第4節 二次エネルギーの動向

1.電力

(1)消費の動向

電力消費は、石油ショックの1973年度以降も着実に増加し、1973年度から2007年度の間に2.6倍に拡大しました26(第214-1-1)。ただし、2008年度から、世界的金融危機の影響で生産が低迷し、企業向けを中心に電力消費が減少に転じました。景気の回復とともに2010年度は前年度より3.8%の増加とやや回復しました。しかしながら、東京電力福島第一原子力発電所事故を発端に、電力需給がひっ迫する中で電力使用制限令の発令や節電目標の設定で、2011年度は前年度より5.1%、2012年度は同1.0%減少しました。2013年度は東日本大震災後に初めて増加に転じたものの、節電マインドの浸透と省エネ家電の普及により、0.1%の微増にとどまりました。2014年度は、冷夏、消費増税後の景気低迷により2.4%の減少となり、2015年度は、冷夏・暖冬影響、生産・経済活動の回復遅れで1.6%の減少となりました。

【第214-1-1】電灯電力使用電力量の推移

【第214-1-1】電灯電力使用電力量の推移(xls/xlsx形式:64KB)

(注)
電気事業用計。電力には特定規模需要、特定供給、自家消費を含む。
出典:
経済産業省「電力調査統計月報」を基に作成

電力消費の増加は、長期的に見ると民生用消費によってより強くけん引されてきました。使用種別で見ると、電灯の使用電力量は、1973年度から2015年度の間に3.7倍に増加した一方、電力の使用電力量は2.0倍への増加にとどまりました。2015年度には、民生部門の需要が自家発分を含む電力最終消費の65%を占めるに至りました(第214-1-2)。これは、家庭部門では生活水準の向上などにより、エアコンや電気カーペットなど冷暖房用途や他の家電機器が急速に普及したことなどによるものです。業務他部門の電力消費の増加は、事務所ビルの増加や、経済の情報化・サービス化の進展を反映したオフィスビルにおけるOA機器の急速な普及などによるものです。最終エネルギー消費における電力化率は、1970年度には12.7%でしたが、2015年度には24.7%に達しました。

【第214-1-2】部門別電力最終消費の推移

【第214-1-2】部門別電力最終消費の推移(xls/xlsx形式:122KB)

(注1)
「総合エネルギー統計」では、1990年度以降、数値の算出方法が変更されている。
(注2)
民生は家庭部門及び業務他(第三次産業)。産業は農林水産鉱建設業及び製造業。
出典:
資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成

また、自家用発電自家消費電力(以下「自家発自家消費」という。)はエネルギー消費におけるコスト削減の観点から増加し続け、2004年度時点で1,310億kWhとピークに達しました。その後、燃料コストの上昇により大口需要(産業用)全体の自家発自家消費は年々減少を続け、2009年度には景気の低迷も重なり1,062億kWhまで下がりましたが、2010年度には1,240億kWhまで上昇し、2011年度以降は減少傾向にあり、2015年度は1,137億kWhまで下落しました。2015年度の自家発自家消費の比率を業種別に見ますと、製造業で最も自家発の比率が高かったのは、石油・石炭製品製造で74%、以下、紙・パルプ67%、化学53%、鉄鋼51%、繊維38%、窯業・土石26%と続きました。

電気の使われ方には季節や昼夜間で大きな差があります。特に近年では、冷暖房などによる「夏季需要」、「冬季需要」の割合が高いため、電気の使われ方の差が大きくなりました(第214-1-3、第214-1-4)。

【第214-1-3】夏季1日の電気使用量の推移(年間最大電力を記録した日)(10電力27計)

【第214-1-3】夏季1日の電気使用量の推移(年間最大電力を記録した日)(電力計)(ppt/pptx形式:248KB)

(注)
1975年度は沖縄電力を除く。
出典:
日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集2016」

【第214-1-4】1年間の電気使用量の推移(10電力計)

【第214-1-4】1年間の電気使用量の推移(10電力計)(xls/xlsx形式:56KB)

(注1)
1965、1975、1985年度は沖縄電力を除く。
(注2)
2016年度は10エリア計。
出典:
電気事業連合会「電力需要実績」、電力広域的運営推進機関「需給関連情報」を基に作成

