所が閉鎖されていくこととなります。そのような場合には、中長期的に供給力不足の問題が顕在化し、さらに電源開発には一定のリードタイムを要することから、需給ひっ迫期間中の電気料金の高止まりや、再エネをさらに導入した際に需給調整手段として必要な調整電源を確保できない等の問題が生じると考えられます。
こうした状況を踏まえると、単に卸電力市場(kWh価値の取引市場)等に供給力の確保・調整機能を委ねるのではなく、一定の投資回収の予見性を確保する施策である容量メカニズムを追加で講じ、電源の新陳代謝が市場原理により適切に行われることを通じて、より効率的に中長期的に必要な供給力・調整力を確保できるようにすることが求められます。
貫徹小委の中間取りまとめ(2017年2月)においては、こうした観点から検討を進めた結果、一定量の供給力を確保することができる「容量市場」は、①あらかじめ必要な供給力を確実に確保することができること、②卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化により需要家にもメリットがもたらされること、③再エネ拡大等に伴う売電収入の低下は全電源に影響していること等を踏まえると、最も効率的に中長期的に必要な供給力等を確保するための手段であるとされました(第361-4-4)。
【第361-4-4】容量市場創設後の収入(ppt/pptx形式:155KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
制度検討作業部会においては、貫徹小委の中間取りまとめを受け、容量市場の詳細制度設計について、本作業部会におけるヒアリングや広域機関における検討も踏まえつつ検討を行いました。そして、2024年度における必要供給力を確保するため、2020年7月に初回メインオークションが実施されました。その約定結果の検証を踏まえた上で、安定供給に必要な供給力を確実に確保しつつ、適切な価格形成が行われ、2050年カーボンニュートラル宣言に整合的となるように制度を見直しました。
またその後、2021年10月に実施された第2回メインオークションの検証結果も踏まえた制度見直しを行い、2022年11月には第3回メインオークションが実施されました。
(5)非化石価値取引市場の創設
高度化法により、小売電気事業者は、自ら調達する電気の非化石電源比率を2030年度に44%以上にすることが求められています。
しかし、卸電力取引所では、非化石電源と化石電源の区別がされないため、非化石電源の持つ価値が埋没し、非化石電源比率を高める手段として活用ができません。その結果、取引所取引の割合が比較的高い新規参入者にとっては、非化石電源を調達する手段が限定される状況になっており、高度化法の目標達成が困難な面があります。
このような状況を踏まえ、新たな市場である非化石価値取引市場を創設することによって非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、需要家にとっての選択肢の拡大にもつながるとされました。またFIT電気に由来する非化石証書(FIT非化石証書)の売上については、FIT賦課金の低減に充てることとされ、これにより、FIT制度による国民負担の軽減を促すこととされました。
FIT非化石証書の取引については、2018年5月に初回オークションを、また、FIT電気以外の再エネ等の電気に由来する非化石証書(非FIT非化石証書)の取引についても、2020年11月に初回オークションを開始し、四半期に一度の頻度でオークションを実施しています。これにより、非化石価値を有する電気については、全量証書化されることとなりました。
なお、本市場の創設に当たっては、上記の制度趣旨を踏まえ、非化石価値を顕在化し、その価値に適切な評価を与えることができるよう、以下のとおり、非化石証書の有する環境価値と、需要家にとっての選択肢拡大という非化石証書の主な役割について基本的な考え方を整理しました(第361-4-5)。
【第361-4-5】市場創設効果(イメージ)(ppt/pptx形式:384KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
①非化石証書の有する環境価値
電気の持つ環境価値としてはいくつかの概念が考えられますが、非化石価値(高度化法上の非化石比率算定時に非化石電源として計上できる価値)以外に、ゼロエミ価値(CO2排出係数が0kg-CO2/kWhであることの価値)や、環境表示価値(小売電気事業者が需要家に対しその付加価値を表示・主張する権利)が主なものとして挙げられます。
非化石証書の購入者は販売する電気に非化石証書を使用することで、こうした価値を需要家に訴求することができます。「電力の小売営業に関する指針」において、電源構成表示に関しては、実際に受電した電源の構成を表示するとの整理がなされており、非化石証書を使用しても電源構成は変わらない点に留意が必要ですが、同指針において、再エネ由来の証書に関しては、電源種に応じて「再エネ100%」又は「実質再エネ100%」といった環境価値を表示することは許容することとしています。
②需要家の選択肢の拡大
証書を購入した小売電気事業者は、環境価値を電気とともに需要家に販売することが可能となります。非化石証書には、再エネの電気に由来する再エネ指定の非化石証書と、再エネ以外の非化石電源の電気に由来する指定無し証書の2種類が存在します。例えば、再エネの推進に貢献したいと考える需要家は、数ある料金メニューから、こうした小売電気事業者が提供する再エネ指定の非化石証書を活用した環境価値付きのメニューを選択することで、実際に再エネの推進に貢献することが可能となります。また、2021年にはRE100等の再エネ電気への需要家ニーズの高まりに対応するため、需要家の直接購入を可能とし、価格を大幅に引き下げることで、グローバルに通用する形でFIT証書を取引できる再エネ価値取引市場を創設しました。
