第4節 対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組
1.高レベル放射性廃棄物等の最終処分に向けた取組
(1)最終処分に向けた取組の見直し
高レベル放射性廃棄物等の最終処分について、日本では、原子力発電で使い終えた燃料を再処理してウランやプルトニウムを取り出し、再び燃料として使うことにしており、この過程で残った廃液をガラス固化したもの(ガラス固化体)及びあわせて発生するTRU廃棄物の一部を、人間の生活環境から長期間にわたり隔離するために、深い安定した岩盤中に処分する、すなわち地層処分することにしています(第344-1-1)。
【第344-1-1】高レベル放射性廃棄物の地層処分
【第344-1-1】高レベル放射性廃棄物の地層処分(ppt/pptx形式:264KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
2000年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成12年法律第117号)」(以下「最終処分法」という。)に基づいて、高レベル放射性廃棄物等の最終処分の実施主体であるNUMOが設立されるとともに、文献調査・概要調査・精密調査の段階的な調査が定められました。
2013年12月、最終処分関係閣僚会議を設置し、見直しの方向性を議論するとともに、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の放射性廃棄物ワーキンググループ及び地層処分技術ワーキンググループにおいて専門家による議論を重ね、2015年5月、最終処分法に基づく基本方針を改定(閣議決定)しました。自治体からの応募を待つといったこれまでの方式を改め、地層処分に関する国民の関心や理解を深めるため、科学的により適性が高いと考えられる地域を提示する等、国が前面に立って取り組むこととし、2020年11月、北海道寿都町及び神恵内村で文献調査が開始されました。その後、経済産業省を中心に、様々な取組を進めてきましたが、最終処分事業に関心を持つ地域はいまだに限定的であり、北海道内の2自治体以外に調査実施自治体は出てきていません。
こうした中、最終処分の実現に向け、政府を挙げて取組を進める旨の総理の発言を受け、2022年12月に、構成員を拡充して最終処分関係閣僚会議を開催し、2023年2月には、取組の強化策を、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」の改定案という形で取りまとめました。
(改定案のポイント)
- 国、NUMO、事業者で体制を強化し、全国のできるだけ多く、少なくとも100以上の自治体に最終処分事業に関心を持ってもらうよう掘り起こしに取り組むこと
- 関心や問題意識を有する自治体の首長等との協議の場を設置し、最終処分をはじめ原子力をめぐる課題と対応について、国と地域でともに議論・検討すること
- 従来の公募方式と市町村長への調査実施の申し入れに加え、手挙げを待つのではなく、自治体の調査受け入れの前段階から、地元の経済団体、議会等に対し、国から、様々なレベルで段階的に、理解活動の実施や調査の検討等を申し入れること
- 文献調査の受け入れ自治体や関心を持つ自治体に対して、政府一丸となった支援体制を構築すること
(2)科学的特性マップの公表
2017年に、国民理解・地域理解を深めるために、その具体的取組として、科学的特性マップが公表されました。科学的特性マップとは、地層処分に関する地域の科学的特性について、火山や活断層等に関する既存の全国データに基づき、一定の要件・基準に従って客観的に4色に色分けした全国地図です。科学的特性マップの公表は、最終処分の実現に向けた長い道のりの最初の一歩であり、また、科学的な情報を客観的に提供し、地層処分という処分方法の仕組みや日本の地下環境等に関する国民理解を深めていただくためのものであって、いずれの自治体にも処分場等の受け入れの判断をお願いするものではありません。引き続き、関係府省の連携の下、国民理解・地域理解を深めていくための取組を一層強化し、複数の地域に処分地選定調査を受け入れていただくことを目指しています。
(3)対話活動の取組と文献調査の開始