電気は貯蔵しておくことができないため、需要のピークに見合った発電設備が必要となります。したがって、このように需要の格差が拡大するほど発電設備の利用効率などが悪化し、電力供給コストを上昇させることになります。こうしたことを緩和するための電力の負荷平準化対策は、電力需要の急激な増加に伴う電力供給上のリスクを軽減し、電力供給システムの安定化、信頼性向上にも寄与することになります。発電設備の利用効率を表す年負荷率(年間の最大電力に対する年間の平均電力の比率)を見ますと、1970年代にはおおむね60%を上回る水準で推移していましたが、1990年代は50%台にその水準が低下しました。2000年代半ば以降、負荷平準化対策により、我が国の年負荷率は改善されつつあり、60%台で推移しています。ただし、年負荷率は夏季の気温の影響も大きく、冷夏であった2009年度は、66.7%と高い値でした。逆に、記録的な猛暑となった2010年度には、62.5%まで下がりました。東日本大震災以降は、省エネ機器の導入とピークカットの推進により2011年度には67.8%と高い値を記録しました。その後、2012年度は66.9%、2013年度は65.4%と2年連続で低下しましたが、2014年度は冷夏により再び上昇し、67.2%となりました。2015年度は前年度よりも低下し、63.3%となっています(第214-1-5)。他の主要国との比較では、2014年時点では、英国に次いで2番目となり、高水準となっています(第214-1-6)。

【第214-1-5】日本の年負荷率の推移

【第214-1-5】日本の年負荷率の推移(xls/xlsx形式:29KB)

出典:
電気事業連合会「電気事業便覧」を基に作成

【第214-1-6】主要国の年負荷率比較(2014年)

【第214-1-6】主要国の年負荷率比較(2014年)(xls/xlsx形式:304KB)

(注)
日本は2014年度数値。
出典:
海外電力調査会「海外電気事業統計2016年版」を基に作成

(2)供給の動向

発電設備容量の推移を見ると、1963年度に初めて火力発電設備出力が水力発電設備出力を上回り、いわゆる「火主水従」の発電形態に移行しました。その後の電源開発は、石炭火力から石油火力への転換により、大容量・高効率の石油火力発電所を中心に進められました。

しかし、1973年の第一次石油ショックを契機として、原子力発電、石炭火力発電、LNG火力発電などの石油代替電源の開発が積極的に進められ、電源の多様化が図られてきました。ただし、原子力については、東日本大震災の影響により、2013年9月以降原子力発電所の停止が続いていましたが、2015年8月から九州電力川内原子力発電所が運転を再開し、順次原子力発電所の再稼働が進んでいます。2015年度末の発電設備容量(10電力計(受電を含む))の電源構成は、LNG火力28.2% (7,311 万kW)、石油等火力15.6% (4,041万kW)、石炭火力15.4% (4,006 万kW)、水力18.6% (4,837万kW)、原子力16.2% (4,205万kW)、新エネ等6.0% (1,550万kW)となりました(第214-1-7)。

【第214-1-7】発電設備容量の推移(一般電気事業用)

【第214-1-7】発電設備容量の推移(一般電気事業用)(xls/xlsx形式:251KB)

(注)
1971年度までは沖縄電力を除く。
出典:
資源エネルギー庁「電源開発の概要」、「電力供給計画の概要」を基に作成

また、発受電電力量(一般電気事業用)で見た場合、2015年度末の電源構成(10電力計(受電を含む))は、LNG火力44.0 % (3,892億kWh)、石炭火力31.6% (2,800億kWh)、石油等火力9.0% (801億kWh)、水力9.7% (855億kWh)、新エネ等4.7% (413億kWh)、原子力1.1% (94億 kWh)となりました(第214-1-8)。

【第214-1-8】発受電電力量の推移(一般電気事業用)

【第214-1-8】発受電電力量の推移(一般電気事業用)(xls/xlsx形式:710KB)

(注)
1971年度までは沖縄電力を除く。
出典:
資源エネルギー庁「電源開発の概要」、「電力供給計画の概要」を基に作成

我が国の原子力開発は、1955年に原子力基本法が制定されて以来、60年以上が経過しました。1966年には初の商業用原子力発電所である日本原子力発電東海発電所(16.6万kW)が営業運転を開始し、2010年度には発電量が2,882億kWhとなりました。しかしながら、2011年の東日本大震災後、検査などで停止中の原子力発電所が徐々に増加したため、2012年度の発電量は159億kWh、2013年度は93億kWhと減少し、2014年度は0kWhとなりました。2015年度は、2015年8月に九州電力川内原子力発電所が再稼働したため、発電量は94億kWhとなりました。