なお、2019年2月のオークションからは、非化石証書に発電所情報等を付与(トラッキング)した証書を調達できるよう、実証実験を開始し、2022年8月のオークションから、日本卸電力取引所において証書に対する当該トラッキングの本格的な運用を開始しています。
5.送配電分野に関する取組
(1)送配電事業の監視
①一般送配電事業者等に対する監査
電力・ガス取引監視等委員会は、電気事業法第105条の規定に基づき、一般送配電事業者及び送電事業者(以下「一般送配電事業者等」という。)13社(ライセンス数)の、2020事業年度の業務及び経理について監査を行いました。
2020年12月28日に電気事業託送供給等収支計算規則等が改正され、不適切な発注・契約による支出増については、託送料金に係る超過利潤の計算において費用として扱ってはならないことが明確にされました。2021年度監査においては、この省令改正を受け、「託送供給等収支」の監査において、超過利潤計算書上、超過契約額(委任又は請負の契約に係る手続について正当な理由なく透明性又は公平性が確保されていない場合であって、当該契約について合理的な金額を超えて支出した場合におけるその超えた部分の額をいう。)の有無及び調査方法を重点的に確認しました。また2020年4月より、沖縄電力を除き各社とも一般送配電事業及び送電事業を分社化するとともに、行為規制に基づく体制整備等を行うこととされました。また、親会社等が一般送配電事業者等に差別的取扱いを要求すること等が禁止されたことにより、これらが適切に実施されているか等について、「託送供給等に伴う禁止行為・体制整備等」を重点的に確認しました。さらに、2020年度において、託送料金に係る誤算定、工事費負担金の長期未精算等の事案が発生し、原因究明、再発防止策等を各社が実施しているところ、再発防止の観点から、再発防止策の実施状況等について、「約款の運用等」を重点的に確認しました。
2021年度において実施した監査の結果、8事業者において9件の指摘事項がありました。これらについては、電気事業法第66条の12の規定に基づく一般送配電事業者等に対する勧告及び電気事業法第66条の13の規定に基づく経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、所要の指導を行いました。
②送配電事業者の業務実施状況の監視
電力・ガス取引監視等委員会は、必要に応じて電気事業法に基づく報告徴収を行い、送配電事業者の業務実施状況を把握・分析するとともに、問題となる行為等が見られた場合にはその是正や再発防止を図るよう指導しています。
2022年4月1日〜2023年3月31日までの期間においては、再エネの低圧発電者に係る発電電力量の算定誤り及び誤通知等についての再発防止策を、着実に実施するよう指導したといった事案がありました。なお、送配電事業者の業務実施状況において、業務改善勧告に至るような事案はありませんでした。
(2)一般送配電事業者の収支状況(託送収支)の事後評価等
日本の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネの進展等により電力需要が伸び悩む傾向にあった一方で、再エネの導入拡大による系統連系ニーズの高まりや、これまで経済成長に応じて整備されてきた送配電設備の高経年化への対応が増大する等、大きく変化しつつあります。
こうした事業環境の変化に対応しつつ、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけ費用を抑制していくとともに、再エネの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められています。
以上のような問題意識の下、料金制度専門会合において、一般送配電事業者の2021年度収支状況の事後評価及び追加的な分析・評価を実施しました。
この結果を踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣に対し、託送供給等約款の変更認可申請を命じることが必要となる事業者はいなかった旨を回答しました。
〈料金制度専門会合の取りまとめ内容〉
①はじめに
我が国の電力系統を取り巻く事業環境は、人口減少や省エネルギーの進展等により電力需要が伸び悩む傾向にある一方で、再生可能エネルギーの導入拡大による系統連系ニーズや経済成長に応じて整備されてきた送配電設備の高経年化への対応が増大するなど、大きく変化しつつある。
こうした事業環境の変化に対応しつつ、将来の託送料金を最大限抑制するため、一般送配電事業者においては、経営効率化等の取組によりできるだけ費用を抑制していくとともに、再生可能エネルギーの導入拡大や将来の安定供給等に備えるべく、計画的かつ効率的に設備投資を行っていくことが求められる。
以上のような問題意識の下、電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合は、託送料金の低廉化と質の高い電力安定供給の両立を促進すべく、経済産業大臣からの意見聴取を踏まえ、一般送配電事業者の2021年度の収支状況の事後評価等を実施した。
②2021年度の収支状況の事後評価等の結果概要
(ア)法令に基づく事後評価
2021年度の当期超過利潤累積額(又は当期欠損累積額)について、変更認可申請命令(値下げ命令)の発動基準となる一定の水準を超過した事業者はいなかった(ストック管理)。また、想定単価と実績単価の乖離率について、変更認可申請命令の発動基準となる一定の比率を超過した事業者はいなかった(フロー管理)。東京電力PGについては、2017年度収支から、廃炉等負担金を踏まえて厳格な基準が適用されることとなったが、当該基準に達していなかった。
(イ)追加的な分析・評価
(ⅰ)収支全体について