地層処分という処分方法の仕組みや日本の地下環境等に関する国民の皆さまの理解を深めていただくため、科学的特性マップを活用した全国各地での説明会の開催等、対話活動に取り組んでいます。新型コロナ禍を踏まえ、消毒、換気、人と人との距離を十分にとった席配置等、感染症の感染拡大防止対策を実施しながら、対話活動に取り組んでいます(第344-1-2)。
【第344-1-2】全国的な対話活動の様子
【第344-1-2】全国的な対話活動の様子(ppt/pptx形式:910KB)
- 資料:
- 原子力発電環境整備機構撮影
2019年に取りまとめた「複数地域での文献調査に向けた当面の取組方針」に沿って対話活動を進めていく中で、地層処分事業をより深く知りたいと考える、経済団体、大学・教育関係者、NPO等の関心のあるグループが、全国で約160団体(2022年12月末時点)に増え、勉強会や情報発信等の多様な取組が活発に行われてきています。
そして、2020年11月には北海道寿都町及び神恵内村で文献調査が開始されました。文献調査は、全国規模の文献やデータに加えて、より地域に即した地域固有の文献やデータを調査・分析して情報提供を行い、理解の促進を図るものであり、いわば対話活動の一環と考えています。2021年に両町村にそれぞれ設置された「対話の場」を始めとして、地層処分事業や文献調査の進捗状況等について、地域住民の皆さまと対話し、議論を積み重ねてきていただき、北海道幌延町の深地層研究センターや青森県六ヶ所村のサイクル関連施設への視察や、まちの将来に向けた勉強会等の活動も始まっています。
今後も引き続き、この事業やこの事業が地域に与える影響等について議論を深めていただけるよう、地域の声も踏まえて積極的に説明や情報提供を行っていきます。また、全国のできるだけ多くの地域で、最終処分事業に関心を持っていただき、文献調査を受け入れていただけるよう、引き続き取り組んでいきます(第344-1-3)。
【第344-1-3】最終処分法に基づく処分地選定プロセス
【第344-1-3】最終処分法に基づく処分地選定プロセス(ppt/pptx形式:256KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
(4)研究開発や国際連携の取組
①研究開発に関する取組
2018年3月に取りまとめ、2020年3月に改訂した「地層処分研究開発に関する全体計画」に基づき、処分場閉鎖後に坑道が水みちにならないように埋め戻す技術開発、地下の断層の分布や地下水の流れの状態を把握するための調査手法の開発、廃棄体の回収可能性を確保する技術開発、数十km地下のマグマの分布を把握するための技術開発等を継続しました。こうした研究開発や技術開発の進捗等を基に、有識者も交えた議論・検討の上で、2023年4月以降の全体計画について取りまとめました。
1999年に核燃料サイクル開発機構(現在の日本原子力研究開発機構(以下「JAEA」という。))が公表した「地層処分研究開発第2次取りまとめ」では、日本においても地層処分を事業化の段階に進めるための信頼性ある技術基盤が整備されたことが示されました。その後も引き続き、事業の技術的信頼性のさらなる向上を図るための技術開発を行ってきており、2018年11月にNUMOが、どのようにサイト選定の調査を進め、安全な処分場の設計・建設・操業を行い、閉鎖後の長期にわたる安全性を確保しようとしているのかについて、これまでに蓄積されてきた科学的知見や技術を統合して包括的に説明し、事業者の立場から技術的取組の最新状況を示すことを目的として、「包括的技術報告書(レビュー版)」を公表しました。その後、2019年12月に公表された日本原子力学会の「NUMO包括的技術報告書レビュー特別専門委員会」によるレビュー結果を受けて、NUMOは2021年2月に包括的技術報告書の改訂版を公表しました。さらに、2021年11月からは、同時期に公表された包括的技術報告書本編の英語版に対して経済協力開発機構原子力機関(以下「OECD/NEA」という。)による国際レビューが行われ、2023年1月にその結果が公表されました。
②国際連携に関する取組
