はじめに 3-10
多くの資源を海外に依存せざるを得ないという、日本が抱えるエネルギー需給構造上の脆弱性に対して、エネルギー政策が現在の技術や供給構造の延長線上にある限り、根本的な解決を見出すことは容易ではありません。
2050年カーボンニュートラルの実現は簡単なことではなく、日本の総力を挙げての取組が重要です。このため、カーボンニュートラルを目指す上で不可欠な分野について、2020年12月に、①年限を明確化した目標、②研究開発・実証、③規制改革や標準化等の制度整備、④国際連携等を盛り込んだグリーン成長戦略の実行計画を策定し、その実現に向けて、グリーンイノベーション基金事業等を活用しながら、革新的な技術の研究開発、社会実装に対する継続的な支援を推進する等、着実に取り組んできました。グリーン成長戦略については、2021年6月に具体化を行うとともに、同年11月以降、その着実な実行に向けて、グリーンイノベーション戦略推進会議においてフォローアップを実施しました。
グリーン成長戦略等のフォローアップも踏まえつつ、成長が期待される産業ごとの具体的な道筋、需要サイドのエネルギー転換、クリーンエネルギー中心の経済社会・産業構造の転換に向けた政策対応等について整理するため、クリーンエネルギー戦略について検討を進め、2022年5月、「クリーンエネルギー戦略 中間整理」を公表しました。当該中間整理では、第1章において、ウクライナ危機や電力需給ひっ迫の発生を踏まえ、エネルギー安全保障の確保に万全を期し、その上で脱炭素を加速させるための政策を整理しました。また第2章では、①脱炭素を経済の成長・発展につなげるための産業のグリーントランスフォーメーション(GX)、②産業界のエネルギー転換の具体的な道筋や取組、③地域・くらしの脱炭素化に向けた具体的取組を整理した上で、それらを踏まえ、④GXを実現するために必要となる政策等を整理しました。
「クリーンエネルギー戦略 中間整理」で示した、イノベーションの創出・社会実装の取組も踏まえつつ、グリーンイノベーション基金事業等を活用し、既存の技術開発領域における規模拡大や補完技術の開発を強化するほか、量子等の取組の必要性が高まっているものの、いまだ技術開発が進んでいない新領域での研究開発を進めるべく、実施中のプロジェクトにおける取組の追加を検討していきます。加えて、国内外における温室効果ガスの大幅削減に資する革新的又は非連続な技術の原石を発掘し、シーズの実装や事業化等に結びつけることを目指す先導研究を実施しています。
〈具体的な主要施策〉
1.生産に関する技術における施策
(1)再生可能エネルギーに関する技術における施策
①洋上風力発電等の導入拡大に向けた研究開発事業
(再掲 第3章第4節 参照)
②地熱発電技術研究開発事業
(再掲 第3章第4節 参照)
③太陽光発電の導入可能量拡大等に向けた技術開発事業
(再掲 第3章第4節 参照)
(2)原子力に関する技術における施策
①廃炉・汚染水・処理水対策事業【2021年度補正:125.2億円、2022年度補正:120億円】
「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(2019年12月27日廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議決定)に基づき、廃炉・汚染水・処理水対策を進めていく上で、技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要のある研究開発を支援するとともに、廃炉作業に必要な実証・研究を実施するため、モックアップ試験施設や放射性物質の分析・研究施設の整備・運用を進めました。
②原子力の安全性向上に資する技術開発事業
(再掲 第4章第3節 参照)
③高速炉サイクル技術の研究開発
(再掲 第4章第4節 参照)
④高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発【2022年度当初:16.1億円】
水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発を推進しています。日本原子力研究開発機構(JAEA)が所有する高温工学試験研究炉(HTTR)については、2020年6月に原子力規制委員会から新規制基準への適合性審査に係る設置変更許可を取得し、2021年7月に約10年半ぶりに運転を再開しました。その後、2022年1月には原子炉出力約30%(9MW)において、制御棒による原子炉出力操作を行うことなく、すべての冷却設備を停止し、冷却機能の喪失を模した「炉心冷却喪失試験」を世界で初めて実施し、高温ガス炉の固有の安全性を確認しました。また、熱利用技術の研究開発については、文部科学省と経済産業省の連携により、2030年までに高温熱を利用したカーボンフリー水素製造技術の確立に向けた要素技術開発等を推進しています。
さらに、2017年5月にJAEA及びポーランド国立原子力研究センター間で締結された「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」、及び2019年9月に同機関間で締結され2022年11月に改訂された「高温ガス炉技術分野における研究開発協力のための実施取決め」に基づき、高温ガス炉の設計、材料、安全評価等に関する協力を推進しています。
また、2022年9月にJAEAと英国国立原子力研究所(NNL)等が参加するチームが、英国の新型モジュール炉研究開発・実証プログラムの予備調査を行う実施事業者として採択され、英国との協力により高温ガス炉技術の実証を推進しています。
⑤ITER計画、BA活動等の核融合研究開発の推進【2021年度補正:9.8億円、2022年度当初:213.8億円】
核融合エネルギーは、エネルギー問題と環境問題の根本的な解決をもたらすとともに、エネルギー安全保障の確保に資する将来のエネルギー源として大いに期待されています。日本の核融合研究開発は、国際協力を効率的に活用しながら、量子科学技術研究開発機構、核融合科学研究所、大学等が、相互に連携・協力して推進しています。また、核融合の産業化によるエネルギーイノベーションの加速のため、2023年4月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定しました。
