第2節 ガスシステム改革及び熱供給システム改革の促進
1.ガスシステム改革の概要
ガスシステム改革は、①天然ガスの安定供給の確保、②ガス料金の最大限の抑制、③利用メニューの多様化と事業機会の拡大、④天然ガスの利用方法の拡大の4つを主な目的として進められ、2015年6月に成立した「電気事業法等の一部を改正する等の法律」に基づき、ガス事業の類型が製造事業、導管事業、小売事業に整理されたほか、2017年4月1日から、ガス小売全面自由化が開始しました。
その後、小売全面自由化後の競争の状況、天然ガス利用の促進状況などの検証を行い、2022年4月1日には、製造から小売までを担い、一定規模以上の導管を有するなどの要件に該当する大手ガス事業者から、導管部門が分社化しました。
2.ガスの小売全面自由化の進捗状況
(1)ガス小売事業者の登録
ガス小売事業については、2016年8月から事前登録申請の受付が開始され、2025年4月までに、「ガス事業法(昭和29年法律第51号)」に基づくガス小売事業者として、283者が登録されています(旧簡易ガス形態のみの供給を行っている事業者は除きます)(第262-2-1)。
【第262-2-1】ガス小売事業の事業者数の推移(2025年4月時点)
【第262-2-1】ガス小売事業の事業者数の推移(2025年4月時点)(pptx形式:59KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
ガス小売事業者の登録に当たっては、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会が、「ガスの使用者の利益の保護のために適切でないと認められる者」に該当しないかなど、法令に則ってそれぞれ審査を行っています。
(2)新規ガス小売事業者の用途別販売量割合及び件数
電力・ガス取引監視等委員会の「ガス取引報」によると、ガス小売全面自由化後から、新規ガス小売事業者によるガス販売量の割合は増加傾向にあります。2024年12月末時点のガス販売量における新規ガス小売事業者の割合を見ると、全体では20.7%となっています。用途別に見ると、家庭用や工業用において増加傾向が見られます(第262-2-2)。
【第262-2-2】ガス販売量における新規ガス小売事業者の割合の推移
【第262-2-2】ガス販売量における新規ガス小売事業者の割合の推移(pptx形式:47KB)
- 資料:
- 電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報」を基に作成
また、新規ガス小売事業者による用途別の販売件数は、家庭用が最も多くなっています(第262-2-3)。
【第262-2-3】新規ガス小売事業者のガス販売件数の推移(用途別)
【第262-2-3】新規ガス小売事業者のガス販売件数の推移(用途別)(pptx形式:59KB)
- 資料:
- 電力・ガス取引監視等委員会「ガス取引報」を基に作成
(3)経過措置料金規制の対象地域の指定解除
ガス小売全面自由化に伴い、ガスの小売供給に関する料金規制は原則撤廃されましたが、LPガスやオール電化等を含めた競争が不十分であると認められた供給区域及び供給地点(以下「指定旧供給区域等」という。)については、需要家利益の保護の観点から、経済産業大臣が指定を行い、経過措置として料金規制を継続しており、競争状況に応じて指定を解除することとしています。
2025年3月末現在においては、旧一般ガス事業者の供給区域のうち4区域、旧簡易ガス事業者の供給地点のうち743供給地点が指定されています(第262-2-4)。
【第262-2-4】指定旧供給区域等一覧(旧一般ガス事業者の供給区域)
【第262-2-4】指定旧供給区域等一覧(旧一般ガス事業者の供給区域)(pptx形式:189KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
3.ガス事業制度検討ワーキンググループにおける議論
資源エネルギー庁は、2018年9月に、ガス事業制度の在り方について専門的な見地から詳細な検討を進めることを目的として、「総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会」の下に、ガスWGを設置しました。2024年度にはガスWGを3回開催し、都市ガスのカーボンニュートラル化やガスの適正な取引の確保に向けた制度的措置について議論を行いました。
(1)都市ガスのカーボンニュートラル化
2050年カーボンニュートラル実現に向けては、多様な手段を追求しながら、ガスの脱炭素化を進めていく必要があります。このため、ガスWGでは、日本の都市ガスのカーボンニュートラル化を推進していくための今後の方策等について幅広く検討を行っています。