最終処分の実現は、原子力を利用する全ての国の共通の課題であり、長い年月をかけて地層処分に取り組む各国政府との国際協力を強化することが重要です。このような観点から、2019年6月のG20軽井沢大臣会合において、世界の原子力主要国政府が参加する初めての「国際ラウンドテーブル」を立ち上げることについて合意しました。2019年10月と2020年2月には、「最終処分に関する政府間国際ラウンドテーブル」が開催され、最終処分に関連する政府の役割、国民理解活動、研究開発、各国が重視する考え方やベストプラクティス、国際協力を強化すべき分野等について、活発な議論が行われました(第344-1-4)。
【第344-1-4】第1回最終処分に関する政府間国際ラウンドテーブル
【第344-1-4】第1回最終処分に関する政府間国際ラウンドテーブル(ppt/pptx形式:236KB)
- 資料:
- 経済産業省撮影
国際ラウンドテーブルの報告書において掲げられた、国際協力を強化すべき分野の具体化に向けた議論をする場として、2022年11月に、国際ワークショップを幌延深地層研究センターで開催しました。このワークショップでは、各国の現状の情報交換に加え、地下研究所を活用した協力体制のあり方についてパネルディスカッション及びグループ討議を通じて議論しました。
こうした議論と並行して、JAEAは、OECD/NEAの協力を得て、幌延深地層研究センターを活用した国際共同プロジェクトの実施に向け、国内外の複数の機関とともに具体的な実施内容等について議論するための準備会合を開催し、2023年2月に協定書が発効されました。
(5)放射性廃棄物の処分に関する調査・研究【2022年度当初:39.4億円】
高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術の信頼性と安全性のより一層の向上を目指すため、岩盤の地下水の流れの調査手法、処分場を閉鎖するための技術、人工バリアの長期的な性能の評価について、深地層の研究施設等で実証しました。また、沿岸部を対象とした地質や地下水の調査手法、廃棄体を回収する技術の検討を継続しました。
さらに、TRU廃棄物の処分に資するため、核種の閉じ込め性能を担保した廃棄体パッケージの製作や、移動しやすい核種を閉じ込めるための材料開発を継続するとともに、使用済燃料を直接処分する際の処分容器の腐食挙動や、核種の溶出挙動の検討を継続しました。
原子力発電所の解体に伴い発生する低レベル放射性廃棄物の中深度処分に資する技術開発としては、地下にかかる圧力を三次元的に測定する手法の開発や、地震動の影響、処分場の設計概念の検討を継続しました。
2.核燃料サイクル政策の推進
エネルギー基本計画でも示されているとおり、日本は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針としています。核燃料サイクルに関する諸課題は、短期的に解決するものではなく、中長期的な対応を必要とします。また、技術の動向、エネルギー需給、国際情勢等の様々な不確実性に対応する必要があることから、対応の柔軟性を持たせることが重要です。
〈具体的な主要施策〉
(1)放射性廃棄物の減容化に向けたガラス固化技術の基盤研究事業【2022年度当初:10.0億円】
2024年度までに、MOX燃料を含む様々な種類の使用済燃料の再処理により発生する放射性廃液を、安定的かつ効率的にガラス固化する技術を確立することを目指し、ガラス原料の基礎特性の評価やガラス溶融炉のモニタリングの開発等を実施しました。さらに、使用済MOX燃料を安全・安定的に処理するため、施設の安全性向上や処理性能向上を図るための基盤技術の開発にも取り組んでいます。
(2)高速炉に係る共通基盤のための技術開発【2022年度当初:43.5億円】
高速炉等の共通課題に向けた基盤整備と安全性向上に関わる要素技術開発の拡充を中心に行うとともに、日米・日仏の高速炉協力も活用して、基盤整備の効率化等を図りました。
(3)高速炉サイクル技術の研究開発【2022年度当初:252.1億円】
高速炉サイクル技術の研究開発として、放射性廃棄物の減容化・有害度低減に資するため、マイナーアクチノイドの分離技術やマイナーアクチノイド含有燃料製造技術等の基盤的な研究開発に取り組みました。また、これまでの高速増殖原型炉もんじゅ(以下「もんじゅ」という。)の研究開発で得られた知見を生かし、GIF等の多国間協力や米国やフランス等との二国間協力による国際協力を進め、シビアアクシデント発生時の高速炉の安全性向上に向けた研究開発等に取り組みました(「もんじゅ」「常陽」については、次項に記載)。
