第2節 諸外国における脱炭素化の動向

1.脱炭素化に向けた諸外国の動向

2021年4月現在、125カ国・1地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明19しました(第122-1-1)。これらの国におけるCO2排出量が、世界全体に占める割合は37.7% 20にのぼります。また、世界最大のCO2排出国(28.2% 21)である中国は、2060年までにカーボンニュートラルを実現することを、2020年9月の国連総会で習主席が表明しています。

各国の表明内容は様々ですが、いずれの国も、カーボンニュートラルに至る単一の道筋にコミットすることはなく、ビジョンとして複数のシナリオを掲げて取り組んでいます(第122-1-2)。本項では、複数の「シナリオ」に基づき、目標の達成手法を検証しているEUや、カーボンニュートラルを実現するために必要な電力需要やエネルギー構成などをシミュレーションしている英国、具体的な戦略はいまだ示していない米国及び中国の現在の取組状況を整理します。

【第122-1-1】2050年までのカーボンニュートラルを表明した国

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出典:
COP25におけるClimate Ambition Alliance22及び国連への⻑期戦略提出状況等を受けて経済産業省作成(2021年4⽉末時点) ※ブラジルは気候サミット(2021年4⽉)において、2050年CNを表明。 https://climateaction.unfccc.int/views/cooperative-initiative-details.html?id=94

【第122-1-2】日本・EU・英国・米国・中国のカーボンニュートラル表明状況

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【第122-1-2】日本・EU・英国・米国・中国のカーボンニュートラル表明状況(ppt/pptx形式41KB)

出典:
各国資料から経済産業省作成

(1)EU

2018年11月、欧州委員会は、2050年のカーボンニュートラル経済の実現を目指す「A clean planet forall」という「ビジョン」を公表しました。2020年3月に国連に提出したパリ協定長期戦略23において、このビジョンに基づく議論の結果として2050年カーボンニュートラル表明に至ったとの説明がされています24

本ビジョンでは、具体的なエネルギーミックスの目標を決定しておらず、削減の道筋には様々なオプションが考えられることから、対策内容について複数の前提を置き、3つの削減目標(80%減、90%減、ネットゼロ)とそれらに対応する計8つのシナリオを分析しています(第122-1-3)。

【第122-1-3】EUが想定する8つのシナリオ

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【第122-1-3】EUが想定する8つのシナリオ(ppt/pptx形式:32KB)

出典:
A Clean Planet for all IN-DEPTH ANALYSIS IN SUPPORT OF THE COMMISSION COMMUNICATION COM( 2018), Table 1より経済産業省作成

(2)英国

2020年12月14日に英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が公表した報告書(Energy WhitePaper)では、ネットゼロ(100%削減)を達成する上での電力分野の戦略的な位置づけを示しつつ、2050年の電力分野の将来像を例示しています。

ネットゼロを実現する上での電力需要のシナリオでは、電気自動車の普及や熱需要の電化等の影響で、電力需要は現在の3,000億kWhから2050年には5,700億~ 6,700億kWhと倍増し、最終エネルギー消費に占める電力の割合は、2019年の17%から2050年には50%以上に増加する可能性があることが示されています。また、増加した電力需要に対応するためには脱炭素電源での発電量を4倍に増やす必要があるとしています(第122-1-4)。

電力以外の需要を含む排出量全体のネットゼロシナリオとしては、2050年においても農業と航空分野における排出量が残存し、BECCSなどのネガティブエミッションで相殺する必要があるとされています。また、他の部門でも、電力需要のシナリオで想定した以上の更なる電化を行う必要がある可能性があると示しています(第122-1-5)。

これらのシナリオは蓋然性のある予測やあるべき将来像として示したシナリオではなく、英国の政策目標や政策ではないという位置付けとされています。

【第122-1-4】電力需要のシナリオと2050年の電力構成予測

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【第122-1-4】電力需要のシナリオと2050年の電力構成予測(ppt/pptx形式:87KB)

出典:
BEIS「Energy White Paper」より経済産業省作成

【第122-1-5】CO2排出量のネットゼロシナリオ

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【第122-1-5】CO2排出量のネットゼロシナリオ(ppt/pptx形式:65KB)