収入面については、節電・省エネ等の影響により電力需要が想定需要量を下回ったため、東北、北陸、沖縄を除く7社において、実績収入が想定原価(=想定収入)を下回った。特に、関西は5%以上下回った。
費用面については、中部、北陸、九州、沖縄の4社において、実績費用が想定原価(=想定費用)を上回った。特に、沖縄は、給料手当や減価償却費等の増加により、想定費用を約14%上回った。
全体的な傾向としては、実績収入が想定収入を下回る中で、費用のうち、設備関連費は抑制されているものの、人件費・委託費等が想定を上回っている。この結果、2021年度の託送収支においては、北海道、中部、関西、九州、沖縄の5社で当期超過利潤額がマイナス(当期欠損)となり、また、当期超過利潤累積額は、東京、九州を除く8社でマイナス(当期欠損累積)となった。
(ⅱ)人件費・委託費等について
人件費・委託費等には、給料手当、システム開発・運用に係る委託費等が含まれる。
2021年度は、北海道、東京を除く8社で実績費用が想定費用を上回り、このうち、関西、九州の2社については、検針業務の法人委託化や分社化に伴う業務の外注化による委託費の増加等により、また、沖縄については、経費対象人員増加を受けた給料手当の増加等により、想定費用を20%以上上回った。
人件費・委託費等については、原価算定時からの状況変化を踏まえると大幅な引き下げは難しいと考えられるが、そうした状況においても引き続き効率化を追求していくべきである。
(ⅲ)設備関連費について
設備関連費には、修繕費、減価償却費、固定資産除却費等が含まれる。
2021年度は、沖縄を除く9社で実績費用が想定費用を下回り、このうち、北海道、東京、関西、中国、九州の5社については、主に競争的発注方法の拡大や工事効率化等による減価償却費や修繕費の減少等により想定費用を10%以上下回った。また、東北、北陸、関西、九州の4社においては、減価償却方法を定率法から定額法に変更したことによる減価償却費の減少も一定程度寄与していた。
各社においては、引き続き、資材調達の合理化や点検周期の延伸化の取組等によるコスト削減に取り組みつつも、費用削減のみを目的として、再生可能エネルギーの導入拡大やレジリエンス、安定供給等に必要となる設備投資が繰り延べられるようなことがあってはならない。
④おわりに
今回の事後評価等の結果を踏まえ、①一般送配電事業者においては、電力需要が伸び悩む傾向の中でも、再生可能エネルギーの拡大や安定供給の確保など、将来に向けた投資をしっかり行うと同時に、更なるコスト削減を促進することが重要となる。また、②資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会においては、一般送配電事業者における必要な投資の確保とコスト効率化を両立させ、再生可能エネルギー主力電源化やレジリエンス強化等を図ることができるよう、本年4月より導入されるレベニューキャップ制度について、規制期間中のモニタリングや制度の適切な見直し等を実施していく。
(3)調整力の調達・運用状況の監視及びより効率的な確保等に関する検討
①調整力公募の結果の確認
一般送配電事業者による調整力の公募調達は、発電事業者等の競争の結果として、コスト効率的な調整力の調達や電力市場全体としての調整力の増大を実現するための仕組みです。しかしながら、現状、調整力として提供可能な旧一般電気事業者以外が保有する電源等が多く存在しているとはいい難く、このような状況を改善し、競争を促進していくためには、公募調達が透明性をもって行われるとともに、潜在的な応札者に対して適切な情報提供を行うことで、発電事業者等の入札参加への円滑化と拡大を図ることが必要です。
このため、電力・ガス取引監視等委員会は、調整力公募調達結果を分析し、旧一般電気事業者の入札行動に問題となる点がないか、また、一般送配電事業者による調整力の運用が、容量(kW)価格や電力量(kWh)価格に基づき適切に運用されているかについて監視を行いました。
②2021年度冬季及び2022年度夏季・冬季の需給対策(追加供給力(kW)・電力量(kWh)公募)の運用の事後確認等について
2021年度冬季及び2022年度夏季・冬季の需給対策として、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会にて実施が決定された、追加供給力(kW)公募及び追加電力量(kWh)公募について、調達・運用結果の適切性の事後確認、今後の検討課題の提示及び調達・精算時の論点整理等を行いました。
③需給調整市場の創設・運用
一般送配電事業者が電力供給区域の周波数制御、需給バランス調整を行うために必要な調整力を調達するに当たっては、特定電源への優遇や過大なコスト負担を回避しつつ、実運用に必要な量の調整力を確保することが重要となります。
このような観点から、一般送配電事業者による調整力の公募が2016年から実施されており、ディマンドリスポンス(DR)等の調整力も調達されるようになっています(第361-5-1)。
【第361-5-1】需給調整市場の概要(ppt/pptx形式:104KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
貫徹小委中間取りまとめにおいては、今後、公募結果を踏まえつつ、需給調整市場の詳細設計を行い、一般送配電事業者が調整力を市場で調達・取引できる環境を整備することが適当であるとされました。また、電力システム改革専門委員会報告書においても、系統運用者が供給力を市場からの調達や入札等で確保した上で、その価格に基づきリアルタイムでの需給調整・周波数調整に利用するメカニズムを送配電部門の一層の中立化に伴い導入することが適当である、と記載されています。
諸外国においても、需給調整市場を開設し、調整力を市場の仕組みを活用して前週や直前に調達しています。同時に、欧米においては需給調整の広域化にも取り組んでおり、例えば欧州は卸電力市場の広域統合から需給調整市場の広域統合へと、ルール・プラットフォームの整備を進めています。