2024年7月に開催されたガスWGでは、都市ガス分野のカーボンニュートラル化に向けて、本格的な市場創出・利用拡大につなげるための適切な規制・制度の在り方について、検討が行われました。具体的には、2030年度において、供給量の1%相当の合成メタン又はバイオガスを導管に注入し、その他の手段と合わせてガスの5%をカーボンニュートラル化するという目標の達成に向けて、高度化法の判断基準において合成メタン・バイオガスの導入目標を規定しつつ、ガス小売事業者の公平な競争を整備する観点から、合成メタン・バイオガスの導入コストのうちガスの一般的な調達費よりも割高になる部分については、託送料金原価に含めることができる仕組みを今後構築するといった方向性が整理されました。
(2)ガスの適正な取引の確保に向けた制度的措置
2024年2月に電力・ガス取引監視等委員会が、ガス小売事業に係る変更登録手続が営業活動へのブレーキ等につながることを避けるための制度的措置を図るよう、経済産業大臣に建議したことを踏まえ、2024年7月のガスWGにおいては、過度な事業規制が競争の妨げになることを避けるための措置として、ガス小売事業の変更登録の改定案について議論を行い、その後「ガス事業法施行規則の一部を改正する省令(令和6年経済産業省令第80号)」が2024年11月に公布され、同年12月に施行されました。
4.ガス小売市場・卸売市場に関する取組
(1)小売取引の監視等
①各種相談への対応
電力・ガス取引監視等委員会は、相談窓口を設置し、需要家等から寄せられた相談に対応し、質問への回答やアドバイス等を行っており、2024年度における相談件数は388件でした。不適切な営業活動等に係る情報があった場合には、事実関係を確認し、必要な場合にはガス小売事業者に対する指導等を行いました(第262-4-1)。
【第262-4-1】相談窓口への相談件数(ガス)の推移
【第262-4-1】相談窓口への相談件数(ガス)の推移(pptx形式:85KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
また、消費者庁及び独立行政法人国民生活センターと連名でガスの契約トラブルに関する注意喚起を行ったほか、経済産業省のXを活用し、電気・ガスの契約前後の注意点を周知する等、消費者に対して情報提供を4件行いました。
②ガス小売事業者に対する勧告
ストエネが、2021年9月頃から2024年1月までの間に自社及び媒介業者等の勧誘により獲得した一部の需要家について、一時的に他のガス小売業者との間で小売供給契約を締結し、当該他のガス小売事業者において開栓作業が行われてから一定期間後に、改めて需要家からの契約申込を受けることなく、自社にガスの小売供給契約の切替えを行っていました。このため、電力・ガス取引監視等委員会は、2024年12月、同社に対して業務改善勧告を行いました。
その他、糸魚川市が、2017年4月以降に行った62,736件の小売供給契約について、供給条件の説明及び契約締結前交付書面の交付を行っていなかったことを確認しました。また、62,984件の小売供給契約については、契約締結後交付書面を交付していませんでした。電力・ガス取引監視等委員会は、2025年3月、同市に対して業務改善勧告を行いました。
③中部電力ミライズ及び東邦ガスに対する業務改善命令
2024年3月4日、公正取引委員会は、大口都市ガスの受注調整事案について、中部電力ミライズに対して独占禁止法に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を、中部電力に対して同法に基づく課徴金納付命令を行いました。また、同日、家庭用都市ガス等及び卒FIT買取に係る事案について中部電力ミライズ及び東邦ガスに対して、LNG供給に係る事案について中部電力ミライズ及びシーエナジーに対して、それぞれ警告を行いました。
電力・ガス取引監視等委員会は、同年6月、大口都市ガスの受注調整事案について、東邦ガス及び中部電力ミライズに対してガス事業法に基づく業務改善命令を行うよう経済産業大臣に勧告し、同年7月、経済産業大臣は、これら2社に対して業務改善命令を行いました。また、家庭用都市ガス等、卒FIT買取に係る事案については東邦ガス及び中部電力ミライズに対して業務改善指導を、LNG供給に係る事案については東邦ガス、中部電力ミライズ及びシーエナジーに対して注意喚起をそれぞれ行いました。
同年8月、業務改善命令及び業務改善指導の対象となった事業者から改善計画が提出され、電力・ガス取引監視等委員会は、社内ルールや体制整備、研修等の取組が改善計画等に沿ったものになっているかフォローアップを実施し、第5回制度設計・監視専門会合(2025年1月)において報告しました。
④旧一般ガスみなしガス小売事業者に対する監査
電力・ガス取引監視等委員会は、ガス事業法に基づき、旧一般ガスみなしガス小売事業者(4社)に対して実施した2023年度監査の結果を第515回電力・ガス取引監視等委員会(2024年5月開催)に報告しました。監査の結果、経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでした。