(4)高速炉開発をめぐる状況
日本は、核燃料サイクルの有効性をより高める高速炉について、その研究開発に取り組むこととしています。2016年12月の原子力関係閣僚会議において決定された「高速炉開発の方針」に基づいて、高速炉開発会議の下で「戦略ワーキンググループ」が開催され、「戦略ロードマップ」の検討が行われました。その上で、2018年12月の高速炉開発会議を経た後、同年12月の原子力関係閣僚会議において、「戦略ロードマップ」が決定されました。本ロードマップにおいては、資源の有効利用に加え、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減といった、高速炉開発が持つ意義を改めて示した上で、高速炉開発の実施に当たっては、柔軟性を持って研究開発を行っていくことが必要であること、多様な高速炉技術を追求する方針であること等、新たな高速炉開発の考え方を提示しました。2019年からは、「戦略ロードマップ」に基づいて、国際協力を活用し、多様な高速炉概念に幅広く適用できる共通基盤技術の整備、自然循環による除熱等の安全性向上技術の開発等が進められています。また、原子力オプションの確保を視野に、民間活力を活用した多様な高速炉の技術開発が進められています。2022年12月の原子力関係閣僚会議では、「戦略ロードマップ」が改訂され、今後実証炉の概念設計を行っていくに当たって「ナトリウム冷却高速炉」を最有望と評価した上で、開発目標をより具体化しつつ、2024年以降の開発のあり方について具体的な開発マイルストーンを設定し、関係者の役割をより明確にしました。
「もんじゅ」については、廃止措置計画に基づき、2018年度より概ね30年間の廃止措置が進められています。廃止措置計画の第一段階においては、2022年10月までに、燃料体を炉心から燃料池に取り出す作業を終了し、2023年2月に廃止措置計画変更認可申請について認可を受け、2023年度からの第二段階においては、水・蒸気系等発電設備の解体作業等に着手することとしました。引き続き「もんじゅ」の廃止措置を、地元の声にしっかりと向き合いながら、安全、着実かつ計画的に進めていくこととしています。また、高速実験炉「常陽」については、運転再開に向けた準備等を進め、革新的な原子力技術開発に必要な研究開発基盤の維持・発展に取り組んでいます。
(5)日米・日仏高速炉協力
日米間の高速炉協力については、米国が建設を検討するVTR(多目的試験炉)計画への研究協力に関する覚書に、2019年6月に署名(日本:経済産業省、文部科学省、米国:エネルギー省)し、安全に関する研究開発等を開始しました。また、米国エネルギー省の先進的原子力設計の実証プログラム(ARDP)の中で、ナトリウム冷却高速炉「Natrium」を開発している米国テラパワー社と、ナトリウム冷却高速炉技術に関する覚書が、2022年1月に署名(日本:JAEA、三菱重工業、三菱FBRシステムズ、米国:テラパワー社)され、協議が実施されています。
日仏間の高速炉協力については、2019年6月に、2020年から2024年までの研究開発協力の枠組みについて定めた新たな取決めを締結(日本:経済産業省、文部科学省、フランス:原子力・代替エネルギー庁)し、2020年1月から、本取決めの下で、シミュレーションや実験等に基づく研究開発協力が進められています。
(6)使用済燃料対策
原子力発電所の再稼働や廃炉が進展する状況において、使用済燃料対策は原子力政策の重要課題です。このため、2015年10月の最終処分関係閣僚会議において、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」を策定しました。本プランに基づき、電力事業者は「使用済燃料対策推進計画」を策定し、2020年代半ばに計4,000トン程度、2030年頃に計6,000トン程度の使用済燃料の貯蔵容量を確保することを目指しています(2015年11月計画策定、2021年5月改定)。2021年5月には、第6回使用済燃料対策推進協議会を開催し、梶山経済産業大臣から事業者に対して使用済燃料対策等について要請を行いました。