核融合実験炉ITERの建設と運転を行うITER計画は、核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性の確立を目指し、日本、EU(ユーラトム:欧州原子力共同体)、米国等の7極35か国によって進められており、日本は主要な機器の製作を担当しています。2022年12月末現在、運転開始までの建設活動は約78%進捗しています。また国内では、ITER計画を補完・支援するとともに、実験炉の次の段階である原型炉に必要な技術基盤の確立に向けた先進的研究開発を進める、幅広いアプローチ(BA:Broader Approach)活動を日欧協力により実施しています。核融合実験装置JT-60SAの初プラズマに向けて引き続き研究開発を推進するとともに、装置整備を本格化させています。
核融合分野における二国間協力では、米国、EU(ユーラトム:欧州原子力共同体)等との核融合研究協力の実施取決め等の下、研究交流を実施し、年に1回の会議を開催する等、情報共有・意見交換を行っています。また、多国間協力では、国際原子力機関(IAEA)や国際エネルギー機関(IEA)における各種国際会議へ参画するとともに、IEA実施取決めの下、積極的に研究協力や研究者の交流を実施しています。
(3)化石燃料・鉱物資源に関する技術における施策
①国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等委託費
(再掲 第1章第3節 参照)
②海洋鉱物資源開発に向けた資源量評価・生産技術等調査事業
(再掲 第1章第3節 参照)
2.流通に関する技術における施策
電気自動車用革新型蓄電池技術開発
(再掲 第2章第1節 参照)
3.消費に関する技術における施策
(1)産業部門に関する技術における施策
環境調和型製鉄プロセス技術開発
(再掲 第2章第1節 参照)
(2)運輸部門に関する技術における施策
輸送機器の抜本的な軽量化に資する新構造材料等の技術開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
(3)消費全般に関する技術における施策
①高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
②革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
③次世代X-nics半導体創生拠点形成事業
(再掲 第2章第1節 参照)
④革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業【2022年度当初:38.0億円】
高品質窒化ガリウム(GaN)基板を活用したGaNインバータの実用化を目指して、GaN種結晶、GaNウェハ、パワーデバイス、インバータ技術について一気通貫での開発・実証を行うとともに、レーザーやサーバー等に組み込まれている各種デバイスを、高品質GaN基板を用いることで高効率化し、徹底したエネルギー消費量の削減を実現するための技術開発及び実証を行いました。
⑤未来社会創造事業(大規模プロジェクト型)
(再掲 第2章第1節 参照)
⑥未来社会創造事業(「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域)
(再掲 第3章第4節 参照)
4.水素に関する技術における施策
(1)水素社会実現に向けた革新的燃料電池技術等の活用のための研究開発事業
(再掲 第8章第1節 参照)
(2)競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業
(再掲 第8章第1節 参照)
5.革新的な技術開発に対する継続的な支援を行う施策
(1)グリーンイノベーション基金事業【2020年度補正:2兆円、2022年度補正:3,000億円、2023年度当初:4,564億円】
2050年カーボンニュートラルの実現という目標は、従来の政府方針を大幅に前倒すものであり、並大抵の努力では実現できないため、エネルギー・産業部門の構造転換や、大胆な投資によるイノベーションといった現行の取組を大幅に加速させることが必要です。このため、2050年までに、新たな革新的技術が普及することを目指し、グリーン成長戦略の実行計画を策定している重点分野のうち、特に政策効果が大きく、社会実装までを見据えて長期間の取組が必要な領域にて、具体的な目標年限とターゲットへのコミットメントを示す企業等に対して、最長10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援します。
グリーンイノベーション基金事業では、産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会での審議を経て策定した基本的方針に基づき、①CO2削減効果や経済波及効果等のインパクト、②技術的困難度や実現可能性等の政策支援の必要性、③技術・産業分野の潜在的な市場成長性・国際競争力等の評価軸により想定プロジェクトを選定した上で、同部会の下に設置した分野別ワーキンググループにおいて各プロジェクトの内容等について審議を行い、プロジェクトを順次組成しています。
また、国際的な開発競争の活発化等を背景に、本基金事業での研究開発及び社会実装をより一層加速させるため、2022年度補正予算で3,000億円、2023年度当初予算で4,564億円の拡充を行いました。その一部を活用して、実施中のプロジェクトにおける取組の追加やプロジェクトの新規組成を進めています。以上の結果として、2022年度までには、19プロジェクトの公募を実施し、うち18プロジェクトの実施企業等を決定しました。
(2)革新的GX技術創出事業(GteX)【2022年度補正:496億円】
2050年カーボンニュートラル実現や将来の産業の成長に向けて、非連続なイノベーションをもたらす「革新的GX技術」の創出を目指し、日本のアカデミアが強みを持つ重要技術領域「蓄電池」「水素」「バイオものづくり」において、社会実装に向けて技術的成立性を高める研究開発スキームの導入等を行いながら、オールジャパンのチーム型研究開発を展開し、大学等の基盤研究開発と将来技術を支える人材育成を推進します。
革新的GX技術創出事業(GteX)では、科学技術・学術審議会傘下に設置した革新的GX技術開発小委員会における議論を踏まえ策定された事業の基本方針及び研究開発方針等に基づき、科学技術振興機構において、将来的に温室効果ガス削減・経済波及効果に対して量的貢献等が期待できるか、将来的な社会実装の担い手となる企業を見込めるか、挑戦的な研究開発内容であり、科学技術の飛躍的な発展を見込めるか等の観点で、各領域において研究課題を選定し、研究開発を実施します。