日本においても、再エネの導入が進む中で、調整力を効率的に確保していくことは重要な課題です。調整力公募は一部の調整力を除き、各エリアの一般送配電事業者がエリア内の調整力のみを調達していますが、効率的に調整力を調達するためには、エリアを超えて広域的に調整力を確保することも課題となっています。他方で、各一般送配電事業者のシステムは、現状において、広域的な調整力の市場調達やその運用を前提として構築されておらず、こうしたシステムの改修や実運用の変更を、日々の需給調整に支障を生じさせない形で行うためには、ルール検討やシステム構築を慎重に行っていく必要があります。
現在、制度検討作業部会や広域機関の委員会において、需給調整市場の詳細設計が進められ、2021年4月からは再エネの予測誤差に対応する調整力(三次調整力②)について、2022年4月からは実需給断面から1時間に生じる誤差に対応する調整力の一部(三次調整力①)について、市場取引を開始しています。2024年度には調整力の公募が終了し、市場取引に移行する予定です。また各一般送配電事業者のシステム改修に向けた検討や調整力の広域運用に向けた準備も並行して進められています。
需給調整市場の監視及び価格規律のあり方の検討
需給調整市場における競争が十分でない場合、市場支配力を有する事業者が市場支配力を行使し、不当に高い入札価格等を設定することにより、不当な利益を得るといったことが起こりえます。こうしたことを踏まえ、電力・ガス取引監視等委員会では、2022年10月から11月にわたり、制度設計専門会合において、三次調整力②の約定価格の上昇に関する分析結果等について議論・検討を行い、整理を行いました。電力・ガス取引監視等委員会における入札価格等の分析結果や議論・検討状況を踏まえ、合理的な入札行動を明確化し、電力価格の適正化を図るため、需給調整市場ガイドラインの改定を行いました。
(4)インバランス料金制度の運用状況の監視
計画値同時同量制度において、小売電気事業者と発電事業者は、1日を48コマに分割した30分単位のコマごとにそれぞれ需要と発電の計画を策定することとなっています。これらの計画と実績のずれ(インバランス)については、一般送配電事業者が発電事業者等から公募により調達した電源等を用いて調整を行うことになりますが、その費用については、小売電気事業者と発電事業者からインバランス料金として回収しています。このように、インバランス料金は実需給における電気の過不足の精算価格となっていますが、同時に卸電力取引における価格シグナルのベースにもなっています。
このため、電力・ガス取引監視等委員会では、インバランス料金の動きを監視し、合理的でない可能性がある場合には、その原因等を分析しました。
(5)新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度・発電側課金)の詳細設計・運用
①レベニューキャップ制度の詳細設計・新たな託送料金の審査
第201回国会において、エネルギー供給強靱化法が成立し、新たな託送料金制度であるレベニューキャップ制度が2023年度より導入されることとなりました。これは、収入上限を定期的に承認し、その範囲内で託送料金を設定する、というものです。
新たな託送料金制度の詳細設計については、託送料金審査や事後評価を通じて専門的な知見を有する電力・ガス取引監視等委員会が積極的に関与していくことが必要であるとの観点から、第5回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会持続可能な電力システム構築小委員会(2020年7月)において、電力・ガス取引監視等委員会と資源エネルギー庁が連携して行うものとされました。それを踏まえ、料金制度専門会合において2020年7月より託送料金制度の詳細設計の議論を開始し、さらに、2021年1月に料金制度専門会合の下に「料金制度ワーキング・グループ」を設置し、託送料金制度におけるより詳細な論点について効率的に検討を行い、2021年11月に中間取りまとめを行いました。その後も、継続議論とされた論点や制度に係る指針案について料金制度専門会合において議論を行いました。
2022年7月、「一般送配電事業者による託送供給等に係る収入の見通しに関する省令」が公布されたことを踏まえ、一般送配電事業者各社から資源エネルギー庁に対して、レベニューキャップ制度に係る収入の見通しの関連書類が提出されました。電力・ガス取引監視等委員会は、資源エネルギー庁から任意の意見聴取を受け、関連書類について必要な検証を開始し、第14〜27回料金制度専門会合(2022年7〜11月)で計14回の議論を行いました。
一般送配電事業者は、その議論の結果及び「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」等が施行されたことを踏まえ、改めて適切な収入の見通しを算定し、2022年12月に経済産業大臣宛てに収入の見通しの承認申請を行いました。承認申請の内容について、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に意見の求めがあったことから、第29回料金制度専門会合(2022年12月)において厳格な審査を実施し、経済産業大臣に回答した結果を踏まえ、2022年12月に経済産業大臣により収入の見通しの承認がなされました。
その後、一般送配電事業者は、承認された収入の見通しを踏まえて託送供給等約款を定め、2022年12月に経済産業大臣宛てに託送供給等約款の認可申請を行いました。認可申請の内容について、経済産業大臣から電力・ガス取引監視等委員会に意見の求めがあったことから、第31〜32回料金制度専門会合(2023年1月)において厳格な審査を実施し、経済産業大臣に回答した結果を踏まえ、2023年1月に経済産業大臣により託送供給等約款の認可がなされました。