(2)ガスの規制料金の原価算定期間終了後の事後評価及び特別な事後監視等
①ガスの規制料金の原価算定期間終了後の事後評価
2024年11月、電力・ガス取引監視等委員会は、経済産業大臣及び経済産業局長からの意見聴取を受けて、料金制度専門会合において、原価算定期間が終了している東邦ガス、日本ガス及び南海ガスの各規制料金について事後評価を行い、その結果を取りまとめました。現行料金に関する値下げ認可申請の必要があるとは認められませんでしたので、経済産業大臣及び経済産業局長に対し、その旨を回答しました。
②ガス小売料金の特別な事後監視
電力・ガス取引監視等委員会は、規制料金の経過措置が課されない又は経過措置が解除された小売事業者のうち、旧供給区域等におけるガス利用率が50%を超える事業者については、小売料金の合理的でない値上げが行われないよう、当該供給区域等の標準家庭における料金水準を3年間監視しています。2024年度は、指導に至った事業者はいませんでした。
③ガス小売経過措置料金規制に係る指定旧供給区域等の指定の解除
経過措置料金解除に伴い、東京ガス・大阪ガス・東邦ガスは、2021年にガス製造に係る業務やガスの卸供給の依頼があった場合には供給余力がないなどの理由がない限りはこれを行うこと、特にスタートアップ卸については新規参入を支援するために開始された趣旨を踏まえ、利用実績が上がるように積極的に取り組むことなどを含めたコミットメントを表明しました。電力・ガス取引監視等委員会は、このコミットメント内容が適切に実施されているかについて、定期的にフォローアップを行うこととしており、問題となり得る行為が確認された場合には、改善を求め、指導を行う等しています。2024年に実施した2023年度の卸取引を対象としたフォローアップでは、問題となる行為は確認されませんでした。
5.ガス導管分野に関する取組
ガス導管事業の監査
①一般ガス導管事業者等に対する監査
電力・ガス取引監視等委員会は、ガス事業法に基づき、一般ガス導管事業者、特定ガス導管事業者及びガス製造事業者257社に対して実施した2023年度監査の結果を第515回電力・ガス取引監視等委員会(2024年5月開催)に報告しました。
具体的には、重点監査項目として、託送供給収支に係る算定に誤りがないことについて、また、非公開情報の管理の用に供するシステムの情報管理などの体制整備等、親会社等による差別的取扱い要求禁止ルールの遵守状況について報告しました。
監査の結果、経済産業大臣への勧告を行うべき事項は認められませんでしたが、69事業者に対し合計114件の託送供給収支に関する監査等の指導を行いました。
②ガス導管事業者等の業務実施状況の監視
電力・ガス取引監視等委員会は、ガスの適正な取引を確保するため、一般ガス導管事業者及び特定ガス導管事業者の業務実施状況を監視しており、2024年度は、業務改善勧告に至るような事案はありませんでした。
6.ガス導管事業者の収支状況等の事後評価
一般ガス導管事業者及び特定ガス導管事業者の2023年度収支状況の確認について、経済産業大臣及び経済産業局長等から、電力・ガス取引監視等委員会に対して意見の求めがあり、料金制度専門会合において、事後評価(ストック管理・フロー管理)について確認を行いました。その結果、3事業者(エナジー宇宙(北本エリア)、小千谷市、エネクル(沖山地区))は、2023年度終了時点における超過利潤累積額が一定水準額を超過しており、8事業者(ENEOSエルエヌジーサービス、栃木ガス、鷲宮ガス、小千谷市、福山ガス、大牟田瓦斯、三愛オブリ、長南町)は、想定単価と実績単価の乖離率がマイナス5%を超過していることが確認されました。
電力・ガス取引監視等委員会は、これらのうち、既に値下げ届出済みの事業者及び事業譲渡予定の事業者を除く7事業者について、期日までに託送供給約款の料金改定の届出が行われない場合、変更命令を行うことが適当である旨、経済産業大臣及び経済産業局長等に対し、2024年12月及び2025年2月に回答しました。
7.ガス小売事業者の保安水準の維持・向上に向けた取組
ガスの小売全面自由化が行われ、新たなガス小売事業者の参入が開始されたことから、ガス小売事業者の保安水準の維持・向上を図るため、2024年度もガス小売事業者の自主的な保安活動の特徴的な取組を経済産業省ホームページでわかりやすく紹介しました。
8.熱供給システム改革
熱供給システム改革では、熱電一体供給も含めたエネルギー供給を効率的に実施するため、熱供給事業への参入規制を緩和するとともに、料金規制や供給義務等を一部撤廃し、熱供給事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課しました。これらにより、熱導管を面的に敷設して行う地域型の熱供給、都市再開発事業などに伴いビル単位での事業や生活機能の確保も意識した地点型の熱電一体供給など、熱供給サービスの形態が多様化しています。