出典:
BEIS「Energy White Paper 2020」より経済産業省作成

(3)米国

米国は、気候変動を生存基盤に関わる脅威であるとし、気候変動対策をコロナ対策、経済回復、人種平等と並ぶ最重要課題の一つとして重視しています25。また、気候への配慮を外交政策と国家安全保障の不可欠な要素に位置付けています26。「気候変動への対応、クリーンエネルギーの活用、雇用増」を同時達成する「ウィン・ウィン・ウィン」の実現を目指し、喫緊の課題である雇用政策の観点からも重視しています27

バイデン政権は2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロに、2035年までに発電部門の温室効果ガス排出をゼロに移行すること、2030年までに洋上風力による再エネ生産量を倍増し、2030年までに国土と海洋の少なくとも30%を保全すること等を目標に掲げています。

バイデン大統領は就任初日(2021年1月20日)にパリ協定に復帰を決定し、4月22日には気候サミットを開催するなど、就任直後から様々な政策等を打ち出しています(第122-1-6)。

【第122-1-6】バイデン政権発足後に発表・実行された政策(2021年4月時点)

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出典:
各種発表より経済産業省作成

(4)中国

習近平国家主席は、2020年の国連総会一般討論演説で「2030年までにCO2排出を減少に転じさせ、2060年までに炭素中立を達成するよう努める」旨を表明しました。また、同年12月の気候野心サミットで、同主席は「2030年にGDP当たりCO2排出量を65%以上(2005年比)削減する」旨表明しました。具体的には2030年までにCO2排出のピーク達成を目指すとの目標に向けて行動計画の作成を検討しています。

中国は、新エネルギー自動車向け補助金などにより、中国の電動車市場は急速に拡大しており、2019年時点で世界市場の約半分を占めていますが、さらに2025年までに新車販売における新エネルギー車28の割合を20%前後に引上げ(現在は約5%29)、2035年までに新車販売の主流を電気自動車(EV)とすることを目標とする、新エネ車産業発展計画を公表(2020年11月)しました。加えて2021年に、気候変動の影響への適応に係る「国家適応気候変動戦略2035」が策定される予定とされています30

【第122-1-7】中国のCO2排出量の推移

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【第122-1-7】中国のCO2排出量の推移(ppt/pptx形式:23KB)

出典:
IEA 「CO2 Emissions from Fuel Combustion.」より経済産業省作成

【第122-1-8】中国の電動車の導入状況

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【第122-1-8】中国の電動車の導入状況(ppt/pptx形式:59KB)

出典:
IEA「Global EV Outlook 2020」より経済産業省作成

2. 脱炭素化に向けた諸外国の政策

新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気の落ち込みからの回復等の一環として、各国は脱炭素分野への政策的支援を表明しています。各国とも、地球温暖化対策をコストや制約として捉えるのではなく、成長戦略として捉え、グリーン分野の研究開発支援や先端技術の導入支援等を積極的に行っています(第122-2-1)。

【第122-2-1】各国のグリーン分野への投資内容

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出典:
各種公表資料より経済産業省作成
19
米国及びブラジルは、2021年4月に開催された気候サミットでの表明。
20
2017年実績。エネルギー起源CO2のみを算出。(日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧2020」より。)
21
同上
22
2050年までにカーボンニュートラルを目指す国や企業、自治体等が参加する枠組み。
23
“Long-term low greenhouse gas emission development strategy of the EU and its Member States”
24
欧州グリーン・ディールに関する欧州委員会のコミュニケーション(2019年12月11日発表)
25
ホワイトハウスHP(https://www.whitehouse.gov/priorities/
26
国家安全保障の暫定的方針(2021年3月3日公表)(https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2021/03/NSC-1v2.pdf
27
2020年7月14日クリーンエネルギー投資計画に関するバイデン大統領候補(当時)演説
28
プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)を指す(2019年NEV規制)
29
2019年の新車販売台数での新エネルギー車の比率(中国汽車工業協会)
30
気候適応サミット(2021年1月25日)での韓正・副首相による表明