②発電側課金の検討
発電側課金は、系統を効率的に利用するとともに、再エネの導入拡大に向けた系統増強を効率的かつ確実に行うため、現在、小売事業者が全て負担している送配電設備の維持・拡充に必要な費用について、需要家とともに系統利用者である発電事業者にも一部の負担を求め、より公平な費用負担とするものとして、2015年秋以降、電力・ガス取引監視等委員会に設置した制度設計専門会合及び送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループで議論を進め、2018年6月に制度の骨子を取りまとめ、経済産業大臣に対して建議を行いました。
その後、発電側課金はレベニューキャップ制度の導入にあわせ、2023年度からの導入を目指し、詳細設計を進めていましたが、2020年7月に経済産業大臣から、再エネの効率的な導入を促進するため、基幹送電線利用ルールの抜本的な見直しを行う方針が示されたことを踏まえ、発電側課金についても、それと整合的な仕組みとなるよう、見直しについて指示を受けました。これを受け、電力・ガス取引監視等委員会は、第53回制度設計専門会合(2020年12月)において、発電側課金の見直しに関する検討を開始し、事業者団体からのヒアリングを始め、丁寧に議論を進めながら、基幹送電線利用ルールの見直しと整合的な仕組みとなるよう、①課金方法の見直し(kWh課金の一部導入)、②割引制度の拡充等について検討を行ってきました。
その後、2023年度からの制度導入に向け、引き続き検討を進めてきたところ、2050年カーボンニュートラルの宣言や2030年度の温室効果ガス46%削減目標等により、エネルギーを取り巻く情勢が大きく変化したことを受け、2021年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画において、発電側課金については、その円滑な導入に向けて、「導入の要否を含めて引き続き検討を進める」こととされました。
こうした状況の変化を踏まえ、2021年12月に行われた第38回大量導入小委員会において、再エネ電源に対する発電側課金のあり方やその負担調整のあり方、さらには送配電関連費用の安定的かつ確実な回収に向けて、再エネ賦課金や新たな託送料金制度を通じた費用回収のあるべき姿について、改めて整理する必要があるとして、発電側課金の2023年度の導入の見送りを決定し、2024年度を念頭に、できる限り早期の実現に向けて、発電側課金も含めた送配電関連の費用回収のあり方に関する議論を関係審議会等で進め、2022年中を目途に結論を得ることとされました。
こうした状況を踏まえ、発電側課金の円滑な導入に向けて検討を進め、第47回大量導入小委員会(2022年12月)において、既認定FIT/FIP(発電側課金の導入年度の前年度の入札で落札した場合を含む)については調達期間等が終了してから発電側課金の対象とすること、新規FIT/FIPについては調達価格等の算定において考慮すること、非FIT/卒FITについては事業者の創意工夫(相対契約等)の促進及び円滑な転嫁の徹底を行うこととしたほか、揚水発電や蓄電池のkWh課金については、揚水発電・蓄電池を経由した際の発電側課金の負担に鑑み、他の電源との公平性の観点から免除することとされました。また、2023年2月の総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会の「今後の電力政策の方向性について中間とりまとめ」において、発電側課金を2024年度に導入する方針が決定されました。
この方針を踏まえ、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会において、導入に向けた詳細設計等の検討を進めていきます。
(6)自由化の下での財務会計面での課題解決に向けた取組
2016年4月の電力小売全面自由化以降、総括原価方式による料金規制の撤廃に伴い、電気事業の財務・会計上の特性にも変化が生じました。このため、電力分野の自由化を進めるに当たっては、これら制度変更に伴う課題として、一般の事業においては問題とならないような、例えば、制度変更により事後的に費用が増大する場合の対応費用をどのように回収するかが課題となりえます。このため、財務・会計制度や負担のあり方について、具体的な措置の検討・審議を行うため、貫徹小委の下に「財務会計ワーキンググループ」を開催し、小売全面自由化の下での原子力事故に係る賠償への備えに関する負担や廃炉に係る会計制度のあり方に関する議論を行い、2017年2月に結果を取りまとめました。
この取りまとめで示された方向性を踏まえ、財務会計面での課題解決に向け、2017年10月、2018年4月に制度改正を実施しました。
①原子力事故に係る賠償への備えに関する負担のあり方
東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原子力事故に係る賠償への備えとして、従前から存在していた「原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)」に加えて、新たに「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成23年法律第94号)」が制定されました。現在、同法に基づき、原子力事業者が毎年一定額の一般負担金を、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に納付しています。