石炭は、確認可採埋蔵量が豊富で、比較的政情が安定している国々に広く存在しているため供給安定性に優れ、石油・LNGなどより相対的に安価なエネルギー源です。二度の石油ショックを機に、石油中心のエネルギー政策からの転換の一環として、石炭火力発電の導入が図られてきました。2015年度の石炭火力の発受電電力量(一般電気事業用)は、東日本大震災による原子力発電所停止の影響もあり、2013、2014年度並みの2,800億kWh、1973年度との比較では約16倍の水準となりました。

LNGは、1969年にアラスカから購入が開始されて以来、安定的かつクリーンなエネルギーとしての特性を生かし、環境規制の厳しい都市圏での大気汚染防止対策上、極めて有効な発電用燃料として導入されてきました。二度の石油ショックを経て、石油代替エネルギーの重要な柱となり、その導入が促進されてきました。2011年度以降は原子力発電の代替としての利用が進み、2015年度のLNG火力の発受電電力量(一般電気事業用)は3,892億kWh、1973年度との比較では約43倍の水準となりました。

火力発電所の熱効率は年々上昇して、1951年の9電力発足当時の18.9% (9電力平均)から2015年度は約42.9% (HHV28、発電端、10電力平均)となっており、最新鋭の1,600℃級コンバインドサイクル発電では55% (HHV)の熱効率を達成しました。

石油による発電は第一次石油ショック以降、1980年代前半は、石油代替エネルギーの開発・導入などにより減少基調で推移しました。1987年以降、一時的に増加傾向に転じましたが、原子力発電所の新規運転開始・高稼働などにより、ベース電源、ミドル電源からピーク対応電源へと移行しており、その発電電力量は著しく減少しました。2015年度の石油等火力の発受電電力量(一般電気事業用)は801億kWhと、1973年度との比較では約3割の水準となりました。2011年度以降、原子力発電所の稼働率の低下などを補うため発電量が上昇していましたが、2015年度は、石炭やLNGなどのほかの火力発電が増えたことで、石油等は前年度比16.8%減少しました。

水力は、戦前から開発が始まり、1960年代には大規模な水力発電所はほぼ開発されました。発電電力量は横ばいの状態が続き、2015年度の揚水発電を含む水力の発電電力量は855億kWh、1973年度に比べ1.3倍の水準となりました(第214-1-8)。

また、電気の品質を図る目安の一つとしての停電時間及び停電回数については、現在、我が国においては極めて少なく、世界トップ水準を維持しています。この要因は、電気事業者が発電所の安定した運転、送配電線の整備や拡充に努める一方、最新の無停電工法の導入、迅速な災害復旧作業などによる事故停電の発生回数の減少、発生した場合の1事故当たりの停電時間の短縮に取り組んでいることによるものと考えられます。具体的には、2014年度の停電回数は0.16回、停電時間は20分で、2015年度には0.13回、21分となりました(図214-1-9)

【第214-1-9】1軒当たりの年間停電回数と停電時間の推移(10電力計)

(注)
1988年度までは9電力計
出典:
電気事業連合会「電気事業のデータベース」より

(3)価格の動向

電気料金は、石油ショック後には当時石油火力が主流だったこともあり急上昇しましたが、その後は低下傾向となりました。1994年度から2007年度の間において、単純比較では約2割低下しました。2008年度では、上半期までの歴史的な原油価格の高騰などにより、電気料金が比較的大きい幅で上昇しました。2010年度は原油などの燃料価格の低下で、電気料金は2007年度水準まで戻りましたが、2011年度以降は原子力発電所の稼働率低下、燃料価格の高騰などに伴う火力発電費の増大の影響などにより、再び電気料金が上昇しました(第214-1-10)。2015年度は、燃料価格の低下に伴う火力発電費の減少により、電気料金は2011年度以降初めて低下しました。

【第214-1-10】電気料金の推移

【第214-1-10】電気料金の推移(xls/xlsx形式:51KB)

