はじめに 3-10

多くの資源を海外に依存せざるを得ないという、日本が抱えるエネルギー需給構造上の脆弱性に対して、エネルギー政策が、現在の技術や需給構造の延長線上にある限り、根本的な解決を見出すことは容易ではありません。また、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す上でも、すぐに使える資源に乏しく、山と深い海に囲まれ、再エネの適地も限られているという日本の課題を克服していくためには、スタートアップによる取組等も含め、新たな技術革新に向けた日本の総力を挙げた取組が不可欠です。

2023年度は、エネルギー安定供給・経済成長・脱炭素の同時実現に向けて、2023年5月に、「GX推進法」及び「GX脱炭素電源法」が成立し、また、同年7月には「GX推進戦略」が閣議決定され、エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組や、成長志向型カーボンプライシング構想等の実現・実行の方針を示しました。また、同年12月には、「分野別投資戦略」をとりまとめ、16の重点分野において、GXに向けた方向性や、GX経済移行債等を活用した投資促進策等を示しました。こうしたGX実現に向けた取組の中でも、政府として、研究開発を推進していくこととしています。

今後は、グリーンイノベーション基金事業等の高い排出削減効果が見込める研究開発・実証から社会実装までの支援事業等の継続・拡充を引き続き進めていくとともに、官民協調での大規模なGX投資を呼び込みながら、将来の排出削減やエネルギー安定供給等に貢献する研究開発をさらに進めていきます。

〈具体的な主要施策〉

1.生産に関する技術における施策

(1)再生可能エネルギーに関する技術における施策

①洋上風力発電等の導入拡大に向けた研究開発事業

(再掲 第3章第5節 参照)

②地熱・地中熱等導入拡大技術開発事業

(再掲 第3章第5節 参照)

③太陽光発電の導入可能量拡大等に向けた技術開発事業

(再掲 第3章第5節 参照)

(2)原子力に関する技術における施策

①原子力の安全性向上に資する技術開発事業

(再掲 第4章第3節 参照)

②高速炉サイクル技術の研究開発

(再掲 第4章第6節 参照)

③高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発【2023年度当初:18.3億円】

水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉と、これによる熱利用技術の研究開発を推進しています。JAEAが所有するHTTR(高温工学試験研究炉)については、2020年6月に原子力規制委員会から新規制基準への適合性審査に係る設置変更許可を取得し、2021年7月に約10年半ぶりに運転を再開しました。2024年3月には、原子炉出力100%(30MW)の運転中に原子炉を冷却できない状況を引き起こしても、自然に原子炉出力が低下し、安定した状態を維持することを確認する「炉心流量喪失試験」をブロック型高温ガス炉として世界で初めて実施し、高温ガス炉の固有の安全性を証明しました。また、熱利用技術の研究開発については、文部科学省と経済産業省の連携により、2030年までに高温熱を利用したカーボンフリー水素製造技術の確立に向けた要素技術開発等を推進しています。

さらに、2017年5月にJAEAとポーランド国立原子力研究センターの間で締結された「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」及び2019年9月に同機関間で締結され2022年11月に改定された「高温ガス炉技術分野における研究開発協力のための実施取決め」に基づき、高温ガス炉研究炉の基本設計に関する研究開発に協力しています。2023年11月には、盛山文部科学大臣とポーランドのモスクファ気候・環境大臣の間で、高温ガス炉技術分野に係る研究開発に関する協力覚書が締結されました。

2023年7月には、JAEAと英国国立原子力研究所(NNL)等が参加するチームが、英国の先進モジュール炉研究開発・実証プログラムの基本設計を行う実施事業者として採択され、JAEAは、英国と協力して高温ガス炉技術の実証を推進しています。また、NNLは高温ガス炉燃料開発プログラムの製造技術開発等を行う事業者として採択されており、JAEAはNNLと連携して、英国における燃料製造技術開発を進めています。

④ITER計画、BA活動等のフュージョンエネルギー研究開発の推進【2022年度補正:52.6億円、2023年度当初:213.2億円、2023年度補正:249.4億円】

フュージョンエネルギーは、エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決する次世代のエネルギー源として期待されています。日本のフュージョンエネルギー分野の研究開発については、国際協力を効率的に活用しながら、量子科学技術研究開発機構、核融合科学研究所、大学等が、相互に連携・協力して推進しています。また、2023年4月には、統合イノベーション戦略推進会議において、フュージョンエネルギーの産業化をビジョンに掲げる「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定し、発電実証時期をできるだけ早く明確化するとともに、研究開発の加速により原型炉を早期に実現すること等を示しました。

日本は、世界7極35か国の協力により、国際約束に基づき、実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER(イーター)計画に参画しています。建設地のフランスでは、ITERの建設作業が本格化しており、主要機器である超伝導トロイダル磁場コイルについては、日本が製作を担当し、2023年12月に最終号機が建設地に納入されました。あわせて、日本は、ITER計画を補完・支援し、原型炉に必要な技術基盤を確立するための日欧協力による先進的研究開発である幅広いアプローチ(BA1)活動を推進しています。BA活動では、茨城県那珂市にある世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」が、2023年10月に、初めてプラズマを生成しました。今後もJT-60SAを活用し、原型炉開発につながる成果をいち早く創出するとともに、将来を担う人材を育成することとしています。また、フュージョンエネルギーの実現に向けて、核融合科学研究所における大型ヘリカル装置(LHD)等を活用した多様な学術研究を推進しています。