原子力損害の賠償に関する法律の趣旨に鑑みれば、本来、こうした万一の際の賠償への備えは、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきでしたが、政府は何ら制度的な措置を講じておらず、事業者がそうした費用を料金原価に算入することもありませんでした。従来、総括原価方式の下で営まれてきた電気事業においては、一般の事業と異なり、将来的な費用増大リスクを見込んだ自由な価格設定を行うことはできず、料金の算定時点で合理的に見積もられた費用以外を料金原価に算入することは認められていませんでした。これは、規制料金の下では、全ての需要家から均等に費用を回収することとなるため、同じ電気を利用した需要家間では不公平は生じないということを前提として、その電気を利用した時点で現に要した費用(合理的に見積もられた費用)のみ料金原価への算入を認める、という考え方に基づいています。
しかし、2016年4月に電力小売事業が全面自由化され、新電力への契約切替により、一般負担金を負担しない需要家が増加することとなりました。そうした中、賠償への備えを小売料金のみで回収するとした場合、過去に安価な電気を等しく利用してきたにもかかわらず、原子力事業者から契約を切り替えた需要家は負担せず、引き続き原子力事業者から電気の供給を受ける需要家のみが全てを負担していくことになります。
こうした需要家間の格差を解消し、公平性を確保するためには、これまで全需要家が等しく受益していた賠償への備えについて、全ての需要家が公平に負担することが適当であり、また、そうした措置を講ずることが、福島の復興にも資するものとの考えに立ち、負担のあり方について、貫徹小委で検討を進めました。その結果、回収する金額の規模は、現行の一般負担金の算定方法を前提とすることが適当と考えられ、現在の一般負担金の水準をベースに、1kW当たりの単価を算定した上で、これを前提に、2010年度までの日本の原子力発電所の毎年度の設備容量等を用いて算出した金額から、回収が始まる前の2019年度末時点までに納付した又は納付することになると見込まれる一般負担金の合計額を控除した約2.4兆円としました(第361-5-2)。
【第361-5-2】全ての需要家から公平に回収する賠償への備えのイメージ(ppt/pptx形式:105KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
回収方法については、電源構成に占める原子力の割合が供給区域ごとに異なる一方で、賠償への備えの負担は、過去の原子力の電気の利用に応じて行うべきものであることや、現状、一般負担金は小売規制料金に含まれ、供給区域ごとに異なる水準となっていること等を踏まえると、賠償への備えを国民全体で負担するに当たっては、特定の供給区域内の全ての需要家に一律に負担を求める託送料金の仕組みを利用することが適当と考えられました。
こうした検討を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所事故以前から確保されておくべきであった賠償への備えを託送料金で回収する仕組みを可能とする制度改正(電気事業法施行規則の改正)を、2017年9月に実施し、2020年4月1日に施行しました。
なお、留意点として、本来、発電部門の原価として回収されるべき賠償への備えについて、託送料金の仕組みを通じて広く全需要家に負担を求めるに当たっては、その額の妥当性を担保する措置を講ずるとともに、個々の需要家が自らの負担を明確に認識できるよう、指針等を通じ、小売電気事業者に対し、需要家の負担の内容を料金明細票等に明記する措置を講じることとされました。また、原子力に関する費用について、託送料金の仕組みを通じた回収を認めることは、結果として、原子力事業者に対し、他の事業者に比べて相対的な負担の減少をもたらすこととなります。そのため、競争上の公平性を確保する観点から、原子力事業者に対しては、例えば、原子力発電から得られる電気の一定量を小売電気事業者が広く調達できるようにする等、一定の制度的措置を講じることとしています。
②福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保のあり方
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に必要な資金については、東京電力が負担することが原則であり、東京電力にグループ全体で総力を挙げて捻出させる必要があるとの考え方の下、「国民負担増とならない形で廃炉に係る資金を東京電力に確保させる制度」について、2016年10月に、東電委員会から国に対して検討要請がなされました。
この要請を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の円滑かつ着実な実施を担保するため、長期間にわたり必要となる巨額の資金の管理を担保する制度として、事故炉の廃炉を行う原子力事業者(事故事業者)に対し、廃炉に必要な資金を機構に積み立てることを義務付ける等の措置を講じることを内容とする、廃炉等積立金制度を2017年10月より開始し、その後、2018年4月及び2019年4月に政府は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から申請のあった廃炉等積立金を認可しました。
また、発電・送配電・小売に分社化されている東京電力において、グループ全体で総力を挙げて捻出する資金が自由化の下でも確実に廃炉に充てられるための制度として、東京電力パワーグリッド(送配電部門)が、親会社である東京電力ホールディングスに対して支払う東京電力福島第一原子力発電所の廃炉費用相当分について、超過利潤と扱われないよう、費用側に整理して取り扱われるようにするとともに、乖離率の計算に際して実績単価の費用の内数として扱われるようにする制度的措置を2018年3月に実施しました。なお、この措置を講ずるに当たっては、東京電力パワーグリッドの託送料金の値下げ機会が不当に損なわれないよう、東京電力パワーグリッド自体の超過利潤・乖離率の代わりに、他の一般送配電事業者の効率化達成状況によって値下げ命令の要否を判断するとともに、東京電力グループ全体の中で東京電力パワーグリッドの負担が過大なものとならないよう、例えば収益性や資産状況を参考に、グループ各社との負担の程度を比較し、著しく不適当な分担となっていないかどうかを確認する措置についても、あわせて講じています。