(注1)
旧一般電気事業者10社を対象。
(注2)
電灯料金は、主に一般家庭部門における電気料金の平均単価で、電力料金は、各時点における自由化対象需要分を含み、主に工場、オフィスなどに対する電気料金の平均単価。平均単価は、電灯料収入、電力料収入をそれぞれ電灯、電力の販売電力量(kWh)で除したもの。
出典:
電気事業連合会「電力需要実績」、「電気事業便覧」を基に作成

(4)電力小売全面自由化の動向

2016年度から電気の小売業への参入が全面的に自由化されました。電力の小売自由化は2003年3月に始まり、はじめは大規模工場やデパート、オフィスビルが電力会社を自由に選べるようになりました。その後、小売自由化の対象が、中小規模工場や中小ビルへと拡大していき、そして2016年4月1日からは、家庭や商店などにおいても電力会社を自由に選べるようになりました。

2016年4月末時点での登録小売電気事業者数は、291事業者でしたが、2017年3月28日時点での登録小売電気事業は、計383事業者に増加しました。また、2016年4月における旧一般電気事業者を除く登録小売電気事業者及び特定送配電事業者(新電力)による販売電力量は、35億kWhと販売電力量全体の5.2%でしたが、同年12月における、新電力による販売電力量は60億kWhと販売電力量全体の8.6%を占めています(第214-1-11)。

【第214-1-11】新電力の販売電力量と販売電力量に占める割合の推移

【第214-1-11】新電力の販売電力量と販売電力量に占める割合の推移(xls/xlsx形式:41KB)

出典:
資源エネルギー庁「電力調査統計」を基に作成

また、一般家庭における電力契約の切替え累計件数は、2016年4月末時点では81万9500件でしたが、2017年2月末時点では311万200件にまで増加し、全体の約5%の家庭が電力の契約を切替えたことになります(第214-1-12)。

【第214-1-12】家庭向け電力契約切替え累計件数の推移

【第214-1-12】家庭向け電力契約切替え累計件数の推移(xls/xlsx形式:45KB)

(注)
各月末時点の累計件数。
出典:
電力広域的運営推進機関「スイッチング支援システムの利用状況について」を基に作成

2.ガス

(1)全体

我が国のガス供給の主な形態には、ガス事業法で規制されている〔1〕一般ガス事業、〔2〕ガス導管事業、〔3〕大口ガス事業(以上、「都市ガス事業」と呼ぶ。)と、〔4〕簡易ガス事業及び「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」で規制されている〔5〕液化石油ガス販売事業(以下「LPガス販売事業」という。)などの形態が存在します(第214-2-1)。

【第214-2-1】ガス事業の主な形態(2007年以降)

【第214-2-1】ガス事業の主な形態(2007年以降)(xls/xlsx形式:18KB)

(2)都市ガス事業(一般ガス事業、ガス導管事業、大口ガス事業)

①消費の動向

都市ガス事業における消費は、2000年代後半まで、家庭用・工業用・商業用消費のいずれも着実に増加してきました。その構成の推移を見ると、かつて、消費の中心であった家庭用消費のシェアは、1990年代以降、5割を下回る一方、工業用・商業用消費のシェアが急速に増大し、工業用消費のシェアは2006年度には5割を上回りました。しかし、2000年代半ば以降、家庭用、商業用の消費は微減の傾向にあり、工業用の消費の増加傾向も鈍化しているため、総量の消費は横ばい傾向にあります(第214-2-2)。

【第214-2-2】用途別都市ガス販売量の推移

【第214-2-2】用途別都市ガス販売量の推移(xls/xlsx形式:30KB)

(注1)
全都市ガス事業者。
(注2)
1996年度から2006年度の用途別販売量は日本エネルギー経済研究所推計。
出典:
経済産業省「ガス事業統計」などを基に作成

それでも、2001年度から2015年度までの15年間で工業用は2.3倍に、商業用・その他用は1.2倍に拡大しました。

消費増加の要因を見ると、都市ガス需要家件数の9割強を占める家庭用では、近年、需要家当たりの消費量の減少を、供給区域の拡大などによる需要家件数の増加でカバーしてきました。一方、工業用では、LNGを導入した大手都市ガス事業者による産業用の大規模・高負荷需要(季節間の使用量変動が少ないなど)を顕在化させる料金制度の導入などにより、1980年以降、大規模需要家への天然ガス導入が急速に進んだことに加えて、近年のガス利用設備に係る技術革新の進展や地球環境問題への対応の要請などにより、需要家当たりの消費量が急激に伸びたことが大幅な消費の増加につながりました。