フュージョンエネルギー分野における二国間協力では、米国やEU(ユーラトム:欧州原子力共同体)等との研究協力の実施取決め等の下、研究交流を実施し、年に1回の会議を開催する等、情報共有・意見交換を行っているほか、2023年12月には、EUとフュージョンエネルギーに関する日欧共同プレス声明を表明しました。また、多国間協力では、IAEAやIEAにおける各種国際会議へ参画するとともに、IEA実施取決めの下、積極的に研究協力や研究者の交流を実施しています。

さらに、フュージョンエネルギーの実用化・社会実装に向けて、産業協議会の設立やスタートアップ等の研究開発、安全規制に関する議論、ムーンショット型研究開発制度を活用した新興技術の支援強化、教育プログラムの提供等の取組を推進しています。

(3)化石燃料・鉱物資源に関する技術における施策

①国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業費

(再掲 第1章第2節 参照)

②海洋鉱物資源開発に向けた資源量評価・生産技術等調査事業委託費

(再掲 第1章第2節 参照)

2.流通に関する技術における施策

電気自動車用革新型蓄電池技術開発

(再掲 第2章第1節 参照)

3.消費に関する技術における施策

(1)高効率・高速処理を可能とする次世代コンピューティングの技術開発事業

(再掲 第2章第1節 参照)

(2)革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業

(再掲 第2章第1節 参照)

(3)次世代X-nics半導体創生拠点形成事業

(再掲 第2章第1節 参照)

(4)革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業【2023年度当初:38.0億円】

高品質窒化ガリウム(GaN)基板を活用したGaNインバーターの実用化を目指して、GaN種結晶、GaNウエハ、パワーデバイス、インバーター技術について一気通貫での開発・実証を行うとともに、レーザーやサーバー等に組み込まれている各種デバイスを、高品質GaN基板を用いることで高効率化し、徹底したエネルギー消費量の削減を実現するための技術開発及び実証を行いました。

(5)未来社会創造事業(大規模プロジェクト型)

(再掲 第2章第1節 参照)

(6)未来社会創造事業(「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域)

(再掲 第3章第5節 参照)

(7)戦略的創造研究推進事業 先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)

(再掲 第3章第5節 参照)

4.革新的な技術開発に対する継続的な支援を行う施策

(1)グリーンイノベーション基金事業【2020年度補正:2兆円、2022年度補正:3,000.0億円、2023年度当初:4,564.0億円】

2050年カーボンニュートラルの実現という目標は、従来の政府方針を大幅に前倒すものであり、並大抵の努力では実現することができないため、エネルギー・産業部門の構造転換や、大胆な投資によるイノベーションといった取組を大幅に加速させることが必要です。このため、2050年までに新たな革新的技術が普及することを目指し、グリーン成長戦略の実行計画を策定している重点分野のうち、特に政策効果が大きく、社会実装までを見据えて長期間にわたる取組が必要な領域において、具体的な目標年限とターゲットへのコミットメントを示す企業等に対し、最長で10年間にわたって、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援しています。

グリーンイノベーション基金事業では、産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会での審議を経て策定した基本方針に基づき、①CO2削減効果や経済波及効果等のインパクト、②技術的困難度や実現可能性等の政策支援の必要性、③技術・産業分野の潜在的な市場成長性・国際競争力等の評価軸によって想定プロジェクトを選定した上で、同部会の下に設置した分野別ワーキンググループにおいて、各プロジェクトの内容等について審議を行い、プロジェクトを順次組成しました。

また、国際的な開発競争の活発化等を背景に、グリーンイノベーション基金事業での研究開発及び社会実装をより一層加速させるため、2022年度補正予算で3,000億円、2023年度当初予算で4,564億円の拡充を行いました。その一部を活用して、実施中のプロジェクトにおける取組の追加・拡充や新規プロジェクトの組成を進めています。こうした取組の結果、2023年度までに、20プロジェクトの公募を実施し、全てのプロジェクトで実施企業等を決定しました。

なお、グリーンイノベーション基金事業の実施に当たっては、研究開発の成果を着実に社会実装へとつなげるべく、企業等の経営者に対して、経営課題として長期的に取り組むことへのコミットメントを求めるとともに、研究開発段階から市場形成を見越して標準化の検討を進めることを求めており、さらには、プロジェクトの進捗やコミットメントへの取組状況等に関するフォローアップを毎年行う仕組みも導入し、実施しています。

(2)革新的GX技術創出事業(GteX)【2022年度補正:496億円】

2050年カーボンニュートラル実現や将来の産業の成長に向けて、非連続なイノベーションをもたらす「革新的GX技術」の創出を目指し、日本のアカデミアが強みを持つ「蓄電池」、「水素」、「バイオものづくり」の3つの重点領域を設定し、社会実装に向けて技術的成立性を高める研究開発スキームの導入等を行いながら、材料等の開発やエンジニアリング、評価・解析等を統合的に行うオールジャパンのチーム型研究開発を展開し、大学等における基盤研究開発や将来技術を支える人材育成を推進します。

2023年度は、文部科学省が策定した事業の基本方針及び研究開発方針等に基づき、科学技術振興機構において、将来的に温室効果ガス削減・経済波及効果に対して量的貢献等が期待できるか、将来的な社会実装の担い手となる企業を見込めるか、挑戦的な研究開発内容であり、科学技術の飛躍的な発展を見込めるか等の観点で、各領域において研究開発課題を選定し、研究開発を開始しました。

1
BA:Broader Approachの略。