③廃炉に関する会計制度の扱い
(ア)廃炉会計制度について
従前の電気事業会計制度の下では、廃炉に伴う資産の残存簿価の減損等により、一時に巨額の費用が生じることで、事業者が合理的な意思決定をできず廃炉判断を躊躇する、事業者の廃炉の円滑な実施に支障をきたす、との懸念がありました。このため、2013年と2015年に、設備の残存簿価等を廃炉後も分割して償却(負担総額は変わらないが、負担水準を平準化)する会計制度が措置されました。こうした制度整備を受けて、2015年に5基、2016年に1基の原子炉について、廃炉決定が行われています。
廃炉会計制度は、計上した資産の償却費が廃炉後も着実に回収される料金上の仕組みがあわせて措置されることを前提としており、現在は小売規制料金により費用回収することが認められています。したがって、現在経過的に措置されている小売規制料金が、将来的に撤廃されることを見据えた場合、今後もこの制度を継続するには、着実な費用回収を担保する措置を講ずることが不可欠です。この点について、2015年3月の総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループの報告書「原発依存度低減に向けて廃炉を円滑に進めるための会計関連制度について」においては、競争が進展した環境下においても制度を継続させるためには、「着実な費用回収を担保する仕組み」として、総括原価方式の料金規制が残る送配電部門の託送料金の仕組みを利用することとされました。
制度創設の経緯・趣旨を踏まえれば、廃炉会計制度は、原発依存度低減というエネルギー政策の基本方針に沿って措置されたものとして、本制度を継続することが適当であるとされました。本制度を継続するために必要となる着実な費用回収の仕組みについては、小売規制料金が将来的に撤廃されることから、自由化の下でも規制料金として残る託送料金の仕組みを利用することが妥当と考えられます。
こうした検討を踏まえ、廃炉を行う際の設備の残存簿価等について、引き続き小売料金での償却等を認め、2020年4月以降に託送料金での回収を可能とする制度改正(電気事業会計規則等の改正)を2017年10月に実施しました。なお、発電・送配電・小売の各事業が峻別された自由化の環境下で、発電に係る費用の回収に託送料金の仕組みを利用することは、原発依存度低減や廃炉の円滑な実施等のエネルギー政策の目的を達成するために講ずる例外的な措置と位置づけられるべきと考えられます。
(イ)原子力発電施設解体引当金について
原子炉の運転期間中に廃炉に必要な費用を着実に積み立てるため、原子力事業者には、毎年度、原子力発電所1基ごとの廃止措置に要する総見積額を算定し、経済産業大臣の承認を得た上で、各原子炉の発電実績に応じて原子力発電施設解体引当金(以下「解体引当金」という。)として積み立てることが義務付けられています。解体引当金は、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の長期にわたる稼働停止が続き、従来の生産高比例法では引当が進まないといった課題が生じたことから、2013年に、引当方法を定額法に変更し、また、引当期間を運転期間40年に廃炉後の安全貯蔵期間10年を加えた原則50年に変更する制度改正が行われ、今後、競争が進展した環境下でも本制度を継続し、廃炉後の安全貯蔵期間中も引当を継続させるためには、廃炉会計制度と同様、費用回収が着実に行われる仕組みが必要となっています。
その引当期間については、事業者が負担するという原則に立てば、着実な費用回収が前提となる安全貯蔵期間に入る前、すなわち、廃炉前に引当を完了していることが、廃炉を円滑に実施する観点からより適切な制度のあり方であり、原則50年としている引当期間を原則40年に短縮することとしました。
引当期間の見直しを行った場合、2013年の制度改正以降に廃炉を決定し、解体引当金の残額を10年間に分割した引当を現在行っているものや、今後早期廃炉するものについては、解体引当金の未引当分を一括して引き当てる必要が生じます。しかし、制度の事後的な変更によって、事業者の財務に影響を与えることは適当でないことに加え、こうした費用の発生が早期廃炉を志向する事業者の判断を歪めてしまうようなこととなれば、廃炉会計制度の趣旨にも反することになります。そのため、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや、今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とすることで、一括して発生する費用を分割して計上する仕組みとすることとしました。
解体引当金の基礎となる原発の解体に必要な費用は、1985年及び1999年の総合資源エネルギー調査会原子力部会において示された算定式に基づき、毎年度、物価変動や廃棄物量の変動を加味し、炉ごとに総額(総見積額)を算定しています。この算定式は、原子力部会において技術的な検討を行った結果として導き出されたものであり、その前提に大きな変更はないことから、現時点で合理的に見積もることできる費用が不足なく含まれているものと評価できます。一方で、この算定式は、モデルとなるプラントの廃炉工程を前提としたものであるため、今後、個々のプラントにおいて廃止措置を実施していく過程等で、例えば、多数の炉が設置されている原子力発電所では、設備の共有等による効率化等により、総見積額の見直しが必要となりえます。こうしたことを踏まえ、自由化の下でも廃炉に必要な費用があらかじめ確実に確保されるよう、個別の炉・発電所ごとに固有の事情(規制変更等により算定式の前提を大幅に変更する必要がある場合を除く)が生じた場合に、当該事象を速やかに総見積額に反映させることが可能な仕組みを導入することが必要と考えられます。ただし、総見積額の妥当性を確保するため、これまでと同様に、総見積額を経済産業大臣が承認する仕組みとすることとしました。