②供給の動向

都市ガス事業における原料は、その主体を石炭系ガスから石油系ガスに、石油系ガスから天然ガスへと変遷を遂げてきました。天然ガスは、一部の国産天然ガスを除き、その大部分が大手一般ガス事業者を中心としたLNG輸入プロジェクト(海外の産出先との長期契約)により調達されてきました。原料に占める天然ガスの割合は年々高まってきており、

1980年代に入って50%を超え、2015年度には、97%を占めるに至りました(第214-2-3)。

【第214-2-3】原料別都市ガス生産・購入量の推移

【第214-2-3】原料別都市ガス生産・購入量の推移(xls/xlsx形式:33KB)

(注)
2005年度までは一般ガス事業者のみ。2006年度以降は全都市ガス事業者。
出典:
日本ガス協会「ガス事業便覧」、経済産業省「ガス事業統計」を基に作成

このように天然ガスの導入は、大手一般ガス事業者を中心に拡大しました。2017年1月時点で203事業者中202事業者が天然ガスを中心とした高カロリー化を実施しました。

また、一般ガス事業者の供給ガスの調達方法としては、大手事業者などでは上記のように海外からLNGを調達していますが、石油系のガスを主な原料としている事業者では石油元売りからLPガスを調達しています。他の一般ガス事業者や国産天然ガス事業者などから卸供給を受ける場合もあります。

一方、ガス供給インフラであるパイプライン網は、我が国の場合、これまで消費地近傍に建設したLNG基地などのガス製造施設を起点としたパイプライン網となっています。一部の地域において、国産天然ガス事業者による長距離輸送導管や大規模消費地における大手一般ガス事業者の輸送導管はある程度発達していますが、基本的には、消費地ごとに独立したパイプライン網となっています。

③価格の動向

都市ガスの小売価格は、石油ショック後に急上昇しましたが、1983年度以降、低下傾向にありました。規制料金である都市ガス小口料金部門においても、1995年の部分自由化の開始後、大手事業者を中心として数度の料金改定が実施され、価格が引き下げられました。また、都市ガスの平均販売単価(㎥当たりの販売価格)は、1995年度から2004年度まで、LNG輸入価格の上昇傾向などを受けて原料費が上昇したものの、労務費などのコスト削減努力や大口需要家の増加などを背景に低下傾向をたどりました。その後、2005年度以降、LNG輸入価格の大幅な上昇の影響を吸収できず、都市ガス価格は上昇傾向に転じました。2009年度には、世界的な景気後退によるLNG輸入価格の下落があり、都市ガス価格も低下しましたが、2010年度以降のLNG輸入価格の再上昇に伴い、都市ガス価格も再び上昇し、2014年度は1987年度以来の最高値となりました。2015年度は国際原油価格下落を受けたLNG輸入価格の下落により、都市ガス価格は6年ぶりに低下しました(第214-2-4)。

【第214-2-4】都市ガス価格及びLNG価格の推移

【第214-2-4】都市ガス価格及びLNG価格の推移(xls/xlsx形式:23KB)

出典:
日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」を基に作成

ガス料金を国際比較すると、部分自由化後は内外価格差が縮小していましたが、近年のシェールガスの生産増加により北米との価格差が拡大しており、我が国のガス料金は欧米先進国と比べ、家庭用は約1.5~3.1倍、産業用は約1.1~3.2倍となりました(「第2部第2章第4節5.ガス料金の国際比較」参照)。これは、欧米と比較した際、天然ガスの輸送形態が複雑なこと(LNGで輸入後、再気化するものが大半であり、国産天然ガスのパイプライン供給はわずか)、需要家1件当たりの使用規模が欧米の1.9分の1から7.7分の1と小さいこと及び導管埋設の施工環境(特に市街地における工事帯延長の確保の問題、他埋設物との輻輳による導管の浅層埋設の困難など)が厳しいことなどの理由です(第214-2-5)。

【第214-2-5】主要国の需要家1件当たり都市ガス消費量(2014年)

【第214-2-5】主要国の需要家1件当たり都市ガス消費量(2014年)(xls/xlsx形式:16KB)

出典:
日本ガス協会「ガス事業便覧」を基に作成

④ガス導管事業・大口ガス事業

2003年のガス事業法改正により、一般ガス事業者以外で一定規模以上の導管を維持・運用してガス供給(大口供給・卸供給・託送供給)を行う電気事業者あるいは国産天然ガス事業者などが「ガス導管事業者」として位置付けられ、新たに託送などの役割を担うこととなりました。また、ガス導管事業者のように一定規模以上の導管を維持及び運用していない主体で大口供給を行っている事業者を「大口ガス事業者」と言います。
ガス導管事業者は、2015年4月1日現在、事業者数で15事業者であり、ガス導管事業者及び大口ガス事業者による大口供給は、38事業者371件(許可、届出ベース)となりました。

(2)簡易ガス事業

簡易ガス事業における消費は、1970年の制度創設以来、家庭用を中心に着実に増加してきましたが、近年は大手事業者への事業売却などにより減少傾向にあります。簡易ガス事業は、2016年3月末現在、事業者数で1,375事業者であり、その供給地点群数は7,432地点群(計約184万地点)となっています。2015年の年間生産量(販売量)は、15,562万㎥で、調定数当たりの全国平均販売量は11.16㎥ /月でした。簡易ガス事業は、LPガスバルクによる供給設備やLPガスボンベを集中するなど簡易なガス発生設備によるガス供給であるという特性から、2015年の年間用途別販売量は家庭用が94%を占め、残りが商業用などの用途となりました。簡易ガスの料金は石油ショック後に急上昇し(1980年度419円/㎥ )、1987年度に低下に転じた以降(1987年度372円/㎥ )、2004年度までほぼ横ばいで推移してきましたが(2004年度382円/㎥ )、2005年度以降上昇してきました(2015年度481円/㎥ )(第214-2-6)

【第214-2-6】簡易ガス全国平均価格の推移

【第214-2-6】簡易ガス全国平均価格の推移(xls/xlsx形式:19KB)

出典:
日本ガス協会「ガス事業便覧」を基に作成

(3)LPガス販売事業

①需給の動向

LPガスは全国世帯の半数で使用されているほか、大部分のタクシーなどの自動車用、工業用、化学原料用、都市ガス用、電力用など幅広い用途に使われるなど、国民生活に密着したエネルギーです。

LPガスは、プロパンガスとブタンガスの2種類があり、プロパンガスは主として家庭用・業務用、ブタンガスは主として産業用、自動車用に使用されてきました。

②価格の動向

家庭用LPガスの料金は、電気・都市ガスの規制料金とは異なり、販売事業者がそれぞれの料金計算方法によって料金を設定する方式になっています。近年では、2010年度から2014年度まではLPガス輸入価格上昇に伴い上昇傾向となりました。2015年度はLPガス輸入価格の下落により小売価格は3%低下したものの、輸入価格の下落(34% )に比べるとその幅は小さいものとなっています(第214-2-7)。

【第214-2-7】LPガス家庭用小売価格及び輸入CIF価格の推移

【第214-2-7】LPガス家庭用小売価格及び輸入CIF価格の推移(xls/xlsx形式:26KB)

(注)
家庭用小売価格は10㎥当たり。
出典:
日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」を基に作成

これは、家庭用LPガス価格の構成を見ると小売段階での配送費、人件費、保安費などが約6割29を占めているためであり、小売価格低減のためには、各流通段階、とりわけ小売段階での合理化・効率化努力が求められます。

3.熱供給

熱供給事業とは、一般的には地域冷暖房などと呼ばれ、一定地域の建物群に対し、蒸気・温水・冷水などの熱媒を熱源プラントから導管を通じて供給する事業です(第214-3-1)。