これらの検討を踏まえ、引当期間を原則40年することに加えて、2013年の制度改正以降に廃炉決定したものや今後早期廃炉するものに限り、廃炉に伴い一括して計上することが必要となる費用を廃炉会計制度の対象とする等の制度改正(解体引当金省令の改正)を、2018年4月に実施しました。
6.その他の動き
(1)一般送配電事業者による非公開情報の漏えい事案について
電力・ガス取引監視等委員会は、2022年12月以降、一般送配電事業者各社の託送情報の情報管理状況等について調査を行い、関西電力送配電、東北電力ネットワーク、九州電力送配電、四国電力送配電、中部電力パワーグリッド、中国電力ネットワーク、沖縄電力の計7社から、電気事業法第22条の3において規定する特定関係事業者であるみなし小売電気事業者(以下「関係小売電気事業者」という。)の従業員等が、関係小売電気事業者以外の小売電気事業者と契約する需要者に関する情報(以下「新電力顧客情報」という。)を閲覧していたとの報告を受けました。
電力・ガス取引監視等委員会は、2022年12月23日に、関西電力送配電から新電力顧客情報の漏えいの事実について報告を受けてから、全ての一般送配電事業者及び関係小売電気事業者に対して同様の事案についての調査依頼を行うとともに、各社からの報告内容に応じて、電気事業法第114条第1項の規定により委任された電気事業法第106条第3項の規定の権限に基づく報告徴収、電気事業法第114条第1項の規定により委任された電気事業法第107条第2項の規定の権限に基づく立入検査を実施しました。また、一般の方からの情報提供を受け付ける情報提供受付フォームを2023年2月3日に設置するとともに、経済産業局における関係者の事情聴取、広域機関へのスイッチング支援システムのアクセスログの提供依頼等を行い、電力・ガス取引監視等委員会としての必要な対応を行うための事案の解明作業を行ってきました。
資源エネルギー庁としても、2023年2月10日に、一般送配電事業者の中立性や信頼性の確保及び事業の健全性確保の観点から、全ての一般送配電事業者に対して、法令等遵守体制や、適正な競争環境の確保の観点からの取組の一層の強化等を求める緊急指示を行いました。
電力・ガス取引監視等委員会は、本事案について調査を進め、同年3月31日に、電気事業法第66条の13第1項の規定に基づき、関西電力送配電、関西電力、九州電力送配電、九州電力及び中国電力ネットワークの計5社に対し、業務改善命令を行うことを、経済産業大臣に勧告しました。これを受け、同年4月17日に、経済産業大臣から、これら5社に対し、電気事業法第2条の17第1項又は電気事業法第27条第1項の規定に基づき、①託送情報に係る情報システムの共用状態の速やかな解消、②行為規制遵守に係る内部統制の抜本的強化、③事案の発生原因の調査・公表や関係者の厳正な処分の実施等を命じる、業務改善命令を発出しました。また同日、電力・ガス取引監視等委員会は、業務改善命令の対象となる5社と同様の取組を行うよう、東北電力ネットワーク、東北電力、中部電力パワーグリッド、中部電力ミライズ、中国電力及び四国電力の計6社に対し電気事業法第66条の12第1項の規定に基づく業務改善勧告を、四国電力送配電及び沖縄電力の計2社に対し業務改善指導を行いました。また、今般電気事業法上の不適切な行為が見られなかった北海道電力ネットワーク、北海道電力、東京電力パワーグリッド、東京電力エナジーパートナー、北陸電力送配電及び北陸電力の計6社についても、本事案が一般送配電事業者の中立性・公正性に疑念を生じさせる重大な事案であることを踏まえ、同種事案の発生を防止するために、不適切事象を発生させた事業者に求められる措置に準じた措置を講じることが重要であると考えられるため、要請を行いました。
経済産業省は、各社に対し再発防止、信頼回復に全力で取り組むよう強く求めるとともに、引き続き、電力各社が適切かつ公正な事業運営に取り組むよう、指導・監督してまいります。
(2)公正取引委員会による旧一般電気事業者等に対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について
2023年3月30日、公正取引委員会から、中部電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力及び九電みらいエナジーの計5社に対し、当該5社及び関西電力が独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行っていたものとして、同法の規定に基づき、排除措置命令及び課徴金納付命令が行われました。
これを受け、経済産業省は、同日、中部電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジー及び関西電力の計6社に対し、本事案が発生した原因と課題について、小売電気事業に係る法令等遵守の観点から組織の文化まで踏み込んだ検討を行った上でその結果を報告するとともに、全社的な法令等遵守を徹底するための実効的な取組を実施することを求める行政指導を行いました。
また、電力・ガス取引監視等委員会は、同日、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジー及び関西電力の計5社に対し、電気事業法第114条第2項の規定により委任された電気事業法第106条第3項の規定の権限に基づく報告徴収を実施しました。今後、各社からの報告結果等を踏まえ、厳正に対応してまいります。
- 1
- エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律