【第214-3-1】熱供給事業の概要

出典:
日本熱供給事業協会ホームページ

熱供給事業は、それぞれの施設・建物が個別に冷温水発生機などの熱源設備を設置する自己熱源方式とは異なり、供給地区内に設置された熱源プラントで熱供給を集約して行うことにより省エネルギー、環境負荷の低減といった効果が得られます。さらに、都市エネルギー供給システムとして複数の施設・建物への効率的なエネルギー供給、施設・建物間でのエネルギー融通、未利用エネルギーの活用など、エネルギーの面的利用は地域における大きなCO2削減効果があると期待されています。そのほか、各建築物内に熱源設備や屋上へ冷却塔を設置する必要がなくなるため、震災時などの二次災害防止や屋上ヘリポートの設置を行うことができます。さらに、熱源プラントの蓄熱槽や受水槽の水を火災や震災発生時に利用できるなど災害に強いまちづくりに資する事業です。
熱供給事業は「熱供給事業法」に基づき、21GJ/h以上の加熱能力をもって一般の需要に応じて熱供給を行う事業を指し、我が国の熱供給事業は2016年3月末現在で、事業許可区域数は136区域(76事業者)となりました(第214-3-2)。

【第214-3-2】熱供給事業の年度別許可推移

【第214-3-2】熱供給事業の年度別許可推移(xls/xlsx形式:37KB)

出典:
日本熱供給事業協会「熱供給事業便覧」を基に作成

2015年度の販売熱量(2,131万GJ)を熱媒体別に見ると、冷熱需要が大半を占め(59% )、以下、温熱(39% )、給湯・直接蒸気(3% )となりました。使用燃料は、都市ガスが大半を占め(68% )、以下、電力(17% )、排熱他(14% )などがありました。近年、海水、河川水、下水、清掃工場排熱などの「未利用エネルギー」を利用する形態や、コージェネレーションシステムの活用などの形態も出てきました。こうした未利用エネルギーやコージェネレーションシステムを活用することにより、エネルギーの総合的な有効利用や熱源システムの効率化が進んできました。

4.石油製品

(1)消費の動向

我が国の石油製品消費の推移を見ると、第一次石油ショックまでは急激な右肩上がりで伸びてきましたが、二度にわたる石油ショックにより原油価格が高騰し、燃料油販売量は減少に転じました。その後、1986年度以降は、原油価格が下落したことと円高方向で為替の変動が続いたことによって石油製品価格が低下したため、堅調な消費の伸びを見せました。1990年代半ば以降はほぼ横ばいとなり、2003年度以降は2009年度までは減少しました。東日本大震災後は発電用C重油が増加しましたが、2015年度は川内原子力発電所再稼働による発電用C重油の需要減の影響もあり、1970年度以降では最も低い水準である1億8千万klまで減少しました。

油種別構成を概観すると、自動車の保有台数が伸びたことによりガソリン・軽油の販売量が相対的に増加したこと、石油化学産業の生産の伸びに応じてナフサの販売量が増加したこと、ジェット燃料の消費が増えたことなどから、いわゆる白油化30が進んできました。

B重油及びC重油の販売量の比率は、石油ショック前は50%以上でしたが、1980年代以降、製造業の省エネルギー化による需要減少や石炭、天然ガスなど石油以外の燃料への転換、電力部門における石油火力の縮小などにより販売量は減少し、石油製品全体に占める割合は、2009年度には8%となりました。東日本大震災以降は、原子力発電量減少による石油火力の稼働率上昇の結果、2012年度は14%まで再び上昇しましたが、2015年度は川内原子力発電所再稼働による発電用C重油の需要減の影響もあり、8%まで低下しました(第214-4-1)。

【第214-4-1】燃料油の油種別販売量の内訳

【第214-4-1】燃料油の油種別販売量の内訳(xls/xlsx形式:57KB)

(注)
2002年1月よりB重油はC重油に含まれる。
出典:
経済産業省「資源・エネルギー統計年報」を基に作成

石油製品の用途は、2014年度は自動車など運輸関係が多く、次いで化学原料となりました。家庭・業務のシェアは鉱工業、電力のシェアを上回り、第3位となっています(第214-4-2)。

【第214-4-2】石油製品の用途別消費量

【第214-4-2】石油製品の用途別消費量(xls/xlsx形式:472KB)

出典:
石油連盟「今日の石油産業データ集」を基に作成

(2)価格の動向

特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)廃止の検討が開始された1994年初頭以降、日本の石油製品価格はガソリンを中心に大幅に下落しました。しかし、2003年後半以降は、中国の石油消費・輸入が拡大するなど世界の需要が拡大したこと、これに対する原油供給が伸び悩んだこと、イラクやイランなど一部の産油国の情勢混乱による原油供給に対する不安や、こうした将来的な需給懸念や世界的な過剰流動性を背景に資金が原油先物市場に流出入したことなどから世界的に原油価格が乱高下しました。2008年7月には、ニューヨーク市場の原油(WTI)が一時史上最高値である1バレル当たり147ドルを記録しましたが、2008年9月のリーマン・ショックによる悪影響の世界的な実体経済への波及などを背景に原油価格は大きく下落しました。その後、欧州諸国を中心とするイランへの経済制裁の強化によるイラン産原油の禁輸、シリア内戦激化など中東情勢の不安定化や世界的な原油需要の回復により、再び上昇しました。このような状況から日本の原油輸入価格も大きく乱高下しており、それに伴って石油製品価格も大きく変動してきました。2014年度は下期以降に原油輸入価格が下落したことにより、石油製品価格も大きく低下しました。中国の景気後退懸念やイラン核合意による原油供給量の増加観測もあり、2015年度は2016年1月にはWTIが1バレル当たり20ドル台まで下落しました。2016年度は世界経済の緩やかな回復や2016年11月のOPEC総会での8年ぶりの減産合意もあり、再び上昇しています(第214-4-3)。

【第214-4-3】原油輸入価格と石油製品小売価格

【第214-4-3】原油輸入価格と石油製品小売価格(xls/xlsx形式:111KB)

出典:
日本エネルギー経済研究所石油情報センター資料、財務省「日本貿易統計」を基に作成

(3)石油製品輸出の動向

我が国の石油製品の国内需要は緩やかな減少傾向にあり、さらには国内の人口減少もあって長期的に精製設備能力は余剰となるため、石油各社は生産設備の集約化を進めてきました。その結果、燃料油の生産は2000年度の225,105千klから2015年度は178,829千klに減少しました。その一方で、石油各社は燃料供給の多様性を維持する企業努力として、余剰設備の有効利用を図り、設備稼働率の低下による製造コスト上昇を回避すべく、各種石油製品の輸出を行ってきました。2015年度の燃料油の輸出量は前年度比12.5%増の32,416千klとなりました。油種別輸出比率では、ジェット燃料が32.9%、B・C重油は21.1%となっています。これはジェット燃料には海外を往復する航空機への燃料供給が輸出として計上されること、B・C重油も外国航路を行き来する船舶に日本で生産した燃料を供給した場合は輸出とみなされるためです。軽油については品質面の優位性もあり、29.0%となりました(第214-4-4)。

【214-4-4】燃料油の油種別輸出量の推移

【214-4-4】燃料油の油種別輸出量の推移(xls/xlsx形式:101KB)

出典:
経済産業省「資源・エネルギー統計年報」を基に作成

2015年度の燃料油の輸出先については、海外を往復する航空機や船舶向けの比率が36.6%となっており、シンガポール、豪州、香港、韓国、中国などアジア・オセアニア向けが上位を占めています。

【第214-4-5】燃料油の輸出先(2015年度)

【第214-4-5】燃料油の輸出先(2015年度)(xls/xlsx形式:25KB)

(注)
ボンドは外航船舶と航空機向け供給分。
出典:
経済産業省「資源・エネルギー統計年報」を基に作成
26
我が国の電力需要は、2016年3月までの制度において、〔1〕電灯(一般家庭など向け)、〔2〕低圧電力(商店や小規模工場など向け)、〔3〕その他電力(〔1〕~〔2〕のカテゴリーに入らない契約電力50kW未満のもの)、〔4〕特定規模需要(全ての高圧需要家(原則50kW以上))、〔5〕自家発電などに分けられます。
27
北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力。
28
HHVとは高位発熱量(Higher Heating Value)の略。高位発熱量とは蒸発するときに奪われる熱量(蒸発潜熱)を含む熱量のことを言います。
29
LPガス振興センター「LPガスガイド」(2015年3月)の小売価格の構成より算出しています。
30
燃料油は白油と黒油に大別されます。白油とは、ガソリン、灯油、軽油など、無色透明あるいはそれに近い色相のものをいい、黒油とは、重油など、黒い色相のものを言います。